18 / 22
アル様がいるとき、いないとき。
しおりを挟む「リース、ただいま」
「あっ! アル様っ!! おかえりなさいませ!!」
変な夢を見た次の日、久しぶりにアル様が戻って来た。
ジイ様が横で「これ!」と叱咤する声が聞こえたけれど、僕はアル様の元に駆けて行った。堪えきれず尻尾がブンブンと左右に思いっきり揺れる。
間近で見たアル様を見て、本物だぁ~と嬉しくなる。
僕の様子を見てアル様がははっと笑った。そしていつものように頭を撫でてくれる。ピンッと立ち上がる耳を触ってくれる。
あぁ~~~、久しぶりのアル様。
荷物を受け取りながら嬉しくて堪らない。
ソワソワとアル様の周りをうろついて、移動する度ついてくる。アル様はこれじゃ着替えられない苦笑いした。
「私にそんなに会いたかった?」
「はいっ!!」
思いっきり返事をするとアル様は照れたように頬を掻いた。
「君のそういうところは素直だよね。私も会いたかったよ」
「!!」
会いたかったと言ってもらえて嬉しい。
昼食は、少し手の込んだ料理を作った。目の前でアル様と食事をしている。
ニマニマと顔が崩れちゃう。そんな僕を見てアル様も微笑んでくれる。
うん、これだ。アル様がいる空間はとても穏やかで癒されちゃう。
その後、互いに一か月の報告をし合った。と言っても僕の方は特に変りがない。話は主にアル様の報告となった。
「まだ一か月じゃ大して成果は出ていないけどね」
「そ、……そうですか」
まだ一か月、と彼は言った。
僕にとっては物凄く長く感じる一か月。
アル様は、昼食後ゆっくりされることもなくノワールを周り村人たちに声をかけていた。次の日、その次の日も朝から晩まで外に出かけられる。
そして、一週間後にはまたノワールから出て行かれた。
出ていく姿を見るのが悲しくて、見送る時、耳も尻尾も下がってしまう。
アル様が屋敷に戻ったのは三か月後。
戻ってきてくれて嬉しいけれど、またすぐに行ってしまう。別れるのが淋しくて無邪気に喜べなかった。
「リース、誕生日おめでとう」
「!!」
その言葉を聞いて、現金なモノで耳と尻尾がピンと立ち上がった。
そうだった! 今日は僕の誕生日だった。18歳の誕生日!! アル様のことで頭がいっぱいで忘れていた。
「だから帰って来たんだけどね」
「帰って来た目的が僕!?」
「リースの18歳の誕生日を忘れるわけがないだろう」
「!!」
それって、凄く嬉しい!!
アル様は立ち上がって僕の目の前まで来て座った。
僕の指をニギニギと握っている。何をしているのかと首を傾げると彼がニヤリと笑った。
なんだか企んでいるような笑顔にドキドキしてしまう。
「……、アル様?」
「私に狙われたのが悪かったと思って色々諦めておくれ」
意地悪そうな顔がセクシーでエッチに感じる……。はっ、最近離れていたせいで思考がおかしい。
見つめられてしどろもどろになっている僕をアル様はどう思っているのだろう。
「……っ、あの、どういう意味ですか?」
「内緒」
わー、内緒って言い方も意地悪!! ————って違う。僕! さっきからキャッキャしすぎていないか。放置されていた犬が急にご主人に遊んでもらえてはしゃぐみたいになっている。
とは言え、僕は犬獣人なので仕方がないのだけど。
アル様からプレゼントを頂いて、その日は沢山祝ってもらった。久しぶりに一日ゆっくり二人で過ごした気がする。
でも次の日は違った。
アル様は玄関先で帽子を被った。
「……」
浮かれていた頭がズンッと沈む。
「行ってくるよ」
「はい……、行ってらっしゃいませ」
また、見送った。
日めくりしながら、二か月、三か月と会えない日が過ぎていくばかり。
アル様が頑張っているのだから、僕だって頑張って欲しいとは思っている。なのに何も望まない貧乏生活が恋しいと思っている。
村人達は、アル様から何か聞いているのだろう。
アル様がいなくなった屋敷にも時折、食べ物を持ってきてくれる。きっと僕の面倒も見てやってくれとか言ってくれているのだと思う。
今日は持ってきてくれた果物のお返しにサンドウィッチを作ったので、村人達に食べてもらおうと畑に向かった。
畑の土をえっさほっさと耕いていた農夫に声をかけた。
「やぁ、リースくんじゃないかい。どうした?」
「こんにちは、サンドウィッチ作ったので食べてください。他の皆さんはどこにいらっしゃいますか?」
いつもこの畑は数人で作業している。
すると、農夫が「あぁ、この先に生えている豆を収穫しているよ」と声をかけてくれた。
つるの後にいる人が見えなかったのだ。
僕は回り込んでそこにいる人たちに声をかけようと思った。
すると……
「アル様がとうとう身を固めるって」
「あぁ、ついに。パーティは盛大にしなくちゃぁね」
「パーティ何着ていこう。ドレス縫わなくちゃ」
女性達が豆を収穫しながら話している。
「……あの?」
僕が声をかけると、そこにいた女性達がハッとして慌てた様子で僕を見た。
「リース君? あらぁ、それはサンドウィッチ? 持ってきてくれたの? 嬉しいわ!」
「えぇ、皆さんで食べてください。——さっきアル様の話を?」
「頂くわ! ありがとう。今日は熱いわねぇ」
「あっ、リース君、ここに来てお茶どうかしら。そう、もっと飲んでもっと!」
「???」
さっき女性達が話されていた内容を聞き直したかったけれど、女性達から話題をコロコロと変えられて質問出来なかった。
女性達と別れてあの話題がどうしても気になった。質問しようと引き返そうと思ったけれど、彼女達の仕事を邪魔するのも忍びない。
————アル様が身を固める。
今、アル様は新しい事業で忙しくされている。婚活の余裕なんかないはずだ。きっと僕の聞き間違いだろう。でも、仕事先で素敵な女性または男性と出会う事だってある。
「……」
アル様の結婚は僕が望んでいたこと。
それはアル様がこの屋敷で過ごされることが前提で、彼が笑って、僕はそれを見て暮らしたいと思っていた。
105
あなたにおすすめの小説
【完】心配性は異世界で番認定された狼獣人に甘やかされる
おはぎ
BL
起きるとそこは見覚えのない場所。死んだ瞬間を思い出して呆然としている優人に、騎士らしき人たちが声を掛けてくる。何で頭に獣耳…?とポカンとしていると、その中の狼獣人のカイラが何故か優しくて、ぴったり身体をくっつけてくる。何でそんなに気遣ってくれるの?と分からない優人は大きな身体に怯えながら何とかこの別世界で生きていこうとする話。
知らない世界に来てあれこれ考えては心配してしまう優人と、優人が可愛くて仕方ないカイラが溺愛しながら支えて甘やかしていきます。
吸血鬼公爵の籠の鳥
江多之折
BL
両親を早くに失い、身内に食い潰されるように支配され続けた半生。何度も死にかけ、何度も自尊心は踏みにじられた。こんな人生なら、もういらない。そう思って最後に「悪い子」になってみようと母に何度も言い聞かされた「夜に外を出歩いてはいけない」約束を破ってみることにしたレナードは、吸血鬼と遭遇する。
血を吸い殺されるところだったが、レナードには特殊な事情があり殺されることはなく…気が付けば熱心に看病され、囲われていた。
吸血鬼公爵×薄幸侯爵の溺愛もの。小説家になろうから改行を増やしまくって掲載し直したもの。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
転生した新人獣医師オメガは獣人国王に愛される
こたま
BL
北の大地で牧場主の次男として産まれた陽翔。生き物がいる日常が当たり前の環境で育ち動物好きだ。兄が牧場を継ぐため自分は獣医師になろう。学業が実り獣医になったばかりのある日、厩舎に突然光が差し嵐が訪れた。気付くとそこは獣人王国。普段美形人型で獣型に変身出来るライオン獣人王アルファ×異世界転移してオメガになった美人日本人獣医師のハッピーエンドオメガバースです。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる