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攻略者との再会
俺はシバに腕を引かれながら文官棟へ向かう。
(怒ってる…のかな。)
何も喋らないのはいつも通りだが、今は背中から怒りのオーラを感じる。そして、鬼文官に手を引かれている俺を見て、城の人達はギョッとした目をしている。
(ああ、俺が今から怒られるって思ってんだろうなぁ。)
しかも、シバが来たせいでイベントも最後まで出来なかった。そのせいでアックスの好感度が下がっていたら非常に困る。俺が、はぁ……と溜息をつくと、シバがピタッと歩みを止めた。
「……わッ、」
急に止まったシバに驚く。
今は文官棟の前だが、定時が過ぎてずいぶんと経つため誰も居ない。
「…痛かったか?」
何のことか分からず首を傾げる。しかしシバが、掴んでいる腕を離してこちらを振り向いたので、彼が俺の腕を心配していたのだと分かった。
「腕ですか?大丈夫です。」
実際、シバは強く掴んでいたわけではない。俺は自分の意志で付いて来ただけなので引っ張られることもなく、どちらかと言えば手を繋いで歩いていた感覚だった。
「仕事と聞きましたが、何か誤りがありましたか?」
恐る恐る尋ねる。シバはその言葉に何故か「……ああ、」と視線を逸らした後、「一緒に食事でもどうだ。」と呟いた。
(え……?どういうこと?食事って、そこでゆっくり仕事のことを話すの?)
「あの、今からですか?」
「そうだ。」
俺は手に持っている大量のパンを見て、これは明日の朝に食べることにした。
「パンを置きに部屋へ帰っても良いですか?」
「一緒に行く。」
(俺の部屋まで付いてくるの?!)
待ち合わせでも良いと伝えるが、「大丈夫だ。」と言われると頷くしかない。
俺はシバと共に自分の部屋のある宿舎まで歩いた。
「ここですか?」
「そうだ。」
俺が連れて来られたのは、落ち着いた雰囲気のレストランだ。城の近くであり、ちらほら見たことのある顔がいるが、みな役職に就いていそうな風貌だ。
(緊張するなぁ……。)
目の前で店員に注文をしているシバに目を向ける。
慣れない雰囲気の店であり、なかなか料理を決められない俺は、シバに全てを任せることにした。
一通り頼んで、最初に炭酸のジュースが出てくると、俺は「ありがとうございます。」とそれを受け取った。シバがビールを持ち、俺は乾杯のためにおずおずとグラスを近づける。
「あの、ありがとうございます。」
「礼はもういい。」
カチンとグラスの音がして、俺達の食事が始まった。
「今日の仕事ですが、何かありましたか…?」
「正直に言ったら、君は怒るか?」
(どういう意味?)
むしろ正直に言ってもらわないと困る……と思いながら、「いえ。」と返事をする。
「ただ君を、夕食に誘いに来ただけだ。」
「え……?では、そう言って下さったら良かったのに。」
(俺を誘うためだけにわざわざ?)
話の流れで、今日城の近くのパン屋に行くことや、そこで街から帰ったアックスと会うことは伝えていたが、まさかその場に来るとは思わなかった。
「トロント殿がいたので、あからさまに君を誘うのは気が引けた。」
「え、アックスがどうかしたんですか?」
俺は意味が分からず、説明を待つ。そんな俺の様子にシバが珍しく口ごもる。
「その、君達は仲が良いようだから。」
そう言って黙ってしまったシバ。もうこれ以上は何も言わないだろうと、俺は「あの、」と声を発した。
「普通に誘って下さったら良いのに。仕事で失敗したと思って……肝が冷えました。」
ふぅ~……と息をつくと、それを聞いたシバは「すまない。」と謝った。
(俺の上司、不器用すぎる……。)
俺は微笑んで「いえ。」と返す。シバは少し驚いたような表情をした。
「トロント殿とは何もないのか?特別な関係ならば申し訳ないと思ったが、」
「……な、何も無いですけど。」
「そうか。」
『何か』も何も、まだ攻略がスタートしたばかりだ。
(その『何か』があってくれたら、俺の人生も安泰なんだけど。)
俺を見つめているシバに、「貴方があと5分遅く誘いに来てくれたら良かったんですけどね!」と言いたくて堪らなかった。
「美味しい!」
「良かった。」
俺は目の前の料理に目を輝かせた。食堂のご飯は確かに美味しいが、大人数分作っているためほとんどが大味だ。今食べている料理は日本食に近く出汁が効いており、あちらの世界を思い出させる。
(行ったことはないけど、料亭で出てきそうな味だな。)
料理が出てくる度に驚く俺に、シバは少し微笑んでいた……ように感じた。
「あれ?君……。」
急にテーブルに影が落ち、誰かが話しかけてきた。
俺はその声の主を見て固まる。席を見下ろしているのは、攻略者である第二王子エヴァンだった。
(急にイベント発生?!)
俺は記憶を辿る。ながら作業で見た動画に『エヴァン攻略までの3日間』というのものがあった。ぼんやりと覚えているだけだが、上司と出かけた先で、お忍び風のエヴァンと出会うのだ。ここでは特に重要な絡みはなく、軽く会話をして別れる。
「君、元気だった?」
「はい。殿下も、」
「しっ、一応お忍びなんだ。」
俺は唇にひと指し指を当てられ、背筋がゾッとする。
そもそも俺は男に興味は無い。生きていくためにアックスとハッピーエンドを迎えたいだけなので、アックス以外の男に絡まれても嬉しくも何ともないのだ。
(しかも、こんな闇有り王子絶対嫌だ!)
ヤンデレとでも言うのだろうか……見た目からは大らかな印象を受けるが、その裏には第二王子としての苦難から歪んでしまった性格が徐々に顔を出すのだ。
(それを主人公が優しく包み込み……って、そんなこと俺にはできない。)
俺は顔を後ろに引くと、「失礼しました。」と頭を下げた。シバを見ると、人でも殺しそうな顔で俺達を見ている。
「すぐ戻らないといけないから、また会おうね。」
それだけ言うと、エヴィンは爽やかに去っていった。
「殿下と知り合いだったのか。」
「先日、廊下でぶつかってしまって……そのうち俺のことなんて忘れますよ。」
『そうなってくれ!』という思いを込めて、湯気を失った食事を見つめた。
帰ってくると、父とラルクがリビングで談笑していた。
「おかえり~。パンありがとね。まだ沢山あるから明日の朝に皆で食べよう。」
「セラさん、ありがとうございました。」
(今日、ラルクさんはここに泊まるのかな?)
ラルクも父も部屋着であり、近くの椅子の上には彼の着替えも置いてある。
部屋は1つ余っているし、そこには前の家に置いていたベッドが届いたばかりだ。男1人くらいなら泊まれないことはないが、たった数日でなぜここまで仲良くなったのかと不思議に思う。
「じゃあ2人とも、また明日。」
「おやすみ、セラ。」
「おやすみなさい、セラさん。」
俺は父とラルクに挨拶をして自室へ入った。
「あ~!今日は何もうまくいかなかった。」
俺はベッドに倒れこむ。今、俺の部屋には荷物の入った箱が積み重なっている。これらは俺と父が前住んでいた家から送られてきたもので、今日は先に仕事を終えた父がそれを受け取り、休みであるラルクと片付けをすると言っていた。
(ラルクさんはよく父さんの面倒を見てくれるなぁ……。)
俺がハッピーエンドを迎えるまでは、イベントで忙しく父にあまり構うことはできないだろう。ゲーム内でも、父との交流はあまり描かれていなかった。
ぽやぽやとしており危なっかしい父を助けてくれるラルクの存在は、俺にとってありがたかった。
(それにしても、今日はアックスとのイベントも最後までできなかったし、第二王子には突然会うわで……正直、疲れた。)
そしてシバとの夕食もそうだ。上司との食事とあってずっと緊張していた。
(とにかく、明日こそは誰にも邪魔されずにアックスと過ごす!)
俺は相当疲れていたのか、そう決意してすぐに瞼が重くなり目を閉じた。
「おはよう~!」
「おはようございます。」
朝、目が覚めてリビングに行くと、父とラルクが朝食の準備をしていた。
やはり昨日は泊まったのか、昨日の寝間着のままでカップにお湯を注ぐ姿は、起きてまだ30分も経っていないだろう。
俺は席に着いて、温まったパンを口に運ぶ。
「あ、美味しい。」
1日経ってもフカッとしたパンに感動しつつ、アックスの顔を思い浮かべる。
(今日またお礼言わないとな……。)
今日も偶然を装ってアックスに会うのだ。その前に……と、俺は頭の中で会話選択の準備をした。
(怒ってる…のかな。)
何も喋らないのはいつも通りだが、今は背中から怒りのオーラを感じる。そして、鬼文官に手を引かれている俺を見て、城の人達はギョッとした目をしている。
(ああ、俺が今から怒られるって思ってんだろうなぁ。)
しかも、シバが来たせいでイベントも最後まで出来なかった。そのせいでアックスの好感度が下がっていたら非常に困る。俺が、はぁ……と溜息をつくと、シバがピタッと歩みを止めた。
「……わッ、」
急に止まったシバに驚く。
今は文官棟の前だが、定時が過ぎてずいぶんと経つため誰も居ない。
「…痛かったか?」
何のことか分からず首を傾げる。しかしシバが、掴んでいる腕を離してこちらを振り向いたので、彼が俺の腕を心配していたのだと分かった。
「腕ですか?大丈夫です。」
実際、シバは強く掴んでいたわけではない。俺は自分の意志で付いて来ただけなので引っ張られることもなく、どちらかと言えば手を繋いで歩いていた感覚だった。
「仕事と聞きましたが、何か誤りがありましたか?」
恐る恐る尋ねる。シバはその言葉に何故か「……ああ、」と視線を逸らした後、「一緒に食事でもどうだ。」と呟いた。
(え……?どういうこと?食事って、そこでゆっくり仕事のことを話すの?)
「あの、今からですか?」
「そうだ。」
俺は手に持っている大量のパンを見て、これは明日の朝に食べることにした。
「パンを置きに部屋へ帰っても良いですか?」
「一緒に行く。」
(俺の部屋まで付いてくるの?!)
待ち合わせでも良いと伝えるが、「大丈夫だ。」と言われると頷くしかない。
俺はシバと共に自分の部屋のある宿舎まで歩いた。
「ここですか?」
「そうだ。」
俺が連れて来られたのは、落ち着いた雰囲気のレストランだ。城の近くであり、ちらほら見たことのある顔がいるが、みな役職に就いていそうな風貌だ。
(緊張するなぁ……。)
目の前で店員に注文をしているシバに目を向ける。
慣れない雰囲気の店であり、なかなか料理を決められない俺は、シバに全てを任せることにした。
一通り頼んで、最初に炭酸のジュースが出てくると、俺は「ありがとうございます。」とそれを受け取った。シバがビールを持ち、俺は乾杯のためにおずおずとグラスを近づける。
「あの、ありがとうございます。」
「礼はもういい。」
カチンとグラスの音がして、俺達の食事が始まった。
「今日の仕事ですが、何かありましたか…?」
「正直に言ったら、君は怒るか?」
(どういう意味?)
むしろ正直に言ってもらわないと困る……と思いながら、「いえ。」と返事をする。
「ただ君を、夕食に誘いに来ただけだ。」
「え……?では、そう言って下さったら良かったのに。」
(俺を誘うためだけにわざわざ?)
話の流れで、今日城の近くのパン屋に行くことや、そこで街から帰ったアックスと会うことは伝えていたが、まさかその場に来るとは思わなかった。
「トロント殿がいたので、あからさまに君を誘うのは気が引けた。」
「え、アックスがどうかしたんですか?」
俺は意味が分からず、説明を待つ。そんな俺の様子にシバが珍しく口ごもる。
「その、君達は仲が良いようだから。」
そう言って黙ってしまったシバ。もうこれ以上は何も言わないだろうと、俺は「あの、」と声を発した。
「普通に誘って下さったら良いのに。仕事で失敗したと思って……肝が冷えました。」
ふぅ~……と息をつくと、それを聞いたシバは「すまない。」と謝った。
(俺の上司、不器用すぎる……。)
俺は微笑んで「いえ。」と返す。シバは少し驚いたような表情をした。
「トロント殿とは何もないのか?特別な関係ならば申し訳ないと思ったが、」
「……な、何も無いですけど。」
「そうか。」
『何か』も何も、まだ攻略がスタートしたばかりだ。
(その『何か』があってくれたら、俺の人生も安泰なんだけど。)
俺を見つめているシバに、「貴方があと5分遅く誘いに来てくれたら良かったんですけどね!」と言いたくて堪らなかった。
「美味しい!」
「良かった。」
俺は目の前の料理に目を輝かせた。食堂のご飯は確かに美味しいが、大人数分作っているためほとんどが大味だ。今食べている料理は日本食に近く出汁が効いており、あちらの世界を思い出させる。
(行ったことはないけど、料亭で出てきそうな味だな。)
料理が出てくる度に驚く俺に、シバは少し微笑んでいた……ように感じた。
「あれ?君……。」
急にテーブルに影が落ち、誰かが話しかけてきた。
俺はその声の主を見て固まる。席を見下ろしているのは、攻略者である第二王子エヴァンだった。
(急にイベント発生?!)
俺は記憶を辿る。ながら作業で見た動画に『エヴァン攻略までの3日間』というのものがあった。ぼんやりと覚えているだけだが、上司と出かけた先で、お忍び風のエヴァンと出会うのだ。ここでは特に重要な絡みはなく、軽く会話をして別れる。
「君、元気だった?」
「はい。殿下も、」
「しっ、一応お忍びなんだ。」
俺は唇にひと指し指を当てられ、背筋がゾッとする。
そもそも俺は男に興味は無い。生きていくためにアックスとハッピーエンドを迎えたいだけなので、アックス以外の男に絡まれても嬉しくも何ともないのだ。
(しかも、こんな闇有り王子絶対嫌だ!)
ヤンデレとでも言うのだろうか……見た目からは大らかな印象を受けるが、その裏には第二王子としての苦難から歪んでしまった性格が徐々に顔を出すのだ。
(それを主人公が優しく包み込み……って、そんなこと俺にはできない。)
俺は顔を後ろに引くと、「失礼しました。」と頭を下げた。シバを見ると、人でも殺しそうな顔で俺達を見ている。
「すぐ戻らないといけないから、また会おうね。」
それだけ言うと、エヴィンは爽やかに去っていった。
「殿下と知り合いだったのか。」
「先日、廊下でぶつかってしまって……そのうち俺のことなんて忘れますよ。」
『そうなってくれ!』という思いを込めて、湯気を失った食事を見つめた。
帰ってくると、父とラルクがリビングで談笑していた。
「おかえり~。パンありがとね。まだ沢山あるから明日の朝に皆で食べよう。」
「セラさん、ありがとうございました。」
(今日、ラルクさんはここに泊まるのかな?)
ラルクも父も部屋着であり、近くの椅子の上には彼の着替えも置いてある。
部屋は1つ余っているし、そこには前の家に置いていたベッドが届いたばかりだ。男1人くらいなら泊まれないことはないが、たった数日でなぜここまで仲良くなったのかと不思議に思う。
「じゃあ2人とも、また明日。」
「おやすみ、セラ。」
「おやすみなさい、セラさん。」
俺は父とラルクに挨拶をして自室へ入った。
「あ~!今日は何もうまくいかなかった。」
俺はベッドに倒れこむ。今、俺の部屋には荷物の入った箱が積み重なっている。これらは俺と父が前住んでいた家から送られてきたもので、今日は先に仕事を終えた父がそれを受け取り、休みであるラルクと片付けをすると言っていた。
(ラルクさんはよく父さんの面倒を見てくれるなぁ……。)
俺がハッピーエンドを迎えるまでは、イベントで忙しく父にあまり構うことはできないだろう。ゲーム内でも、父との交流はあまり描かれていなかった。
ぽやぽやとしており危なっかしい父を助けてくれるラルクの存在は、俺にとってありがたかった。
(それにしても、今日はアックスとのイベントも最後までできなかったし、第二王子には突然会うわで……正直、疲れた。)
そしてシバとの夕食もそうだ。上司との食事とあってずっと緊張していた。
(とにかく、明日こそは誰にも邪魔されずにアックスと過ごす!)
俺は相当疲れていたのか、そう決意してすぐに瞼が重くなり目を閉じた。
「おはよう~!」
「おはようございます。」
朝、目が覚めてリビングに行くと、父とラルクが朝食の準備をしていた。
やはり昨日は泊まったのか、昨日の寝間着のままでカップにお湯を注ぐ姿は、起きてまだ30分も経っていないだろう。
俺は席に着いて、温まったパンを口に運ぶ。
「あ、美味しい。」
1日経ってもフカッとしたパンに感動しつつ、アックスの顔を思い浮かべる。
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