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●第二話 《漆黒の森(アイゼン・ヴァルト)》
しおりを挟むメイはスラム街を歩いている。
この王都の中心から外れた、薄汚れて重い雰囲気の漂う界隈。
住んでいる住人達も、堅気と呼べるような人種の少ない――見ただけで何か危ない事に手を出していそうな気配漂わせる男の人達ばかりである。
そんな人間達と目線を合わせないようにしながら、メイはここまで歩いてきた。
まるで、腹を空かせた狼の群れの中を歩く草食動物の気分だった。
「緊張してるのかい?」
そう、前を進む男が言う。
自分の雇い主となる闇ギルドの、庶務・雑務を担当しているという彼は、自身をヴィー・レイブンと名乗った。
長い黒髪に、眼鏡をかけた、中性的な顔立ちと細身の体。飄然とした雰囲気を漂わせる、そう歳も離れていないと思われる男性である。
「あ、あの」
恐怖心は無いとは言えない。だが、今は、自分の身に舞い降りた幸福を噛み締めて、ふわふわと浮ついた気分になってしまっている部分が大きい。
メイは心臓を落ち着かせながら、ヴィーへと言う。
「この度は、こんなわたしを迎え入れて下さり、本当にありがとうございます! どんな仕事でも頑張ります!」
どこのギルドも拾ってくれなかった、落ちこぼれ聖女の自分を見出し、あんなに熱くアプローチしてくれた。
必要だ、と。
待っていた、と。
そう言われた事が、素直に嬉しく、涙が出るほど感動した。
「ははっ、やる気があるね。頼りにしてるよ……と、ちょうど着いた」
ヴィーはそう笑顔で言うと、立ち止まった。
「ようこそ。ここが我がギルド、《漆黒の森》の本部である」
辿り着いたのは、周囲の風景に馴染みに馴染みまくっている、決して豪奢だとか派手だとか言えない見た目の、木造二階建て。
中に入ると、広々としたエントランスが広がり、奥にはバーカウンターがある。おそらく、実際に前までバーとして経営していた建物をそのまま使用しているのだろう。
しかし、壁の一部が壊れていたり、埃をかぶったままの家具があったりと、まぁ、控えめに言っても汚い。
「ふぇぇ……」
「驚いた? ま、見た目はあれだけどさ」
「あ、いえ、わたし、ギルドさんに来るのは初めてなので、その、そういう意味で感動しています!」
「ははっ、そうかそうか。で、早速なんだけど――」
と、そこで。
「あ、ヴィー。おかえりさない」
そんな、鈴を転がすような声が背後から聞こえた。
メイが振り返ると、固定式の椅子の上に立ち、バーカウンターの上をいそいそと布巾で拭きながら、掃除をしている少女の姿が目に入った。
少女……いや、幼女と言う方が正確かもしれない。
メイよりも遥かに年下……それこそ、正に子供と呼ぶしかない見た目の、女の子だ。
彼女はヴィーを一瞥すると、その横に立つメイを見て、途端に顔を強張らせる。人見知りなのかもしれない。
「……そのひと、だれ?」
「ただいま、リサ。で、メイちゃん、早速なんだけど、僕が君を雇ったのはね――」
ヴィーが、リサと呼ばれる少女の隣にまで移動すると、彼女を紹介するように立ち。
「君に、彼女の世話をしてもらいたいからなんだ」
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