ベータですが、運命の番だと迫られています

モト

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1.黒い車

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 黒くてピカピカの高級車。
 築40年ハイツの出入り口に横づけされた黒光りする外車が停まっていた。

 周辺地域は一方通行の道が多い。
 高級車でよくこんな細い路地を通ってきたと感心していると、ガチャリと車の後部ドアが開いた。

 出てきたのは、スーツ姿なのにサングラスをかけた人達だ。やたらとニコニコしているのに人相が悪い。

 ヤのつく稼業だろうか。

 まともに見てはいけないと視線を逸らして通り過ぎようとした時、低い声で「こんにちは」と挨拶をされる。

「……」

 辺りを見渡しても俺以外の通行人はいない。

「突然、声をおかけしてすみません。三栗七生さんですよね」
「…………はい」

 ヤの方々とは今まで接点がないのに、俺の名前が呼ばれた。

 三栗七生。俺の名前が三栗七生でなければよかった。

 サングラスの奥の細長い目。その目を見ながら話しかけられた理由を懸命に思い浮かべる。

 何か知らないうちに俺は犯罪に巻き込まれたのだろうか。
 ……思い当たる節があるとするならば、そう、クリック詐欺だ!
 先日PCに届いた迷惑メールを間違ってクリックしてパスワード入力をした。すると、俺のクレジットカードが海外で使われていた。
 それに気づいた銀行から電話がかかってきた。カードはすぐに停止したが、一万三千円の損害があった。

 そういうメールを俺はまた気付かずクリックしてしまったのか。
 ヤ〇ザが自ら自宅に押し寄せてくらいだから、詐欺に気づかず高額に膨らんでいたとか!?
 そう思うと、汗が一瞬のうちに吹き出る。

「用件はこちらですよ」

 ぴらりと一枚の紙が目の前に差し出される。何かの同意書だ。その紙を見て吹き出た汗がボタボタと流れ落ちる。

「9年前に沢谷友二くんの連帯保証人になりましたよね。お友達が今行方をくらませているんですよぉ」

「…………………………あ」

 あ。
 思い出した。
 そんなやつがいた。
 沢谷。もう顔もぼんやりとしか思い出せない高校の同級生。
 卒業後に居酒屋を開くというので、連帯保証人になったんだ。真面目で気のいい奴だった。
 その時は連帯保証人がどれほどハイリスクなのか知りもしなかったし、その場で簡単に調べられるスマホは持っていなかったし。

 行方をくらますとか絶対しなさそうだと思ったのに。……——うん、なにごとも絶対ってないんだね。


 ヤの方々は俺の肩を掴んで耳打ちした。
「三栗さん、お金あります?」

 そのドスの効いた声にフルフルと顔を横に振った。
 明日からの生活を考えず、有り金合わせても200万。正直に答えても見逃してくれそうにない。
 ——なのに、肩に置かれた手が力が強まっていく。俺の肩、も、もげる。

「じゃ、沢谷さん見つかるまで、漁船のりましょうか?」
「ひぃ……」

 ハイともウンとも言ってないのに、首根っこ掴まれて、黒光りする車の後部座席に乗らされた。 
 拒否権はない──……ようです。


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