トワレ殺人事件簿《完結》

第2章 第2の事件

8話 守永と【青戸】の証言の交錯2

 一度ならずや二度までも──第一、第二の殺人事件に顔を出した守永成一に永瀬警部補は疑いの目と言う先入観で守永成一から証言を得たわけだが。今度は青戸祐哉の番である。

「いやー、お待たせして申し訳ありません。青戸祐哉さん」
「は、はぁ……え、えぇ。待っていましたよ。早く聞き取り終わらないかなぁ、と」
「申ーし訳ありません。聞き取りは手短に済ませますので、少々お付き合いくださいませ」
「はぁ……、分かり……ました」


「えぇー、ではですね！ 現場が多目的トイレと言う訳でしたが。このトイレに向かった時の事を良く思い出して話してください」
「はい、えーと。話は多少遡りますが、友人の守永に誘われて、軽くサッカーしに来た訳です。あいつが席を外して──」
「ん、あいつ？ どなたですか？」
「あぁ！ すみません。あいつは守永です」
「続けて」
「はい、まぁ、あいつが……守永が偶然席を外している時に女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた訳です。思えば、あれが被害者の最後の一声だと思うと不思議なモノです」
「ほうほう、その不思議とはどのような理由から？」
「えぇ、殺される時の最後の一声って、案外出るモノなんですねぇ」
「案外？ まるで殺害の瞬間を見ていたかのような物言いですね！ さては？」
「と、とんでも……ないですってば！ 犯人に仕立て上げないでくださいよ。警部補さん」
「こりゃすみませんなぁ。疑うのが仕事なので」
「此方こっちは冷や汗だらだらですよ！ 警部補さんの疑う見方が恐ろしくて」
 ハハッ
「それが、仕事ですので。申し訳ありませんが、話を続けてくれませんか」
「……わかりました……。んで、被害者の遺体を発見した多目的トイレに向かった訳です」
「続けて」
「多目的トイレの扉の前にはもう先に守永のやつぁが、居たわけですよ。そして聞いた訳です。『守永！ さっきの悲鳴は聞いたか？』とね」
「それで？」
「守永の口から『聞いた』と言われ、『じゃあ、そこで、何突っ立ってるんだ？』と言ったんです。俺が。『見ろよ！ これ』と守永が声を震わせて扉の取っ手を見るように指示してきて」
「ほうほう」
「んで、血のような痕があったのですが、躊躇ためらわずに開けました！ 嫌な予感しかしなかったですが、虫の知らせって奴ですかね？ 早く開けないといけない気がして…… 。早く開けないと良くない気がして……。そして開けたら案の定被害者の遺体が」



「なるほど。次の質問を伺いますが宜しいですか？」
「えぇ……構わないですが」
「トイレに向かう最中、ご友人以外の誰ともすれ違いませんでしたか？」
「あぁ！ そう言えば、すれ違いましたよ。マスクを付けた女性と」
「マスク？ マスクをつけた女性とすれ違ったんですね？」
「えぇ、それが何か？」
「とても大事な情報です」
「そうなんですね」
「まぁ、質問の方続きがありまして……、その女性はどんな服装でしたか？」
「んーと……よくは……覚えていないです。すみません」
「いいえ、とんでもないです。お時間取らせて申し訳ありませんね」

 何故かすれ違った女性の事を詳しく聞こうとすると途端に口を濁した青戸。そして、守永と青戸の聞き取りを一通り終えた永瀬警部補。 

 ──いやぁ、情報が出て来る出て来る。整理しなきゃなぁ。

 永瀬警部補はそんな事を考えて青戸に焦点を絞って引き続き捜査に戻るのであった。