23 / 193
第1章〜サーカス列車の旅〜
バラックエリア⑥
しおりを挟む
ーーパンッ、パンッ
銃声が闇を切り裂いた。
双子のボディガードが銃を構える。
「伏せろ!」
ラウルに促されるまま、私とケニーは頭を両手で覆って腰を落とした。素早く視線だけ動かして辺りを見渡す。2人の男が廃工場の影からこちらに銃を向けているのが見えた。
「嫌だ……まだ死にたくない」ケニーは声を震わせた。
老人は忍者のような凄まじい逃げ足の速さで近くの大きなゴミ箱の中に隠れ、傍にいたボディガード2人が敵に向かって発砲した。
ーーパンッ、パンッ
ーーパンッ、パンッ
夜のスラムに弾ける閃光、住民たちの叫び声、子どもの泣き声ーー。黒い人影たちが一斉に各々の家に逃げ込んでいく。
「銃撃戦だ、逃げろ!!」
ラウルが逃げるのと同時に私たちも駆け出した。
購入したばかりのCDを落とさないようオーバーオールの腹ポケットに入れ、建物の間を縫うように逃げる。振り向くと、私の10Mほど後ろを走るケニーは既に息を切らしている。運動不足の極みの身体を久しぶりに外に出したのだから当たり前だ。さらに後方からは角刈りの護衛2人が同じ方向に駆けてくる。まもなく追っ手二人の姿も現れた。これじゃあ逃げる意味がない。
追っ手が放った銃弾が頬を掠め背筋がひやりとする。
目の前に2Mほどのコンクリートの建物が現れた。その前にある大きな青いゴミ箱に飛び乗り建物のトタン屋根によじ登る。ケニーが登るのを助けたあと、隣のバラック小屋のトタンに飛び移る。ケニーも腹這いの姿勢から立ち上がり、やがて意を決したみたいにこちらにジャンプした。着地でよろけて落下しかけた彼の手を掴み引き寄せ駆け出した。背後ではまだ銃撃戦が続いている。
私たちは今にも壊れそうなトタンからトタンに飛び移りひたすら全力で逃げた。
「アヴィー、一体どうなってるんだ?!」
ケニーは汗だくでゼェゼェ息を切らし走っている。私の方こそ聞きたい。こんな生きるか死ぬか屋根から落ちて怪我するかの展開なんて生まれて初めてだし、出来るなら一生経験したくなかった。
「私だって分かんないわよ! てゆうか、何であいつら追っかけてくるわけ?!」
ジャンプをして別の屋根に飛び移る。ケニーが飛び移るたび、風雨に晒され年季の入ったトタンがベコっと鈍い音を立てる。銃の音がすぐそこまだ近づいている。2対2の攻防を繰り広げる男たちは、本当の敵は私たちだとでもいうかのように同じルートを駆けてくる。まるでハリウッド映画のワンシーンのようだ。
ーーここで死ぬかもしれない。
ディアナに金を奪われ散々な仕打ちを受けた時は、いっそこのまま死んでしまえたらいいと思った。こんな人生なんていらないと。だがいざ命の危機にさらされると途端に惜しくなる。
オーロラの顔が浮かぶ。彼女にもう一度会うまではーー。このCDを渡すまでは、これまで一緒にいてくれたことへの感謝を伝えるまでは、どうしても死ぬわけにはいかない。こんな場所で銃撃戦に巻き込まれて犬死になんて尚更ごめんだ。
間も無く視界のずっと先、住宅地の広がりが途絶えた先に灰色の鉄条網が見えてきて、その向こうの線路に止まる紺色の列車の姿が目に入った。背後ではまだ銃弾が飛び交っている。
「もうダメだ……。これ以上は無理だ、走れない」
世にも恐ろしい追いかけっこの恐怖と、過剰な運動のために汗だくのケニーが苦しげに訴える。
ふと屋根の真下を見ると、出しっぱなしの小さなトランポリンがある。こんなナイスなタイミングで最適な場所にトランポリンがあるなんて、地獄に仏というやつだ。
私は体操選手だ。そう自分に言い聞かせて屋根から飛び降りた。トランポリンのゴムに両脚を弾かれた私は、高く飛翔して地面に着地した。一方、足を滑らせ背中から落下したケニーは尻からトランポリンにつっこんで、ゴムの部分をバリっという大きな音を響かせて突き破り、地面に勢いよく尻餅をついた。
「いってぇ!!」
「大丈夫? ケニー」
丸い骨組みだけになったトランポリンの中にお尻が挟んでバタバタともがくケニーの大きな体を支え、ゆっくりと起こす。私たちは未だ続く弾薬の爆ぜる音から逃げるように、目の前の金網をよじのぼって線路の上に降りた。フェンスの向こうには紺色の30両の列車とその後ろに連なる20両ほどの貨車が停められていた。私たちは線路を突っ切り、真ん中の車両に飛び込み身を隠した。外ではまだ銃声が止まない。
銃声が闇を切り裂いた。
双子のボディガードが銃を構える。
「伏せろ!」
ラウルに促されるまま、私とケニーは頭を両手で覆って腰を落とした。素早く視線だけ動かして辺りを見渡す。2人の男が廃工場の影からこちらに銃を向けているのが見えた。
「嫌だ……まだ死にたくない」ケニーは声を震わせた。
老人は忍者のような凄まじい逃げ足の速さで近くの大きなゴミ箱の中に隠れ、傍にいたボディガード2人が敵に向かって発砲した。
ーーパンッ、パンッ
ーーパンッ、パンッ
夜のスラムに弾ける閃光、住民たちの叫び声、子どもの泣き声ーー。黒い人影たちが一斉に各々の家に逃げ込んでいく。
「銃撃戦だ、逃げろ!!」
ラウルが逃げるのと同時に私たちも駆け出した。
購入したばかりのCDを落とさないようオーバーオールの腹ポケットに入れ、建物の間を縫うように逃げる。振り向くと、私の10Mほど後ろを走るケニーは既に息を切らしている。運動不足の極みの身体を久しぶりに外に出したのだから当たり前だ。さらに後方からは角刈りの護衛2人が同じ方向に駆けてくる。まもなく追っ手二人の姿も現れた。これじゃあ逃げる意味がない。
追っ手が放った銃弾が頬を掠め背筋がひやりとする。
目の前に2Mほどのコンクリートの建物が現れた。その前にある大きな青いゴミ箱に飛び乗り建物のトタン屋根によじ登る。ケニーが登るのを助けたあと、隣のバラック小屋のトタンに飛び移る。ケニーも腹這いの姿勢から立ち上がり、やがて意を決したみたいにこちらにジャンプした。着地でよろけて落下しかけた彼の手を掴み引き寄せ駆け出した。背後ではまだ銃撃戦が続いている。
私たちは今にも壊れそうなトタンからトタンに飛び移りひたすら全力で逃げた。
「アヴィー、一体どうなってるんだ?!」
ケニーは汗だくでゼェゼェ息を切らし走っている。私の方こそ聞きたい。こんな生きるか死ぬか屋根から落ちて怪我するかの展開なんて生まれて初めてだし、出来るなら一生経験したくなかった。
「私だって分かんないわよ! てゆうか、何であいつら追っかけてくるわけ?!」
ジャンプをして別の屋根に飛び移る。ケニーが飛び移るたび、風雨に晒され年季の入ったトタンがベコっと鈍い音を立てる。銃の音がすぐそこまだ近づいている。2対2の攻防を繰り広げる男たちは、本当の敵は私たちだとでもいうかのように同じルートを駆けてくる。まるでハリウッド映画のワンシーンのようだ。
ーーここで死ぬかもしれない。
ディアナに金を奪われ散々な仕打ちを受けた時は、いっそこのまま死んでしまえたらいいと思った。こんな人生なんていらないと。だがいざ命の危機にさらされると途端に惜しくなる。
オーロラの顔が浮かぶ。彼女にもう一度会うまではーー。このCDを渡すまでは、これまで一緒にいてくれたことへの感謝を伝えるまでは、どうしても死ぬわけにはいかない。こんな場所で銃撃戦に巻き込まれて犬死になんて尚更ごめんだ。
間も無く視界のずっと先、住宅地の広がりが途絶えた先に灰色の鉄条網が見えてきて、その向こうの線路に止まる紺色の列車の姿が目に入った。背後ではまだ銃弾が飛び交っている。
「もうダメだ……。これ以上は無理だ、走れない」
世にも恐ろしい追いかけっこの恐怖と、過剰な運動のために汗だくのケニーが苦しげに訴える。
ふと屋根の真下を見ると、出しっぱなしの小さなトランポリンがある。こんなナイスなタイミングで最適な場所にトランポリンがあるなんて、地獄に仏というやつだ。
私は体操選手だ。そう自分に言い聞かせて屋根から飛び降りた。トランポリンのゴムに両脚を弾かれた私は、高く飛翔して地面に着地した。一方、足を滑らせ背中から落下したケニーは尻からトランポリンにつっこんで、ゴムの部分をバリっという大きな音を響かせて突き破り、地面に勢いよく尻餅をついた。
「いってぇ!!」
「大丈夫? ケニー」
丸い骨組みだけになったトランポリンの中にお尻が挟んでバタバタともがくケニーの大きな体を支え、ゆっくりと起こす。私たちは未だ続く弾薬の爆ぜる音から逃げるように、目の前の金網をよじのぼって線路の上に降りた。フェンスの向こうには紺色の30両の列車とその後ろに連なる20両ほどの貨車が停められていた。私たちは線路を突っ切り、真ん中の車両に飛び込み身を隠した。外ではまだ銃声が止まない。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる