トワレ殺人事件簿《完結》

第3章 過去編

15話 青戸らの過去編6

 「祐川……あいつ……」

 銀行員の紫垣は罰が悪いような顔をして小さく声に出した。お金が好きでお金に取り憑かれた彼にとって、大金を管理したり動かしたりする銀行員の仕事は、「天職」のようであった。

 だけども、彼には不満があった。いや、不満足であった、が正しい。つまるところ、紫垣は、融資担当の銀行員として、企業・銀行間の仲を取り持ち大金を動かす大きな取引に携たずさわるも、直接はその大金を私腹に肥やす事は出来ない。そんな中、紫垣は銀行員としての立場を利用して料亭で会談する事となったのである。二〇一六年八月某日の事である。




※※※※※

 伏見工業に勤めている舩木梓乃ふなきしのは伏見工業の中でも有数の実力を持つ若手であり、的確な判断と速さスピードで仕事を捌さばく彼女には頭が上がらない上司も多い。
 そんな伏見工業の舩木梓乃は太いパイプを持つパイプ役でもある。

「今晩は。舩木ふなきさん。今日は良くお越しになりましたね！」
「いえいえ。岩越銀行の紫垣さんとも有ろう御人おひとからの会食の誘いとあれば！ 出ない訳にはいきませんよ！」
「又々またまたぁ。口が巧うまいですなぁ」
「ふふふっ」
「まぁ、そろそろ本題に入りますかね？ 今日は招待客ゲストもお呼びしてますし」
「そうでしたね。色々とご相談させて頂きたいと前々から相談させて頂いていた話を」
「えぇ。お聞かせ願えますか？」
「勿論もちろん。では、話します。実は──と言う訳なんですよ！」
「成る程、そうですねぇ……」

 そんな舩木梓乃は、昨今の玩具製品の売れ行き状況から分析して、今後の玩具メーカーとしての伏見工業の事業計画に係る融資等の相談に関して、岩越銀行名古屋支店の融資担当としての地位を欲しいままにしている紫垣順也と会食を持つ事になっていたのである。そして、口を開いて話を再び続けた。

「既にTVのニュースで話題に上がっている通り、此処ここ最近の玩具製品の売れ行きは厳しいモノがあります。大手玩具メーカーのTOMIYAが主力の玩具の一つのラジコン部門からの撤退を打ち出しておりますし。オマケに玩具製品より家庭用ゲーム機器やゲームソフト類の進出が目覚ましいモノがあります……」
「えぇ……。舩木さんの仰有おっしゃる通りの厳しい状況だと思います」
「そこで、新たな玩具製品の開発や新たな販路の確立・拡充が必要だと私わたくし共、伏見工業は考えております。そこで家庭用ゲーム機器等に打ち勝てるような新製品の開発を新たに始めたいのです。具体的に話しますと、新技術や新素材を開発して従来の玩具製品をよりデザインや素材等を洗練させて……。融資等の方は如何いかが検討なさいますでしょうか」
「えぇ、話は分かりました。十分に話を整理した後のち、判断させて頂きたい……と話を本来ならさせて頂く所なんですが！ 今回、既に電話越しにて話を承うけたまわっていましたので。今日は特別に招待客ゲストをお呼びしています。此方に顔を出しにおいで。祐川さん」