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第四章 戦争・人類対魔族
60.残る問題
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「結局、二人の死体すらも見つからず……か」
魔族との戦争から三日。あの戦争は終わりを迎えたが、その爪痕はまだまだ残っていた。
戦争の最後を飾った、あの巨体が倒れた際の衝撃は、数十キロも離れたクリディアにまで届いていたらしく、風圧で飛ばされたゴミや散乱した物がその凄まじさを物語っている。そして、あの戦争の傷跡はまだ残っている。
そんな衝撃を受けて、ウィッツたちの部隊に死者はいなかったのは奇跡だ。……しかし、吹き飛ばされてケガを負ってしまった人は数知れずだった。数多くの負傷者が、ギルドさえ溢れて街の宿さえも埋めている。
ウィッツが率いた部隊には、確かに死者はいなかった。……しかし。
その衝撃波の直前。この戦争の決着となった一撃があった。それが、紫色の大爆発。
あの爆発の時、間近にいた……梅屋正紀と、梅屋唯葉。人類の救世主とも言える、あの二人が再び姿を現すことはなかった。戦争から毎日、捜索活動をしているが……未だ二人は見つからない。
これだけ探しても見つからないのであれば、捜索はそろそろ打ち切りになってしまう事だろう。
それに、他にも問題は山積みだ。あの時、魔人らを船で逃がしてしまった事。魔王、プレシャ・マーデンクロイツを倒せたのかどうかさえも怪しいということ。
そして、今のクリディアは守りが手薄な事。ドルニア王国やリディエ共和国は、一度自国へと帰ってしまって、さらにクリディアの冒険者たちは、ほとんどケガを負っていて、戦うことが出来ない。
そんな状況で、もしまた魔人が攻めてきたらとすれば、今度こそ本当に人間は負けてしまうだろう。
「ひとまずの勝利と引き換えに、失った物が大きすぎるな」
冒険者ギルドの一室で、ギルドのサブマスターの褐色肌の女性、レイン・クディアが言う。確かにその通りだった。しかし、ウィッツもウィッツで、黙っているだけではなかった。
「そうだね。人類の希望、と言っても過言じゃない二人を失ってしまった。これは大きな痛手だ。……だから、ドルニア王国には相応のお金を払って、新たな戦力を供給してもらう事にした。皮肉にも、アレはドルニア王国にしか出来ないからね」
「アレって、まさか……。勇者召喚は最悪、世界のバランスが崩壊してしまうからそう何度も使ってはいけないと聞いたが? それも、陰に隠れてコソコソと。気に入らないな」
「……じゃあ、このまま人類が滅びるのを黙って見ているのかい?」
ウィッツは、続けて言う。
「確かに一度召喚した勇者は元の世界へと帰すことはできないし、あの二人のようなケタ外れの強さを持った勇者が現れれば、世界のバランスは崩壊してしまうのかもしれない。でも、それは『魔族』も含めた、世界のバランスのことだろう。魔族の事なんか知った事じゃないだろう?」
「果たして、本当にそうなのだろうかな。……アタシにはどうも、嫌な予感しかしないのだが」
レインは、そう言うウィッツに溜め息を吐きながら、ぼそぼそと呟く。
「レイン、君は少し考え過ぎな所がある。世界のバランスがどうって、それはあの召喚魔法と共に伝えられてきた、ただの昔話だろう? ……とにかく、ドルニアでは今頃、三度目の勇者召喚が行われているはずさ。ドルニアの奴らは自分たちに利益があれば、こちらの思惑通りに動いてくれるからね」
ウィッツは、そう笑いながら言う。
「ウィッツ。……本当、お前はよく分からないな。お前はドルニア王国が嫌いなはずだ。それなのに、金を払って、頼み込んでまで、どうしてそこまでする?」
「……そんな事、聞くまでもないだろう?」
ウィッツは、とても簡単な事のように言う。
「俺は、この人類が生き残る為ならなんだってするさ。このクリディアを預かっている身だ。どんな手段を使ってでも、人々を最後まで守り抜くのが俺の勤めだからね」
魔族との戦争から三日。あの戦争は終わりを迎えたが、その爪痕はまだまだ残っていた。
戦争の最後を飾った、あの巨体が倒れた際の衝撃は、数十キロも離れたクリディアにまで届いていたらしく、風圧で飛ばされたゴミや散乱した物がその凄まじさを物語っている。そして、あの戦争の傷跡はまだ残っている。
そんな衝撃を受けて、ウィッツたちの部隊に死者はいなかったのは奇跡だ。……しかし、吹き飛ばされてケガを負ってしまった人は数知れずだった。数多くの負傷者が、ギルドさえ溢れて街の宿さえも埋めている。
ウィッツが率いた部隊には、確かに死者はいなかった。……しかし。
その衝撃波の直前。この戦争の決着となった一撃があった。それが、紫色の大爆発。
あの爆発の時、間近にいた……梅屋正紀と、梅屋唯葉。人類の救世主とも言える、あの二人が再び姿を現すことはなかった。戦争から毎日、捜索活動をしているが……未だ二人は見つからない。
これだけ探しても見つからないのであれば、捜索はそろそろ打ち切りになってしまう事だろう。
それに、他にも問題は山積みだ。あの時、魔人らを船で逃がしてしまった事。魔王、プレシャ・マーデンクロイツを倒せたのかどうかさえも怪しいということ。
そして、今のクリディアは守りが手薄な事。ドルニア王国やリディエ共和国は、一度自国へと帰ってしまって、さらにクリディアの冒険者たちは、ほとんどケガを負っていて、戦うことが出来ない。
そんな状況で、もしまた魔人が攻めてきたらとすれば、今度こそ本当に人間は負けてしまうだろう。
「ひとまずの勝利と引き換えに、失った物が大きすぎるな」
冒険者ギルドの一室で、ギルドのサブマスターの褐色肌の女性、レイン・クディアが言う。確かにその通りだった。しかし、ウィッツもウィッツで、黙っているだけではなかった。
「そうだね。人類の希望、と言っても過言じゃない二人を失ってしまった。これは大きな痛手だ。……だから、ドルニア王国には相応のお金を払って、新たな戦力を供給してもらう事にした。皮肉にも、アレはドルニア王国にしか出来ないからね」
「アレって、まさか……。勇者召喚は最悪、世界のバランスが崩壊してしまうからそう何度も使ってはいけないと聞いたが? それも、陰に隠れてコソコソと。気に入らないな」
「……じゃあ、このまま人類が滅びるのを黙って見ているのかい?」
ウィッツは、続けて言う。
「確かに一度召喚した勇者は元の世界へと帰すことはできないし、あの二人のようなケタ外れの強さを持った勇者が現れれば、世界のバランスは崩壊してしまうのかもしれない。でも、それは『魔族』も含めた、世界のバランスのことだろう。魔族の事なんか知った事じゃないだろう?」
「果たして、本当にそうなのだろうかな。……アタシにはどうも、嫌な予感しかしないのだが」
レインは、そう言うウィッツに溜め息を吐きながら、ぼそぼそと呟く。
「レイン、君は少し考え過ぎな所がある。世界のバランスがどうって、それはあの召喚魔法と共に伝えられてきた、ただの昔話だろう? ……とにかく、ドルニアでは今頃、三度目の勇者召喚が行われているはずさ。ドルニアの奴らは自分たちに利益があれば、こちらの思惑通りに動いてくれるからね」
ウィッツは、そう笑いながら言う。
「ウィッツ。……本当、お前はよく分からないな。お前はドルニア王国が嫌いなはずだ。それなのに、金を払って、頼み込んでまで、どうしてそこまでする?」
「……そんな事、聞くまでもないだろう?」
ウィッツは、とても簡単な事のように言う。
「俺は、この人類が生き残る為ならなんだってするさ。このクリディアを預かっている身だ。どんな手段を使ってでも、人々を最後まで守り抜くのが俺の勤めだからね」
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