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後日談・番外編
自衛隊の訓練場にて1
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ミアとガイアスの結婚式から1ヶ月。
式後の処理も落ち着き、徐々に2人は共に過ごす時間が増えてきた。
仕事が終わったミアはガイアスの屋敷に帰り、部屋でソファに座りながらこれからのことを話した。
「今日から本格的にこっちに住むから、カルバン様が悲しんでいただろう。」
「うーん、たしかに泣いてたけど大丈夫!だって、今週末さっそく王宮に帰るんだから。…ガイアスは嫌じゃない?」
「俺はどこでも嬉しい。…ミアと居れるなら。」
「ガイアス…。」
お互いに見つめ合ってどちらともなく口を寄せると、触れ合う寸前のところで扉の向こうから声が掛かる。
「ご夕食の準備が整いました。」
その言葉に「今降りよう。」と返事をしたガイアスは、目の前の狼に微笑み、手を取って食堂のある1階へ降りた。
2人がどちらで暮らすのかは、結婚するまでの間に何度も話し合った。お互い、自国にいなければならない仕事であることなどを踏まえ、最終的に平日はサバル国のガイアスの屋敷に、そして休日はシーバ国の王宮に住むことで落ち着いた。
そもそもミアは王宮を出てガイアスの屋敷に住むつもりでいたのだが、王子という立場と、カルバンが怒りと悲しみを露わに騒いだので、結局頻繁に王宮に帰ることになってしまった。
明日は平日であるが、ミアは式後の手続きや処理を予定より早く終わらせたため特別に休みとなった。今日からここへ本格的に住むことになり、大好きなガイアスと一緒にいれることにテンションが上がっていたミアは、さっきの空振りのキスが惜しくて口をとがらせている。そんな表情に気付き、ガイアスは繋いだ手をぎゅっと握った。
「さっきの続きは、後でな。」
「…うん。」
耳がペタンと下がっているが尻尾はバサッと揺れている。
(恥ずかしいけど、嬉しいといったところか…。)
ガイアスは分かりやすい反応を示す伴侶を見て、くく…と笑った。
食事が終わり、風呂も済ませて布団に入ると、ガイアスが両手を開いた。その中へモゾモゾと動きながら入っていったミアは、厚い胸に収まり「へへ…」と笑った。
「明日は休みだな。ゆっくり寝ているといい。」
「うん。ガイアスを送ったら、2度寝するかも。」
「見送ってくれるのか?それは、仕事に行きたくなくなるだろうな。」
「お休みする?」
「…明日の午前中は、隊長会議だ。」
「はは、行かなきゃね。……早く帰ってきて。」
ミアはそう言ってガイアスを見上げて唇の下辺りにキスをする。
「…ずれてるぞ。」
「ガイアス、下向いて。」
言葉に従って顔の向きを下げるガイアス。ミアは尻尾が揺れそうになるのを抑えて、その唇にちゅっと口付けた。
ミアとガイアスは新婚であり、2人でいる時は常に甘い空気が漂っている。お互いにそれを理解しているにも関わらず、止めることができない。好きだという気持ちが溢れて堪らないのだ。
キスはどんどん深くなっていき、ガイアスは無意識に服の隙間から腰の模様に触れる。
「んん…、あ、するの?」
「どうしようか。」
(明日は早くに家を出るが…。)
しかし、仕事の無いミアのことを思うと、そういう行為をしても大丈夫か…という考えが優勢になる。手をさらに中に進め、柔らかい肌を手の平で撫でていく。
「ん、どうするの…?」
「そうだな…」
今日はこの屋敷でミアが暮らし出した日であり、使用人達と皆で夕食を取った。特別な日ということで酒もテーブルに並び、ほろ酔いの使用人達に囲まれてずいぶんと話し込んでしまった。そのため、いつも寝る時間よりだいぶ遅くにベッドに入った。
(ミアはさっきあくびをしていたし、本当は眠たいだろう。)
手は名残惜しく素肌から離せずにいるが、頭は徐々に冷静になってくる。
(明日は訓練もあるしな…、)
そう考えたところで、ミアに提案をした。
「ミア、明日自衛隊の訓練所に来るか?」
「え?!訓練所?」
急に言われた言葉は意外なもので、ミアは目を丸くする。
「明日は昼から第7隊の特別訓練なんだ。剣を振ってみるか?」
「そんなの…嬉しすぎるけど……いいの?」
「ああ。だが、参加できるか見学になるかはカルバン様次第だな。」
「えー…、分かった。明日頼んでみる。」
「訓練は昼からだから、隊長室に転移してくれたらいい。一緒に昼を取ろうか。」
「わ、それ…最高!」
(これは職権乱用か…?)
隊長の権限を利用していることに少しだけ後ろめたさを感じるが、腕の中から聞こえる「ふふ…」というご機嫌な声を聞くと、どうでもよくなってくる。
「明日はお弁当持っていくね。」
「楽しみだ。」
またどちらともなくキスをした2人は、明日に備えてそのまま眠ることにした。
次の日、ミアはお昼の時間に隊長室に転移した。
今朝、ガイアスの言う通りカルバンに訓練参加の許可を取りに行くと、思いの外あっさりとOKが出た。
(ちゃんと事前に聞けば良かったのか。)
イリヤに言ったら「当たり前でしょう。」と呆れられるだろう。休みの日にまで小言のうるさい従者を思い出してしまい、ミアはそれを忘れるために部屋の中に関心を移した。
「うーん、本当に何もない部屋だな。」
ベッドと机くらいしか家具の無い部屋をキョロキョロと見ていると、部屋の扉が開いた。
「ガイアス!」
「ミア、よく来たな。」
後ろにはケニーとマックスの姿もある。今日は一緒に訓練所に行くと言っていたため、2人によろしくと挨拶をした。
「ミア様、ご結婚おめでとうございます。」
「おめでとうございます!」
2人は笑顔で告げ、ミアも祝いの言葉にお礼を言う。
「2人が贈ってくれたランプ、綺麗な模様が出てきて毎晩楽しませてもらってるよ。」
「喜んでいただけて良かったです。」
「あれ、2人で選んだんっスよ!」
「…マックスはセンスの悪い柄を指差してたでしょうが。」
ミアは祝いの品のランプをかなり気に入っていた。ベッドライトに丁度良い優しい照明で、周りには植物を模した柄が入っており、暗闇の中で花や草が浮かび上がるのだ。そして1時間すれば自然に消えるので、眠くなっても安心だ。
少しの間、選んだのは誰かということで小さく揉めていた2人だったが、ミアの手にあるバスケットを見てマックスが話題を変えた。
「お昼持ってきたんっスか?」
「そうなんだ。でもケニーとマックスがいるって知らなくて、2人分しか用意してない…。」
「気にしないでくださいっス!俺達もう注文してるんで!たくさんあるし、良かったらミア様もどうっスか?」
「…おい、一緒に食べる気なのか?」
ガイアスが、ミアとマックスの会話に入ってくる。
「えー!だって大勢の方が楽しいじゃないっスか!ね、ミア様!」
マックスはそう言うと、注文が届いたとの電話が鳴ったようで部屋から慌ただしく出ていった。
「すまないな。」
「ううん、俺も皆でワイワイ食べるの好きだよ。」
「ここはテーブルが狭いから、執務室で食べようか。」
「うん!」
ガイアスは目の前の細い腰に自然に手を回すと、隣の部屋であるにも関わらずミアをエスコートして扉を開けた。
4人で昼食を食べ、室外の訓練場に向かう。
「ミア様、本当に剣を振るんっスね。…なんかまだ信じられないっス。」
マックスは、ガイアスに守られるように歩く小さい身体を見る。
「ミアは俺達と違って細かい動きもできるし、最近では俺ともまともに打ち合うぞ。」
「え、まじっスか?」
過大評価な気もするが、師匠に褒められてミアの顔が少しにやけた。
雑談をしていると、あっという間に訓練所に着く。隊員達は既に全員集まっているらしく、前回と同じ指導者の男が、こちらに近寄ってきた。
「ミア様、ご結婚おめでとうございます。」
ここでも祝いの言葉をもらい、ミアはありがとうと感謝を伝えた。
「前回は見学だったんですが、今日は参加させてください。もし邪魔な場合は遠慮なく言ってくださいね。」
ミアがよろしくお願いしますと頭を下げると、指導者の男はたじろぎながらも頷いた。
訓練所はガイアスとミアの登場でざわついている。それでも事前にミアが来ることが伝えられていたため、驚くといった様子ではなく、あくまで皆憧れの隊長とその伴侶に興味があるだけのようだ。
「はいはい!ちゅうもーーーく!!」
ひそひそ声がどんどん大きくなりざわめき始めた訓練所が、マックスの声でスッと静かになる。
「朝伝えた通り、今日の特別訓練はガイアス隊長とミア様がお越しっス!気合入れるのもいいっスけど、無駄な怪我だけはしないように!」
「「「はい!」」」
隊員達の揃った大きな返事が聞こえ、ミアはびっくりしてしまう。
(マックスってふざけててひょうきんなイメージだったけど、訓練の時はこんな感じなんだ…。)
マックスとケニーは、普段は補佐という役職に就き隊を支えている。そしてこの隊の副隊長であるジェンが他の隊に指南に行っていた間は、2人で副隊長代理として仕事をこなしていたのだ。彼らもまた隊員達にとって憧れの存在である。
ミアが2人に感心していると、ガイアスが全員に声を掛けた。
「今日は特別訓練初日だ。この結果で次の遠征の振り分けをする予定なので、そのつもりで臨むように。そして、今日は俺の伴侶も訓練に参加する。彼は剣の心得が既にあるので、打ち合いの際も手加減は不要だ。以上。」
「「「はい!」」」
(手加減は不要って……なんか嬉しいな。)
師匠であるガイアスが自分の剣の腕を認めているといった発言に、ミアはグッと胸が熱くなった。
ガイアスからの話は以上となり、指導者の男が今日の流れを説明する。話を聞いていて分かったことだが、今日はミアが前回見学した訓練とは違った特別なものらしい。仕組みを詳しく聞こうと、隣にいるケニーに話しかける。
「ガイアスはいつも訓練に参加しないの?」
「そうですね。前回ご覧になったのは、通常訓練と言って主に若い騎士や新人が参加するものです。そこに隊長や副隊長は基本参加しません。今日は特別訓練といって、剣に優れた者ばかりが集められています。遠征の降り分けが主な目的ですが、ここで剣舞団の候補となる方を選ぶこともあります。」
「へぇ~。ガイアスも剣舞団の一員なんだよね?」
「はい。ガイアス隊長の剣の腕は、他の隊長の方々と比べてもずば抜けていますからね。」
「そんなに凄いんだ。」
今まで、ガイアスがサバル国の剣舞団として舞う姿を2回見た。そして自分の誕生日のお披露目式では、甲冑を被っていて誰が誰だか分からない状態でもガイアスの動きに目が捕らわれた。
(その後、ガイアスと……。)
自分達が想いを伝え合った日のことを思い出して、一人心の中で騒いでいると、指導者の男とともにガイアスがミアの側へ戻ってきた。
「では、ミアを頼む。」
「承知しました。」
男にミアを預け、ガイアスが剣を手渡す。
「あちらに入って下さい。」と男に言われるまま、ミアは最前列の真ん中の列に入った。
痛いくらいの視線がミアに向けられている。ガイアスは、横や後ろからミアを見ては顔を赤くしている隊員達に少し苛立つ。
(こんなことで怒っては駄目だ。いつものことじゃないか…。)
ミアはこれしきの視線には慣れているため平気であり、指導者の男の方をまっすぐ見て頷いている。本人が気にしていないのだから、不躾に「見るな!」というのも憚られる。ガイアスはミアが一生懸命に学ぼうとする姿のみに集中した。
一通りの説明が終わり、指導者の男が準備運動を促す。
「右から隣同士一組で柔軟をするように。」
(右から数えて…ってことは、俺のペアはこの人か。)
ミアは隣の自衛隊員をチラッと見る。相手もこちらを見ていたようで、目がばっちりと合った。まだ話してはいけない雰囲気だったため、ミアはこしょこしょと内緒話をするように手を口元にかざすと、その男に話しかけた。
(柔軟終わったら同じペアで打ち合いするって言ってたから、挨拶しとかないとな。)
「よろしくお願いします。」
「こ、こここちらこそ、お、お、お願いします!」
ミアがにこっと笑顔を向けると、男は王族との会話で緊張しているのか、声が裏返っていた。
「ミア様はこちらへ!」
「はい。」
「開始!」との声がしてすぐ、指導者の男がミアに話しかけてきた。どうやら自分は別で柔軟をするようで、言われるままに列から抜ける。
「え…ッ!?」
指導者とガイアスの方へ小走りで向かうミアの後ろで、ペアになっていたであろう男の声が聞こえた。
「ガイアスとするの?」
「そうだ。ミアを誰かに触らせる気はない。」
「…ガイアス。」
ミアは、顔が緩みそうになるのと尻尾が揺れそうになるのを抑えるため、顔に力を入れた。
「はいはい。さっさと済ませてくださいっス!」
マックスは見つめ合う2人の間に入り、呆れた顔で自分の隊長を見た。
式後の処理も落ち着き、徐々に2人は共に過ごす時間が増えてきた。
仕事が終わったミアはガイアスの屋敷に帰り、部屋でソファに座りながらこれからのことを話した。
「今日から本格的にこっちに住むから、カルバン様が悲しんでいただろう。」
「うーん、たしかに泣いてたけど大丈夫!だって、今週末さっそく王宮に帰るんだから。…ガイアスは嫌じゃない?」
「俺はどこでも嬉しい。…ミアと居れるなら。」
「ガイアス…。」
お互いに見つめ合ってどちらともなく口を寄せると、触れ合う寸前のところで扉の向こうから声が掛かる。
「ご夕食の準備が整いました。」
その言葉に「今降りよう。」と返事をしたガイアスは、目の前の狼に微笑み、手を取って食堂のある1階へ降りた。
2人がどちらで暮らすのかは、結婚するまでの間に何度も話し合った。お互い、自国にいなければならない仕事であることなどを踏まえ、最終的に平日はサバル国のガイアスの屋敷に、そして休日はシーバ国の王宮に住むことで落ち着いた。
そもそもミアは王宮を出てガイアスの屋敷に住むつもりでいたのだが、王子という立場と、カルバンが怒りと悲しみを露わに騒いだので、結局頻繁に王宮に帰ることになってしまった。
明日は平日であるが、ミアは式後の手続きや処理を予定より早く終わらせたため特別に休みとなった。今日からここへ本格的に住むことになり、大好きなガイアスと一緒にいれることにテンションが上がっていたミアは、さっきの空振りのキスが惜しくて口をとがらせている。そんな表情に気付き、ガイアスは繋いだ手をぎゅっと握った。
「さっきの続きは、後でな。」
「…うん。」
耳がペタンと下がっているが尻尾はバサッと揺れている。
(恥ずかしいけど、嬉しいといったところか…。)
ガイアスは分かりやすい反応を示す伴侶を見て、くく…と笑った。
食事が終わり、風呂も済ませて布団に入ると、ガイアスが両手を開いた。その中へモゾモゾと動きながら入っていったミアは、厚い胸に収まり「へへ…」と笑った。
「明日は休みだな。ゆっくり寝ているといい。」
「うん。ガイアスを送ったら、2度寝するかも。」
「見送ってくれるのか?それは、仕事に行きたくなくなるだろうな。」
「お休みする?」
「…明日の午前中は、隊長会議だ。」
「はは、行かなきゃね。……早く帰ってきて。」
ミアはそう言ってガイアスを見上げて唇の下辺りにキスをする。
「…ずれてるぞ。」
「ガイアス、下向いて。」
言葉に従って顔の向きを下げるガイアス。ミアは尻尾が揺れそうになるのを抑えて、その唇にちゅっと口付けた。
ミアとガイアスは新婚であり、2人でいる時は常に甘い空気が漂っている。お互いにそれを理解しているにも関わらず、止めることができない。好きだという気持ちが溢れて堪らないのだ。
キスはどんどん深くなっていき、ガイアスは無意識に服の隙間から腰の模様に触れる。
「んん…、あ、するの?」
「どうしようか。」
(明日は早くに家を出るが…。)
しかし、仕事の無いミアのことを思うと、そういう行為をしても大丈夫か…という考えが優勢になる。手をさらに中に進め、柔らかい肌を手の平で撫でていく。
「ん、どうするの…?」
「そうだな…」
今日はこの屋敷でミアが暮らし出した日であり、使用人達と皆で夕食を取った。特別な日ということで酒もテーブルに並び、ほろ酔いの使用人達に囲まれてずいぶんと話し込んでしまった。そのため、いつも寝る時間よりだいぶ遅くにベッドに入った。
(ミアはさっきあくびをしていたし、本当は眠たいだろう。)
手は名残惜しく素肌から離せずにいるが、頭は徐々に冷静になってくる。
(明日は訓練もあるしな…、)
そう考えたところで、ミアに提案をした。
「ミア、明日自衛隊の訓練所に来るか?」
「え?!訓練所?」
急に言われた言葉は意外なもので、ミアは目を丸くする。
「明日は昼から第7隊の特別訓練なんだ。剣を振ってみるか?」
「そんなの…嬉しすぎるけど……いいの?」
「ああ。だが、参加できるか見学になるかはカルバン様次第だな。」
「えー…、分かった。明日頼んでみる。」
「訓練は昼からだから、隊長室に転移してくれたらいい。一緒に昼を取ろうか。」
「わ、それ…最高!」
(これは職権乱用か…?)
隊長の権限を利用していることに少しだけ後ろめたさを感じるが、腕の中から聞こえる「ふふ…」というご機嫌な声を聞くと、どうでもよくなってくる。
「明日はお弁当持っていくね。」
「楽しみだ。」
またどちらともなくキスをした2人は、明日に備えてそのまま眠ることにした。
次の日、ミアはお昼の時間に隊長室に転移した。
今朝、ガイアスの言う通りカルバンに訓練参加の許可を取りに行くと、思いの外あっさりとOKが出た。
(ちゃんと事前に聞けば良かったのか。)
イリヤに言ったら「当たり前でしょう。」と呆れられるだろう。休みの日にまで小言のうるさい従者を思い出してしまい、ミアはそれを忘れるために部屋の中に関心を移した。
「うーん、本当に何もない部屋だな。」
ベッドと机くらいしか家具の無い部屋をキョロキョロと見ていると、部屋の扉が開いた。
「ガイアス!」
「ミア、よく来たな。」
後ろにはケニーとマックスの姿もある。今日は一緒に訓練所に行くと言っていたため、2人によろしくと挨拶をした。
「ミア様、ご結婚おめでとうございます。」
「おめでとうございます!」
2人は笑顔で告げ、ミアも祝いの言葉にお礼を言う。
「2人が贈ってくれたランプ、綺麗な模様が出てきて毎晩楽しませてもらってるよ。」
「喜んでいただけて良かったです。」
「あれ、2人で選んだんっスよ!」
「…マックスはセンスの悪い柄を指差してたでしょうが。」
ミアは祝いの品のランプをかなり気に入っていた。ベッドライトに丁度良い優しい照明で、周りには植物を模した柄が入っており、暗闇の中で花や草が浮かび上がるのだ。そして1時間すれば自然に消えるので、眠くなっても安心だ。
少しの間、選んだのは誰かということで小さく揉めていた2人だったが、ミアの手にあるバスケットを見てマックスが話題を変えた。
「お昼持ってきたんっスか?」
「そうなんだ。でもケニーとマックスがいるって知らなくて、2人分しか用意してない…。」
「気にしないでくださいっス!俺達もう注文してるんで!たくさんあるし、良かったらミア様もどうっスか?」
「…おい、一緒に食べる気なのか?」
ガイアスが、ミアとマックスの会話に入ってくる。
「えー!だって大勢の方が楽しいじゃないっスか!ね、ミア様!」
マックスはそう言うと、注文が届いたとの電話が鳴ったようで部屋から慌ただしく出ていった。
「すまないな。」
「ううん、俺も皆でワイワイ食べるの好きだよ。」
「ここはテーブルが狭いから、執務室で食べようか。」
「うん!」
ガイアスは目の前の細い腰に自然に手を回すと、隣の部屋であるにも関わらずミアをエスコートして扉を開けた。
4人で昼食を食べ、室外の訓練場に向かう。
「ミア様、本当に剣を振るんっスね。…なんかまだ信じられないっス。」
マックスは、ガイアスに守られるように歩く小さい身体を見る。
「ミアは俺達と違って細かい動きもできるし、最近では俺ともまともに打ち合うぞ。」
「え、まじっスか?」
過大評価な気もするが、師匠に褒められてミアの顔が少しにやけた。
雑談をしていると、あっという間に訓練所に着く。隊員達は既に全員集まっているらしく、前回と同じ指導者の男が、こちらに近寄ってきた。
「ミア様、ご結婚おめでとうございます。」
ここでも祝いの言葉をもらい、ミアはありがとうと感謝を伝えた。
「前回は見学だったんですが、今日は参加させてください。もし邪魔な場合は遠慮なく言ってくださいね。」
ミアがよろしくお願いしますと頭を下げると、指導者の男はたじろぎながらも頷いた。
訓練所はガイアスとミアの登場でざわついている。それでも事前にミアが来ることが伝えられていたため、驚くといった様子ではなく、あくまで皆憧れの隊長とその伴侶に興味があるだけのようだ。
「はいはい!ちゅうもーーーく!!」
ひそひそ声がどんどん大きくなりざわめき始めた訓練所が、マックスの声でスッと静かになる。
「朝伝えた通り、今日の特別訓練はガイアス隊長とミア様がお越しっス!気合入れるのもいいっスけど、無駄な怪我だけはしないように!」
「「「はい!」」」
隊員達の揃った大きな返事が聞こえ、ミアはびっくりしてしまう。
(マックスってふざけててひょうきんなイメージだったけど、訓練の時はこんな感じなんだ…。)
マックスとケニーは、普段は補佐という役職に就き隊を支えている。そしてこの隊の副隊長であるジェンが他の隊に指南に行っていた間は、2人で副隊長代理として仕事をこなしていたのだ。彼らもまた隊員達にとって憧れの存在である。
ミアが2人に感心していると、ガイアスが全員に声を掛けた。
「今日は特別訓練初日だ。この結果で次の遠征の振り分けをする予定なので、そのつもりで臨むように。そして、今日は俺の伴侶も訓練に参加する。彼は剣の心得が既にあるので、打ち合いの際も手加減は不要だ。以上。」
「「「はい!」」」
(手加減は不要って……なんか嬉しいな。)
師匠であるガイアスが自分の剣の腕を認めているといった発言に、ミアはグッと胸が熱くなった。
ガイアスからの話は以上となり、指導者の男が今日の流れを説明する。話を聞いていて分かったことだが、今日はミアが前回見学した訓練とは違った特別なものらしい。仕組みを詳しく聞こうと、隣にいるケニーに話しかける。
「ガイアスはいつも訓練に参加しないの?」
「そうですね。前回ご覧になったのは、通常訓練と言って主に若い騎士や新人が参加するものです。そこに隊長や副隊長は基本参加しません。今日は特別訓練といって、剣に優れた者ばかりが集められています。遠征の降り分けが主な目的ですが、ここで剣舞団の候補となる方を選ぶこともあります。」
「へぇ~。ガイアスも剣舞団の一員なんだよね?」
「はい。ガイアス隊長の剣の腕は、他の隊長の方々と比べてもずば抜けていますからね。」
「そんなに凄いんだ。」
今まで、ガイアスがサバル国の剣舞団として舞う姿を2回見た。そして自分の誕生日のお披露目式では、甲冑を被っていて誰が誰だか分からない状態でもガイアスの動きに目が捕らわれた。
(その後、ガイアスと……。)
自分達が想いを伝え合った日のことを思い出して、一人心の中で騒いでいると、指導者の男とともにガイアスがミアの側へ戻ってきた。
「では、ミアを頼む。」
「承知しました。」
男にミアを預け、ガイアスが剣を手渡す。
「あちらに入って下さい。」と男に言われるまま、ミアは最前列の真ん中の列に入った。
痛いくらいの視線がミアに向けられている。ガイアスは、横や後ろからミアを見ては顔を赤くしている隊員達に少し苛立つ。
(こんなことで怒っては駄目だ。いつものことじゃないか…。)
ミアはこれしきの視線には慣れているため平気であり、指導者の男の方をまっすぐ見て頷いている。本人が気にしていないのだから、不躾に「見るな!」というのも憚られる。ガイアスはミアが一生懸命に学ぼうとする姿のみに集中した。
一通りの説明が終わり、指導者の男が準備運動を促す。
「右から隣同士一組で柔軟をするように。」
(右から数えて…ってことは、俺のペアはこの人か。)
ミアは隣の自衛隊員をチラッと見る。相手もこちらを見ていたようで、目がばっちりと合った。まだ話してはいけない雰囲気だったため、ミアはこしょこしょと内緒話をするように手を口元にかざすと、その男に話しかけた。
(柔軟終わったら同じペアで打ち合いするって言ってたから、挨拶しとかないとな。)
「よろしくお願いします。」
「こ、こここちらこそ、お、お、お願いします!」
ミアがにこっと笑顔を向けると、男は王族との会話で緊張しているのか、声が裏返っていた。
「ミア様はこちらへ!」
「はい。」
「開始!」との声がしてすぐ、指導者の男がミアに話しかけてきた。どうやら自分は別で柔軟をするようで、言われるままに列から抜ける。
「え…ッ!?」
指導者とガイアスの方へ小走りで向かうミアの後ろで、ペアになっていたであろう男の声が聞こえた。
「ガイアスとするの?」
「そうだ。ミアを誰かに触らせる気はない。」
「…ガイアス。」
ミアは、顔が緩みそうになるのと尻尾が揺れそうになるのを抑えるため、顔に力を入れた。
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