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君は舞い降りたエンジェル
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次の日の朝。
やたらと朝日が眩しくて起きた。
寝坊したか? そう思ったが、時刻は6時半。いつも通りの起床時間だ。
ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。と小鳥のさえずりが聞こえるので、ベッド横の窓を開ける。
「雀だ」
ベランダには小さくて可愛らしい雀がいて、なんと俺の肩に乗ってきたのだ。
指にも乗らないかなと思って指を差し出すと、パッと空に飛んで行ってしまった。朝方まで雨が降っていたようで空には虹が出来ている。
夢物語の朝みたいじゃん。
ふふん。と気分よくベッドから起きてキッチンに向かい、目玉焼きを作るために卵を割る。すると、一つの卵から黄身が2つ出てきた。
朝からラッキー。
そのラッキーを熱したフライパンで焼いてトーストに乗せて食べる。だいたい俺の朝ごはんはこんな感じ。
朝食を食べながら、SNSを開く。
先程のちょっといいことを呟く。
《朝起きたら、スズメが俺の肩に乗っかってきた!!》
独り暮らしの俺は、独り言をブツブツ言うのも空しいので、SNSで呟くことにしていた。
壁打ちアカウントなので、フォロワーも少なく、やりとりなど絡むことはしていない。
いつもはイイネの♡マークなど全く飛んでこないけれど、即座にイイネ♡がついた。
「あれ? フォロワーが一人増えてるじゃん。えーと、“君はハート泥棒”さん? 変な名前のアカウントだな」
フォロワーの増減はSNSでは当たり前だ。慎重にフォローする人もいれば、手当たり次第にフォローする人もいる。この場合、後者だろう。
「まぁ、いいや。放っておこう」
歯を磨き、出勤準備をする。マンションを出て少し歩いて空を見上げる。
やっぱり、今日はすげぇ天気がいいな。
雲一つない晴天。涼風が心地いい。朝方の雨で少し濡れた地面は朝日が反射してキラキラしている。
休日なら最高にハッピーな気持ちになれただろう。
だが、今日は仕事だ。幸せな気持ち7割くらいだけど、いい日になるだろうと思って角を曲がる。
「やぁ、山川くん。おはよう。こんなところで会うなんて奇遇だね。今から出勤かな?」
「ーーーーっ!?」
俺は持っていた鞄をボトンっと地面に落とした。目を疑って何度も瞬きをする。
角を曲がったすぐそこは有料パーキングだ。そこに赤いボディのフェラーリとそのフェラーリにもたれる長身の男がゆったりと立っていた。
「しゃ、社長!?」
そこにいたのは、田中社長だった。
昨日、ロビーですれ違った田中社長だ……。フェラーリの美しいボディに全く負けていない完璧な造形美。
ここだけ空間が切り取られたみたいにキラキラしている。
エリートの光り輝くオーラ、すげぇ……。
しかし、なんで、平社員の俺の名字を知ってるんだ?
驚いて二言目が出てこない俺に田中社長が微笑んだ。白い歯がキラッと輝く。芸能人のように真っ白な歯だ。
そして偶然にも駐車場の後の住宅地にバラが咲いていて、パッとバラが咲き乱れたような……気がした。
げ、幻覚。
しかしバックにバラだなんて、狙ってんのか? この人。
「昨日の今日ですぐに会えるなんて、運命だと思わないかい?」
「え? えっと……」
何を言っているんだ?
運命?
しっかりした発音だが、聞き間違えたのだろうか。呆然とその場で立っていると、社長が落ちた鞄を拾ってくれる。
「あ……すみません。拾って——……」
俺の手が社長の長い指に絡まされた。
社長が俺の手を掴んだのは、鞄を渡そうとしてくれたのだと思ったけれど、これは一体どういうことだろう。
ん?
若干、引いた指先をさらにクルリと絡まれる。
……んんん??????????????
なんで、そんな風に指を絡まれるのか不思議で仕方なく、背の高い社長を見上げると、真っすぐに俺を見つめていた。会社の噂で無表情だ、サイボーグだとか言われているが、今見ている社長の顔は、表情豊かに微笑んでいる。
あまりにじっと見つめてくるものなので、首を傾げると「可愛い」と聞こえる。え?
「君は僕に舞い降りたエンジェルかな」
「………………」
人間はあまりに驚くと思考が一度止まってしまうようだ。言われた言葉がすぐに頭に入ってこない。
彼が何を言ったか理解できなかったが、どう見ても違うでしょうと、ツッコミを入れたくなる。が、いや。……これは、俺の聞き間違いかもしれない。そう思うと、“聞き間違い”が正しく感じる。
そうだ。あの噂の社長がそんなこと俺に言う訳がないよな。きっと俺の幻聴だ。幻聴……。
有り得ない。社長が頬を染めてうっとりと男の俺の指に指を絡めているとか……、それも幻覚だ。
ゴホンッと咳払いして、彼から手を離して鞄をもらう。そして、頭を下げて礼をする。
「では、俺はここで。失礼します」
「折角だし、僕の車で会社まで送っていくよ」
「お気遣い感謝します。結構です」
社長がどんな顔をしているのか見るのが恐怖で、視線を逸らしながら断ると、「ふぅ~、僕のエンジェルはつれないね」と聞こえてく……いや!!!! 聞こえない!!!!! 俺は何も聞こえないぞ!!!!
俺は、頭を下げたまま、その場を足早に離れた。
後を振り向くのが怖くて、次の角を曲がるまで息が吐けなかった。角を曲がった瞬間、「はぁ~~~」と全身の力が脱力する。汗がぶわぁっと今更になって出てくるし、動悸が治まらない。
怖くて、先ほどの角をもう一度戻ってみることは出来なかった。
やたらと朝日が眩しくて起きた。
寝坊したか? そう思ったが、時刻は6時半。いつも通りの起床時間だ。
ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。と小鳥のさえずりが聞こえるので、ベッド横の窓を開ける。
「雀だ」
ベランダには小さくて可愛らしい雀がいて、なんと俺の肩に乗ってきたのだ。
指にも乗らないかなと思って指を差し出すと、パッと空に飛んで行ってしまった。朝方まで雨が降っていたようで空には虹が出来ている。
夢物語の朝みたいじゃん。
ふふん。と気分よくベッドから起きてキッチンに向かい、目玉焼きを作るために卵を割る。すると、一つの卵から黄身が2つ出てきた。
朝からラッキー。
そのラッキーを熱したフライパンで焼いてトーストに乗せて食べる。だいたい俺の朝ごはんはこんな感じ。
朝食を食べながら、SNSを開く。
先程のちょっといいことを呟く。
《朝起きたら、スズメが俺の肩に乗っかってきた!!》
独り暮らしの俺は、独り言をブツブツ言うのも空しいので、SNSで呟くことにしていた。
壁打ちアカウントなので、フォロワーも少なく、やりとりなど絡むことはしていない。
いつもはイイネの♡マークなど全く飛んでこないけれど、即座にイイネ♡がついた。
「あれ? フォロワーが一人増えてるじゃん。えーと、“君はハート泥棒”さん? 変な名前のアカウントだな」
フォロワーの増減はSNSでは当たり前だ。慎重にフォローする人もいれば、手当たり次第にフォローする人もいる。この場合、後者だろう。
「まぁ、いいや。放っておこう」
歯を磨き、出勤準備をする。マンションを出て少し歩いて空を見上げる。
やっぱり、今日はすげぇ天気がいいな。
雲一つない晴天。涼風が心地いい。朝方の雨で少し濡れた地面は朝日が反射してキラキラしている。
休日なら最高にハッピーな気持ちになれただろう。
だが、今日は仕事だ。幸せな気持ち7割くらいだけど、いい日になるだろうと思って角を曲がる。
「やぁ、山川くん。おはよう。こんなところで会うなんて奇遇だね。今から出勤かな?」
「ーーーーっ!?」
俺は持っていた鞄をボトンっと地面に落とした。目を疑って何度も瞬きをする。
角を曲がったすぐそこは有料パーキングだ。そこに赤いボディのフェラーリとそのフェラーリにもたれる長身の男がゆったりと立っていた。
「しゃ、社長!?」
そこにいたのは、田中社長だった。
昨日、ロビーですれ違った田中社長だ……。フェラーリの美しいボディに全く負けていない完璧な造形美。
ここだけ空間が切り取られたみたいにキラキラしている。
エリートの光り輝くオーラ、すげぇ……。
しかし、なんで、平社員の俺の名字を知ってるんだ?
驚いて二言目が出てこない俺に田中社長が微笑んだ。白い歯がキラッと輝く。芸能人のように真っ白な歯だ。
そして偶然にも駐車場の後の住宅地にバラが咲いていて、パッとバラが咲き乱れたような……気がした。
げ、幻覚。
しかしバックにバラだなんて、狙ってんのか? この人。
「昨日の今日ですぐに会えるなんて、運命だと思わないかい?」
「え? えっと……」
何を言っているんだ?
運命?
しっかりした発音だが、聞き間違えたのだろうか。呆然とその場で立っていると、社長が落ちた鞄を拾ってくれる。
「あ……すみません。拾って——……」
俺の手が社長の長い指に絡まされた。
社長が俺の手を掴んだのは、鞄を渡そうとしてくれたのだと思ったけれど、これは一体どういうことだろう。
ん?
若干、引いた指先をさらにクルリと絡まれる。
……んんん??????????????
なんで、そんな風に指を絡まれるのか不思議で仕方なく、背の高い社長を見上げると、真っすぐに俺を見つめていた。会社の噂で無表情だ、サイボーグだとか言われているが、今見ている社長の顔は、表情豊かに微笑んでいる。
あまりにじっと見つめてくるものなので、首を傾げると「可愛い」と聞こえる。え?
「君は僕に舞い降りたエンジェルかな」
「………………」
人間はあまりに驚くと思考が一度止まってしまうようだ。言われた言葉がすぐに頭に入ってこない。
彼が何を言ったか理解できなかったが、どう見ても違うでしょうと、ツッコミを入れたくなる。が、いや。……これは、俺の聞き間違いかもしれない。そう思うと、“聞き間違い”が正しく感じる。
そうだ。あの噂の社長がそんなこと俺に言う訳がないよな。きっと俺の幻聴だ。幻聴……。
有り得ない。社長が頬を染めてうっとりと男の俺の指に指を絡めているとか……、それも幻覚だ。
ゴホンッと咳払いして、彼から手を離して鞄をもらう。そして、頭を下げて礼をする。
「では、俺はここで。失礼します」
「折角だし、僕の車で会社まで送っていくよ」
「お気遣い感謝します。結構です」
社長がどんな顔をしているのか見るのが恐怖で、視線を逸らしながら断ると、「ふぅ~、僕のエンジェルはつれないね」と聞こえてく……いや!!!! 聞こえない!!!!! 俺は何も聞こえないぞ!!!!
俺は、頭を下げたまま、その場を足早に離れた。
後を振り向くのが怖くて、次の角を曲がるまで息が吐けなかった。角を曲がった瞬間、「はぁ~~~」と全身の力が脱力する。汗がぶわぁっと今更になって出てくるし、動悸が治まらない。
怖くて、先ほどの角をもう一度戻ってみることは出来なかった。
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