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第3章〜新たな出発〜
ヨーロッパ②
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近くの公民館でボランティア団体が食べ物や生活必需品を配っているという張り紙を見つけた。
教えられた場所はそこから歩いて15分くらいの場所にあった。小さな公民館の中には灰色の棚が並べられてあって、マカロニパスタやスパム肉などの缶詰やパン、飲み物やティッシュ、洗剤等の日用品が置いてあった。受付をすれば誰でも自由に取って良いという。
一つだけあったナプキンの袋を手に取り手洗いに急いだ。こんなに無料の支援物資が有難いと感じたのは生まれて初めてだ。1人旅で何もかも失くす経験をしなければ、こんな感覚を味わうこともなかっただろう。
他にスパム缶とパンとミネラルウォーターを貰い、隣の談話室みたいな場所のパイプ椅子に腰掛けて食べた。隣に腰掛けていた白髪の老人が「やあ」と微笑みかけてきた。老人は先月まで犬と二人でテントで暮らしていたが、犬が死に寂しい生活を送っているという。
バスに泊まってお金を盗まれた話をしたら、老人は「何ということだ、大変な思いをしたね」と同情を示してくれた。
「私の友人の女性は、猫が好きでね。生活保護のお金とゴミ拾いで稼いだなけなしの給料で野良猫に餌をあげて可愛がっていた。彼女と私は千円の指輪で結婚の約束をした仲だった。毎日2人で河原の土手に腰掛けてインスタントラーメンを啜るのが日課だった。
ある日彼女は駅前のベンチで寝ていたところを、若者たちに暴行されて殺されてしまった。身寄りのない彼女の遺体を知り合いの牧師に頼んで埋葬してもらい、ホームレス仲間だけでささやかな葬式をした。
世の中には優しい人もいる。だが、私たちのような人間に冷たい人も多いのが現実だ。何故彼女が死ななければならなかったのか。誰にも迷惑をかけず、静かに生きているだけなのに……。助けることができなかった自分が悔しかった。今でも彼女を夢に見るよ」
愛する人を若者たちによって殺された老人の悲しみを思うと胸が痛んだ。かける言葉が見つからなかった。以前の私なら一緒に泣く以外に彼を慰める方法が見つからなかっただろう。それでも十分かもしれない。
私は何者なのかと自分に問うたとき、彼らのように社会の隅で生きる人間の1人なのだという事実に突き当たる。でもそれを恥ずかしいとは思わない。最も恥ずべきは痛みについて無頓着で、救う術を探すどころか残酷な方法で自らの憂さ晴らしや快楽のために他人を傷つけいたぶり命を奪う人間たちだ。隙に漬け入ってお金を奪い私を襲った人間も然りだ。
やがて周りに人が集まってきて自分の苦労話を始めた。
暗いムードの中ふと思い立ち、隣の配布場の棚からかぼちゃやにんじん、ブロッコリー、卵などを持ってきてジャグリングを披露したら、皆たちまち笑顔になって拍手を送ってくれた。
猫のカルメンのパントマイムには皆が泣いてくれた。談話室には温かい空気が流れた。
教えられた場所はそこから歩いて15分くらいの場所にあった。小さな公民館の中には灰色の棚が並べられてあって、マカロニパスタやスパム肉などの缶詰やパン、飲み物やティッシュ、洗剤等の日用品が置いてあった。受付をすれば誰でも自由に取って良いという。
一つだけあったナプキンの袋を手に取り手洗いに急いだ。こんなに無料の支援物資が有難いと感じたのは生まれて初めてだ。1人旅で何もかも失くす経験をしなければ、こんな感覚を味わうこともなかっただろう。
他にスパム缶とパンとミネラルウォーターを貰い、隣の談話室みたいな場所のパイプ椅子に腰掛けて食べた。隣に腰掛けていた白髪の老人が「やあ」と微笑みかけてきた。老人は先月まで犬と二人でテントで暮らしていたが、犬が死に寂しい生活を送っているという。
バスに泊まってお金を盗まれた話をしたら、老人は「何ということだ、大変な思いをしたね」と同情を示してくれた。
「私の友人の女性は、猫が好きでね。生活保護のお金とゴミ拾いで稼いだなけなしの給料で野良猫に餌をあげて可愛がっていた。彼女と私は千円の指輪で結婚の約束をした仲だった。毎日2人で河原の土手に腰掛けてインスタントラーメンを啜るのが日課だった。
ある日彼女は駅前のベンチで寝ていたところを、若者たちに暴行されて殺されてしまった。身寄りのない彼女の遺体を知り合いの牧師に頼んで埋葬してもらい、ホームレス仲間だけでささやかな葬式をした。
世の中には優しい人もいる。だが、私たちのような人間に冷たい人も多いのが現実だ。何故彼女が死ななければならなかったのか。誰にも迷惑をかけず、静かに生きているだけなのに……。助けることができなかった自分が悔しかった。今でも彼女を夢に見るよ」
愛する人を若者たちによって殺された老人の悲しみを思うと胸が痛んだ。かける言葉が見つからなかった。以前の私なら一緒に泣く以外に彼を慰める方法が見つからなかっただろう。それでも十分かもしれない。
私は何者なのかと自分に問うたとき、彼らのように社会の隅で生きる人間の1人なのだという事実に突き当たる。でもそれを恥ずかしいとは思わない。最も恥ずべきは痛みについて無頓着で、救う術を探すどころか残酷な方法で自らの憂さ晴らしや快楽のために他人を傷つけいたぶり命を奪う人間たちだ。隙に漬け入ってお金を奪い私を襲った人間も然りだ。
やがて周りに人が集まってきて自分の苦労話を始めた。
暗いムードの中ふと思い立ち、隣の配布場の棚からかぼちゃやにんじん、ブロッコリー、卵などを持ってきてジャグリングを披露したら、皆たちまち笑顔になって拍手を送ってくれた。
猫のカルメンのパントマイムには皆が泣いてくれた。談話室には温かい空気が流れた。
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