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2章 学校編
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しおりを挟む授業中によるものなのか、職員室の扉の外から中を覗いても、まばらにしか先生はいなかった。
どの先生もPCに向かい、作業をしている。
僕が覗き込んでいることを気に留める者は一人としていないようにみえる。
肝心なのは職員室の先生が僕に気づいていないかどうかではない。
僕の担任の席がどこにあるかであり、担任が職員室内に今いるかどうかだ。
職員室に来た理由の延長線上がそれなのだから、僕は中に入らないといけない。
それも怪しまれないように。自然とした成り行きで、自然とした立ち振舞いで、職員室内に潜入する必要がある。
ごくり、と生唾を飲み込んで早鐘を打つ心臓の音を聴きながら、一息ついて扉をガラガラっと開ける。
開けてしまった……。
ついに、開けちゃったよ。
高まる緊張感が、生まれて15年という短いながらの歳月のなかで最高潮に達した。
僕の体が押し潰されるような重圧にすら感じるほどだ。
職員室のその先に、あるはずだ。
もうじき三十路になる青春を忘れたような頭でっかちな昔ながらの価値観を持つ担任の笹野先生という男の元から現物(USB)をばれないようにすり替えないといけない……。
できるかな? 僕に。
いやいや、悠長なことなど言っても仕方ないのだ、と言い聞かせながら、足を踏み入れる。
果たして、担任はシロかクロか。
事前に「五明章介は無罪だ」さんとのやり取りで仕入れた情報のみで推測しても、笹野先生という男の素性が松場中学の3年2組学級担任をしていて、僕の嫌いな数学を担当する教師である以上の情報は持ち合わせてなどいない。
担任の存在が僕の大切な人を救うキーパーソンになるのではないか、ただただ期待に胸を弾ませたくて。
僕の日常だった校内に、父さんの事件を明かすような非日常の鍵が紛れ込んだその違和感の狭間で、僕は自身の身体を駆け巡る血流が心臓のポンプで脈々と送り出されるのを右手で胸を押しつかせるときに感じた。
時計の長針が短針に追われるようにして、遅れて進むが、この時僕の歩みもまた心臓の鼓動に歩を促されて、少し遅れてゆっくりとした足取りで前進することになる。
着実に担任の席に近づいていく。
あと少し、あと少しだ。
ついに──。
その時だった。
「あ、おはよう悠基君」
「お、おはようございます木原先生」
は、はぁはぁ、危ない。
なんだ。木原先生か。
気づかなかった。
「あ、職員室に先に顔だしてくれたのかな? 悠基君。だいぶ休んでたみたいだから、みんな心配してるんじゃないかな?」
「そ、そうですね。顔……出しに来ました」
「ちょっと顔が青白いけど、元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
青白い、か。
そりゃそうだろうな。
僕は今──重要な任務をおこなっている最中なのだから。
笹野先生のデスクに意識が行きすぎて木原先生が近くにいたことに気づかなかった。
ま、いずれにせよ、引きこもっていた僕がここに来ていた本当の理由は悟られてはいない。
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