世界は妖しく嗤う【リメイク前】

2章 学校編

23

　皆が押し黙るなか、沈黙を破る勇ましい一声を発する者が一人。
　
　「それで誰が見張りをやるか、決めようじゃないか」
　
　その声は、橋口その人。
　それに続く者が出るか否か、応える者がいないかのように見え、再び沈黙の時間が訪れた。
　
「おいおいおいおい。嘘だろ？ そんなに嫌なの？ お前ら」
　
　橋口の勇ましかった声も反応が来ない悲しみによって、曇ったような明瞭ではない震えた声に変化していく。
　
「お前ら……」
　
　橋口が落胆の色に顔を染めるのが手にとるようにわかるなか、僕は助け舟を出したい、と心のなかで強く願っていた。
　だけど、助け舟を出したい、とだけ願うも行動には起こすことなく。
　本当は助けたい！
　自分がやるって立候補したい！
　だけど──。
　やりたくないんだよ、僕は。

「呆れた……見損なったぞ、お前ら」
「す、すまん……」
「ごめんよ、橋口」
「いや、何？ この葬式みたいな雰囲気は」

　だからといって話したくはないんだよ……。
　本当の理由ってやつを。
　だってあれじゃないか、僕がここで立候補してしまったら──。
　
　根が優しい僕が本気で葛藤していると、「お前、何ぶつぶつ言ってるん？」と二人から総つっこみを食らってしまった。
　
　え、聞かれてる？
　今の考え、筒抜け？
　
　僕は細々しい声で質問を口にする。
　
「僕、なんか言ってた？ だとしたら、何を？」
　
　まずは、どこまで聞かれたか突き止めないと。
　返事を待たねばな。
　今度はしっかりと胸に考えを留めて、二人を待つ。
　
「言ってたぞ？」
「うん、言ってた」
　
　二人に聞かれていたのは確かなようだ。
　一体どこまで聞かれたんだ？
　
「んで、何言っていた？」
「だってあれじゃないか、立候補したらうんぬんみたいなのが聞こえた」
「俺も同じく」
　
　そんなところを声に漏らしてたのか。
　そんな物言いで考えてたのが聞かれたら、見張りに立候補したらあかんとてつもない理由があるように聞こえるじゃん。
　弁解させてくれ。
　
「違うんだ。立候補しないのには別にたいした理由なんてない」
「じゃあ、何なの？」
「そうだぞ、何があるって言うんだ？」

　僕の弁解に二人は反応を示した。
　僕は、弁解を続けることにした。
　
「あのね？ ちーがーうーんだよ。仮に見張りに立候補したら、先生のノートPCの中身に果たしてAVがあるのか？ 先生の秘密を見れなくなるかもしれないじゃん！ つまり、そういうこと！！」
　
「なるほどな！」
「あ、それは確かにそうだ。悠基も同じことを考えてたのか」
　
　納得を示した二人。
　笠井に関しては、納得どころか、同じことを考えていたようだ。
　三人の間を流れる空気が変わった。
　さっきまでの重たい空気が軽くなり、三人の顔から笑みがこぼれ、再び談笑が始まった。