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41. 事件
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ルーシーと私は、最近できたばかりのサンドイッチが美味しいと評判のカフェに入った。私はサーモンとチーズの、ルーシーはチキンと野菜のサンドイッチをそれぞれ頼んだ。私たちの隣の窓際の席では、同じくらいの年齢の黒人の女性が2人楽しそうに話をしていた。店内はそれほど混んでおらず静かな時間が流れていく。
私たちはしばらく他愛のない会話を続けていた。ルーシーにあげた猫は実はミシェルの弟のベンが欲しがっていた猫で、もしもベンに飼われていたら『まっくろくろすけ』という名前になっていたであろうことを打ち明けると、ルーシーはいつものように大きな声で笑った。
ルーシーは笑うと大きな目が糸のように細まり口の端にえくぼが現れる。私を含め彼女のこの笑顔が好きな人は多いはずだ。
不意に私の目線の十数メートル先にあった入り口の扉が開き、一人の酔っぱらいらしき男性が大声で何かを捲し立てながら入ってきた。この時点で私は強い胸騒ぎがしていた。男は店内を見回し私の斜め前の席に座るショートヘアの黒人女性に目を止めた。男が足取り荒くこちらに歩いてきたときルーシーと私は顔を見合わせた。女性の目が驚きと恐怖に見開き、私は咄嗟に立ち上がった。男が女性の前までやってきて右手を挙げ、素早く振り下ろされた手のひらが女性の頬を殴る寸前で私は彼の腕を両手で摘んだ。男は大声で悪態を突きながら私の手を振り払おうとした。その瞬間バランスを崩した私は後ろ向きに倒れ後頭部がテーブルの角に打ちつけられた。
「リオ!!」
ルーシーが叫び駆け寄ってきて私の顔を覗き込む。視界が歪む。
何でよりにもよって角なんだ。痛いじゃないか。そしてこの酔っ払いは誰だ。女性の恋人か何かだろうか。何であんな酷いことをーー。
考えている途中意識が朦朧としてきて視界が真っ暗になる。ルーシーが何度も私の名前を呼ぶ。女性2人の取り乱した声が聞こえる。
ああ、死ぬのか。それとも『ミリオンダラー・ベイビー』のラストのヒロインみたいに、一生意識が戻らないままとか。あのラストは無かったな。途中までは面白かったのにラストで台無しになる映画というのはたまにある。
『ラストが面白い映画って稀だよな。いっそラストだけミュージカル調にしたらどうだ?』
チャドと打ち合わせをしていたときのタケオの声が蘇る。何でこんなときにタケオが出てくるんだ。まるで亡霊のようだ。タケオの亡霊……全然怖くないな。
そこで意識が途絶えた。
夢を見た。私はオムレット王国の姫になっていた。王子の名前はコルビー……のはずだがなぜか顔はケイシーだった。彼はオムレツがなくては生きていけない。ある日とうとうトマトの不作のために城にあったケチャップの在庫が底をつき、王子はケチャップがないと何も食べない、早く持ってこいと騒ぎ城は大混乱に陥った。ケチャップは超重要な調味料というだけでなく、近隣諸国との戦争の際にも役に立つらしい。
「隣国のトメイトゥー王国との貿易を再開できないか、直接あちらの国に赴いて掛け合うのはどうでしょうか」
私の進言にケイシー顔の王子は嬉しそうに頷いて言った。
「いい考えだ。じゃあ姫、行ってもらえるか?」
「つーかお前が行け」
私たちはしばらく他愛のない会話を続けていた。ルーシーにあげた猫は実はミシェルの弟のベンが欲しがっていた猫で、もしもベンに飼われていたら『まっくろくろすけ』という名前になっていたであろうことを打ち明けると、ルーシーはいつものように大きな声で笑った。
ルーシーは笑うと大きな目が糸のように細まり口の端にえくぼが現れる。私を含め彼女のこの笑顔が好きな人は多いはずだ。
不意に私の目線の十数メートル先にあった入り口の扉が開き、一人の酔っぱらいらしき男性が大声で何かを捲し立てながら入ってきた。この時点で私は強い胸騒ぎがしていた。男は店内を見回し私の斜め前の席に座るショートヘアの黒人女性に目を止めた。男が足取り荒くこちらに歩いてきたときルーシーと私は顔を見合わせた。女性の目が驚きと恐怖に見開き、私は咄嗟に立ち上がった。男が女性の前までやってきて右手を挙げ、素早く振り下ろされた手のひらが女性の頬を殴る寸前で私は彼の腕を両手で摘んだ。男は大声で悪態を突きながら私の手を振り払おうとした。その瞬間バランスを崩した私は後ろ向きに倒れ後頭部がテーブルの角に打ちつけられた。
「リオ!!」
ルーシーが叫び駆け寄ってきて私の顔を覗き込む。視界が歪む。
何でよりにもよって角なんだ。痛いじゃないか。そしてこの酔っ払いは誰だ。女性の恋人か何かだろうか。何であんな酷いことをーー。
考えている途中意識が朦朧としてきて視界が真っ暗になる。ルーシーが何度も私の名前を呼ぶ。女性2人の取り乱した声が聞こえる。
ああ、死ぬのか。それとも『ミリオンダラー・ベイビー』のラストのヒロインみたいに、一生意識が戻らないままとか。あのラストは無かったな。途中までは面白かったのにラストで台無しになる映画というのはたまにある。
『ラストが面白い映画って稀だよな。いっそラストだけミュージカル調にしたらどうだ?』
チャドと打ち合わせをしていたときのタケオの声が蘇る。何でこんなときにタケオが出てくるんだ。まるで亡霊のようだ。タケオの亡霊……全然怖くないな。
そこで意識が途絶えた。
夢を見た。私はオムレット王国の姫になっていた。王子の名前はコルビー……のはずだがなぜか顔はケイシーだった。彼はオムレツがなくては生きていけない。ある日とうとうトマトの不作のために城にあったケチャップの在庫が底をつき、王子はケチャップがないと何も食べない、早く持ってこいと騒ぎ城は大混乱に陥った。ケチャップは超重要な調味料というだけでなく、近隣諸国との戦争の際にも役に立つらしい。
「隣国のトメイトゥー王国との貿易を再開できないか、直接あちらの国に赴いて掛け合うのはどうでしょうか」
私の進言にケイシー顔の王子は嬉しそうに頷いて言った。
「いい考えだ。じゃあ姫、行ってもらえるか?」
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