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2章 学校編
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しおりを挟む翌朝。
僕は重い腰をあげ固く閉ざしていた自室の扉のドアノブをひねり、階下の玄関へと足を運んだ。
その足取りは、踏み込む足に自重をしっかりと乗せて、意思の強さや期待に胸が弾む思いが合わさり、だんだんと軽快に、かつ大胆な足取りへと変化していた。
当初は仮病を理由に2週間程度休むつもりだったが、心臓を抉(えぐ)りとるような精神的な苦痛をよもや友人だと信じていたクラスメート達から受けとることになり、それを理由として、倍以上の時間を休むことになってしまっていた。
噂には聞く加害者家族という立場に置かれたときの心痛を望まぬプレゼントとして、受け取らざるを得なかったためだ。
だからこそ、ここ5週間近くもの間、外出を試みるその足取りは事件以後、非常に重く、気分転換に外出したいという心地すら満たせずにいた。
そんな僕の小さな活動拠点は我が家の敷地内から敷地外へと移動することになるのだが。
まさに「世界は妖しく嗤(わら)う」という形容がお似合いなほど、周囲の視線が僕らをあざけ笑うような、そんな世界の変わりようだった。
僕はただ──繋がりが薄れかけた絆をもう一度繋ぎ止めるように靴紐を結び、がちゃりと扉を開け、休み続けた学校に通おうとしただけなのに……。
世間は僕を歓迎してくれなかった。
今まで我が家の中にとどまっていたから気づかなかっただけで、我が家を囲うブロック塀にいくつものスプレーによる落書きもされていた。
「死ね」「この街から出ていけ」などの落書きを見ていたら、胸が焼けるような不快な気持ち悪さが喉から込み上げてきた。
おえぇっという嗚咽(おえつ)と共に、今まで感じていたずっと誰かに見られているんじゃないか、という視線の恐怖や他人に僕らを詮索されるのを恐れてやまない心地を全て吐き出した。
すると、不思議なことに抱え込んでいたなにかがふっと軽くなって肩の荷がおりたように、世界が爛々と眩しく輝いているように見えた。
「さぁ、気持ちは楽になったし、後は学校に戻って例のUSBを手に入れるだけだ」
と、吐瀉物(としゃぶつ)で汚れた口をハンカチで拭(ぬぐ)いながら、学校へと向かう歩みを早めた。
歩き続けること20分。
見えてきた。
この正門をくぐれば、松場中学校だ。
僕は休むような人間ではないのだが、
「久しぶりに来るなぁ。5週休んだから、1ヶ月半ちょいか」
と、大きく手と目を見開き、背筋を伸ばして、誰も居ない正面玄関に入る。
廊下に入る境目で大きくひと呼吸。
「『こんにちは!』ってさすがに居ないか、この時間は。今はたぶん2、3時限目の授業中だからな。廊下には居ないなぁ、さすがに誰も」
大きな声で「こんにちは」の「こん」まで口に出すと、現在校内では授業中であることを思い出し、急にしぼんだように小さな声で独り言をつぶさに呟き、階段の方へと頭と足を揃えて2階の職員室を目指すことにした。
先に僕の所属する3年2組の教室に入ろうか迷ったのだが、突然の出席になる上、なによりどんな顔をして入ればよいか、また久しぶりすぎて入れないというシャイな側面もあり、チラリと自分の教室を覗くだけにして後で訪れることに。
と言いつつ、そもそもの理由が担任の笹野先生と職員室にあるのだけども。
とにかく、僕は職員室へと足を向けたんだ。
目的が目的だけに。
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