36 / 39
第6章 事件解決編その2~すべての解答編~
35話 夫人による語り部 《4/17加筆》
しおりを挟む
手紙の差出人の話や殺人事件の話を聞かされた豊科夫人。溝に浸かったようなどす黒い感情が豊科夫人の胸中に渦巻き、その激情に耐えられず精神が疲弊していた。
豊科夫人の病室には、豊科夫人と事の顛末を見届けようとする刑事魂を持つ永瀬警部補がただジーッと無言で向き合っていた。
沈黙の数分を経て、豊科夫人が何か記憶を思い出したようで、一声を放った。
「あの……その……実は……」
「……どうぞ。ゆっくり話してください」
「あ、ありがとうございます」
「時間はたっぷりありますから」
永瀬警部補は優しく豊科夫人に話すのはゆっくりでも問題ない、というような意味合いで、にんまり笑みを湛えた。
「実は……旦那が死んだのは……」
「うんうん、ゆっくり。ゆっくりでいいですよ」
「実は……」
豊科夫人の話に優しく耳を傾ける永瀬警部補の人情味に心を打たれて、固く閉ざされた近い日の遠くなっていた記憶に灯かりを点されて豊科夫人の目に浮かべた涙の滴が輝きを放っていた。
「実は……旦那が死んだのは私のせいなんです。旦那が死んだのは……いや、旦那を殺したのは……」
豊科夫人の目に涙が溢れ出した。 言葉を詰まらせ嗚咽が混じっていた。
「続けてください」
「会社が潰れて、旦那が、旦那が、日に日にやつれて……目も当てられなくて。もう、よそう。会社は綺麗にきっぱり諦めて、また一から始めよう? って話したのに……なのに……」
「ゆっくり落ち着いて話してください」
「なのに……なのに……旦那は、とうとうおかしくなって、『祐川も紫垣も……俺の会社を傷つけた奴等全員殺して、自殺してやる!』って言っていて……私は止めようと必死だったのに……止められず、殺人計画を話す旦那の目が本気なのを知って。会社も旦那もおかしくなってしまったけど、せめて私達夫婦に酷い仕打ちをして少しも情けをかけてくれやしない世界に復讐する。そう願って私は……」
「殺人計画に乗ったんですね?」
「えぇ……その通りです」
「そして、私は旦那が望む全ての事を実行に移し、旦那の自殺を手伝い、殺人をしたのです」
豊科夫人はそこまで話すと流れた涙も乾いて、穏やかな微笑みを溢した。
「それでは、豊科夫人。全てを思い出したようですし、貴女を逮捕します」
「はい……お願いします……」
こうして、一連の事件は豊科夫人の自白と逮捕によって結末を迎えたのである。
豊科夫人の病室には、豊科夫人と事の顛末を見届けようとする刑事魂を持つ永瀬警部補がただジーッと無言で向き合っていた。
沈黙の数分を経て、豊科夫人が何か記憶を思い出したようで、一声を放った。
「あの……その……実は……」
「……どうぞ。ゆっくり話してください」
「あ、ありがとうございます」
「時間はたっぷりありますから」
永瀬警部補は優しく豊科夫人に話すのはゆっくりでも問題ない、というような意味合いで、にんまり笑みを湛えた。
「実は……旦那が死んだのは……」
「うんうん、ゆっくり。ゆっくりでいいですよ」
「実は……」
豊科夫人の話に優しく耳を傾ける永瀬警部補の人情味に心を打たれて、固く閉ざされた近い日の遠くなっていた記憶に灯かりを点されて豊科夫人の目に浮かべた涙の滴が輝きを放っていた。
「実は……旦那が死んだのは私のせいなんです。旦那が死んだのは……いや、旦那を殺したのは……」
豊科夫人の目に涙が溢れ出した。 言葉を詰まらせ嗚咽が混じっていた。
「続けてください」
「会社が潰れて、旦那が、旦那が、日に日にやつれて……目も当てられなくて。もう、よそう。会社は綺麗にきっぱり諦めて、また一から始めよう? って話したのに……なのに……」
「ゆっくり落ち着いて話してください」
「なのに……なのに……旦那は、とうとうおかしくなって、『祐川も紫垣も……俺の会社を傷つけた奴等全員殺して、自殺してやる!』って言っていて……私は止めようと必死だったのに……止められず、殺人計画を話す旦那の目が本気なのを知って。会社も旦那もおかしくなってしまったけど、せめて私達夫婦に酷い仕打ちをして少しも情けをかけてくれやしない世界に復讐する。そう願って私は……」
「殺人計画に乗ったんですね?」
「えぇ……その通りです」
「そして、私は旦那が望む全ての事を実行に移し、旦那の自殺を手伝い、殺人をしたのです」
豊科夫人はそこまで話すと流れた涙も乾いて、穏やかな微笑みを溢した。
「それでは、豊科夫人。全てを思い出したようですし、貴女を逮捕します」
「はい……お願いします……」
こうして、一連の事件は豊科夫人の自白と逮捕によって結末を迎えたのである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる