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序章
4話 運営のお詫び品なんて基本しょぼい物
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おぎゃーおぎゃーと耳障りな鳴き声が脳に響く。
ファミレスではイヤホンを付けないと落ち着いて食事が出来ないタイプの俺は、早くもノイローゼになってしまいそうだぜ……
というわけで、どうもこんにちは。
ヴェルマーク・ヴィン・アストール(5歳)ですっ!
ヴェルくんって呼んでね☆
……いや、誰だよコイツマジで。あと自分でやってて寒気したわ。
一応耳に流れてきた情報を整理する限りだと、どうやらこいつ(俺)は王国の名門貴族であるアストール侯爵家の第14男らしい。
いや14男って何の冗談だよって言いたいところなんだけど、ちょっと首を動かせば大部屋に10個ほど並べられた子供用ベッドで俺の兄弟たちが寝かされている姿が見られるので信じざるを得ないというのが現実だ。
アストール侯爵家は代々大量の子を為すらしいので、この家にいる人間にとってこれは当たり前の光景らしく、別の部屋にも似たような光景が広がっているらしい。
日本人の俺からしたら、どこの保育施設だよと言いたくなる。
ちなみに基本的には生まれたばかりの子から6~7歳くらいの子までがここで寝泊まりするらしく、それ以上の年齢になると二人で一部屋、或いは極めて優秀な子だったら一人一部屋が与えられるのがこの家での普通らしい。
ハッキリ言わせてくれ。正直めちゃめちゃしんどい。
子供(特に赤ん坊)は嫌いではないけど苦手なのだ。
あとそれ以上に暇すぎてヤバイ。寝てるとき以外は30分以上電子機器が近くにないと死んじゃう病だった俺には拷問以外の何物でもない。
神様とやらに転生させてもらった後、次に俺が目覚めたのはほんの少し前のことだが、既にもう限界がきている。
というわけで、俺はこの部屋を出るぞー! J〇J〇ー!
……なんて叫ぶと、世話係が飛んでくるので声に出すのはまた今度にしておこう。
しかし真面目な話、ただでさえ不慣れすぎる体と環境で頭がおかしくなりそうなのに、こんな落ち着けない場所に閉じ込められていたんじゃガチで精神的に死んでしまう。
一刻も早く一人部屋が欲しい。最悪二人部屋! これは最優先事項だ。
異世界ということもあって当然というかみんな日本語では喋ってくれないので意思疎通が困難だなと思っていたのだが、幸いこの肉体が5年間で蓄積していた知識から、ある程度の会話と読み書きはできるようで助かった。
無論五歳児なので完璧には程遠いが、基礎的なものさえ身についていれば後は前世の知識と組み合わせて解釈できる。
一から全く知らない言語を習得するのはマジでしんどいからな。
第二言語とか本当に頭に入ってこなかったし。
それはさておき、今は朝だ。
先ほど朝食を済ませてきたばかりで、今は隅っこの椅子に座っている。
確かこの後は語学の集団教育があるはずだけど、ハッキリ言ってあれは全く意味がない。
最初こそ勉強になったけど、五歳児が学ぶレベルのものなど仮にも大学に進んだ俺にはすぐに理解し終えてしまった。
あんなのに参加するのは時間の無駄だ。
というわけでこの部屋を出てどこかで時間を潰そうと思うのだが……
「あっ、ヴェルぼっちゃん! どちらへ行かれるんですか?」
部屋を出ようとすれば当然世話係に声をかけられる。
声をかけてきたのは見た目中学生くらいのエルフの女の子だ。
髪の色が金で耳が尖っていること以外は地球にも普通にいそうな美少女って感じなのだが、実年齢は多分それなりにいってるはずだ。
まあそんなこと言ったら最低でも飯抜きはま逃れないので、口にすることはない。
ちょっと前に他の兄弟に年齢を尋ねられた時に、大人げなく怖いオーラを出しながら「秘密です♪」って笑顔で言っていたのを見てしまったからな。
噂によると戦闘能力的にめっちゃ強いらしく、世話係と英才教育の教師を兼任しているとかなんとか。
やはり異世界のエルフらしく魔法の達人――ではなく、どうやら剣術の達人らしい。
まさかの物理エルフちゃん。あの華奢な体でどうやって剣を振るんだろうか。
一応魔法も使えますよー的なことは言ってた気がする。
「……? どうされました? もしかしておねーさんに惚れちゃいましたか??」
「い、いや! えっと、ちょっとおそとにでてきまーす!」
「ふふ、それは残念です。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ。何かあったらすぐに大人を呼んでくださいね。あともう少しでお勉強の時間なのでそれまでには戻ってきてくださいね!」
「は、はーい!」
そう言ってエルフちゃんは扉を開けて俺を外に出してから、小さく手を振ってゆっくりと閉めた。
地球での姿でやったら今のやり取りは陰キャオーラ全開のムーブだっただろうけど、今の俺は幼い子供なのでセーフ(多分)。
なお他にも部屋付き世話係が3人ほどいるけれど、どちらももっと小さい子の世話で手一杯なので、エルフちゃんが了承したなら外出に何か言ってくることはない。
安心して外出可能だ。
「さてさて、どこへ行こうかなーっと」
もう一度確認するが、俺は授業に出る気などさらさらないのでどこか時間を潰せるサボり場所を探さなきゃいけない。
一応授業には全員出席しなければいけないとなっているが、サボったからと言って特別お咎めがあるわけではない。
所謂落ちこぼれは切り捨てる系の家らしく、サボればその分遅れるし、遅れた子に合わせた教育などはしないぞーしらないぞーって奴だ。
なーんかあんまり好きに離れないけれど、家族としての情を抜けば合理的だし今の俺にも都合がいいので有効活用させてもらうとしよう。
んで、今日これからやることだけど……
「――よし」
周りに誰もいないことを確認して、俺はポケットに忍ばせたブツを取り出した。
小さな手のひらに円く輝く金色の硬貨が一つ。
そう。こいつは多分金貨だ!
何故五歳児である俺がこんなものを持っているのかというと、正直俺も良く分からん。
気が付いたときにポケットの中にコイツがあったのだ。
お世話係が入れたとは到底思えなかったので、回収されないように今日まで隠し通してきたんだ。
多分だけど、こいつは神様が言っていた祝福とやらなんじゃないかと考えている。
だってそれ以外ないでしょ。
一応こいつが子供に持たせておくお守りなんじゃないかとも考えて、夜中に他の兄弟何人かのポケットをこっそり漁ってみたけど、だーれも持ってなかったしね。
だからこいつを神様からの祝福と断定して、その価値を調べてやろうというのが今日の目的だ。
一応普通の金貨だと俺は思っているけど、正直神様がくれる者にしては生々しすぎるし、ワンチャン所謂マジックアイテムみたいなすげー効果が付いた特殊アイテムかもしれない。
仮に普通に金貨だったとしても、この世界では相当な価値があるはずだ!
100万円……下手したら1億円くらいの価値があるかもしれない!
金の相場は全く分からないけど、ぶっちゃけ俺はかなり期待している。
俺はそんな夢と希望の塊を再びポケットにしまい、その足で書庫へと向かった。
アストール侯爵家の敷地内には大きく分けて三つの建物がある。
一つ目が本宅。当主である父やその妻、一部の子供たちなどなど侯爵家にとって特に重要な人たちが住まう豪邸だ。
二つ目が俺たちのいるこの大量の子供を育成するための建物。主に大部屋や二人用子供部屋がメインで、後は調理場付き大食堂、大浴場、大教室などなど、ちょっと豪華な学校みたいな感じの作りになっている。
そして三つめが――これはなんて表現したらいいんだろうか。まあ娯楽設備とかパーティ会場などなど、いろいろなことに使う建物といったところだろうか。
俺たち子どもは基本的に2つ目の建物の敷地内から外に出ることはできないのだが、俺の目的とする書庫は3つ目の建物にあるので、慎重にバレないように移動する必要がある。
一応この建物にも教育用や子供向けの本がある図書室があるのだが、それはこれから授業を受ける場所に隣接しているので使うわけにはいかないのだ。
お咎めなしとは言え、サボっているのが見つかれば当然教室に連行されるからな。
それに3番目の書庫にはここのとは比べ物にならないくらいの量の本があると聞くので、とても楽しみだ。
スマホを没収されてしまっているせいでとにかく暇な俺は、本を読んでこの世界の知識を得て、楽しむ術を模索するということをモチベーションに何とかやっているのが現状である。
「さてさて、この壁を抜けたら入れそうだなっと」
上手いこと監視の目を盗んでやや遠回りをしながら目的地へとたどり着いていた。
昨日のうちに侯爵家敷地内の地図情報をほぼ全て叩き込んでおいたので、若干迷いながらもなんとか誰にも見つからずにここまでこれた。
ここは3つ目の建物の右奥。隅が円柱型になっており、1~3階をぶち抜いて大図書館にしているとのことなので、この壁を通り抜けてしまえば侵入可能なのは分かっている。
「さてさて、上手くいってくれよー頼むぞー」
俺はゆっくりと手を伸ばして壁に触れた。
イメージは、言葉通り通り抜け。
壁を凹ませるわけでも、穴をあけて貫通するわけでもなく、ぬるりと。
お風呂にその身を沈めるように、滑らかに壁を通り抜ける。
俺の体は、その期待に応えてくれた。
一切抵抗はない。何一つ跡も残らない。
まるでそこには壁なんてなかったかのように、物理法則をガン無視して俺の体は壁に飲み込まれていった。
そう。これが俺の【すり抜け】能力だ。
神様が俺にはすり抜けの能力があると言っていたから、試してみたらガチであったのだ。
それが正しい使い方なのかは分からないが、少なくとも物理法則を無視して壁を通り抜けることが出来るという事実だけは確かにあった。
でも壁の中までは日光が届かないのでマジでなんも見えん。
見えんのだが、皮肉なことに魂のまま長いこと真っ暗な空間を長い時間落下し続けた経験で、ちょっとした暗いところに対する恐怖心はほぼなくなっていた。
そのまままっすぐ進めばすぐに図書館の明かりが――ついていませんでしたっと。
えっと、なんでですかねえ……
はい。うん。誰も使っていませんねえこりゃあ。
そしてここで壁抜けた先に誰かいたらヤバいやんってことに今更気づく俺がアホすぎる件。
壁抜けれるなら大丈夫やろーって思ってたけど、内側の状況がどうなってるかわからんのになぜそんなに自信があったのか疑問でしかねーぞ。
「ま、まあ。結果オーライ、って奴?」
とにかく今日この時間は誰もここを使用していないらしい。
こいつはラッキーだ。大変都合が良い。
今のうちにいろいろやっておこう。
「――が、その前に。まずはこいつの価値ちぇーっく!」
俺は円柱の内側にぎっちり詰め込まれた本たちの中から、金銭の価値がわかる本を探し出そうと試みる。
ただしこんなのどこにあるのか一冊一冊チェックしていたら寿命で死んでしまいそうなので、きっちり分類されていることを信じて入り口付近の受付っぽいところへと足を運んだ。
「――ふむ、ほうほう」
分かったことは2つ。
まずここは大層な本好きだった先々々代当主が一生をかけて創り上げた夢の図書館らしいが、先々代から当代に至るまで、誰も本に興味を抱かなかったためほとんど使われていない場所らしい。
たまに足を運ぶ人もいるそうだが、管理人などは設置されていないので勝手に読んでくれというスタイルだそうだ。
しかし魔法技術を結集した設備により、今でも防腐防カビ埃除去などの現代日本技術顔負けの環境が整っているとのこと。
「宝の持ち腐れとはまさにこのことだな。」
二つ目はここに管理されている本についての資料だ。
大体どこにどのようなタイプの本があるかについて書かれているのだが、いかんせん量が多く、文字も読みにくいせいで大変だなこりゃ……
「まあ仕方ない。今後のためだ」
この程度、リセマラという名の無間地獄によって鍛え上げられた集中力と効率強化法を用いてあっという間に攻略(理解)してやるぜ!
その勢いでざっと資料に目を通した俺は、この図書館について大体理解することが出来た。
ほぼ安全で確実な侵入経路も決定したし、目的の本がどこにあるのかも大体わかった。
「さてさて、お金の価値はっと……」
そしてお目当ての金貨についての情報が載っている資料を見つけ出し、読んだ。
タイトルは『世界の通貨』。シンプルでド直球だなあ。
最初の方のページに各通貨の特徴をとらえたイラストがたくさん描かれているので、俺はその中から手持ちの金貨に似たイラストを探し出す。
えっとこの金貨は……これだな。ページは……ここか。
なになに……
「これはオルド王国で使われている通貨で、金貨は銀貨10枚、銅貨100枚分としてカウントされる。この国の平均月収は月金貨2.5枚分ほどで、金貨一枚あれば城下町の宿に2週間近くは泊まれる、か」
他にもどれくらいの価値があるのか物や状況についてかなり細かく記されているが、ほとんどが良く分からない要素を含んでいたので、分かる情報だけで大まかな推測をしてみた。
平均月収が金貨2.5枚で、金貨1枚あれば城下町の宿に2週間は泊まれる、か。
根拠のないイメージだけだけど、城下町の宿ってたぶんそれなりに高いよな?
それに2週間泊まれるということは、まあまあの価値があるってことだ。
日本円でいえば大体10万円くらいか?
「ほおお、これ1枚で10万円か! なかなかすご――くもねえな」
いや、タダで10万円もらえたならそりゃ嬉しいけど、こちとら車に轢かれて命落として異世界に転生させられたんだ。
神様の祝福、或いは不手際のお詫びと箔付けるのならもうちっと奮発してくれても良かったんじゃないのかと思ってしまうのも仕方がないだろう。
うーむ、10万かぁ……でも子供のお小遣いとしては過ぎた額だし、ないよりありがたいと思うとしよう。
でも本当にお金が必要になるときまでこいつは使わないほうがいいな。
常にどこかに忍ばせて持ち歩くのがベストかな。
よくよく考えたら、そんなに重大な不手際じゃなければソシャゲ運営のお詫び品って大したことなかったもんな。
なんか一部俺のせいみたいにされたのが腑に落ちないけど。
……いや待てよ。俺命落としちゃってるんだから重大だろ!?
そりゃまあ神様単位からみたら俺の命なんてガチャのノーマルキャラでしかないのだろうけど……
……ダメだ。考えたらキリがない。
気を取り直して別の本さがそーっと。
ファミレスではイヤホンを付けないと落ち着いて食事が出来ないタイプの俺は、早くもノイローゼになってしまいそうだぜ……
というわけで、どうもこんにちは。
ヴェルマーク・ヴィン・アストール(5歳)ですっ!
ヴェルくんって呼んでね☆
……いや、誰だよコイツマジで。あと自分でやってて寒気したわ。
一応耳に流れてきた情報を整理する限りだと、どうやらこいつ(俺)は王国の名門貴族であるアストール侯爵家の第14男らしい。
いや14男って何の冗談だよって言いたいところなんだけど、ちょっと首を動かせば大部屋に10個ほど並べられた子供用ベッドで俺の兄弟たちが寝かされている姿が見られるので信じざるを得ないというのが現実だ。
アストール侯爵家は代々大量の子を為すらしいので、この家にいる人間にとってこれは当たり前の光景らしく、別の部屋にも似たような光景が広がっているらしい。
日本人の俺からしたら、どこの保育施設だよと言いたくなる。
ちなみに基本的には生まれたばかりの子から6~7歳くらいの子までがここで寝泊まりするらしく、それ以上の年齢になると二人で一部屋、或いは極めて優秀な子だったら一人一部屋が与えられるのがこの家での普通らしい。
ハッキリ言わせてくれ。正直めちゃめちゃしんどい。
子供(特に赤ん坊)は嫌いではないけど苦手なのだ。
あとそれ以上に暇すぎてヤバイ。寝てるとき以外は30分以上電子機器が近くにないと死んじゃう病だった俺には拷問以外の何物でもない。
神様とやらに転生させてもらった後、次に俺が目覚めたのはほんの少し前のことだが、既にもう限界がきている。
というわけで、俺はこの部屋を出るぞー! J〇J〇ー!
……なんて叫ぶと、世話係が飛んでくるので声に出すのはまた今度にしておこう。
しかし真面目な話、ただでさえ不慣れすぎる体と環境で頭がおかしくなりそうなのに、こんな落ち着けない場所に閉じ込められていたんじゃガチで精神的に死んでしまう。
一刻も早く一人部屋が欲しい。最悪二人部屋! これは最優先事項だ。
異世界ということもあって当然というかみんな日本語では喋ってくれないので意思疎通が困難だなと思っていたのだが、幸いこの肉体が5年間で蓄積していた知識から、ある程度の会話と読み書きはできるようで助かった。
無論五歳児なので完璧には程遠いが、基礎的なものさえ身についていれば後は前世の知識と組み合わせて解釈できる。
一から全く知らない言語を習得するのはマジでしんどいからな。
第二言語とか本当に頭に入ってこなかったし。
それはさておき、今は朝だ。
先ほど朝食を済ませてきたばかりで、今は隅っこの椅子に座っている。
確かこの後は語学の集団教育があるはずだけど、ハッキリ言ってあれは全く意味がない。
最初こそ勉強になったけど、五歳児が学ぶレベルのものなど仮にも大学に進んだ俺にはすぐに理解し終えてしまった。
あんなのに参加するのは時間の無駄だ。
というわけでこの部屋を出てどこかで時間を潰そうと思うのだが……
「あっ、ヴェルぼっちゃん! どちらへ行かれるんですか?」
部屋を出ようとすれば当然世話係に声をかけられる。
声をかけてきたのは見た目中学生くらいのエルフの女の子だ。
髪の色が金で耳が尖っていること以外は地球にも普通にいそうな美少女って感じなのだが、実年齢は多分それなりにいってるはずだ。
まあそんなこと言ったら最低でも飯抜きはま逃れないので、口にすることはない。
ちょっと前に他の兄弟に年齢を尋ねられた時に、大人げなく怖いオーラを出しながら「秘密です♪」って笑顔で言っていたのを見てしまったからな。
噂によると戦闘能力的にめっちゃ強いらしく、世話係と英才教育の教師を兼任しているとかなんとか。
やはり異世界のエルフらしく魔法の達人――ではなく、どうやら剣術の達人らしい。
まさかの物理エルフちゃん。あの華奢な体でどうやって剣を振るんだろうか。
一応魔法も使えますよー的なことは言ってた気がする。
「……? どうされました? もしかしておねーさんに惚れちゃいましたか??」
「い、いや! えっと、ちょっとおそとにでてきまーす!」
「ふふ、それは残念です。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ。何かあったらすぐに大人を呼んでくださいね。あともう少しでお勉強の時間なのでそれまでには戻ってきてくださいね!」
「は、はーい!」
そう言ってエルフちゃんは扉を開けて俺を外に出してから、小さく手を振ってゆっくりと閉めた。
地球での姿でやったら今のやり取りは陰キャオーラ全開のムーブだっただろうけど、今の俺は幼い子供なのでセーフ(多分)。
なお他にも部屋付き世話係が3人ほどいるけれど、どちらももっと小さい子の世話で手一杯なので、エルフちゃんが了承したなら外出に何か言ってくることはない。
安心して外出可能だ。
「さてさて、どこへ行こうかなーっと」
もう一度確認するが、俺は授業に出る気などさらさらないのでどこか時間を潰せるサボり場所を探さなきゃいけない。
一応授業には全員出席しなければいけないとなっているが、サボったからと言って特別お咎めがあるわけではない。
所謂落ちこぼれは切り捨てる系の家らしく、サボればその分遅れるし、遅れた子に合わせた教育などはしないぞーしらないぞーって奴だ。
なーんかあんまり好きに離れないけれど、家族としての情を抜けば合理的だし今の俺にも都合がいいので有効活用させてもらうとしよう。
んで、今日これからやることだけど……
「――よし」
周りに誰もいないことを確認して、俺はポケットに忍ばせたブツを取り出した。
小さな手のひらに円く輝く金色の硬貨が一つ。
そう。こいつは多分金貨だ!
何故五歳児である俺がこんなものを持っているのかというと、正直俺も良く分からん。
気が付いたときにポケットの中にコイツがあったのだ。
お世話係が入れたとは到底思えなかったので、回収されないように今日まで隠し通してきたんだ。
多分だけど、こいつは神様が言っていた祝福とやらなんじゃないかと考えている。
だってそれ以外ないでしょ。
一応こいつが子供に持たせておくお守りなんじゃないかとも考えて、夜中に他の兄弟何人かのポケットをこっそり漁ってみたけど、だーれも持ってなかったしね。
だからこいつを神様からの祝福と断定して、その価値を調べてやろうというのが今日の目的だ。
一応普通の金貨だと俺は思っているけど、正直神様がくれる者にしては生々しすぎるし、ワンチャン所謂マジックアイテムみたいなすげー効果が付いた特殊アイテムかもしれない。
仮に普通に金貨だったとしても、この世界では相当な価値があるはずだ!
100万円……下手したら1億円くらいの価値があるかもしれない!
金の相場は全く分からないけど、ぶっちゃけ俺はかなり期待している。
俺はそんな夢と希望の塊を再びポケットにしまい、その足で書庫へと向かった。
アストール侯爵家の敷地内には大きく分けて三つの建物がある。
一つ目が本宅。当主である父やその妻、一部の子供たちなどなど侯爵家にとって特に重要な人たちが住まう豪邸だ。
二つ目が俺たちのいるこの大量の子供を育成するための建物。主に大部屋や二人用子供部屋がメインで、後は調理場付き大食堂、大浴場、大教室などなど、ちょっと豪華な学校みたいな感じの作りになっている。
そして三つめが――これはなんて表現したらいいんだろうか。まあ娯楽設備とかパーティ会場などなど、いろいろなことに使う建物といったところだろうか。
俺たち子どもは基本的に2つ目の建物の敷地内から外に出ることはできないのだが、俺の目的とする書庫は3つ目の建物にあるので、慎重にバレないように移動する必要がある。
一応この建物にも教育用や子供向けの本がある図書室があるのだが、それはこれから授業を受ける場所に隣接しているので使うわけにはいかないのだ。
お咎めなしとは言え、サボっているのが見つかれば当然教室に連行されるからな。
それに3番目の書庫にはここのとは比べ物にならないくらいの量の本があると聞くので、とても楽しみだ。
スマホを没収されてしまっているせいでとにかく暇な俺は、本を読んでこの世界の知識を得て、楽しむ術を模索するということをモチベーションに何とかやっているのが現状である。
「さてさて、この壁を抜けたら入れそうだなっと」
上手いこと監視の目を盗んでやや遠回りをしながら目的地へとたどり着いていた。
昨日のうちに侯爵家敷地内の地図情報をほぼ全て叩き込んでおいたので、若干迷いながらもなんとか誰にも見つからずにここまでこれた。
ここは3つ目の建物の右奥。隅が円柱型になっており、1~3階をぶち抜いて大図書館にしているとのことなので、この壁を通り抜けてしまえば侵入可能なのは分かっている。
「さてさて、上手くいってくれよー頼むぞー」
俺はゆっくりと手を伸ばして壁に触れた。
イメージは、言葉通り通り抜け。
壁を凹ませるわけでも、穴をあけて貫通するわけでもなく、ぬるりと。
お風呂にその身を沈めるように、滑らかに壁を通り抜ける。
俺の体は、その期待に応えてくれた。
一切抵抗はない。何一つ跡も残らない。
まるでそこには壁なんてなかったかのように、物理法則をガン無視して俺の体は壁に飲み込まれていった。
そう。これが俺の【すり抜け】能力だ。
神様が俺にはすり抜けの能力があると言っていたから、試してみたらガチであったのだ。
それが正しい使い方なのかは分からないが、少なくとも物理法則を無視して壁を通り抜けることが出来るという事実だけは確かにあった。
でも壁の中までは日光が届かないのでマジでなんも見えん。
見えんのだが、皮肉なことに魂のまま長いこと真っ暗な空間を長い時間落下し続けた経験で、ちょっとした暗いところに対する恐怖心はほぼなくなっていた。
そのまままっすぐ進めばすぐに図書館の明かりが――ついていませんでしたっと。
えっと、なんでですかねえ……
はい。うん。誰も使っていませんねえこりゃあ。
そしてここで壁抜けた先に誰かいたらヤバいやんってことに今更気づく俺がアホすぎる件。
壁抜けれるなら大丈夫やろーって思ってたけど、内側の状況がどうなってるかわからんのになぜそんなに自信があったのか疑問でしかねーぞ。
「ま、まあ。結果オーライ、って奴?」
とにかく今日この時間は誰もここを使用していないらしい。
こいつはラッキーだ。大変都合が良い。
今のうちにいろいろやっておこう。
「――が、その前に。まずはこいつの価値ちぇーっく!」
俺は円柱の内側にぎっちり詰め込まれた本たちの中から、金銭の価値がわかる本を探し出そうと試みる。
ただしこんなのどこにあるのか一冊一冊チェックしていたら寿命で死んでしまいそうなので、きっちり分類されていることを信じて入り口付近の受付っぽいところへと足を運んだ。
「――ふむ、ほうほう」
分かったことは2つ。
まずここは大層な本好きだった先々々代当主が一生をかけて創り上げた夢の図書館らしいが、先々代から当代に至るまで、誰も本に興味を抱かなかったためほとんど使われていない場所らしい。
たまに足を運ぶ人もいるそうだが、管理人などは設置されていないので勝手に読んでくれというスタイルだそうだ。
しかし魔法技術を結集した設備により、今でも防腐防カビ埃除去などの現代日本技術顔負けの環境が整っているとのこと。
「宝の持ち腐れとはまさにこのことだな。」
二つ目はここに管理されている本についての資料だ。
大体どこにどのようなタイプの本があるかについて書かれているのだが、いかんせん量が多く、文字も読みにくいせいで大変だなこりゃ……
「まあ仕方ない。今後のためだ」
この程度、リセマラという名の無間地獄によって鍛え上げられた集中力と効率強化法を用いてあっという間に攻略(理解)してやるぜ!
その勢いでざっと資料に目を通した俺は、この図書館について大体理解することが出来た。
ほぼ安全で確実な侵入経路も決定したし、目的の本がどこにあるのかも大体わかった。
「さてさて、お金の価値はっと……」
そしてお目当ての金貨についての情報が載っている資料を見つけ出し、読んだ。
タイトルは『世界の通貨』。シンプルでド直球だなあ。
最初の方のページに各通貨の特徴をとらえたイラストがたくさん描かれているので、俺はその中から手持ちの金貨に似たイラストを探し出す。
えっとこの金貨は……これだな。ページは……ここか。
なになに……
「これはオルド王国で使われている通貨で、金貨は銀貨10枚、銅貨100枚分としてカウントされる。この国の平均月収は月金貨2.5枚分ほどで、金貨一枚あれば城下町の宿に2週間近くは泊まれる、か」
他にもどれくらいの価値があるのか物や状況についてかなり細かく記されているが、ほとんどが良く分からない要素を含んでいたので、分かる情報だけで大まかな推測をしてみた。
平均月収が金貨2.5枚で、金貨1枚あれば城下町の宿に2週間は泊まれる、か。
根拠のないイメージだけだけど、城下町の宿ってたぶんそれなりに高いよな?
それに2週間泊まれるということは、まあまあの価値があるってことだ。
日本円でいえば大体10万円くらいか?
「ほおお、これ1枚で10万円か! なかなかすご――くもねえな」
いや、タダで10万円もらえたならそりゃ嬉しいけど、こちとら車に轢かれて命落として異世界に転生させられたんだ。
神様の祝福、或いは不手際のお詫びと箔付けるのならもうちっと奮発してくれても良かったんじゃないのかと思ってしまうのも仕方がないだろう。
うーむ、10万かぁ……でも子供のお小遣いとしては過ぎた額だし、ないよりありがたいと思うとしよう。
でも本当にお金が必要になるときまでこいつは使わないほうがいいな。
常にどこかに忍ばせて持ち歩くのがベストかな。
よくよく考えたら、そんなに重大な不手際じゃなければソシャゲ運営のお詫び品って大したことなかったもんな。
なんか一部俺のせいみたいにされたのが腑に落ちないけど。
……いや待てよ。俺命落としちゃってるんだから重大だろ!?
そりゃまあ神様単位からみたら俺の命なんてガチャのノーマルキャラでしかないのだろうけど……
……ダメだ。考えたらキリがない。
気を取り直して別の本さがそーっと。
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この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
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「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
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名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
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これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
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無能認定され王宮から追放された俺、実は竜の言葉が話せたのでSSS級最凶竜種に懐かれ、気がついたら【竜人王】になってました。
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田舎の村から上京して王宮兵士となって1年半……
まだまだ新人だったレイクは自身がスキルもろくに発動できない『無能力者』だと周りから虐げられる日々を送っていた。
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レイクが竜族語を話せると知った破滅古竜はレイクと友達になりたいと諭され、友達の印としてレイクに自身の持つ魔力とスキルを与える代わりにレイクの心臓を奪ってしまう。
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