魔法少女・朝野こむぎはフランスパンで殴る。【完結】

束音ツムギ

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第一章 SchoolGirl. MagicalGirl.

3.

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『あれは「窃盗」の悪意が具現化したネガエネミー……人を操って、その名の通りあらゆるものを盗ませようとするんだ』

「へえ……あれが……って、きもちわるっ!?」

 その見た目に思わず、変な声をあげてしまったわたしの視線の先には――白く大きな手が浮かんでいて、その手には指が10生えていた。その指それぞれが別の生き物のように、わしゃわしゃと動いていて気味が悪い。

 ネガエネミーと言えば、これまでわたしが戦ってきたどれもが、ひどい見た目のものばかりだったけれど……気持ち悪さで言えば間違いなくトップクラスだ。

『アレが人を操りはじめる前に、さっさと倒しちゃおう』

「うんっ! ――はあああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 わたしは加速し――10本の指が生えた手に近づくと、まずは黄色く光り輝くエネルギー弾を一発だけ生み出して、とりあえず撃ち込んでみる。

 もう、最初の頃のわたしとは違う。あんな弱々しいエネルギー弾ではなく、明確に。攻撃の意思を持ったものだ。

 ギュンッ、と、一直線に飛んでいった弾が、その白い手にぶつかろうとした、その瞬間。……バシィっ!

 わたしの放った弾は、まるで子供が飛ばした風船でも見るような調子で、軽々とはたき落とされてしまう。

「まあ、そうだよね……」

 もちろん、魔法少女になってからまだ短いわたしではあるが、この程度の攻撃で倒せるとは思っていない。あくまでこれは『様子見』だ。

 ここまで、毎日一体ずつ、それぞれ見た目も攻撃方法も全く違う、様々なネガエネミーと戦ってきたが……そのどれもが手強く、その生い立ちに沿った厄介な力を駆使して、わたしを追いつめてきた。

 きっと、このネガエネミーも同じだろう。その生い立ちに関係するで、反撃してくるに違いない。そのを把握しておく為の『様子見』だ。

 たしかサポポンは『窃盗』の悪意がネガエネミーへと具現化したものだと言っていた。ならば、それに沿った特殊な攻撃を使ってくるはず……

 実際にそのネガエネミーが持つ特殊な攻撃を誘発させて、事前にどんな事をしてくるのかを確認できれば……予想外の攻撃に一撃で倒されてしまう、という最悪な展開は避けられるはず。

 相手がその攻撃をさらけ出すまでは、不用意に攻撃は仕掛けず、さっきのように軽くちょっかいをかけて様子を見る……というのが、まだまだ魔法少女としての経験が浅いわたしの戦い方。

 ――ギュン、ギュン、ギュン――ッ!

 三発の弾が、順番に白く大きな手に向かっていく。それを一つ、二つとその手も弾きとばしていき――最後の一つ。その手は、エネルギー弾を『掴んだ』。

 大きな手で覆い被されたそのエネルギー弾を――まるで野球でもしているかのような調子で、こちらに投げ返してきた。それも、手そのものが大きい分、軽く投げたように見える反面、とてつもない豪速球がわたしに向けて、襲いかかってくる。

 突然の攻撃を警戒して、ある程度距離を取っていたわたしは、ひょいっと横へ避ける。これがもっと至近距離から放たれた攻撃なら……今のように、軽々と避けられた自信はない。

「やっぱり。大体予想通りだったけど……『攻撃を盗む』のがあのネガエネミーの戦い方みたい。――それなら、あまり厄介じゃないかも」

 相手の全貌が掴めてきたわたしは、次こそ本当に、あのネガエネミーを倒すべく、覚悟を決め――白い手の元へと、グイッ! と一気に加速し、近づいていく。

(離れたところから撃ったところで、あの大きな手に奪われるか、弾き飛ばされるのがオチ。
 ……なら、それが間に合わないような近距離から、それも隙をついて、一発だけ撃ち込めばいいっ!)

 攻撃を盗む――という攻撃以外、特別気をつけなければならない事はなさそうだ。ならば、一気に近づいて、近距離戦に持ち込んだほうが分がある。

 魔法少女であるわたしの武器の一つである、小回りの利く飛行能力で、わたしに掴みかかろうとするその手、はたき落とそうとするその指、そのすべてを避けていく。

 そして、その全てを避け切ったわたしは、その先で――詠唱する。

『――Deliele Ga Full Flowa【BREADブレッド】――Convert――ッ!』

 ――同時。長く、極限まで硬く焼き上げられた『フランスパン』が、わたしの右手に現れる。

 わたしの固有能力……『自由に、どんなパンでもその場で焼くことができる』能力で焼き上げられた、わたしのだ。

 パンを焼くという、ニッチな固有能力から編み出された、わたし専用の武器。限界まで固められたそのフランスパンは、ネガエネミーを葬るトドメの武器となる――ッ!

 わたしは、そのフランスパンを――バキイィィッ!! ただ一撃、振り下ろした。

『――ギギ、ガギギグギィィィ――ッ!?』

 歯車がきしむような、苦しそうにも聞こえる異次元の声と共に、巨大な手は破裂し、バラバラに散っていった。

 そして、ネガエネミーがいた場所に――紫色に輝く石――ネガエネミーの本体、エネルギーである、コアが転がり落ちる。

「よしっ、倒せた……!」

『かなり戦いにも慣れてきたみたいだね。あれを一撃で倒し切るなんて……それも無傷で。さすがだよ。――コアはボクが預かっておくからね』

 コアの回収、そして保管は、サポポンの仕事の一つ。エネルギーを逃す事なく保管して、必要な時に取り出すのはサポポンの得意分野だ。

 最初は全く歯が立たなかったネガエネミーも、何度か戦っていく中で、立ち回りや魔法の扱いにも慣れてきて、なんとか一人でも戦えるようになった。

 あるときは中学生として。またあるときは魔法少女として。わたしはこれから、二つの自分がそれぞれ果たすべき役目を両立し――こなしていかなければならない。
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