世界は妖しく嗤う【リメイク前】

2章 学校編

29

　僕らは目を爛々と輝かせながらパスワードロックの解除画面を見続ける。
　結果、パスワード解除成功だ。
　僕らはこのエロスと謎に包まれた笹野先生のノートPCの中身をようやくみることができる。
　笹野先生がどんなAVをみていたか。
　あるいは、どんな女優やシチュエーションが好きでみてるか……。
　──いや、そうじゃない、そうじゃない……あれ、なんだっけ？　まぁいっか。
　検索履歴に三人の視線と期待が集まる。
　
　「笹野先生、いっきまーす！」
　
　皆の声が見事な重なりを見せ、表示された検索履歴をみていく。
　そこには幾つもの画像や動画コンテンツの検索履歴があらわになり……
　
　僕らの心臓は大きな期待と共に高鳴りを見せ、血が全身のありとあらゆる……あらぬ場所にまで巡るのを感じる。
　先生も僕らと同じ人だった。
　先生は先生である前に僕らと違（たが）うことのない男子の心を持っていた。
　先生も……いっぱしの男だったんだな、しみじみと話ながら、僕らはそっとパソコンの検索履歴を閉じた。
　
　僕らの間を虚無感がすぅーっと通過していた。
　
「見、見てないよな？」
「あぁ、なにも見てないから」
「見、見ちゃいない……」
　
　僕らは決して見てはならないモノを見てしまったことに対して思い思いの反応を示した。
　何はともあれ、僕らは触れてしまったんだ。
　
　しかしだ、なにか重要なことを忘れている。
　なんだっけ？
　大切なことは確か──
　
「U……USB……USBを探さなきゃ」
　
　思わず、言葉を漏らしてしまった。
　
「USB？　なんの話だ」
「何も？　な、なんでもない」　　
「そうか、ならいいんだが……」　
　
　二人の視線が先生のPCの画面から僕へと注がれるのを感じた。
　どうやら僕は度々考え事を漏らす癖があるらしい。
　気を付けないとな、とぼそりと頬に手を当てながら、遠い目をしながらなんとか場を切り抜けようとした。
　
「聞こえてるからな？」
　
　僕の発言は子細に聞かれていた。
　橋口が顔を覗き込みながら、はっきりと見透かすように語りかけていた。
　
「んおお？　びっくりした―」
　
　僕は突如視界に入った橋口の顔と声に大きく反応して、PCのキーボードを操作してしまった。
　ウィインという作動音が鳴り響く。　

「何が起きているんだ？」
「怖いんだけど」
「ねぇ、先生に正直に話して謝ろうよ」 

　３人はそれぞれ不安を口に出し、画面に突如表示された動画を見るか否かで小さな論争が起こった。