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第1章 【初咲きの夜明け】
【13話】 べアバックライディング・スパーアウト
しおりを挟む突如部屋の中央に出現した星の鮮やかな水色が、エスカたちの視界を覆い尽くす。
「アギョウ……あいつ、リンクしやがったぞ……」
星は『生装』とリンクした人間でなければ出すことはできない。
ボレアスはグリーヴを装着したことで、誰に習うでもなく無意識のうちにリンクを果たしてしまったのだ。
突然の出来事にその場の全員が硬直するが、一番動揺しているのは間違いなくボレアス本人だろう。
自身の頭上に浮かぶ光球を、目を見開きながら固唾を飲んで見上げている。
「……これは驚いた」
それを見たアギョウは手に持っていたカップをテーブルにそっと置き、猛獣を前にした冒険家のように物音を立てず慎重に、静かに立ち上がった。
「『生装』とリンクできる人間はあまり多くない。星持ちの適性があったとしても、使い手が『生装』側に認められなければリンクすることは叶わないんだ」
「……アギョウ?」
アギョウは落ち着きのある声で淡々と話すが、なぜかその全身からは少しずつ、キナ臭い殺気のようなものが漂い始めていた。
「しかし……どんな能力がどれほどの出力で行使されるか分からない『生装』とリンクする行為は、極めて危険。とくにその子はかなりの暴れん坊だ」
その子、と言いながら指差す先にあるのは当然、ボレアスが装着しているグリーヴ。
アギョウのその言葉と様子から、今この場がどれだけ危険な状況にあるかを察したボレアス。その顔色は頭上に浮かぶ星のようにみるみる青く染まっていく。
「能力が暴発したらマズい……心を落ち着けて、冷静に――」
しかしアギョウの指示も虚しく……危惧したとおり始まってしまう、『生装』の暴走。
「う……うおぉっ!?」
前触れなくグリーヴの踵部分から熱波が噴射され、ボレアスの体がとてつもない速さで勢いよく後ろにひっくり返った。
「!」
アギョウは素早く床を蹴り込み、一足でボレアスのもとへと滑り込んだ。
「おっとぉ!」
後頭部が床に激突する直前にアギョウの左手が間に差し込まれ、ボレアスの頭を掴み取る。
アギョウの左手がクッションになることで頭部の強打は免れたボレアスだったが、まだグリーヴが生み出す推進力は死んでいない。
むしろさらにスピードを増したそのグリーヴは頭部を軸にして円運動を続け、勢いよく床に振り下ろされた。
「よいしょぉ!」
しかし今度は、エスカがボレアスの脚に向けて体当たりをかます。
勢いが弱まったところを両腕でしっかりと抱きしめ、加速する回転運動を止めることに成功した。
「アチチチチッ! あっついわコレ!」
グリーヴは鉄製のため、熱波を放ち続けるごとにドンドン本体の温度が上がっていく。
その熱気に当てられたエスカは思わず顔を背けるが、手だけは決して離そうとはしなかった。
「バカかお前は! なんで近づいてんだすぐに離れろ!」
レイヴがこれまでにないほどの声量でエスカに怒号を上げるが、彼女は一切聞くを持たない。
仮にエスカに逃げる気があったとしても、この状態から手を離してしまうほうがよほど危険でもあるのだが……。
「その状態を保て!」
アギョウはエスカに一言そう告げるとボレアスの頭から手を離し、グリーヴが着いた足元へと回り込んだ。
そして、近づくだけで熱さを感じるほどに熱せられたそのグリーヴを素手で躊躇なく掴み取る。
「グググ……アァッ!」
灼ける痛みを噛み殺し、持ち前の怪力で無理やりグリーヴをボレアスの脚から引き剥がした。
「げふっ!」
グリーヴの推進力とエスカの腕力で辛うじて支えられていたボレアスの体は、支点を無くしたことで絨毯の上に真っ逆さまに落ちた。
「ハァ、ハァ……怪我はないかい? 二人とも」
息を切らしたアギョウは、グリーヴを放り投げながらエスカとボレアスの方に向き直るが……。
「……」
一瞬の出来事だったとはいえ臨死に近い体験をした二人は放心状態となっており、まともに反応することができなくなっていた。
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