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22. カーテンコール
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割れんばかりの歓声と拍手に包まれながら、私たちは舞台の上へと向かった。
再び開くカーテンの間から、いろんな顔が見える。泣いている人もいる。だけど、皆が皆笑顔だ。その中に、ロマンの姿を探した。通路を挟んで左側の後ろから五列目の席、表情は見えないが、ロマンは私の方を見て拍手をしていた。前列に両親の姿もあった。母は泣いていた。両親と、ロマンに向かって手を振る。きっと、これでよかったはずだ。これまでで最高の演技ができた。歌も音程を外さずに歌えた。隣のクレアが私を見て微笑んだ。私も笑顔を返した。
未だ鳴り止まぬ拍手喝采の中幕が閉まる。舞台を降りた私は、舞台袖で妹と抱き合うアレックスの姿を見た。彼女の幼い妹はもう一度劇が観たいとせがんでいた。「パパが撮ったビデオで観ようね」とアレックスが優しく語りかけている。そんな二人の姿を見て、涙が出そうになった。
私は最初に両親の元へ向かった。前の方の席で観劇していた両親は交互に私を抱きしめてくれた。
「あなたが家に帰ってこないから心配していたのよ、電話にも出ないし……。先生からあなたは無事だと聞いていたけれど……」
母の目は潤んでいた。両親は私を探し、オーシャンやクレアの家に行っては、私がお世話になったことへのお礼を伝えていたらしい。これまで自分のことしか見えていなかったが、両親に心配をかけていたことを改めて申し訳ないと感じた。
「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい」
「今日お前の姿を見て、安心したよ。素晴らしい歌と演技だった。誇らしいよ」
父が肩を叩く。父はいつもそうだ。いつも優しく、私を大きな心で見守っていてくれる。
「エイヴェリー」
後ろから声をかけられ、振り向くとロマンが立っていた。その目は涙で輝いている。
「今日のあなたは素晴らしかった。凄く綺麗だよ。あれが私の妹なんだってみんなに自慢した」
その瞬間、人目も憚らずロマンに抱きつきたい衝動に駆られた。だが必死に抑えた。きっとロマンはそれを望んでいない。彼女は姉として、私に賛辞を送りに来たにすぎない。
「ありがとう、ロマン。あなたに自慢してもらえて嬉しいわ」
ふと、講堂の出口に目をやる。シエルの後ろ姿が見えた気がして、私はロマンに手を振って駆け出した。
シエルは講堂の前の噴水の側に立っていた。名前を呼ぶと彼女は振りいて、いつものように私を見て微笑んだ。
「シエル……今日は練習は?」
「サボったの。どうせ大会には出ないから」
いつものあっさりとした口調で答えたあとシエルは「それよりあなたたちの劇が観たかったし」と付け加えた。
「来てくれてありがとう。楽しんでもらえた?」
シエルの隣に立つ。円形の噴水の透き通った水の中には、昨日の夜に投げ入れた九枚のコインが午後の陽光を受けて光っている。さっきシエルが見つめていたのは、これだったのだろうか。
「もちろん。前半と中盤、ラストで三回は泣いたわ」
「あなたでも泣くの?」
「滅多に泣かないの。映画なんかを観てても、作り物なんだって思うとなんか冷めちゃって。だけど、今回のは泣けたわ。今日のあなたは、最高に良かった」
「オーシャンのフリッツもね」
「もちろん。フリッツをプリッツって言ったら、オーシャンに怒られたわ」
不意に、シエルにもらっていた鉱石をお守りに持っていたのを思い出して、ポケットから取り出した。
「これ、ありがとう。返すわ。おかげでいい演技ができた」
「返さなくていいわ」
「だめよ、これはあなたの大切な宝物なんだから」
私はシエルの手に、無理やり鉱石を握らせた。
「あなたが次の大会で優勝できるように、願掛けをしておいた」
「ありがと。次の大会は、ニュージーランドなの」
「観に行けたらいいんだけど……」
「無理しなくていいわよ、外国だし遠いしお金かかるし。それよりエイヴェリー、今も家出は継続中?」
「ええ。だけどそろそろ帰るわ。今日両親と話して、流石に心配をかけすぎたなって反省して……」
「そう。なら、またいつでも遊びに来て。私があなたの家に行くこともあるかもだけど」
シエルはじゃあまた、と手を振って颯爽といなくなった。彼女はいつも、風のように現れては消える。その後ろ姿を、私はいつも見送っている。彼女の大会を観にいけたらいい。彼女と同じ異国の空気を、何故だか吸ってみたいような気がした。
再び開くカーテンの間から、いろんな顔が見える。泣いている人もいる。だけど、皆が皆笑顔だ。その中に、ロマンの姿を探した。通路を挟んで左側の後ろから五列目の席、表情は見えないが、ロマンは私の方を見て拍手をしていた。前列に両親の姿もあった。母は泣いていた。両親と、ロマンに向かって手を振る。きっと、これでよかったはずだ。これまでで最高の演技ができた。歌も音程を外さずに歌えた。隣のクレアが私を見て微笑んだ。私も笑顔を返した。
未だ鳴り止まぬ拍手喝采の中幕が閉まる。舞台を降りた私は、舞台袖で妹と抱き合うアレックスの姿を見た。彼女の幼い妹はもう一度劇が観たいとせがんでいた。「パパが撮ったビデオで観ようね」とアレックスが優しく語りかけている。そんな二人の姿を見て、涙が出そうになった。
私は最初に両親の元へ向かった。前の方の席で観劇していた両親は交互に私を抱きしめてくれた。
「あなたが家に帰ってこないから心配していたのよ、電話にも出ないし……。先生からあなたは無事だと聞いていたけれど……」
母の目は潤んでいた。両親は私を探し、オーシャンやクレアの家に行っては、私がお世話になったことへのお礼を伝えていたらしい。これまで自分のことしか見えていなかったが、両親に心配をかけていたことを改めて申し訳ないと感じた。
「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい」
「今日お前の姿を見て、安心したよ。素晴らしい歌と演技だった。誇らしいよ」
父が肩を叩く。父はいつもそうだ。いつも優しく、私を大きな心で見守っていてくれる。
「エイヴェリー」
後ろから声をかけられ、振り向くとロマンが立っていた。その目は涙で輝いている。
「今日のあなたは素晴らしかった。凄く綺麗だよ。あれが私の妹なんだってみんなに自慢した」
その瞬間、人目も憚らずロマンに抱きつきたい衝動に駆られた。だが必死に抑えた。きっとロマンはそれを望んでいない。彼女は姉として、私に賛辞を送りに来たにすぎない。
「ありがとう、ロマン。あなたに自慢してもらえて嬉しいわ」
ふと、講堂の出口に目をやる。シエルの後ろ姿が見えた気がして、私はロマンに手を振って駆け出した。
シエルは講堂の前の噴水の側に立っていた。名前を呼ぶと彼女は振りいて、いつものように私を見て微笑んだ。
「シエル……今日は練習は?」
「サボったの。どうせ大会には出ないから」
いつものあっさりとした口調で答えたあとシエルは「それよりあなたたちの劇が観たかったし」と付け加えた。
「来てくれてありがとう。楽しんでもらえた?」
シエルの隣に立つ。円形の噴水の透き通った水の中には、昨日の夜に投げ入れた九枚のコインが午後の陽光を受けて光っている。さっきシエルが見つめていたのは、これだったのだろうか。
「もちろん。前半と中盤、ラストで三回は泣いたわ」
「あなたでも泣くの?」
「滅多に泣かないの。映画なんかを観てても、作り物なんだって思うとなんか冷めちゃって。だけど、今回のは泣けたわ。今日のあなたは、最高に良かった」
「オーシャンのフリッツもね」
「もちろん。フリッツをプリッツって言ったら、オーシャンに怒られたわ」
不意に、シエルにもらっていた鉱石をお守りに持っていたのを思い出して、ポケットから取り出した。
「これ、ありがとう。返すわ。おかげでいい演技ができた」
「返さなくていいわ」
「だめよ、これはあなたの大切な宝物なんだから」
私はシエルの手に、無理やり鉱石を握らせた。
「あなたが次の大会で優勝できるように、願掛けをしておいた」
「ありがと。次の大会は、ニュージーランドなの」
「観に行けたらいいんだけど……」
「無理しなくていいわよ、外国だし遠いしお金かかるし。それよりエイヴェリー、今も家出は継続中?」
「ええ。だけどそろそろ帰るわ。今日両親と話して、流石に心配をかけすぎたなって反省して……」
「そう。なら、またいつでも遊びに来て。私があなたの家に行くこともあるかもだけど」
シエルはじゃあまた、と手を振って颯爽といなくなった。彼女はいつも、風のように現れては消える。その後ろ姿を、私はいつも見送っている。彼女の大会を観にいけたらいい。彼女と同じ異国の空気を、何故だか吸ってみたいような気がした。
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