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序章
5話 ニューワールドは情報集めから
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さあさあ、10万円分の給付金貨のことは一旦忘れて、他にも必要な知識集めていきましょうかね。
まずそもそもここがどんな世界なのかがさっぱり分からない。
電子機器はないしみんな当たり前のように魔法使うし護衛は剣を持ってるしで、どう考えても地球ではないことだけは確かだ。
しかし異世界と言ってもその実態は多種多様だ。俺が知っているような異世界に対する知識だけを信用するのは流石に拙い。
「ということでレッツ情報収集たーいむ!」
俺はもう一回周囲に誰もいないことを確認してから、手あたり次第使える情報が載ってそうな本を漁り始めた。
どんなゲームも攻略するためには情報収集が欠かせないんだよなぁ。
ソシャゲだって例外ではない。
課金者が圧倒的に強いからよく札束ビンタゲーとも揶揄されるけれど、いいキャラ、いいスキルを持っていたところで使いこなせなければまるで意味がないのだ。
――って余計なこと考えるんじゃなかったっ!!
お医者様に診断されたことはないが、どう考えても俺はスマホ依存症兼ゲーム依存症だと自覚している。
そんな俺がこれだけ長い間スマホを没収されて落ち着いていられるはずもない。
これ以上の思考は(メンタル的に)危険だ。
幸い禁断症状は何度か乗り越えているので、ここは五歳児のヴェルくんになり切って読書にふけることで大丈夫な振りをしようそうしよう。
そういうわけで俺は片っ端から本をかき集めて、仮に誰かが入ってきてもすぐには見つからない隅っこにそれらを積み上げて読み進めていった。
♢♢♢♢
「……で、気づいたら二か月も経過していましたとさ」
ヤバイ、ドハマりしてしまった。
毎日食事の時間以外この図書館にこもってひたすら本を読み漁っていたらいつの間にか本の虫に進化してしまったようだ。
いや、読書っておもろいなマジで。
前の世界だとたまーに電子書籍で漫画を読むくらいで、それ以外はゲームしたり動画見たりと読書とはほぼ無縁の生活を送ってきたんだが、他に娯楽が全くないとここまでハマってしまうものなんだなって。
最初はすぐに疲れるし読めない文字も多くて嫌になりそうだったけれど、本当に他にやることがないから辞書っぽい本を引っ張ってきてそれと照らし合わせながら解読みたいなことを繰り返していたら大体読めるようになったんだよね。
で、文字さえ読めちゃえば後はひたすら読むだけだ。
死んだ魚のような目をしながらスマホ画面を10時間連続で見続けるよりずっと楽だと気付いてしまえば、もう何の苦労もなく読み進めることが出来る。
おかげでこの世界についていろいろと知ることが出来た。
だが五歳児だから仕方ないけれど、遅くとも日が落ちる前までには戻らなきゃいけないし食事の時間に顔を出さないと飯も食べられないという時間的制限が鬱陶しかった。
夜になったら真っ暗な部屋でみんなと一緒に寝かされちまうしな。
というわけで、俺はみんなが寝静まって世話役が出ていったところを見計らってすり抜けで脱出し、建物の中で唯一明かりがついている世話役たちの部屋の死角にあたる場所を陣取って持ち出した本を読むことも多々あったな。
ただ不思議だったのは、俺を担当しているエルフの世話係(フーリさんと言うらしい)が全く俺の自由行動を阻害してこようとしなかったんだよな。
「――あ! ヴェルぼっちゃん! どこへ行っていたんですか? お勉強の時間はとっくに終わっちゃいましたよ!」
「あっ、えっと、その……ちょ、ちょっと別のところでお昼寝しちゃって……」
「お昼寝、ですか? ふむふむ、それじゃ仕方ないですね! 今度はお時間守りましょうね!」
この図書館に初めて来た日の昼食時に当然のように声をかけられたのだが、フーリさんは特に俺のことを咎めるわけでもなく、ぽんと俺の頭に手を置いて撫でつつ軽く注意するだけでどこかへ行ってしまった。
それ以降も俺はその注意をバリバリ無視してここに通い続けたのだが、フーリさんは「あんまり遠くへ行っちゃだめですよー。危ないですからねー」と忠告したっきり俺に何も言ってこなくなった。
いや、普通に世話はしてくれるし声もかけてくれるんだけど、俺の抜け出しについては何も言わないんだよな。
他の世話係もこっちまで手が回らないのか、呆れられているのか知らないけど何も言ってこないし。
あ、もしかして俺、もう将来に期待できないダメな子認定されちゃった?
あれだけたくさんの子供がいれば、そりゃあいちいち落ちこぼれなど構っていられないだろうしなぁ……
しかしそれはちょっとマズいんだよな。
俺はどちらかと言えば優秀な子扱いしてもらわなきゃ困る理由が出来てしまったんだ。
それがこの――
「スキル鑑定の儀。俺の一生を左右しかねない超重大イベント……」
スキル鑑定の儀。
それはこの世界を生きるにおいて最も重要なイベントと言っていいだろう。
この世界に生まれた子供の中はみな、スキルと呼称される特殊能力を一つ所有しているそうで、それは大体7歳くらいで表面化し、測定することが可能になるという研究結果が出ているのだ。
つまり7歳になったときにそいつがどのようなスキルを持っているのかを確認するのがスキル鑑定の儀、ということになるな。
そのスキルは全部で7段階に分けられており、低い方からD級、C級、B級、A級、S級の五段階。そして後に別名『法則創造級』とも呼称される最強のS級スキルの中でも埋めようのない格差があり、全てを一纏めにはできないと判断されてからは、さらに強力なスキルをSS級(S+級)、SSS級(S++級)に指定することになったらしい。
一応スキルは一人一つのその人だけの固有能力ということになっているけれど、正直D級、C級のスキルではどれもこれも似たり寄ったりで、最初は上位の能力者ならついでにできるようなことしかできない。
稀に覚醒と呼ばれる能力ランクの壁を突破する現象も起きるらしいが、普通に生きていたらまず起こり得ない現象なので、基本的に強いスキルを持って生まれた奴はそのまま強いという評価を受けるのがこの世界の常識らしい。
そして俺はこの事実を知ったときに、何故この侯爵家にはやたら子供が多いのかという理由を簡単に察することが出来てしまった。
そう、スキルは一人一つだけ。自分の子供、まして跡継ぎともなれば少しでも良いスキルを持って生まれてほしいと思うのが人情だ。
だからここでは、大量の子供を用意し、その中から優秀なスキル持ちを選別し、集中的に育てるという悪魔的行為を平然とやってのけているというわけだ。
7歳を超えたら二人部屋や一人部屋を与えられると言っていたのは、明らかにこれが関係しているだろう。
優秀なスキル持ちは一人部屋で優遇、悪くはないけどメインにはなり得ないスキル持ちは二人部屋でキープってところだろう。それ以外の子は……正直考えたくないな。
自分の子供でスキルガチャのリセマラをやるとかハッキリ言って頭おかしいとしか言いようがねーぞ!
一度も両親が顔出しに来ることなく、全て世話係に育児を一任しているのもきっとそういうことなんだろう。
正直胸糞でしかないが、その事実を叫んだところでつまみ出されるのが落ちなので流石にやろうとは思わない。
他にも魔法とか剣術とかいろいろ強くなる道はあるらしいのだが、それらは後天的にほとんどの人が身に着けられるものだからさほど重要視されていないのだろう。
例え魔法の才能がめちゃくちゃある子がいたとしても、最強格のスキルを持つ子供に魔法の英才教育を施したほうが効率がいいと考えるのはそこまでおかしいことでもないしな。
剣術や魔法のみでスキルランクの壁をぶち壊すのは相当難しいらしいし、いいスキルを持っている方が明らかに有利なのは間違いない。
というわけで俺、ヴェルマーク・ヴィン・アストールだが、持っているスキルは間違いなく【すり抜け】だろう。これ以外には考えられん。
ランク的には……どうなんだろう。物理法則を無視して壁を通過できているしA級(法則無視級)くらいの力はあるんじゃないだろうか。
ただし上に3つもランクがあるから、これだけでは優遇を受けるには少々心もとない。
普通7歳になるまでの子供は己のスキルの事なんざ良く分からないだろうし、まして無意識のうちに発動するようなものじゃなければ使うこともないだろう。
だからあいつらがどんな強力なスキルを保有しているかさっぱり分からないんだよな。
A級なんて大した価値はないからお前はいらん。
なんて言われてしまったら非常に困る。だから少しでも有能アピールしてスキルはそこそこだけどこいつは残しておいた方が後々良いと思わせたいと考えているんだよね。
ただ、世話係の人たちには多分もう期待されていないし、他に誰にアピールすればよいのか見当もつかん。
ワンチャン【すり抜け】がS級を超える神スキルだったら楽でいいんだけど、そう簡単にはいかないだろうしなぁ……
あぁ、ちなみにスキルや魔法なんか使えてどうするの? 常に戦争でもするの?
っていう疑問についての答えも得られた。
この世界には人間は勿論の事、エルフちゃんや獣人などといった様々な種族が暮らしており、たくさんの国が存在するそうだ。
過去には何度も何度も価値観の違いや資源の奪い合いなどで戦争が起きたらしいが、やがて国〇のような組織が出来て安易な戦争行為は星を傷つけるだけだという考えで多くの国の意見がまとまったらしい。
かといってすべての国が横並びで仲良く手をつなぐというわけにはいかない。
どうしても国家間の関係に問題が生じることがある。
それを解決するのが【ゲーム】だ。
ありていに言ってしまえば決闘だな。
お互いの国が代表者を選出して、様々な形でバトルさせる。
そして勝った方の国が有利な形で解決に向けて話を進めるというわけだな。
ゲームと言ってもFPSやス〇ブラなどで決めるわけじゃなく、もちろん直接戦闘が絡むものとなる。
つまり優れたスキル持ちは優れた戦士となり、ゲームで活躍する戦力となるわけだ。
だからどの国も優秀なスキル持ちを抱え込んで育成することに力を入れている。
この侯爵家もスキルガチャリセマラによって生み出された優秀な戦士を輩出することで、その地位をより強固なものへとしているのだろう。
国家を背負って戦うのは正直あまり気が乗らないけれど、元の世界でいうプロ野球選手のように素晴らしい成果を挙げ続ければ最高の暮らしができるとのことなので、一応はそれを目指すのが手っ取り早いのかなと個人的には思っている。
まあそれはだいぶ先の話になってしまうので、とりあえずはこの侯爵家で評価されて優遇を受け、一人部屋を確保するというのが当面の目標でいいだろう。
だがまあ、この状況で俺の優秀さをアピールする方法はほとんどないし、そもそも俺別にこの世界で特別有能というわけでも何でもない。
「……大人しく、剣と魔法の技術でも磨いておこう」
ベタではあるが、もしいいスキルだったとしても微妙なスキルだったとしても、剣術と魔法がそれなりにこなせれば役に立つこと間違いなしだ(多分)。
どんなことも小さいころからやっておけば差がつくという有名な説もあるし、それにあやかって頑張ってみるとしよう。
依然としてやることがなく暇なのには変わりはないし、授業もたまにこっそりのぞいているんだが、あれは俺には全く合わん。
あれを受けるくらいだったら独学で試行錯誤したほうがましという自信はある。
本音を言えば誰かに付きっ切りで教えてほしいけれど……
「まぁ、仕方ないか。とりあえず魔法の本はっと……」
「はい、どうぞ! これから魔法をお勉強するならこの本が分かりやすくておすすめですよ!」
「あっ、ありがとうございま――って、うわあああっ!?」
突如耳に飛び込んできた爽やかな声と、真っ白な手で差し出された本を自然に受け取ってしまったが、すぐにその異常事態に気づいて俺は思わず声を出してしまった。
「しーっ、ここで騒いだら他の誰かに見つかっちゃうかもしれませんよ?」
「うっ……」
そう言われて俺は慌てて両手で口を押える。
その様子を見て満足そうに頷いた少女は、さっき勢いで落としてしまった本を拾ってぱっぱと軽く払ってから再び俺に差し出してきた。
「どこでサボっているのかと思ったら、こんなところで一人でお勉強していたんですねー。ふふ、わたし、ちょっとびっくりしました」
「フーリ、さん。えっと、これは、その……」
「ああ、別にわざわざ叱りに来たわけじゃありませんよ! ただ、毎日毎日建物を抜け出してどこへ行っているのかなって気になって追いかけてきただけですから」
「そ、そうですか……」
そう言って俺に笑顔を見せるフーリさん。
笑顔はめちゃめちゃ可愛いけれど、今の俺は冷や汗だくだくだ。
フーリさんを信用していないわけではないけれど、後ろめたいことをしているだけにどうしても落ち着けない。
「しかし凄いですねえ。この図書館、並大抵の人間じゃあ侵入なんて絶対できないはずなのに、どうやって中に入ったんですか?」
「えっと、それはその……」
「正直に答えてくれたら今回のことは黙っていてあげますよ! わたしもこんなことで旦那様に報告したくありませんからね」
うぐぅ……これは拙い。
可愛い顔で脅しをかけてくるのは勘弁してもらえませんかね……
もうスキルを使えますと白状したら今すぐにスキル鑑定されて、もしイマイチだった場合は即座に出世ルート消滅なんて可能性もあり得る。
かといってここを嘘で乗り切る勇気もその後の策もない。
……仕方ない。ここは素直に白状してスキルのことを話そう。
上手いこと嘘はついてないけど真実を全部言ったわけじゃないスタイルを貫こう。
こうして俺はあっさりとエルフちゃんの笑顔に屈して、スキルの事とここで何をやっていたのかを白状する羽目になるのだった……
まずそもそもここがどんな世界なのかがさっぱり分からない。
電子機器はないしみんな当たり前のように魔法使うし護衛は剣を持ってるしで、どう考えても地球ではないことだけは確かだ。
しかし異世界と言ってもその実態は多種多様だ。俺が知っているような異世界に対する知識だけを信用するのは流石に拙い。
「ということでレッツ情報収集たーいむ!」
俺はもう一回周囲に誰もいないことを確認してから、手あたり次第使える情報が載ってそうな本を漁り始めた。
どんなゲームも攻略するためには情報収集が欠かせないんだよなぁ。
ソシャゲだって例外ではない。
課金者が圧倒的に強いからよく札束ビンタゲーとも揶揄されるけれど、いいキャラ、いいスキルを持っていたところで使いこなせなければまるで意味がないのだ。
――って余計なこと考えるんじゃなかったっ!!
お医者様に診断されたことはないが、どう考えても俺はスマホ依存症兼ゲーム依存症だと自覚している。
そんな俺がこれだけ長い間スマホを没収されて落ち着いていられるはずもない。
これ以上の思考は(メンタル的に)危険だ。
幸い禁断症状は何度か乗り越えているので、ここは五歳児のヴェルくんになり切って読書にふけることで大丈夫な振りをしようそうしよう。
そういうわけで俺は片っ端から本をかき集めて、仮に誰かが入ってきてもすぐには見つからない隅っこにそれらを積み上げて読み進めていった。
♢♢♢♢
「……で、気づいたら二か月も経過していましたとさ」
ヤバイ、ドハマりしてしまった。
毎日食事の時間以外この図書館にこもってひたすら本を読み漁っていたらいつの間にか本の虫に進化してしまったようだ。
いや、読書っておもろいなマジで。
前の世界だとたまーに電子書籍で漫画を読むくらいで、それ以外はゲームしたり動画見たりと読書とはほぼ無縁の生活を送ってきたんだが、他に娯楽が全くないとここまでハマってしまうものなんだなって。
最初はすぐに疲れるし読めない文字も多くて嫌になりそうだったけれど、本当に他にやることがないから辞書っぽい本を引っ張ってきてそれと照らし合わせながら解読みたいなことを繰り返していたら大体読めるようになったんだよね。
で、文字さえ読めちゃえば後はひたすら読むだけだ。
死んだ魚のような目をしながらスマホ画面を10時間連続で見続けるよりずっと楽だと気付いてしまえば、もう何の苦労もなく読み進めることが出来る。
おかげでこの世界についていろいろと知ることが出来た。
だが五歳児だから仕方ないけれど、遅くとも日が落ちる前までには戻らなきゃいけないし食事の時間に顔を出さないと飯も食べられないという時間的制限が鬱陶しかった。
夜になったら真っ暗な部屋でみんなと一緒に寝かされちまうしな。
というわけで、俺はみんなが寝静まって世話役が出ていったところを見計らってすり抜けで脱出し、建物の中で唯一明かりがついている世話役たちの部屋の死角にあたる場所を陣取って持ち出した本を読むことも多々あったな。
ただ不思議だったのは、俺を担当しているエルフの世話係(フーリさんと言うらしい)が全く俺の自由行動を阻害してこようとしなかったんだよな。
「――あ! ヴェルぼっちゃん! どこへ行っていたんですか? お勉強の時間はとっくに終わっちゃいましたよ!」
「あっ、えっと、その……ちょ、ちょっと別のところでお昼寝しちゃって……」
「お昼寝、ですか? ふむふむ、それじゃ仕方ないですね! 今度はお時間守りましょうね!」
この図書館に初めて来た日の昼食時に当然のように声をかけられたのだが、フーリさんは特に俺のことを咎めるわけでもなく、ぽんと俺の頭に手を置いて撫でつつ軽く注意するだけでどこかへ行ってしまった。
それ以降も俺はその注意をバリバリ無視してここに通い続けたのだが、フーリさんは「あんまり遠くへ行っちゃだめですよー。危ないですからねー」と忠告したっきり俺に何も言ってこなくなった。
いや、普通に世話はしてくれるし声もかけてくれるんだけど、俺の抜け出しについては何も言わないんだよな。
他の世話係もこっちまで手が回らないのか、呆れられているのか知らないけど何も言ってこないし。
あ、もしかして俺、もう将来に期待できないダメな子認定されちゃった?
あれだけたくさんの子供がいれば、そりゃあいちいち落ちこぼれなど構っていられないだろうしなぁ……
しかしそれはちょっとマズいんだよな。
俺はどちらかと言えば優秀な子扱いしてもらわなきゃ困る理由が出来てしまったんだ。
それがこの――
「スキル鑑定の儀。俺の一生を左右しかねない超重大イベント……」
スキル鑑定の儀。
それはこの世界を生きるにおいて最も重要なイベントと言っていいだろう。
この世界に生まれた子供の中はみな、スキルと呼称される特殊能力を一つ所有しているそうで、それは大体7歳くらいで表面化し、測定することが可能になるという研究結果が出ているのだ。
つまり7歳になったときにそいつがどのようなスキルを持っているのかを確認するのがスキル鑑定の儀、ということになるな。
そのスキルは全部で7段階に分けられており、低い方からD級、C級、B級、A級、S級の五段階。そして後に別名『法則創造級』とも呼称される最強のS級スキルの中でも埋めようのない格差があり、全てを一纏めにはできないと判断されてからは、さらに強力なスキルをSS級(S+級)、SSS級(S++級)に指定することになったらしい。
一応スキルは一人一つのその人だけの固有能力ということになっているけれど、正直D級、C級のスキルではどれもこれも似たり寄ったりで、最初は上位の能力者ならついでにできるようなことしかできない。
稀に覚醒と呼ばれる能力ランクの壁を突破する現象も起きるらしいが、普通に生きていたらまず起こり得ない現象なので、基本的に強いスキルを持って生まれた奴はそのまま強いという評価を受けるのがこの世界の常識らしい。
そして俺はこの事実を知ったときに、何故この侯爵家にはやたら子供が多いのかという理由を簡単に察することが出来てしまった。
そう、スキルは一人一つだけ。自分の子供、まして跡継ぎともなれば少しでも良いスキルを持って生まれてほしいと思うのが人情だ。
だからここでは、大量の子供を用意し、その中から優秀なスキル持ちを選別し、集中的に育てるという悪魔的行為を平然とやってのけているというわけだ。
7歳を超えたら二人部屋や一人部屋を与えられると言っていたのは、明らかにこれが関係しているだろう。
優秀なスキル持ちは一人部屋で優遇、悪くはないけどメインにはなり得ないスキル持ちは二人部屋でキープってところだろう。それ以外の子は……正直考えたくないな。
自分の子供でスキルガチャのリセマラをやるとかハッキリ言って頭おかしいとしか言いようがねーぞ!
一度も両親が顔出しに来ることなく、全て世話係に育児を一任しているのもきっとそういうことなんだろう。
正直胸糞でしかないが、その事実を叫んだところでつまみ出されるのが落ちなので流石にやろうとは思わない。
他にも魔法とか剣術とかいろいろ強くなる道はあるらしいのだが、それらは後天的にほとんどの人が身に着けられるものだからさほど重要視されていないのだろう。
例え魔法の才能がめちゃくちゃある子がいたとしても、最強格のスキルを持つ子供に魔法の英才教育を施したほうが効率がいいと考えるのはそこまでおかしいことでもないしな。
剣術や魔法のみでスキルランクの壁をぶち壊すのは相当難しいらしいし、いいスキルを持っている方が明らかに有利なのは間違いない。
というわけで俺、ヴェルマーク・ヴィン・アストールだが、持っているスキルは間違いなく【すり抜け】だろう。これ以外には考えられん。
ランク的には……どうなんだろう。物理法則を無視して壁を通過できているしA級(法則無視級)くらいの力はあるんじゃないだろうか。
ただし上に3つもランクがあるから、これだけでは優遇を受けるには少々心もとない。
普通7歳になるまでの子供は己のスキルの事なんざ良く分からないだろうし、まして無意識のうちに発動するようなものじゃなければ使うこともないだろう。
だからあいつらがどんな強力なスキルを保有しているかさっぱり分からないんだよな。
A級なんて大した価値はないからお前はいらん。
なんて言われてしまったら非常に困る。だから少しでも有能アピールしてスキルはそこそこだけどこいつは残しておいた方が後々良いと思わせたいと考えているんだよね。
ただ、世話係の人たちには多分もう期待されていないし、他に誰にアピールすればよいのか見当もつかん。
ワンチャン【すり抜け】がS級を超える神スキルだったら楽でいいんだけど、そう簡単にはいかないだろうしなぁ……
あぁ、ちなみにスキルや魔法なんか使えてどうするの? 常に戦争でもするの?
っていう疑問についての答えも得られた。
この世界には人間は勿論の事、エルフちゃんや獣人などといった様々な種族が暮らしており、たくさんの国が存在するそうだ。
過去には何度も何度も価値観の違いや資源の奪い合いなどで戦争が起きたらしいが、やがて国〇のような組織が出来て安易な戦争行為は星を傷つけるだけだという考えで多くの国の意見がまとまったらしい。
かといってすべての国が横並びで仲良く手をつなぐというわけにはいかない。
どうしても国家間の関係に問題が生じることがある。
それを解決するのが【ゲーム】だ。
ありていに言ってしまえば決闘だな。
お互いの国が代表者を選出して、様々な形でバトルさせる。
そして勝った方の国が有利な形で解決に向けて話を進めるというわけだな。
ゲームと言ってもFPSやス〇ブラなどで決めるわけじゃなく、もちろん直接戦闘が絡むものとなる。
つまり優れたスキル持ちは優れた戦士となり、ゲームで活躍する戦力となるわけだ。
だからどの国も優秀なスキル持ちを抱え込んで育成することに力を入れている。
この侯爵家もスキルガチャリセマラによって生み出された優秀な戦士を輩出することで、その地位をより強固なものへとしているのだろう。
国家を背負って戦うのは正直あまり気が乗らないけれど、元の世界でいうプロ野球選手のように素晴らしい成果を挙げ続ければ最高の暮らしができるとのことなので、一応はそれを目指すのが手っ取り早いのかなと個人的には思っている。
まあそれはだいぶ先の話になってしまうので、とりあえずはこの侯爵家で評価されて優遇を受け、一人部屋を確保するというのが当面の目標でいいだろう。
だがまあ、この状況で俺の優秀さをアピールする方法はほとんどないし、そもそも俺別にこの世界で特別有能というわけでも何でもない。
「……大人しく、剣と魔法の技術でも磨いておこう」
ベタではあるが、もしいいスキルだったとしても微妙なスキルだったとしても、剣術と魔法がそれなりにこなせれば役に立つこと間違いなしだ(多分)。
どんなことも小さいころからやっておけば差がつくという有名な説もあるし、それにあやかって頑張ってみるとしよう。
依然としてやることがなく暇なのには変わりはないし、授業もたまにこっそりのぞいているんだが、あれは俺には全く合わん。
あれを受けるくらいだったら独学で試行錯誤したほうがましという自信はある。
本音を言えば誰かに付きっ切りで教えてほしいけれど……
「まぁ、仕方ないか。とりあえず魔法の本はっと……」
「はい、どうぞ! これから魔法をお勉強するならこの本が分かりやすくておすすめですよ!」
「あっ、ありがとうございま――って、うわあああっ!?」
突如耳に飛び込んできた爽やかな声と、真っ白な手で差し出された本を自然に受け取ってしまったが、すぐにその異常事態に気づいて俺は思わず声を出してしまった。
「しーっ、ここで騒いだら他の誰かに見つかっちゃうかもしれませんよ?」
「うっ……」
そう言われて俺は慌てて両手で口を押える。
その様子を見て満足そうに頷いた少女は、さっき勢いで落としてしまった本を拾ってぱっぱと軽く払ってから再び俺に差し出してきた。
「どこでサボっているのかと思ったら、こんなところで一人でお勉強していたんですねー。ふふ、わたし、ちょっとびっくりしました」
「フーリ、さん。えっと、これは、その……」
「ああ、別にわざわざ叱りに来たわけじゃありませんよ! ただ、毎日毎日建物を抜け出してどこへ行っているのかなって気になって追いかけてきただけですから」
「そ、そうですか……」
そう言って俺に笑顔を見せるフーリさん。
笑顔はめちゃめちゃ可愛いけれど、今の俺は冷や汗だくだくだ。
フーリさんを信用していないわけではないけれど、後ろめたいことをしているだけにどうしても落ち着けない。
「しかし凄いですねえ。この図書館、並大抵の人間じゃあ侵入なんて絶対できないはずなのに、どうやって中に入ったんですか?」
「えっと、それはその……」
「正直に答えてくれたら今回のことは黙っていてあげますよ! わたしもこんなことで旦那様に報告したくありませんからね」
うぐぅ……これは拙い。
可愛い顔で脅しをかけてくるのは勘弁してもらえませんかね……
もうスキルを使えますと白状したら今すぐにスキル鑑定されて、もしイマイチだった場合は即座に出世ルート消滅なんて可能性もあり得る。
かといってここを嘘で乗り切る勇気もその後の策もない。
……仕方ない。ここは素直に白状してスキルのことを話そう。
上手いこと嘘はついてないけど真実を全部言ったわけじゃないスタイルを貫こう。
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これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
霞杏檎
ファンタジー
田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
そんなある日、『スキルが発動しない無能はこの王宮から出て行け』と自身が働いていたイブニクル王国の王宮から解雇・追放されてしまった。
そして挙げ句の果てには、道中の森でゴブリンに襲われる程の不遇様。
だが、レイクの不運はまだ続く……なんと世界を破壊する力を持つ最強の竜種"破滅古竜"と出会ってしまったのである!!
しかし、絶体絶命の状況下で不意に出た言葉がレイクの運命を大きく変えた。
ーーそれは《竜族語》
レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
こうしてレイクは"ヴィルヘリア"と名乗り美少女の姿へと変えた破滅古竜の眷属となったが、与えられた膨大なスキルの量に力を使いこなせずにいた。
それを見たヴィルヘリアは格好がつかないと自身が師匠代わりとなり、旅をしながらレイクを鍛え上げること決める。
一方で、破滅古竜の悪知恵に引っかかったイブニクル王国では国存続の危機が迫り始めていた……
これは"無能"と虐げられた主人公レイクと最強竜種ヴィルヘリアの師弟コンビによる竜種を統べ、レイクが『竜人王』になるまでを描いた物語である。
※30話程で完結します。
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