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第48話 イベント④の前準備
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俺はおかしいのかもしれない……。
いや、この世界に来てすぐに状況を理解したり、男とのハッピーエンドに奮起しているあたりでもう充分におかしいのだが、今はその比ではない。
(シバを見るだけでドキドキする!)
例えば朝、名前を呼ばれるだけで心臓がバクバクとうるさい。そして仕事終わり、挨拶と共にハグをされれば、顔が耳まで熱くなる。
そして、毎回シバにそれを指摘されるのだ。
『真っ赤で可愛いな』
シバにそう言われながら耳を指で撫でられて、平然としていられる人なんているのだろうか。いや、いないだろう。
「練習は止めて下さい」と言っても、からかうように笑いながら、「練習じゃない」と言ってくる。
これでは、いつまで経っても『友達としての好き』になれないじゃないか。最近の悩みはもっぱらシバに関することだ。
レベッカに関する誤解が解けてから、シバは前以上に距離が近くなった。言動も、表情も、最初のぶっきらぼうな態度が嘘のようだ。とは言っても、今もそんなに表現が豊かな方ではないのだけれど。
(でも、今日はアックスに集中しないと!)
今日はイベント④に繋がる大事な日だ。俺は自室を確認しながらアックスがドアベルを鳴らすのを待った。
コンコンッ
「あ、アックスだ!」
自室のテーブルの目立つ位置に置いた『思い出の押し花』を確認して玄関へ向かう。
今日は、俺がアックスを夕食に誘ったのだ。これは必要不可欠なイベントであり、必ず成功させねばならない。
「アックス。お疲れ様です」
「セラもな」
挨拶をして、どうぞとリビングに招く。アックスは着替えてきたらしく、黒いニットに黒いズボンとラフな格好だ。
「外は冷えたでしょう。暖房の前に行ってください」
「俺は体温が高いから大丈夫だ」
「鍛えているから基礎代謝が良いんですかね」
「かもな。あ、そうだ。これなんだが、」
アックスはそう言って、俺に紙袋を手渡す。俺はほんのり温かいそれに、首を傾げた。
「今日、同僚に飲み会に誘われたのを、セラと会うからと断ったんだ。そしたら、前の礼がしたいって……勝手にいろいろ注文したみたいだ」
「わぁ、こんなに沢山ですか?」
レストランから酔った俺を連れ帰ってくれたアックスの同僚達は、俺がお礼にと渡したお菓子とパンに喜んでくれた。そして、そのお礼が今回のコレというわけだ。
「これじゃお返しが終わらないですね。あ、こっちに座ってください」
立ったまま会話をしていたことに気付き、俺は席に座るように椅子を引く。アックスは座り、俺はお茶でも淹れようと台所へ向かった。
台所でお土産の袋を開けて中身を確認する。
「わ、美味しそうですね!」
「帰ったらちょうど出前が来てたんだ。あいつらが勝手に頼んだから心配していたが、好きそうで安心した」
「今夜はごちそうになりそうです。俺も何品か用意してるので、一緒に温めて出しますね」
「ありがとう」
俺は紙袋にぎっちりと入っている様々な料理を見て、お腹が空いてきた。
鍋に掛けていたスープを温めながら、沸かしていたお湯でお茶を淹れた。
「どうぞ」
俺が机に二つ置くと、アックスはそれを飲んで驚いた顔をしていた。
「セラはお茶を淹れるのが上手いな」
「毎日淹れてるので、得意になってきたのかもしれないです」
俺は、ふふん! と少し得意げになる。
「毎日飲むのか?」
「俺というより、アインラス様がお好きなので」
「上司のお茶を毎日セラが淹れてるのか?」
「はい」
「それは、」
(え、言ったら駄目だったのかな? これでシバの評価が下がったらどうしよ)
少し含みを持たせて黙ったアックスの続きを待つ。
「羨ましいな」
「……へ?」
「俺のとこはガサツな奴ばかりで、茶も苦かったり薄かったり、ろくなものが出ないんだ」
はぁ~と溜息をつくアックスは、日頃とんでもないお茶を飲んでいるのだろう。
「セラが騎士棟で働いたらどんなにいいか」
「一日体験入団なんてできたら楽しそうですね」
「それいいな。団長に頼んでみようか」
「はは、ぜひ」
アックスが冗談っぽく言うので、とりあえずそれに乗っておいた。
「そろそろかな」
鍋の中が気になり、台所に戻って様子を見る。
(他の料理は温かいし、そのまま出していいよね)
「これは何だ?」
スープが沸騰しないよう鍋を見ていると、アックスが後ろから鍋の中を覗き込んできた。
「お味噌汁です。中に野菜と貝が入ってます」
「海沿いの店で見たアレか?」
前に二人で海辺のレストランに行った時、みそ汁に似た料理を見てアックスがどんな味だろうかと気にしていたのだ。今日はそれを再現してみた。
「はい。近い味になってると思いますよ」
「次に行ったら食べようと決めていたんだ。まさかセラが作ってくれるなんて」
「ははっ、凄く簡単なんですよ。うちでは朝食でよく食べます」
「朝食べるのか。たしかに匂いからして、飲んだ次の日には最高だな」
アックスの言葉はまさにその通りで、前世のテレビで同じ台詞を聞いたことがある。
飽きずにじっと鍋を見ているアックスの様子は子どものようで、なんだか可笑しかった。
いや、この世界に来てすぐに状況を理解したり、男とのハッピーエンドに奮起しているあたりでもう充分におかしいのだが、今はその比ではない。
(シバを見るだけでドキドキする!)
例えば朝、名前を呼ばれるだけで心臓がバクバクとうるさい。そして仕事終わり、挨拶と共にハグをされれば、顔が耳まで熱くなる。
そして、毎回シバにそれを指摘されるのだ。
『真っ赤で可愛いな』
シバにそう言われながら耳を指で撫でられて、平然としていられる人なんているのだろうか。いや、いないだろう。
「練習は止めて下さい」と言っても、からかうように笑いながら、「練習じゃない」と言ってくる。
これでは、いつまで経っても『友達としての好き』になれないじゃないか。最近の悩みはもっぱらシバに関することだ。
レベッカに関する誤解が解けてから、シバは前以上に距離が近くなった。言動も、表情も、最初のぶっきらぼうな態度が嘘のようだ。とは言っても、今もそんなに表現が豊かな方ではないのだけれど。
(でも、今日はアックスに集中しないと!)
今日はイベント④に繋がる大事な日だ。俺は自室を確認しながらアックスがドアベルを鳴らすのを待った。
コンコンッ
「あ、アックスだ!」
自室のテーブルの目立つ位置に置いた『思い出の押し花』を確認して玄関へ向かう。
今日は、俺がアックスを夕食に誘ったのだ。これは必要不可欠なイベントであり、必ず成功させねばならない。
「アックス。お疲れ様です」
「セラもな」
挨拶をして、どうぞとリビングに招く。アックスは着替えてきたらしく、黒いニットに黒いズボンとラフな格好だ。
「外は冷えたでしょう。暖房の前に行ってください」
「俺は体温が高いから大丈夫だ」
「鍛えているから基礎代謝が良いんですかね」
「かもな。あ、そうだ。これなんだが、」
アックスはそう言って、俺に紙袋を手渡す。俺はほんのり温かいそれに、首を傾げた。
「今日、同僚に飲み会に誘われたのを、セラと会うからと断ったんだ。そしたら、前の礼がしたいって……勝手にいろいろ注文したみたいだ」
「わぁ、こんなに沢山ですか?」
レストランから酔った俺を連れ帰ってくれたアックスの同僚達は、俺がお礼にと渡したお菓子とパンに喜んでくれた。そして、そのお礼が今回のコレというわけだ。
「これじゃお返しが終わらないですね。あ、こっちに座ってください」
立ったまま会話をしていたことに気付き、俺は席に座るように椅子を引く。アックスは座り、俺はお茶でも淹れようと台所へ向かった。
台所でお土産の袋を開けて中身を確認する。
「わ、美味しそうですね!」
「帰ったらちょうど出前が来てたんだ。あいつらが勝手に頼んだから心配していたが、好きそうで安心した」
「今夜はごちそうになりそうです。俺も何品か用意してるので、一緒に温めて出しますね」
「ありがとう」
俺は紙袋にぎっちりと入っている様々な料理を見て、お腹が空いてきた。
鍋に掛けていたスープを温めながら、沸かしていたお湯でお茶を淹れた。
「どうぞ」
俺が机に二つ置くと、アックスはそれを飲んで驚いた顔をしていた。
「セラはお茶を淹れるのが上手いな」
「毎日淹れてるので、得意になってきたのかもしれないです」
俺は、ふふん! と少し得意げになる。
「毎日飲むのか?」
「俺というより、アインラス様がお好きなので」
「上司のお茶を毎日セラが淹れてるのか?」
「はい」
「それは、」
(え、言ったら駄目だったのかな? これでシバの評価が下がったらどうしよ)
少し含みを持たせて黙ったアックスの続きを待つ。
「羨ましいな」
「……へ?」
「俺のとこはガサツな奴ばかりで、茶も苦かったり薄かったり、ろくなものが出ないんだ」
はぁ~と溜息をつくアックスは、日頃とんでもないお茶を飲んでいるのだろう。
「セラが騎士棟で働いたらどんなにいいか」
「一日体験入団なんてできたら楽しそうですね」
「それいいな。団長に頼んでみようか」
「はは、ぜひ」
アックスが冗談っぽく言うので、とりあえずそれに乗っておいた。
「そろそろかな」
鍋の中が気になり、台所に戻って様子を見る。
(他の料理は温かいし、そのまま出していいよね)
「これは何だ?」
スープが沸騰しないよう鍋を見ていると、アックスが後ろから鍋の中を覗き込んできた。
「お味噌汁です。中に野菜と貝が入ってます」
「海沿いの店で見たアレか?」
前に二人で海辺のレストランに行った時、みそ汁に似た料理を見てアックスがどんな味だろうかと気にしていたのだ。今日はそれを再現してみた。
「はい。近い味になってると思いますよ」
「次に行ったら食べようと決めていたんだ。まさかセラが作ってくれるなんて」
「ははっ、凄く簡単なんですよ。うちでは朝食でよく食べます」
「朝食べるのか。たしかに匂いからして、飲んだ次の日には最高だな」
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飽きずにじっと鍋を見ているアックスの様子は子どものようで、なんだか可笑しかった。
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