【改訂版】鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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第50話 白いふわふわ

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「父さん! 大丈夫、じゃないよね?」
「ごめんねセラ。ラルクさん」
 次の日の朝、シシルは医務室のベッドで目を覚ました。ここへ運ばれたのは、王の馬車にひかれた時以来だ。
 昨夜はラルクさんが一緒にここへ泊まると言ってくれたので、俺は部屋へ戻り、早朝様子を見に来た。
 白いベッドの上で、仰向けに寝ていたシシルが起き上がって俺達に申し訳なさそうに話す。
「大げさに腫れてるけど、軽い打撲だって」
「うう、俺のせいです! 酔っているシシルさんを一人にするなんて」
 ラルクは腫れて赤くなったシシルのおでこを泣きそうな顔で見ている。
「シシルさん、今日は部屋でゆっくり過ごしましょう。セラさんはどうします?」
「俺は、」
 今日は、シシルとラルクと出掛ける予定だった。
 二人が言うには、影絵の展示が街であるらしい。夕方から日が沈むまでの僅かな時間だが、その時間になると大きなパネルに各国の有名作家の影絵が並び、それを見たさに多くの人が集まる。
 幻想的な雰囲気が漂い、子どもから大人まで楽しめる芸術祭だ。
 俺は、この祭の存在を知っている。なぜなら、王の側近ウォルのルートに入っていれば発生する重要イベントのメイン場所だからだ。作業のBGMとして、動画サイトのウォル攻略を掛け流していただけなので、どんな雰囲気か詳細は分からないが、一枚絵を見たゲーム実況者は「めっちゃキレイやん!」と声を大きくして言っていた。
「一人で影絵祭見に行ってみようかなぁ」
 俺が街に出掛けることを告げると、二人は一緒に行けないことを残念がっていた。
「あの~、元気ならさっさと出てってもらえますか?」
 ワイワイと盛り上がる俺達を遮るように、医務室の担当医務官が困った顔で告げた。

 シシルとラルクは薬を貰ってから帰るというので、俺は先に部屋へ戻る。
 さっきは一人で祭に行こうかと考えていたが、ふとシバにも予定を聞いてみようと考え、電話の受話器を握りしめる。
 シバは今日、休み返上で仕事の予定が入っている。
 早朝に医務室へ行ったため、今はまだ朝の七時だ。シバの出勤まではまだずいぶんある。しかし、眠っているのであれば起こすのも失礼だ。俺はどうしようかと悩み、何回も受話器を取ったり置いたりを繰り返す。
「いや、やっぱり誘ってみよう!」
 俺は勇気を出してシバの部屋の番号を押す。
「はい」
「おはようございます。セラ・マニエラです。朝早くにすみません」
「マニエラ? おはよう。まだ出掛けないから気にしなくていいが、どうした?」
「今日なんですが、夕方頃は戻られていますか?」
「夕方か……。城には日が暮れてから帰る予定だが」
「そうですか」
「どうかしたのか?」
「いえ。重要なことではないので気になさらず」
「マニエラ、何かあったんじゃないのか?」
「いえいえ! 本当に何でもないんです! では、またお仕事の時に」
「ああ」
「失礼します」
 ガチャン……
 電話を切って、「はぁ~」と声を出す。
(やっぱ無理だよね。仕事だって言ってたのに急に電話なんてしちゃった。今度ちゃんと謝ろう)
 それからしばらくリビングに突っ伏していたのだが、自室にのそのそと戻りベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
「あ、ラルクさん?」
 シシルの声が聞こえて目が覚める。
(あ、二人とも帰ってきたのか)
 時計を見ると、昼をとっくに過ぎていた。俺はガバッと起き上がり、元々少し開いていたリビングへの扉をさらに開けた。
「シシルさん」
 俺の目の前には、シシルを後ろから抱きしめるラルク。そして顔を赤くしたシシルが顔を後ろに向けラルクの頬にキスしようとしていた。
「あ……、」
 思わず声を出してしまい、二人が勢いよくこちらを向く。
「セ、セラ⁉ わぁあああ!」
「セラさん!」
 二人は俺に気付くと、バリッと音がしそうな程に身体を離す。そして真っ赤な顔でこちらを見た。どうやら、俺が既に出掛けたと思っていたようだ。
「あのさ、安静にしないと駄目だよ」
 俺がそう言うと、二人は俺の元へ駆け寄ってきた。
「セラ、ちがッ……!」
「セラさん、これは俺からしたんです!」
 いかがわしい行為を始めるつもりはなかったと焦るシシルと、謎の言い分でシシルを庇うラルク。
 大人二人が焦ってあわあわしている様子がおかしく、軽く笑う。
「ふふ、俺子どもじゃないんだから、何も思わないよ」
「セラ……」
「じゃあ俺、着替えたら街に行こうかな」
 真っ赤な顔の二人を残して、俺は自室に入る。扉に背をつけると一呼吸した。
(ええええええー!)
 俺は一人になって、やっと頬がカッカとしてきた。
(父さんとラルクさんって、やっぱりキスとかしてるんだ!)
 ラルクの無邪気な雰囲気と、シシルのふわふわした感じから、二人はそういう行為とは無縁なのだと勝手に思っていた。
(でも二人とも大人だし、これが当たり前だよね)
 俺はアックスの顔を思い浮かべる。
 もし彼と付き合ったら先程のような事をするわけで。俺はラルクとシシルをアックスと自分に当てはめてみた。アックスの手が腰に回り、俺が振り返ってキスを……と考えたところで、妄想のアックスの顔がシバに切り替わる。
(わぁ~! 違う! アックスで想像しなきゃ意味ないのに!)
 恥ずかしさをごまかすためにバタバタと動き回りベッドにダイブする。そんな俺の様子をリビングにいる父やラルクがどう思うか……今の俺にはそこまで気を回す余裕がなかった。

「セラ、寒いから白い帽子も被って行きなさい」
「えー、あれ似合わないからやだよ」
 出掛けようと玄関で靴を履いていると、シシルが俺の恰好にマフラーを追加してきた。さらに帽子も持っていくよう言ってくる。
 白いマフラーに白い帽子は子どものようで嫌だと抗議するが、シシルはそれを無視して無理矢理被せてきた。
「わぁ、いい感じ! 白はセラの為に生まれた色だね!」
「セラさん、最高に似合ってますよ!」
 子どもの撮影スタジオにいるかのごとく大げさにおだてられ、しかたなく立ち上がると「行ってきます」と言って部屋を出た。
(俺、もうすぐ二十歳なんだけど)
 成人してからは、黒の似合う大人な男性になろうと新たな目標を立てた。

 宿舎の庭を抜け、門へ向かう。騎士棟の方から何人か騎士が歩いてきており、その中にアックスの同僚がいるのが見えた。彼を含む大柄な男四人でワイワイと談笑している。
 声を掛けようと近寄ると、俺の存在に気付いて手を振ってきた。
「セラ!」
「お疲れ様です」
 ぺこっとお辞儀をすると、隣を歩いていた騎士が「誰だ?」と彼をつついた。
「武器管理課のシシルさんの息子だよ。アックスの知り合いで、この間騎士棟に来たんだ」
「息子⁉ 嘘だろ? 弟じゃなくて?」
 一体シシルを何歳だと思っているのだろうか。驚いた騎士は、他の騎士達にシシルと俺の話をして盛り上がっている。
「セラ、可愛い格好してるがどっか行くのか?」
 アックスの同僚の騎士が聞いてくる。
(やっぱこの帽子とマフラー、子どもみたいなんだ!)
 男の言葉に軽くショックを受けながらも行き先を答える。
「今から影絵祭に行くんです」
「誰かと待ち合わせか?」
「いえ、一人で行くつもりですけど」
 俺の言葉に、盛り上がっていた三人の騎士のうちの一人が驚いた顔をし、俺達の会話に入ってきた。
「影絵祭に一人で行くなんて、勇気あるな! 俺は無理だぜ」
「え、一人で行かない方がいいんですか?」
「ありゃ相手がいるヤツ用の祭だろ!」
「え、そうなんですか?」
 男の言葉に、クリスマスのイルミネーションと一緒かな……と考えていると、他の騎士がそれに突っ込む。
「いやいや、子ども連れも結構いたぞ。去年、非番の奴らと行ったんだがなかなか面白かった」
「いつものメンツか? どうせその後すぐ飲みにいったんだろ」
 三人で昨年の祭はああだった、こうだったと話し出した騎士達を放って、アックスの同僚の男が俺に笑いかける。
「アックスはセラと一緒に行きたかっただろうな」
 もちろんアックスと一緒に――とも考えたが、今日は仕事だと予め聞いていたため、誘うこともできなかった。
「アックスはお仕事中ですよね? しょうがないですよ」
「セラが寂しがってたって伝えとくな」
「ははっ、お願いします」
 男は俺の頭をふわふわとした帽子越しに撫でると、「またな」と言って他の騎士達と帰って行った。
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