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遠征のお出迎え
朝の執務室。早い時間にこの部屋を訪れる者はおらず、静かで穏やかな雰囲気だ。
「風邪など引かなかったか?」
「はい。」
シバに尋ねられ、俺は昨夜のことを思い出していた。
昨日あれからアックスと話していたが、仕事中である彼が「またな。」と言ってベンチから立ち上がり、イベントは終了となった。
(イベントに繋がる上着は2枚ともゲットできなかったけど…。)
俺は代わりに手に入れてしまったシバの2枚の上着を、目の前の上司に手渡す。
「ありがとうございました。」
「ああ。」
借りた上着の入った袋を渡す。お礼をしたいと「好きなものはありますか?」と尋ねると、俺の気持ちを読んだのか、「気にするな。」と言われてしまった。
シバが無理やり貸してくれた上着は、イベントクラッシャーな存在ではあったが、俺が風邪をひかずにすんだのはこれらのおかげだ。あれからだんだんと冷えてきて、家に着くころにはブランケットまで羽織っていた。
「寝不足か?」
「少しだけ……。」
一昨日は初めての大型イベントに張り切っていたし、昨日はイベントが少し違った形になってしまったことと、アックスの上着をゲットできなかったことへの後悔で眠れなかった。
ただ、イベントのメインはクリアした。アックスが平民だったという話もされたし、俺の記憶が無いことも告白した。しかし、俺は今後に繋がるアイテムを手に入れられなかったことに焦りを感じる。
(まず、上着返却イベント2つは無くなった……。)
小さいイベントで、今後を左右するものではないが、念の為すべてをこなしておきたい俺にとっては大問題だ。
上着を返しに行くイベントでは、手作りのクッキーを渡す。それを一緒に食べて……と、ありふれた内容だが、ここで俺が料理が得意だとアピールしておかなければ、夕食を振る舞うというイベントに結びつかない。
(なんとしても会話の中で、俺が料理上手だと伝えなければ。)
また追加でミッションができてしまった。
「今日は私が茶を淹れよう。」
「え……っ、」
茶器を温めながら、ぼーっとしていたようだ。
すっかり温まったカップを慌てて取ると、「すみません。」と謝る。
「寝不足の時によく飲む茶がある。」
そう言って立ち上がったシバが、ポットの置いてある机の側へ来た。俺の後ろから手を伸ばして茶葉を取るシバ。
(え…近くない?)
俺は少し動揺したが、シバは気にしていないのか、茶葉を選んで「このくらいか。」と葉を落とした。そのままコポコポとお湯が注がれていくのを見つめる。
「……良い香り。」
ふぅ……と息をつくと、後ろからフッと笑いが零れた気がした。振り返ると、いつもの無表情な上司。
(笑ったのかと思った。)
しかし、思ったより至近距離にあったシバの顔に恥ずかしくなり、俺はパッと前を向いて「私が運びます。」とカップを盆に乗せた。
シバの淹れてくれたお茶は美味しく、俺はじーんと身体が温まった。目の前でお茶を飲むシバは今日も上品な作法であり、俺はそれに見入る。
(相変わらず、綺麗な手つきだなぁ。)
シバのことに関してはゲームであまり語られておらず、彼がどんな生活をしているのか、過去に何かあったのか、俺は全く知らない。漠然と良家のお坊ちゃんだと思っているが、実際はどうなのだろう…。
俺は、彼に興味を持ち始めている自分に気付いた。
「何か悩んでいるのか?」
シバが俺に尋ねてきた。彼が少なからず自分を心配して聞いてきているのだと分かり、俺は思わず笑顔で返事をする。
「いえ、美味しいお茶を飲んだら元気が出ました!」
「早いな。」
シバが笑った気がした……
(じゃなくて本当に笑ってる!)
なんとシバは目を細めて笑ったのだ。俺は初めて見る彼の優しい表情に、心臓がうるさいくらいにドキドキと音を立てた。
(なんだこれは……!!!)
その後は、いつもの表情に戻ったシバが仕事について指示を出したが、俺はそれに「……はい。」と俯いて返事をした。
それから、少し平穏な日々が続いた。
アックスは遠征で1か月辺境へと遠征に行っており、その間俺は仕事に集中できた。ゲームでは、そこで主人公の仕事スキルがぐんぐん上がっていくのだが、俺がそうなれているかどうかは不明だ。
確かに仕事をするスピードは以前より早くなり、定時前には必ず終わる。そして、その後は決まってシバの執務室で雑談をしてから帰る。
週の始めに恒例となったお弁当は続いており、シバは毎回「美味しい」と食べてくれる。
「マニエラ、ケーキは好きか?」
「はい、好きです。」
仕事終わりに執務室に寄ると、何やら可愛い箱を抱えたシバが俺に聞いてきた。買ってきたのか貰ったのか、中にはケーキが入っているようだ。
「食べていかないか?」
「ええ。ぜひ頂きます。」
2人で大きなテーブルにつく。シバにどれが良いか聞かれチョコレートケーキを選んだ。
「わ、すっごく美味しい。」
「良かった。」
シバはフルーツの乗ったショートケーキを選び、それを口に運ぶ。甘い物が好きな彼の表情は、若干であるが柔らかい。
「一応、いつもの弁当の礼だ。」
「わざわざ買って下さったんですか?」
「あまり流行りは知らないので、馴染みの店だが。」
「へぇ~、父にも食べさせたいです。」
俺の言葉に、「残りは持って帰るといい。」と箱を見るシバ。まだ3個入っているケーキは、今晩ラルクを呼んで食べることにしよう。
それから、このケーキ屋についての俺の質問がひと段落すると、シバが言いづらそうに口を開いた。
「トロント殿とは……あれから……その、何かあったか?」
「アックスですか?彼は今遠征に出ているので、随分会っていませんね。どこにいるかも分からないです。」
シバは連絡を取り合っているのか聞いてきたが、「いえ、特には。」と答えた。
(本当、連絡でもできたらいいんだけど。遠征中は好感度上げれないから困るんだよなぁ。)
最近になって思ったことがある。
『シバは俺にとってのミニがみ様じゃないのか?』……と。というのも、このゲームの主人公にはサポートキャラとしてミニがみ様という存在がいる。彼女は、主人公に攻略キャラの情報を教えたりしながら恋を手助けする。
悲しいことに、現実であるこの世界にそんな神は存在しないが、俺は、シバこそが俺を助けてくれるサポートキャラなのでは……?と考えるようになった。
シバがイベントを駄目にすることはあるものの、常に俺を気遣ってくれているのは感じる。そして、ゲームのミニがみ様も少しおっちょこちょいな所があり、シバと被っている……のではないだろうか。
(それに、アックスとの関係についてよく聞いてくるし。)
俺は、シバこそが俺の救世主になるのかもしれないーーと、これから彼の質問には正直に答えようと考えた。
それから数日が過ぎ、仕事終わりにシュリが明るい声で俺を呼んだ。
「セラ、今日皆でご飯食べに行こうよ~!」
「ごめん、俺用事があるんだ。」
俺が誘いを断ると、「えー?!」とシュリが不満げな声を出す。
今日はアックスが城に帰って来る日だ。遠征には出迎えというものがあり、任意の参加だが、毎回結構な人数が城の門に集まる。
(まぁ、ほとんどは騎士らしいけど。)
俺は今日、そこへ行く必要があった。それは、遠征中で上げることのできなかった好感度を少しでもアップさせるためだ。
もちろん、多くの人が集まる中でアックスが俺を見つけることは難しい。
しかし、このイベントに関しては、行きさえすれば良い。偶然目が合えば好印象。合わなくても、「お前が仲良くしてる子、出迎えに来てたな。」と、食堂で俺達2人を見ていた騎士が、後日アックスに伝えるのだ。
「ごめんね。また声かけて。」
そしてゲームによると、シュリは眼鏡先輩に誘われて今夜食事に行くことになっている。俺が行っては邪魔なのだ。
(眼鏡先輩ファイト!俺も頑張ります。)
俺が誘いを断ったのを見て安心している先輩に、密かにエールを送った。
シバに仕事の終わりを伝え、執務室を出ていこうとした時、後ろから話し掛けられた。
「今日、何か予定はあるか?」
「今から騎士団の出迎えに行ってきます。」
俺の言葉に少し黙ったシバは、「俺も行こう。」と言って立ち上がった。
(……は?何で……?)
俺は気になって、今回の参加者に親しい者でもいるのかと尋ねるが、「いや、いない。」ときっぱり言われた。
(じゃあ何で来るんだ。……意味が分からない。)
俺は、「少し待て。」と言って帰り支度を始めるシバの背中を見て、頭にハテナを浮かべた。
「なんでこんなに前に行くんだ。」
「アインラス様は後ろでも大丈夫ですよ。」
「いや、いい。」
俺は早めに行って最前列をキープしている。
出迎えに集まる主な人々は、その団に所属している騎士達だとシュリに聞いていたが、見渡せば周りは女性だらけである。そして、男前の部類に入るシバに、ちらちらと視線が向けられていることにも気付いた。
(シバも……目立つ見た目ではあるよね。)
文官棟ではあまり見れない光景に、そういえばシバもイケメンだったと考えていると、俺の近くの女性がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
「あれってアインラス様よね?」
「絶対そう!文官におなりになってから初めて拝見したわ……。」
「相変わらずかっこいい~……。」
はぁ……っと女性2人の甘い溜息が聞こえる。
(クールな男って、なぜかいつの時代もモテるんだよね。)
見た目から、俺にそういったクールキャラのニーズは無いだろう。しかし俺はアックスにしか興味がないので、今は女性にモテようがモテまいが関係無い……。
(くそ……やっぱりちょっと羨ましい……。)
強がってみたが、同じ男としてやはり悔しく、俺は無表情で前を向いているシバを少し睨んだ。
「そろそろみたいだ。」
パパーッっと管楽器の音がして、門が開く。1か月の遠征を終えた騎士達が馬に乗って入ってくるのを、皆が拍手で向かい入れた。
俺がアックスの姿を探すと、さすがは英雄……前から2番目を歩くアックスの姿は俺から見てもかっこよく魅力的だ。そして、彼は黄色い歓声に手を振って答えている。
アックスは最前列にいる俺の存在に気付き、目を丸くしていた。しかしすぐに元の表情に戻ると、俺が控えめに手を振っているのと同じ振り方で、出迎えに応えた。
(気付いてくれた!よし、これで好感度はアップしたぞ!)
そしてアックスは俺から視線を外し、横にいるシバに目を向けた。それからアックスは通り過ぎるまでシバを見ており、俺は少し不安になってきた。
(これって大丈夫なのかな?俺にとってシバはミニがみ様だから気にしないけど、アックスには、俺がシバと仲良くここに一緒に来たように見えたんじゃ……。)
もしかして好感度が逆に下がってしまったのでは……?と歓声の中、ひとり俯いた。
「元気が無いな。」
「いえ。」
俺はまだ先程のことを考えていた。重要視されているイベントではなく、気付かれたらラッキーという気持ちであの場に居た。好感度の大幅アップは期待はしていなかったが、サポートキャラによって逆に好感度が下がったとあっては笑えない。
(ゲームならいいけど、俺にとっては死活問題だからな……。)
それからは、珍しく話し掛けてくるシバに「はい」「いいえ」としか返事が出来なかった。俺はシバと別れた後、とぼとぼと宿舎へ戻った。
「セラ、お疲れ様。」
「ただいま。」
父ののんびりとした声に少し気持ちが少し楽になる。俺はリビングの椅子に腰かけ、少し溜息をついた。
「セラ、何かあったの?」
「うーん、あったといえばあったけど、それが吉か凶かはまだ分からない……って感じ。あと、俺が気持ちを切り替えられなくて……ちょっと自己嫌悪。」
帰り道の俺の態度は、自分でもあんまりだったと思う。しかし、気持ちが落ち込んでおり、シバに話しかけられても元気に答えることはできなかった。
「誰かと喧嘩でもしたの?」
「喧嘩じゃないけど、俺の態度で、相手に嫌な思いさせたかも。」
俺の答えに父が、うーんと悩む素振りをする。
「あまり考えすぎるのも良くないよ。私の経験上、自分で考えすぎてただけで、相手は何とも思ってなかったって……よくあることだよ。」
「そうかな?」
「うん!人なんてそんなもんだよ。」
「……分かった。」
俺が少し笑うと、父は俺の頭をぐりぐりと撫でてきた。こんな時の彼は父親らしく、少し気恥ずかしくなった。あちらの世界で父を1度も見たことのない俺は、シシルの愛情に時々むず痒くなる。
(でも、なんか嫌じゃない。)
髪をぐしゃっと乱されたことに文句を言いながら、父にフッと笑いかけた。
「風邪など引かなかったか?」
「はい。」
シバに尋ねられ、俺は昨夜のことを思い出していた。
昨日あれからアックスと話していたが、仕事中である彼が「またな。」と言ってベンチから立ち上がり、イベントは終了となった。
(イベントに繋がる上着は2枚ともゲットできなかったけど…。)
俺は代わりに手に入れてしまったシバの2枚の上着を、目の前の上司に手渡す。
「ありがとうございました。」
「ああ。」
借りた上着の入った袋を渡す。お礼をしたいと「好きなものはありますか?」と尋ねると、俺の気持ちを読んだのか、「気にするな。」と言われてしまった。
シバが無理やり貸してくれた上着は、イベントクラッシャーな存在ではあったが、俺が風邪をひかずにすんだのはこれらのおかげだ。あれからだんだんと冷えてきて、家に着くころにはブランケットまで羽織っていた。
「寝不足か?」
「少しだけ……。」
一昨日は初めての大型イベントに張り切っていたし、昨日はイベントが少し違った形になってしまったことと、アックスの上着をゲットできなかったことへの後悔で眠れなかった。
ただ、イベントのメインはクリアした。アックスが平民だったという話もされたし、俺の記憶が無いことも告白した。しかし、俺は今後に繋がるアイテムを手に入れられなかったことに焦りを感じる。
(まず、上着返却イベント2つは無くなった……。)
小さいイベントで、今後を左右するものではないが、念の為すべてをこなしておきたい俺にとっては大問題だ。
上着を返しに行くイベントでは、手作りのクッキーを渡す。それを一緒に食べて……と、ありふれた内容だが、ここで俺が料理が得意だとアピールしておかなければ、夕食を振る舞うというイベントに結びつかない。
(なんとしても会話の中で、俺が料理上手だと伝えなければ。)
また追加でミッションができてしまった。
「今日は私が茶を淹れよう。」
「え……っ、」
茶器を温めながら、ぼーっとしていたようだ。
すっかり温まったカップを慌てて取ると、「すみません。」と謝る。
「寝不足の時によく飲む茶がある。」
そう言って立ち上がったシバが、ポットの置いてある机の側へ来た。俺の後ろから手を伸ばして茶葉を取るシバ。
(え…近くない?)
俺は少し動揺したが、シバは気にしていないのか、茶葉を選んで「このくらいか。」と葉を落とした。そのままコポコポとお湯が注がれていくのを見つめる。
「……良い香り。」
ふぅ……と息をつくと、後ろからフッと笑いが零れた気がした。振り返ると、いつもの無表情な上司。
(笑ったのかと思った。)
しかし、思ったより至近距離にあったシバの顔に恥ずかしくなり、俺はパッと前を向いて「私が運びます。」とカップを盆に乗せた。
シバの淹れてくれたお茶は美味しく、俺はじーんと身体が温まった。目の前でお茶を飲むシバは今日も上品な作法であり、俺はそれに見入る。
(相変わらず、綺麗な手つきだなぁ。)
シバのことに関してはゲームであまり語られておらず、彼がどんな生活をしているのか、過去に何かあったのか、俺は全く知らない。漠然と良家のお坊ちゃんだと思っているが、実際はどうなのだろう…。
俺は、彼に興味を持ち始めている自分に気付いた。
「何か悩んでいるのか?」
シバが俺に尋ねてきた。彼が少なからず自分を心配して聞いてきているのだと分かり、俺は思わず笑顔で返事をする。
「いえ、美味しいお茶を飲んだら元気が出ました!」
「早いな。」
シバが笑った気がした……
(じゃなくて本当に笑ってる!)
なんとシバは目を細めて笑ったのだ。俺は初めて見る彼の優しい表情に、心臓がうるさいくらいにドキドキと音を立てた。
(なんだこれは……!!!)
その後は、いつもの表情に戻ったシバが仕事について指示を出したが、俺はそれに「……はい。」と俯いて返事をした。
それから、少し平穏な日々が続いた。
アックスは遠征で1か月辺境へと遠征に行っており、その間俺は仕事に集中できた。ゲームでは、そこで主人公の仕事スキルがぐんぐん上がっていくのだが、俺がそうなれているかどうかは不明だ。
確かに仕事をするスピードは以前より早くなり、定時前には必ず終わる。そして、その後は決まってシバの執務室で雑談をしてから帰る。
週の始めに恒例となったお弁当は続いており、シバは毎回「美味しい」と食べてくれる。
「マニエラ、ケーキは好きか?」
「はい、好きです。」
仕事終わりに執務室に寄ると、何やら可愛い箱を抱えたシバが俺に聞いてきた。買ってきたのか貰ったのか、中にはケーキが入っているようだ。
「食べていかないか?」
「ええ。ぜひ頂きます。」
2人で大きなテーブルにつく。シバにどれが良いか聞かれチョコレートケーキを選んだ。
「わ、すっごく美味しい。」
「良かった。」
シバはフルーツの乗ったショートケーキを選び、それを口に運ぶ。甘い物が好きな彼の表情は、若干であるが柔らかい。
「一応、いつもの弁当の礼だ。」
「わざわざ買って下さったんですか?」
「あまり流行りは知らないので、馴染みの店だが。」
「へぇ~、父にも食べさせたいです。」
俺の言葉に、「残りは持って帰るといい。」と箱を見るシバ。まだ3個入っているケーキは、今晩ラルクを呼んで食べることにしよう。
それから、このケーキ屋についての俺の質問がひと段落すると、シバが言いづらそうに口を開いた。
「トロント殿とは……あれから……その、何かあったか?」
「アックスですか?彼は今遠征に出ているので、随分会っていませんね。どこにいるかも分からないです。」
シバは連絡を取り合っているのか聞いてきたが、「いえ、特には。」と答えた。
(本当、連絡でもできたらいいんだけど。遠征中は好感度上げれないから困るんだよなぁ。)
最近になって思ったことがある。
『シバは俺にとってのミニがみ様じゃないのか?』……と。というのも、このゲームの主人公にはサポートキャラとしてミニがみ様という存在がいる。彼女は、主人公に攻略キャラの情報を教えたりしながら恋を手助けする。
悲しいことに、現実であるこの世界にそんな神は存在しないが、俺は、シバこそが俺を助けてくれるサポートキャラなのでは……?と考えるようになった。
シバがイベントを駄目にすることはあるものの、常に俺を気遣ってくれているのは感じる。そして、ゲームのミニがみ様も少しおっちょこちょいな所があり、シバと被っている……のではないだろうか。
(それに、アックスとの関係についてよく聞いてくるし。)
俺は、シバこそが俺の救世主になるのかもしれないーーと、これから彼の質問には正直に答えようと考えた。
それから数日が過ぎ、仕事終わりにシュリが明るい声で俺を呼んだ。
「セラ、今日皆でご飯食べに行こうよ~!」
「ごめん、俺用事があるんだ。」
俺が誘いを断ると、「えー?!」とシュリが不満げな声を出す。
今日はアックスが城に帰って来る日だ。遠征には出迎えというものがあり、任意の参加だが、毎回結構な人数が城の門に集まる。
(まぁ、ほとんどは騎士らしいけど。)
俺は今日、そこへ行く必要があった。それは、遠征中で上げることのできなかった好感度を少しでもアップさせるためだ。
もちろん、多くの人が集まる中でアックスが俺を見つけることは難しい。
しかし、このイベントに関しては、行きさえすれば良い。偶然目が合えば好印象。合わなくても、「お前が仲良くしてる子、出迎えに来てたな。」と、食堂で俺達2人を見ていた騎士が、後日アックスに伝えるのだ。
「ごめんね。また声かけて。」
そしてゲームによると、シュリは眼鏡先輩に誘われて今夜食事に行くことになっている。俺が行っては邪魔なのだ。
(眼鏡先輩ファイト!俺も頑張ります。)
俺が誘いを断ったのを見て安心している先輩に、密かにエールを送った。
シバに仕事の終わりを伝え、執務室を出ていこうとした時、後ろから話し掛けられた。
「今日、何か予定はあるか?」
「今から騎士団の出迎えに行ってきます。」
俺の言葉に少し黙ったシバは、「俺も行こう。」と言って立ち上がった。
(……は?何で……?)
俺は気になって、今回の参加者に親しい者でもいるのかと尋ねるが、「いや、いない。」ときっぱり言われた。
(じゃあ何で来るんだ。……意味が分からない。)
俺は、「少し待て。」と言って帰り支度を始めるシバの背中を見て、頭にハテナを浮かべた。
「なんでこんなに前に行くんだ。」
「アインラス様は後ろでも大丈夫ですよ。」
「いや、いい。」
俺は早めに行って最前列をキープしている。
出迎えに集まる主な人々は、その団に所属している騎士達だとシュリに聞いていたが、見渡せば周りは女性だらけである。そして、男前の部類に入るシバに、ちらちらと視線が向けられていることにも気付いた。
(シバも……目立つ見た目ではあるよね。)
文官棟ではあまり見れない光景に、そういえばシバもイケメンだったと考えていると、俺の近くの女性がヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。
「あれってアインラス様よね?」
「絶対そう!文官におなりになってから初めて拝見したわ……。」
「相変わらずかっこいい~……。」
はぁ……っと女性2人の甘い溜息が聞こえる。
(クールな男って、なぜかいつの時代もモテるんだよね。)
見た目から、俺にそういったクールキャラのニーズは無いだろう。しかし俺はアックスにしか興味がないので、今は女性にモテようがモテまいが関係無い……。
(くそ……やっぱりちょっと羨ましい……。)
強がってみたが、同じ男としてやはり悔しく、俺は無表情で前を向いているシバを少し睨んだ。
「そろそろみたいだ。」
パパーッっと管楽器の音がして、門が開く。1か月の遠征を終えた騎士達が馬に乗って入ってくるのを、皆が拍手で向かい入れた。
俺がアックスの姿を探すと、さすがは英雄……前から2番目を歩くアックスの姿は俺から見てもかっこよく魅力的だ。そして、彼は黄色い歓声に手を振って答えている。
アックスは最前列にいる俺の存在に気付き、目を丸くしていた。しかしすぐに元の表情に戻ると、俺が控えめに手を振っているのと同じ振り方で、出迎えに応えた。
(気付いてくれた!よし、これで好感度はアップしたぞ!)
そしてアックスは俺から視線を外し、横にいるシバに目を向けた。それからアックスは通り過ぎるまでシバを見ており、俺は少し不安になってきた。
(これって大丈夫なのかな?俺にとってシバはミニがみ様だから気にしないけど、アックスには、俺がシバと仲良くここに一緒に来たように見えたんじゃ……。)
もしかして好感度が逆に下がってしまったのでは……?と歓声の中、ひとり俯いた。
「元気が無いな。」
「いえ。」
俺はまだ先程のことを考えていた。重要視されているイベントではなく、気付かれたらラッキーという気持ちであの場に居た。好感度の大幅アップは期待はしていなかったが、サポートキャラによって逆に好感度が下がったとあっては笑えない。
(ゲームならいいけど、俺にとっては死活問題だからな……。)
それからは、珍しく話し掛けてくるシバに「はい」「いいえ」としか返事が出来なかった。俺はシバと別れた後、とぼとぼと宿舎へ戻った。
「セラ、お疲れ様。」
「ただいま。」
父ののんびりとした声に少し気持ちが少し楽になる。俺はリビングの椅子に腰かけ、少し溜息をついた。
「セラ、何かあったの?」
「うーん、あったといえばあったけど、それが吉か凶かはまだ分からない……って感じ。あと、俺が気持ちを切り替えられなくて……ちょっと自己嫌悪。」
帰り道の俺の態度は、自分でもあんまりだったと思う。しかし、気持ちが落ち込んでおり、シバに話しかけられても元気に答えることはできなかった。
「誰かと喧嘩でもしたの?」
「喧嘩じゃないけど、俺の態度で、相手に嫌な思いさせたかも。」
俺の答えに父が、うーんと悩む素振りをする。
「あまり考えすぎるのも良くないよ。私の経験上、自分で考えすぎてただけで、相手は何とも思ってなかったって……よくあることだよ。」
「そうかな?」
「うん!人なんてそんなもんだよ。」
「……分かった。」
俺が少し笑うと、父は俺の頭をぐりぐりと撫でてきた。こんな時の彼は父親らしく、少し気恥ずかしくなった。あちらの世界で父を1度も見たことのない俺は、シシルの愛情に時々むず痒くなる。
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そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。