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第2章 白狼と秘密の練習
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12時になり、俺はガイアスのいるであろう第7隊の執務室へ転移する。
(一応、隊長室にしとくか。)
部屋には誰もおらずシーンとしていた。
そして扉に耳を澄ますと、カリカリと書類に何かを書いている音が1つする。それをガイアスであると確信したミアは勢いよく扉を開けた。
目の前には知らない男…と思ったが、よく見るとガイアスに恋人がいると言ってきた隊員だった。
「え…ミ、ミア様…?」
目の前の男は「幻か?」と呟きながらこちらへ向かってくる。
この3日間で何があったのか、顔色は随分悪く、目の下にクマがあるこの隊員がにじり寄る姿は、ミアにとって非常に恐ろしく感じた。
「夢でもいい…ミア様に言わないと…」
ゆっくりと死人のような顔で向かってくる男に、思わず大声を出す。
「近づかないで!」
その声に、誰かが急いで走ってくる音がする。すぐに扉が開けられガイアスと2人の部下の男達が入ってきた。前回挨拶に来た時にいた隊員達だ。
両手を広げて俺を逃すまいとするマックスは、今にもミアを襲おうとしているように見える。
「ミア!」
ガイアスが俺を呼んで素早く腕を掴むと自分の背に隠す。その間に他の2人の隊員がマックスを押さえつけた。
その手際の良さにミアが感心していると、ガイアスがミアに尋ねてきた。
「何かされたのか?」
「あ、えっと、」
俺が何もなかったと伝える前に、取り押さえられたマックスが叫ぶ。
「誤解っス~!!いてて…これ現実っスか?!」
「ミア、正直に言っていい。怖かったな。」
ガイアスは俺を包むように抱きしめる。
その間もマックスは仲間の男達に腕を捻られているようで「痛いっス!」と涙目だ。
だんだん可哀想に見えてきたミアは、「離してあげて」とガイアスに頼んだ。
マックスが説明するには、前回のことを随分反省したようでミアにずっと謝罪したかったらしい。
仕事で疲れていたところにミアが現れ、幻覚かと思ったが、それでもいいから謝りたいと近づいたと言う。
「すみません。凄く怖い雰囲気だったから。」
俺は捻られた腕を摩りながら説明をするマックスに頭を下げる。
マックスは「いやいや、当然っス。」と無粋に近づいたことを謝った。
その後、改めてマックスがガイアスとミアに頭を下げて謝罪をしたため、この件はこれで以上となった。
「ミアはどうしてここに?」
「あ、それは…」
俺は周りの目が気になったが、答えないわけにはいかず口を開く。
「2日無断外泊しただろ?罰として10日間転移禁止になったんだ。それを伝えようと思って。」
目の前には「ミア様と2泊連続でお泊り」と呟く部下達が驚いた顔をしているが、ミアは『いい大人が家族から罰を受けるなんて』と部下達に思われているのでは、と恥ずかしい気持ちがしていた。
「今日の3時まではいいけど、次会うのは来週になるんだ。」
「そうか。3日間いろいろあったから、俺もすっかり連絡したか聞くのを忘れていた。寂しいが来週末に会おう。」
『いろいろって何だ?!』と部下達が心で叫んでいるのに気づかず、2人はいつ会うかを約束している。
「3時までなら訓練所見ていきません?前回は見れなかったし、午後からは打ち合いの稽古があるっスよ!」
例の件が解決したとあって、また元気を取り戻したマックスがミアに提案する。
そんな部下に呆れながらガイアスも「そうだな」と賛成した。
「やった!俺ずっと見てみたかったから嬉しいよ!」
にっこりと破顔するミアにマックスを含め部下達が顔を赤くした。
「ここだ。」
「わぁ~、広いね!」
ガイアスとマックスに連れられ訓練所にやってきたミアはその広さに驚いた。そこには今から打ち合いをするという100名余りの隊員と指導を担当する男がいた。
指導をする人にはすでにガイアスが先ほどの部屋から電話で連絡を入れていた。
ミアはそれを少し離れた場所で見学するよう言われ、用意された椅子に腰掛ける。
並んでいる男達がガイアスの姿を目にしてザワザワとし始めた。
隊長が突然現れたことにより、若い隊員達はやる気を出しているようだが、横にいるキラキラ光る青年の存在に気づき、さらにざわめく。
しかし、「静かにしろ!」と大きな声がし、スッと声が静まった。
「皆気付いていると思うが、今日はガイアス隊長が来られている。一生懸命やるのも結構だが、張り切りすぎて怪我だけはするなよ!」
「はい!」と返事をする隊員達に、男はミアについて『隊長の大事な客人だ』とだけ説明した。
そしてすぐに皆に訓練を始めるよう指示を出す。
ミアは今、耳と尻尾を隠しており、誰も狼だとは気づいていないはずだ。
それでも太陽の下で光る銀の髪や愛らしい顔に皆がチラチラとミアを見ている。
「よそ見をするなッ!」
指導の男が隊員達に大声を出すが、ミアは剣を打ち合う姿に夢中だ。
「いいなぁ、俺も混ざりたいなぁ。」
剣を振りたくてうずうずしているミアは、「参加して怪我でもしたら転移禁止期間がまた伸びるぞ。」と横からガイアスに言われ、しゅんとした。
「また機会があったらやってみたいな。」
「カルバン様の許可が出たらな。」
ガイアスはそう言って笑うと俺の頭を撫でた。
その指が消えている耳の根本に当たってしまい、俺が「あッ」と声を出すと、隣にいるマックスから溜息が聞こえてきた。
「ちょっと、仲良いのは素晴らしいっスけど、もうちょっと人目を気にしてくださいっス。」
「事故だ。」
ガイアスはマックスの言葉にそっけなく答えると、また嬉しそうに訓練を見学を再開したミアを、微笑ましく見ていた。
訓練を見学して1時間が過ぎ、皆が休憩を始めた時点でミアはあることに気がついた。
「ねぇ、ガイアスお昼食べてないんじゃない?」
「ああ、だが平気だ。」
「俺のせいでお昼休みなくなっちゃったね…」と小さい声で言うミアにガイアスが笑っている。
「俺の昼休みの時間は明確に決まってないんだ。訓練が終わってからでもいいから、一緒に食べるか?」
「え!いいの?一緒がいい!」
嬉しそうにガイアスの腕を掴むミアに、またしても隣のマックスから溜息が聞こえた。
話を聞いていたマックスは、立ち上がると「お昼買ってきますよ」とガイアスに告げる。
ガイアスは大丈夫だと断ったが、10日間も会えないんだから隊長が買いに行ってたら時間がもったいない、と歩き出してしまった。
「アレで良いっスか?」
「ああ、頼む。」
ミアが「マックスさん優しいね。」と言うと、ガイアスは複雑な顔をした。
訓練が終わり、ガイアスが皆へ感想を述べている。
それを真剣に聞く若い隊員達は、憧れの上司を目の前に興奮しているようだ。
ガイアスがミアの元へ戻ってきた。
「行こうか」と言われ立ち上がると、大きな手がミアの手を繋いできた。そのまま手を引くように歩き、2人は訓練場を後にした。
ガイアスの意外な行動に驚いたのは俺だけではなかったようで、見ていた隊員達が「え!」と声を上げていた。
それを無視してその場を後にしたガイアスは、廊下で「駄目だったか?」とミアに尋ねた。
毎度のことだが、ミアはただでさえ華やかな見た目で多くの人の目を引く。それに加えて今日の無邪気な表情や仕草は親しみやすく、見ていれば声を掛けたいと願う者も出てくるはずだ。
部下達の前で独占欲を出してしまうというのは隊長らしからぬとも感じたが、ミアのこととなるとどうもいつもの調子でいられない。
ガイアスは「ううん!」と言ってにっこり笑うミアにホッと胸を撫で下ろした。
執務室に戻るとマックスが席に座って待っていた。
「あ、これ買ってきたっスよ!ミア様は肉と魚どっちがいいっスか?」
「肉がいいです。」
「隊長は?」と聞かれたガイアスが魚と答えると、袋から2つサンドウィッチを出した。
残りは自分と事務室にいるケニーに渡すのだと部屋から出て行くマックスに、ミアが礼を述べる。
「ミア様、また来てくださいッス。」
にかっと笑ってそう言うと、マックスは部屋から出て行った。
(一応、隊長室にしとくか。)
部屋には誰もおらずシーンとしていた。
そして扉に耳を澄ますと、カリカリと書類に何かを書いている音が1つする。それをガイアスであると確信したミアは勢いよく扉を開けた。
目の前には知らない男…と思ったが、よく見るとガイアスに恋人がいると言ってきた隊員だった。
「え…ミ、ミア様…?」
目の前の男は「幻か?」と呟きながらこちらへ向かってくる。
この3日間で何があったのか、顔色は随分悪く、目の下にクマがあるこの隊員がにじり寄る姿は、ミアにとって非常に恐ろしく感じた。
「夢でもいい…ミア様に言わないと…」
ゆっくりと死人のような顔で向かってくる男に、思わず大声を出す。
「近づかないで!」
その声に、誰かが急いで走ってくる音がする。すぐに扉が開けられガイアスと2人の部下の男達が入ってきた。前回挨拶に来た時にいた隊員達だ。
両手を広げて俺を逃すまいとするマックスは、今にもミアを襲おうとしているように見える。
「ミア!」
ガイアスが俺を呼んで素早く腕を掴むと自分の背に隠す。その間に他の2人の隊員がマックスを押さえつけた。
その手際の良さにミアが感心していると、ガイアスがミアに尋ねてきた。
「何かされたのか?」
「あ、えっと、」
俺が何もなかったと伝える前に、取り押さえられたマックスが叫ぶ。
「誤解っス~!!いてて…これ現実っスか?!」
「ミア、正直に言っていい。怖かったな。」
ガイアスは俺を包むように抱きしめる。
その間もマックスは仲間の男達に腕を捻られているようで「痛いっス!」と涙目だ。
だんだん可哀想に見えてきたミアは、「離してあげて」とガイアスに頼んだ。
マックスが説明するには、前回のことを随分反省したようでミアにずっと謝罪したかったらしい。
仕事で疲れていたところにミアが現れ、幻覚かと思ったが、それでもいいから謝りたいと近づいたと言う。
「すみません。凄く怖い雰囲気だったから。」
俺は捻られた腕を摩りながら説明をするマックスに頭を下げる。
マックスは「いやいや、当然っス。」と無粋に近づいたことを謝った。
その後、改めてマックスがガイアスとミアに頭を下げて謝罪をしたため、この件はこれで以上となった。
「ミアはどうしてここに?」
「あ、それは…」
俺は周りの目が気になったが、答えないわけにはいかず口を開く。
「2日無断外泊しただろ?罰として10日間転移禁止になったんだ。それを伝えようと思って。」
目の前には「ミア様と2泊連続でお泊り」と呟く部下達が驚いた顔をしているが、ミアは『いい大人が家族から罰を受けるなんて』と部下達に思われているのでは、と恥ずかしい気持ちがしていた。
「今日の3時まではいいけど、次会うのは来週になるんだ。」
「そうか。3日間いろいろあったから、俺もすっかり連絡したか聞くのを忘れていた。寂しいが来週末に会おう。」
『いろいろって何だ?!』と部下達が心で叫んでいるのに気づかず、2人はいつ会うかを約束している。
「3時までなら訓練所見ていきません?前回は見れなかったし、午後からは打ち合いの稽古があるっスよ!」
例の件が解決したとあって、また元気を取り戻したマックスがミアに提案する。
そんな部下に呆れながらガイアスも「そうだな」と賛成した。
「やった!俺ずっと見てみたかったから嬉しいよ!」
にっこりと破顔するミアにマックスを含め部下達が顔を赤くした。
「ここだ。」
「わぁ~、広いね!」
ガイアスとマックスに連れられ訓練所にやってきたミアはその広さに驚いた。そこには今から打ち合いをするという100名余りの隊員と指導を担当する男がいた。
指導をする人にはすでにガイアスが先ほどの部屋から電話で連絡を入れていた。
ミアはそれを少し離れた場所で見学するよう言われ、用意された椅子に腰掛ける。
並んでいる男達がガイアスの姿を目にしてザワザワとし始めた。
隊長が突然現れたことにより、若い隊員達はやる気を出しているようだが、横にいるキラキラ光る青年の存在に気づき、さらにざわめく。
しかし、「静かにしろ!」と大きな声がし、スッと声が静まった。
「皆気付いていると思うが、今日はガイアス隊長が来られている。一生懸命やるのも結構だが、張り切りすぎて怪我だけはするなよ!」
「はい!」と返事をする隊員達に、男はミアについて『隊長の大事な客人だ』とだけ説明した。
そしてすぐに皆に訓練を始めるよう指示を出す。
ミアは今、耳と尻尾を隠しており、誰も狼だとは気づいていないはずだ。
それでも太陽の下で光る銀の髪や愛らしい顔に皆がチラチラとミアを見ている。
「よそ見をするなッ!」
指導の男が隊員達に大声を出すが、ミアは剣を打ち合う姿に夢中だ。
「いいなぁ、俺も混ざりたいなぁ。」
剣を振りたくてうずうずしているミアは、「参加して怪我でもしたら転移禁止期間がまた伸びるぞ。」と横からガイアスに言われ、しゅんとした。
「また機会があったらやってみたいな。」
「カルバン様の許可が出たらな。」
ガイアスはそう言って笑うと俺の頭を撫でた。
その指が消えている耳の根本に当たってしまい、俺が「あッ」と声を出すと、隣にいるマックスから溜息が聞こえてきた。
「ちょっと、仲良いのは素晴らしいっスけど、もうちょっと人目を気にしてくださいっス。」
「事故だ。」
ガイアスはマックスの言葉にそっけなく答えると、また嬉しそうに訓練を見学を再開したミアを、微笑ましく見ていた。
訓練を見学して1時間が過ぎ、皆が休憩を始めた時点でミアはあることに気がついた。
「ねぇ、ガイアスお昼食べてないんじゃない?」
「ああ、だが平気だ。」
「俺のせいでお昼休みなくなっちゃったね…」と小さい声で言うミアにガイアスが笑っている。
「俺の昼休みの時間は明確に決まってないんだ。訓練が終わってからでもいいから、一緒に食べるか?」
「え!いいの?一緒がいい!」
嬉しそうにガイアスの腕を掴むミアに、またしても隣のマックスから溜息が聞こえた。
話を聞いていたマックスは、立ち上がると「お昼買ってきますよ」とガイアスに告げる。
ガイアスは大丈夫だと断ったが、10日間も会えないんだから隊長が買いに行ってたら時間がもったいない、と歩き出してしまった。
「アレで良いっスか?」
「ああ、頼む。」
ミアが「マックスさん優しいね。」と言うと、ガイアスは複雑な顔をした。
訓練が終わり、ガイアスが皆へ感想を述べている。
それを真剣に聞く若い隊員達は、憧れの上司を目の前に興奮しているようだ。
ガイアスがミアの元へ戻ってきた。
「行こうか」と言われ立ち上がると、大きな手がミアの手を繋いできた。そのまま手を引くように歩き、2人は訓練場を後にした。
ガイアスの意外な行動に驚いたのは俺だけではなかったようで、見ていた隊員達が「え!」と声を上げていた。
それを無視してその場を後にしたガイアスは、廊下で「駄目だったか?」とミアに尋ねた。
毎度のことだが、ミアはただでさえ華やかな見た目で多くの人の目を引く。それに加えて今日の無邪気な表情や仕草は親しみやすく、見ていれば声を掛けたいと願う者も出てくるはずだ。
部下達の前で独占欲を出してしまうというのは隊長らしからぬとも感じたが、ミアのこととなるとどうもいつもの調子でいられない。
ガイアスは「ううん!」と言ってにっこり笑うミアにホッと胸を撫で下ろした。
執務室に戻るとマックスが席に座って待っていた。
「あ、これ買ってきたっスよ!ミア様は肉と魚どっちがいいっスか?」
「肉がいいです。」
「隊長は?」と聞かれたガイアスが魚と答えると、袋から2つサンドウィッチを出した。
残りは自分と事務室にいるケニーに渡すのだと部屋から出て行くマックスに、ミアが礼を述べる。
「ミア様、また来てくださいッス。」
にかっと笑ってそう言うと、マックスは部屋から出て行った。
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