トワレ殺人事件簿《完結》

明智風龍

文字の大きさ
17 / 39
第3章 過去編

16話 青戸らの過去編7

しおりを挟む
  銀行員の紫垣順也しがきじゅんやと伏見工業のエースの舩木梓乃ふなきしのの会談の席に、紫垣のめいにより、豊科工業社員の祐川勇司すけがわゆうじは料亭の薄い壁一枚を隔てて傍耳そばみみ立てて二人の会話を聞いていた。

此方こちらに出ておいで。祐川さん」
「は、はい……ど、どうも、祐川です」
「初めまして~、伏見工業に勤めている舩木梓乃です。貴方は~、どちらに勤めて見えますか?」
「あ、言い忘れていました。豊科……元豊科工業フリーの祐川勇司です。それにしても変な話……と言ってはなんですが、聞かせて頂きましたよ! 御二人の会話」
「な、何ですって? 盗み聞きしたんですか? 私らの会話」
「えぇ、聞かせて頂きましたよ! 勿論もちろん、許可は頂いています。此方こちらに見える紫垣さんから」
「な、何ですって? 失礼だわ!」

 突如乱入した祐川勇司と言う名の人物の存在と、彼の口から発せられた「豊科工業」と言う言葉ワードに驚いた舩木梓乃。「今回は二人の会談に招待客ゲストが来る」と言う空間と場であると銀行員の紫垣順也から聞かされていたが、この祐川なる人物がその招待客ゲストである。舩木梓乃は銀行員の紫垣より、事前に聞いていたのに、招待客ゲストの存在を忘れ、べらべらと舩木梓乃の勤める伏見工業の行く末を話していた羞恥しゅうちで顔を赤らめ、銀行員の紫垣順也が舩木梓乃に仕掛けたとある驚きの出来事サプライズに心が大きく揺らいでいた。

 


 銀行員の紫垣順也の口から舩木梓乃に対して、祐川勇司に話した言葉の一部を入れ替えただけのほぼ同一の内容が伝えられた。
 
「双方の会社は同業であるがゆえに大手玩具メーカーのTOMIYAがラジコン部門からの撤退による打撃により、赤字回避の為に新事業の展開等の必要性を迫られている。 その為、事業提携を行う必要があるのではないか? 」
 
 と言うビジネス上の建前が話された。

「──と言う考えでいます」
「え?……えぇ? そんな……まさか? それをやるんですか?」
「そのまさかです」

 銀行員の紫垣順也は二人に驚くべき考えを話した。
 
「通常なら今お話をした通り、ビジネス上の事業提携を双方が結べば良いのですが、既に明かした通り、祐川さんが豊科工業は経営上の危機を迎えています。又、豊科工業は経営危機を回避する為に、新事業展開をするべく、現在岩越銀行名古屋支店の企業融資担当の私が受け持っている状態です。これは伏見工業にも同じ事が言えますが、双方の会社が経営の危機にあると言う同一の立場にあり、双方共に中小企業でありながらも、豊科工業は既に空中分解しており、かろうじて新製品開発に人員を割ける程度。お分かりでしょうか?」
 「つまり、双方を見ると、豊科工業の未来は危うく、伏見工業の未来は比較的明るい、と」
「そうです。以上の事を理由に、豊科工業は伏見工業にその新製品開発に係る事業を預ける……」
「つまり、豊科工業は伏見工業に買収される必要があると」
「待って! それだと~、更なる赤字のリスクを抱える事になりませんか?」
「よくお気づきになりましたね! 舩木さん」
「何で、そんなに笑うんですか? 何かおかしい事でもあるんですか?」
「えぇ、ありますとも。実は、豊科工業出身の祐川さんにはこれから豊科社長夫妻に給料の未払いの事を話に切り出して貰い、豊科工業の開発情報を持ち出して貰います」
「待って。それじゃあ、俺が此処に呼ばれた意味って……やはり……情報の横流しリークって事か」
「そうです。祐川さんには豊科工業から情報を調べて情報を伏見工業まで横流しリークして貰い、それを条件に祐川さんは伏見工業に再就職するって事です。どうですかね? 御二人共」
「私は少し考えたい所ですねぇ……と言いたい所ですが、正直話しますと、《うーん》の考えに尽きます」
「俺としては、再就職できるなら……実際何でも良いって感じです」
「そうですか……。御二人の考えが分かりました。残念ですねぇ、舩木さん。私としては、上昇思考の強い舩木さんにはぴったりの考えだと思いますがねぇ? 再就職先を探している祐川さんに豊科工業の開発情報を舩木さんに横流しリークする事を前提に、比較的発言権がまだある舩木さんから上に祐川さんを人材登用とうようする事を掛け合う。そして、開発情報を元に舩木さんが主体となり開発する。そして、開発の功績を欲しいままにしてより上の役職に就く。一方で祐川さんが登用されたあかつきには私と舩木さんに金銭を受領じゅりょうする。如何いかがでしょうか?」

「なるほど、紫垣さんのアイデアを用いれば更に上の役職に就けますね……。でも私も紫垣さんに金銭を受領しないといけなくなりますね……。でも、良いでしょう! 話に乗りましょう!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡

弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。 保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。 「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...