草花の祈り

たらこ飴

文字の大きさ
44 / 60

22. カーテンコール

しおりを挟む
 割れんばかりの歓声と拍手に包まれながら、私たちは舞台の上へと向かった。

 再び開くカーテンの間から、いろんな顔が見える。泣いている人もいる。だけど、皆が皆笑顔だ。その中に、ロマンの姿を探した。通路を挟んで左側の後ろから五列目の席、表情は見えないが、ロマンは私の方を見て拍手をしていた。前列に両親の姿もあった。母は泣いていた。両親と、ロマンに向かって手を振る。きっと、これでよかったはずだ。これまでで最高の演技ができた。歌も音程を外さずに歌えた。隣のクレアが私を見て微笑んだ。私も笑顔を返した。

 未だ鳴り止まぬ拍手喝采の中幕が閉まる。舞台を降りた私は、舞台袖で妹と抱き合うアレックスの姿を見た。彼女の幼い妹はもう一度劇が観たいとせがんでいた。「パパが撮ったビデオで観ようね」とアレックスが優しく語りかけている。そんな二人の姿を見て、涙が出そうになった。

 私は最初に両親の元へ向かった。前の方の席で観劇していた両親は交互に私を抱きしめてくれた。

「あなたが家に帰ってこないから心配していたのよ、電話にも出ないし……。先生からあなたは無事だと聞いていたけれど……」

 母の目は潤んでいた。両親は私を探し、オーシャンやクレアの家に行っては、私がお世話になったことへのお礼を伝えていたらしい。これまで自分のことしか見えていなかったが、両親に心配をかけていたことを改めて申し訳ないと感じた。

「お父さん、お母さん、心配かけてごめんなさい」

「今日お前の姿を見て、安心したよ。素晴らしい歌と演技だった。誇らしいよ」

 父が肩を叩く。父はいつもそうだ。いつも優しく、私を大きな心で見守っていてくれる。

「エイヴェリー」

 後ろから声をかけられ、振り向くとロマンが立っていた。その目は涙で輝いている。

「今日のあなたは素晴らしかった。凄く綺麗だよ。あれが私の妹なんだってみんなに自慢した」

 その瞬間、人目も憚らずロマンに抱きつきたい衝動に駆られた。だが必死に抑えた。きっとロマンはそれを望んでいない。彼女は姉として、私に賛辞を送りに来たにすぎない。

「ありがとう、ロマン。あなたに自慢してもらえて嬉しいわ」

 ふと、講堂の出口に目をやる。シエルの後ろ姿が見えた気がして、私はロマンに手を振って駆け出した。

 シエルは講堂の前の噴水の側に立っていた。名前を呼ぶと彼女は振りいて、いつものように私を見て微笑んだ。

「シエル……今日は練習は?」

「サボったの。どうせ大会には出ないから」

 いつものあっさりとした口調で答えたあとシエルは「それよりあなたたちの劇が観たかったし」と付け加えた。

「来てくれてありがとう。楽しんでもらえた?」

 シエルの隣に立つ。円形の噴水の透き通った水の中には、昨日の夜に投げ入れた九枚のコインが午後の陽光を受けて光っている。さっきシエルが見つめていたのは、これだったのだろうか。

「もちろん。前半と中盤、ラストで三回は泣いたわ」

「あなたでも泣くの?」

「滅多に泣かないの。映画なんかを観てても、作り物なんだって思うとなんか冷めちゃって。だけど、今回のは泣けたわ。今日のあなたは、最高に良かった」

「オーシャンのフリッツもね」

「もちろん。フリッツをプリッツって言ったら、オーシャンに怒られたわ」

 不意に、シエルにもらっていた鉱石をお守りに持っていたのを思い出して、ポケットから取り出した。

「これ、ありがとう。返すわ。おかげでいい演技ができた」

「返さなくていいわ」

「だめよ、これはあなたの大切な宝物なんだから」

 私はシエルの手に、無理やり鉱石を握らせた。

「あなたが次の大会で優勝できるように、願掛けをしておいた」

「ありがと。次の大会は、ニュージーランドなの」

「観に行けたらいいんだけど……」

「無理しなくていいわよ、外国だし遠いしお金かかるし。それよりエイヴェリー、今も家出は継続中?」

「ええ。だけどそろそろ帰るわ。今日両親と話して、流石に心配をかけすぎたなって反省して……」

「そう。なら、またいつでも遊びに来て。私があなたの家に行くこともあるかもだけど」

 シエルはじゃあまた、と手を振って颯爽といなくなった。彼女はいつも、風のように現れては消える。その後ろ姿を、私はいつも見送っている。彼女の大会を観にいけたらいい。彼女と同じ異国の空気を、何故だか吸ってみたいような気がした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...