ハズレスキル【すり抜け】を極めたら世界最強のチート能力に覚醒しました〜今更帰って来いと言われても、あの時俺を役立たずとして捨てましたよね?〜

玖遠紅音

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第1章

21話 不幸中の幸せ探し

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「にししっ、大漁大漁!」

 両手に握った札束を広げてゲスい顔で笑うリオン。
 ちなみに俺の両手にも宝石などの貴金属類がたっぷりと入った袋が握られている。
 そう、俺たちがやったのはシンプルな空き巣。
 グレーゾーンを軽々と飛び越えた真っ黒な犯罪だ。

「情報屋には相当持っていかれちゃったからね! このお金は今後のために必要だ!」

「あ、あぁ、そうだな……」

 なんというか、まだギリギリの凝っていたなけなしの倫理観が俺の心にモヤをかけている。
 人を三人もっておいて何を言っているんだと思われるかもしれないが、それとこれとは話は別だ。
 そもそもアレは他に手段を選んでいられない状況だったからな。

 だけど今回は、モロに自分たちの意思で起こした犯罪だ。
 多少なり思うところはあるのが普通というもの。

「……もぉ、まーだそんな暗い顔しちゃって。やっぱりこういうのには抵抗がある感じ?」

「そりゃそうだろ……そう軽々と罪を犯せるほど図太くはねえよ……」

 俺が苦々しくそう漏らすと、リオンははぁと小さくため息をついて俺の傍に寄って来た。

「一つ、ぼくが握っている無駄な情報を教えてあげよう。とある地域で権力を握っている貴族の話さ。そこは治安があまり良くなくてね。その地域の店はよく強盗なんかに襲われるんだ。だからその貴族は、自らの兵を巡回させて強盗から店を守る代わりに、店の人たちから金を受け取っている」

「……?」

 なんというか、昔漫画の世界とかで見たようなショバ代と言った感じがするな。
 しかし、今リオンがその話を俺に振ってきた意図が掴めない。
 だけどリオンはお構いなしで、にやりと笑いながら話を続ける。

「しかし不思議なことにね、その周辺の地域は驚くほど治安がいいんだ。全く犯罪が起こらないというわけじゃあないけど、そんな表立って暴れまわるような輩は少ない。兵隊さんも目を光らせているからね。でも、何故かその地域にたくさん現れる強盗達のほとんどは追い払われるだけで捕まることも少ないんだ。あははっ、なんでだろうねえ……」

「……っ!」

 なるほど、そういうことか。
 こいつ、少しでも俺の罪悪感を消すために……

「さて、無駄話はおしまいだ! ご飯でも食べに行こうか!」

 ワザと音が響くように両手を鳴らし、笑顔で俺の腕を掴むリオン。
 はやくいこ! と急かしてくる様からは、あれほど手慣れた犯行を行う常習犯とはとても思えない。
 目の前にいるのに、こんなにも正体を掴み難い奴がいるとはな……

(俺も足下を掬われないように気を付けねえと……)

 結局今の俺にできることは、たったそれだけだった。


 ♢♢♢♢


「こっちだ! 早く!」

「分かってるっ! すぐ行くよ!」

 慣れというのは本当に恐ろしい。
 何度も何度も汚い仕事に手を出していくにつれ、俺に残されていた僅かな良心なんてものはあっという間に消え去り、むしろ積極性すら生まれてきている。

 今回空き巣に入った家は何軒目だったかな。
 もはや数える必要性すら感じなくなってきている当たりヤバイ。
 最初に盗みに入った家は大当たりだったのでかなり儲かったのだが、普通は派手に大量の金品を盗むと大事になるので少しずつしか手を付けられない。

 だから必然的に様々な家に忍び込むことになるのだが――

「ここを抜けたら俺は東へ走る。いつもの場所で落ち合おう!」

「オッケー! じゃあまたあとで!」

 そう言って俺らは、二階の端の壁に向かって全力ダッシュを決める。
 そしてぶつかる寸前のところへきたところで、俺はリオンの手を握った。
 すぐ近くから家主と思われる誰かが、怒号と共に階段を駆け上がってくる音が聞こえている。
 急がなくては。

「――よし!」

 俺と、その手を握るリオンは分厚い建物の壁をあっさり通過し、空中へと放り出される。
 スキル【すり抜け】の本領発揮だ。
 皮肉なことに、俺のスキルはこういった悪さをする上で非常に相性がいいのだ!

 受け身を取りながら地面に着した俺たちは、それぞれ反対方向へと走り出した。
 情報屋を利用した空き巣は非常にコスパが悪いので自分たちのみの手でこうやって行為に及ぶことも何度か繰り返したのだが、今回は運悪く不意に家主が家に戻ってきてしまった。

 故にこうして慌てて逃げ出しているのだが、俺の【すり抜け】の有用性とリオンの入れ知恵のおかげで俺たちの仕事は致命的な失敗とはだいぶ縁遠くなっていると思う。
 今回も【すり抜け】がなかったら脱出が間に合わなかったかもしれないしな。

 俺はなるべく目立たないよう、前世ではまず不可能だったアクロバティックな高速移動で建物の隙間を縫うように駆け回る。
 落ち合う場所は、俺たちが仮の拠点としている町はずれの洞穴だ。

「ふー、お待たせ!」

 到着は俺の方が早かった。
 だがリオンも誰かに捕まることなく無事帰ってこれたようだ。
 俺たちは無言で笑みを浮かべながら、ハイタッチを決める。

(こういう日々も、案外悪くないのかもしれないな)

 もし、あの後一人でこの町に辿り着いていたらどうなっていただろうか。
 俺一人じゃきっと空き巣すら満足にこなせない。
 どこかで奴隷のように扱われるか、派手に暴れた末に報復で殺されるか。
 いずれにしろ、ロクな未来が思い浮かばない。

 ただ一つ気がかりなのがある。
 俺が置いてきてしまった可愛い妹のことだ。

(……マナ、悪いな。もうお前とは真正面から顔を合わせられないかもしれん)

 今俺がやっていることは、決して褒められるような行為ではない。
 生き抜くためとはいえ、こんな俺を見たマナはなんていうのかな。
 今までは他人との関係なんて一時的なもので、どれだけ仲が良くとも冷めたらそれで終わりくらいの感情しかもっていなかったはずなのに。

 今の俺は、マナに軽蔑されることを極度に恐れている。
 冷たく突き放される未来を想像すると胸が痛む。

(でも、いつかまた……)

 だからと言って、それは逃げる理由にはならない。
 今の俺にはあの家に戻ってマナを連れ出すようなことはできないけれど、いつか必ず迎えに行く。

(一年後には、お前が俺と同じ目に合うかもしれないからな)

「……ヴェル? どうしたの、急にそんな暗い顔して」

「あぁ、いや、ちょっと考え事をしちゃってな。大丈夫だ」

「そっか。ならいいんだけど、何かあったら大きくなる前にぼくに相談してよね! 相棒なんだから!」

「相棒……そうだな、その時は頼りにしてるよ、リオン」

「あははっ、急にこんなこと言うとちょっと照れるね!」

 不甲斐ない兄は、今の自分を笑わせることで手一杯だ。
 ただし心のどこかでこの状況を楽しんでいる自分がいる事実もまた、認めないといけないだろう……
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