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さっき、俺は車に撥ねられた。
夕暮れ時、真っ赤な夕陽だった。女の子が犬と散歩をしていた。可愛いビーグル犬だった。
斜め前から車が走ってきているのに、女の子も車の運転手も気が付いていない。
俺は、その女の子と犬を突き飛ばした。
高いブレーキ音を聞いた時には、あ、死んだ。と思った。
短い人生だった。
そう人生の幕が閉じたはずだったんだけど‥‥…
「青空?森?」
俺は、何故だか森のど真ん中で寝そべっていた。俺はその青空に手を伸ばす。
視界に入る手は俺の手だ。
俺が俺のままで、服もそのままだし。おまけに持ってきていたリュックまで手元にある。
どこ?天国?
しばらく、ぼーっと空を眺めていたけど、あまりに暇なので歩いて探索することにした。
杉や檜など似た木もあるけれど、ピンクの蛍光色の花や縞模様の葉など日本では絶対に見られない植物もあった。
なに?あのウニョウニョした植物…気持ちわるっ
黄緑の太い蔦のようなものがうごめいている。でかいミミズみたいだけど、植物だよな?
絶対に近寄ったらダメな感じだよね。
「はぁ、ここって、本当に天国なのか?」
俺は、その気持ち悪いウニョウニョとは距離をとった。他にも気を付けた方がいいかもしれない。見知らぬ土地に細心の注意を払って歩いていると、お腹がすいてきた。
死んでもお腹って空くのかな……
出来たら、ふわふわの犬とかがいっぱいの天国にしてくれよ。あのふわふわの毛並みに顔をすりすりしたい。
ふわふわ……
ふわふわの毛並みの犬を抱きしめる妄想をする。
すると、向こう側の木の陰で犬っぽい耳がひょこひょこしている。
間違いないっ!!あれは、犬の耳だっ!!!
ふわふわだ!!!癒し!もふりたい!!!
びっくりさせないように、そぉっと近寄っていく。
「っ誰だ!?」
あ、飼い主の方も近くにいらした……のか、なって思ったら、そこにいたのは、耳と尻尾を付けた中学生くらいの人間だった。
へ。
リアルすぎる耳と尻尾だな。柴犬の耳そのものだ。
中世ヨーロッパの村人みたいな服を着ているし、コスプレでもして散歩していたのだろうか。っていや、それもおかしいけど。
俺もびっくりしたけど、犬人間の方もかなりびっくりしている。というか、俺をみて完全に固まっている。
「ヤマダっ!どうかしましたかっ?」
反対側から、剣を抜きながら犬の耳と尻尾をつけた犬人間がやってきた。物凄いきれいな男の人だけど、この人もコスプレしてるのか!?剣、本物!?
「に……人間っ!?」
え……!?人間って驚くこと、そこ!?
いや、でも、明らかに俺さっき死んだし、このパラレルワールドみたいな植物おかしいし。この犬耳をつけた人間が人間でない可能性も考えられる。
会話が通じることはよく分からないが、そういう設定なのだろう。
「えっと……はい。人間です。もしかして、あなた達は人間ではない?」
最初にみた柴犬っぽい耳を付けた犬人間は、固まったままだったので、もう一人?一匹?の犬人間に話しかけた。
キレイな顔の犬人間もひどく驚いたままであったが、剣を鞘に戻し敵意はない事を伝えてくれた。
「……えぇ。僕達は犬の獣人です。貴方はもしかして、転移してきた人間ではありませんか?」
「て……転移!?アニメとかでよく見る転移!?」
「そうです。アニメとかでよく見かける異世界転移です。」
嘘は言ってなさそう。見た感じ悪い人じゃなさそうだし。一番初めに会えた人が変な人とかじゃなくてよかった。
ん……?キレイな獣人はアニメって言ったぞ?
「…ていうか、お兄さん、アニメ知ってるの?」
「えぇ、僕は前世の記憶持ちです。主人が日本人でアニメや漫画が好きな方だったので、側でよく見せられていました。あと、ヤマダも前世の記憶持ちですよ。」
主人って?
ヤマダと呼ばれた獣人は、まだ固まっている。
キレイな犬の獣人は、「長くなりそうなのでそちらに座ってください。」と木陰の切り株に誘導してくれた。紳士だ。
「俺、吉田ヒロって言います。さっき、転移?を多分してきました。何も知りません。教えていただけますか?」
素直にペコリと頭を下げた。彼はその仕草に目を細める。この人やっぱりイケメンだなぁ。
「僕の名は、レイモンド・アスラン。レイとお呼びください。耳を見て分かるようにビーグル犬の獣人です。前世もビーグル犬でした。」
レイと名乗ったキレイな獣人は、20歳くらいの風貌に、茶色いきれいな髪を長く一つに結っている。その頭にキレイなビーグルの垂れた耳。特徴的な白と茶色の尻尾!
「あぁ、やっぱり!その耳と尻尾!!俺、ビーグル好きなんだよな!その薄い耳触ると気持ちよくてたまらないんだよなぁ…。」
うっ!ゴホゴホッっとレイがむせ込む。大丈夫か。
「…そういうのは、やめてください。」
「あっ!ごめんなさい。犬扱いしたつもりはなかったんです。」
「別にそれはいいのです。そうではなくて、貴方には、この世界は危険すぎます。ですので、これから話すことをちゃんとお聞きくださいね?」
「は、はい。」
レイの頬が何故かほんのり赤いような気がする。
ゴホンっと軽く咳払いをして話し出した。
「いいですか。先ほど申した通り、この世界の犬や猫の獣人の半分以上は前世の記憶を持って生まれてきています。
でも、この世界に人間はいない。たまに転移して流れ着くことがあるとは聞きますが、実際にこの世界で人間を見たことは初めてです。」
レイ、すごい勢いだ。きれいな顔だとどんな顔も迫力あるなぁ。
ビーグルって人の形をとると、こういう感じになるんだな。原産地イギリスだけあって、どこか品がある。
でも、人間が少ない世界なのか。これからどうすればいいのかな。
「聞いてますか?」
「はいっ。えと、人間がレアだという事は、高値で売買されちゃうとかですかね?」
「ある意味当たりですが、ある意味違います。僕たちは、前世ペットでした。大事にされた記憶を持っている獣人が多い。その記憶を持って生まれついた獣人は人間が恋しくて仕方がない。でも、人間は、この世に少ない。そんな中、貴方が世に出てしまったらどうなる事でしょう。」
「え…っと、友達になれる?」
なんか、ちょっとレイが怖いので、出来るだけ平和そうな答えを出してみる。
「三日とたたず孕まされます。」
ヒ――――っ!!!!
「いや、俺、男っ!男ですっ」
「あぁ、人間の世界では同性同士は孕まないのでしたね。僕達獣人は同性同士でも孕めるんですよ。」
さーーっと血の気が引いていく。
「さらに、ヒロ、貴方は如何にも犬好きという風貌に、素直な性格、垂れた眉に愛らしい目、愛情深そうなふっくらした唇、さわやかな笑顔。貴方の愛くるしい見た目は、我々犬にとってたまらないものです。一緒にいたい人間の理想を具現化したような見た目なのです。」
ひ。確かに犬大好きだけど、獣人は怖えぇええ。
「でも、レイは大丈夫そうだよね?分かってくれる獣人もいるってことじゃ?」
「いえ、私も例外ではありません。前世の主人が女の子だったので、我慢できるという程度です。貴方は十分魅力的です。」
「……。」
実は、元の世界でも結構動物に好かれるタイプだったんだ。
大きな黒のレトリーバーを18歳まで飼っていたし、病死しちゃったけど。
次に飼う気にはなれなかったけど、犬は大好きだし、この動物に好かれる特技を生かしてトリマーとして働いていたくらいだし。
……だからと言って、もうほとんど人間と変わりない獣人から好かれても怖いだけだ。孕むとか想像したくもねぇ。
「まず、絶対に人間だという事は見つからないように。あと、その愛らしい顔も隠しましょう。」
レイがぼそりと小さく「争奪戦になりかねない。」と呟く。
レイさん、ぼそりと呟くなら、完全聞こえないようにしてぇーーーーーー!!!
ナニコレ、怖すぎる。
神様この世界で上手くやっていく自信がありません!!!!どうか、僕と僕のお尻を守ってください!!
夕暮れ時、真っ赤な夕陽だった。女の子が犬と散歩をしていた。可愛いビーグル犬だった。
斜め前から車が走ってきているのに、女の子も車の運転手も気が付いていない。
俺は、その女の子と犬を突き飛ばした。
高いブレーキ音を聞いた時には、あ、死んだ。と思った。
短い人生だった。
そう人生の幕が閉じたはずだったんだけど‥‥…
「青空?森?」
俺は、何故だか森のど真ん中で寝そべっていた。俺はその青空に手を伸ばす。
視界に入る手は俺の手だ。
俺が俺のままで、服もそのままだし。おまけに持ってきていたリュックまで手元にある。
どこ?天国?
しばらく、ぼーっと空を眺めていたけど、あまりに暇なので歩いて探索することにした。
杉や檜など似た木もあるけれど、ピンクの蛍光色の花や縞模様の葉など日本では絶対に見られない植物もあった。
なに?あのウニョウニョした植物…気持ちわるっ
黄緑の太い蔦のようなものがうごめいている。でかいミミズみたいだけど、植物だよな?
絶対に近寄ったらダメな感じだよね。
「はぁ、ここって、本当に天国なのか?」
俺は、その気持ち悪いウニョウニョとは距離をとった。他にも気を付けた方がいいかもしれない。見知らぬ土地に細心の注意を払って歩いていると、お腹がすいてきた。
死んでもお腹って空くのかな……
出来たら、ふわふわの犬とかがいっぱいの天国にしてくれよ。あのふわふわの毛並みに顔をすりすりしたい。
ふわふわ……
ふわふわの毛並みの犬を抱きしめる妄想をする。
すると、向こう側の木の陰で犬っぽい耳がひょこひょこしている。
間違いないっ!!あれは、犬の耳だっ!!!
ふわふわだ!!!癒し!もふりたい!!!
びっくりさせないように、そぉっと近寄っていく。
「っ誰だ!?」
あ、飼い主の方も近くにいらした……のか、なって思ったら、そこにいたのは、耳と尻尾を付けた中学生くらいの人間だった。
へ。
リアルすぎる耳と尻尾だな。柴犬の耳そのものだ。
中世ヨーロッパの村人みたいな服を着ているし、コスプレでもして散歩していたのだろうか。っていや、それもおかしいけど。
俺もびっくりしたけど、犬人間の方もかなりびっくりしている。というか、俺をみて完全に固まっている。
「ヤマダっ!どうかしましたかっ?」
反対側から、剣を抜きながら犬の耳と尻尾をつけた犬人間がやってきた。物凄いきれいな男の人だけど、この人もコスプレしてるのか!?剣、本物!?
「に……人間っ!?」
え……!?人間って驚くこと、そこ!?
いや、でも、明らかに俺さっき死んだし、このパラレルワールドみたいな植物おかしいし。この犬耳をつけた人間が人間でない可能性も考えられる。
会話が通じることはよく分からないが、そういう設定なのだろう。
「えっと……はい。人間です。もしかして、あなた達は人間ではない?」
最初にみた柴犬っぽい耳を付けた犬人間は、固まったままだったので、もう一人?一匹?の犬人間に話しかけた。
キレイな顔の犬人間もひどく驚いたままであったが、剣を鞘に戻し敵意はない事を伝えてくれた。
「……えぇ。僕達は犬の獣人です。貴方はもしかして、転移してきた人間ではありませんか?」
「て……転移!?アニメとかでよく見る転移!?」
「そうです。アニメとかでよく見かける異世界転移です。」
嘘は言ってなさそう。見た感じ悪い人じゃなさそうだし。一番初めに会えた人が変な人とかじゃなくてよかった。
ん……?キレイな獣人はアニメって言ったぞ?
「…ていうか、お兄さん、アニメ知ってるの?」
「えぇ、僕は前世の記憶持ちです。主人が日本人でアニメや漫画が好きな方だったので、側でよく見せられていました。あと、ヤマダも前世の記憶持ちですよ。」
主人って?
ヤマダと呼ばれた獣人は、まだ固まっている。
キレイな犬の獣人は、「長くなりそうなのでそちらに座ってください。」と木陰の切り株に誘導してくれた。紳士だ。
「俺、吉田ヒロって言います。さっき、転移?を多分してきました。何も知りません。教えていただけますか?」
素直にペコリと頭を下げた。彼はその仕草に目を細める。この人やっぱりイケメンだなぁ。
「僕の名は、レイモンド・アスラン。レイとお呼びください。耳を見て分かるようにビーグル犬の獣人です。前世もビーグル犬でした。」
レイと名乗ったキレイな獣人は、20歳くらいの風貌に、茶色いきれいな髪を長く一つに結っている。その頭にキレイなビーグルの垂れた耳。特徴的な白と茶色の尻尾!
「あぁ、やっぱり!その耳と尻尾!!俺、ビーグル好きなんだよな!その薄い耳触ると気持ちよくてたまらないんだよなぁ…。」
うっ!ゴホゴホッっとレイがむせ込む。大丈夫か。
「…そういうのは、やめてください。」
「あっ!ごめんなさい。犬扱いしたつもりはなかったんです。」
「別にそれはいいのです。そうではなくて、貴方には、この世界は危険すぎます。ですので、これから話すことをちゃんとお聞きくださいね?」
「は、はい。」
レイの頬が何故かほんのり赤いような気がする。
ゴホンっと軽く咳払いをして話し出した。
「いいですか。先ほど申した通り、この世界の犬や猫の獣人の半分以上は前世の記憶を持って生まれてきています。
でも、この世界に人間はいない。たまに転移して流れ着くことがあるとは聞きますが、実際にこの世界で人間を見たことは初めてです。」
レイ、すごい勢いだ。きれいな顔だとどんな顔も迫力あるなぁ。
ビーグルって人の形をとると、こういう感じになるんだな。原産地イギリスだけあって、どこか品がある。
でも、人間が少ない世界なのか。これからどうすればいいのかな。
「聞いてますか?」
「はいっ。えと、人間がレアだという事は、高値で売買されちゃうとかですかね?」
「ある意味当たりですが、ある意味違います。僕たちは、前世ペットでした。大事にされた記憶を持っている獣人が多い。その記憶を持って生まれついた獣人は人間が恋しくて仕方がない。でも、人間は、この世に少ない。そんな中、貴方が世に出てしまったらどうなる事でしょう。」
「え…っと、友達になれる?」
なんか、ちょっとレイが怖いので、出来るだけ平和そうな答えを出してみる。
「三日とたたず孕まされます。」
ヒ――――っ!!!!
「いや、俺、男っ!男ですっ」
「あぁ、人間の世界では同性同士は孕まないのでしたね。僕達獣人は同性同士でも孕めるんですよ。」
さーーっと血の気が引いていく。
「さらに、ヒロ、貴方は如何にも犬好きという風貌に、素直な性格、垂れた眉に愛らしい目、愛情深そうなふっくらした唇、さわやかな笑顔。貴方の愛くるしい見た目は、我々犬にとってたまらないものです。一緒にいたい人間の理想を具現化したような見た目なのです。」
ひ。確かに犬大好きだけど、獣人は怖えぇええ。
「でも、レイは大丈夫そうだよね?分かってくれる獣人もいるってことじゃ?」
「いえ、私も例外ではありません。前世の主人が女の子だったので、我慢できるという程度です。貴方は十分魅力的です。」
「……。」
実は、元の世界でも結構動物に好かれるタイプだったんだ。
大きな黒のレトリーバーを18歳まで飼っていたし、病死しちゃったけど。
次に飼う気にはなれなかったけど、犬は大好きだし、この動物に好かれる特技を生かしてトリマーとして働いていたくらいだし。
……だからと言って、もうほとんど人間と変わりない獣人から好かれても怖いだけだ。孕むとか想像したくもねぇ。
「まず、絶対に人間だという事は見つからないように。あと、その愛らしい顔も隠しましょう。」
レイがぼそりと小さく「争奪戦になりかねない。」と呟く。
レイさん、ぼそりと呟くなら、完全聞こえないようにしてぇーーーーーー!!!
ナニコレ、怖すぎる。
神様この世界で上手くやっていく自信がありません!!!!どうか、僕と僕のお尻を守ってください!!
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