鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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予想外の訪問者

「おはようございます!」
「マニエラ……おはよう。」
 俺は自分でもびっくりするくらい元気にシバの執務室の扉を開けた。
 シバは返事をしたが、俺に話しかける様子もない。俺は気にせずお茶を入れに、ポットのあるテーブルへ向かった。
「昨日だが、よく休めたか?」
「え?はい。」
 昨日はあれから父と食堂に夕食を食べに行って、平和にーー……
(あ、そういえば攻略者の1人である王の側近ウォルに会ったんだった。)
 俺に話しかけようとしていたが、俺達に気付いたラルクが声を掛けてきたのを見て、そのまま去っていった。
(ラルクさんのおかげでイベント回避できたし、良かった良かった。)
 それからは楽しく3人で食事を食べて、部屋に帰ってすぐに寝た。
 昨日の出来事を遡って思い出していたが、シバが昨日の俺の様子について心配しているのだと気付いた。
「昨日はすみませんでした。人込みに酔ってしまったみたいで。」
「……そうだったのか。」
「失礼な態度を取ってしまってすみません。」
「いや、気にするな。」
 俺はその言葉に少し安心して、カップを机に置く。
「では、言わなくて良かった。」
「え……?」
 シバは目線を逸らして呟くように言う。
「昨日は、君を食事に誘おうと思っていた。」
「え、そうなんですか?」
 俺は驚いたが、シバが騎士の出迎えに付いて来た理由が分かってスッキリした。
(夕食に付き合ってほしかったんだ。……悪いことしたな。)
 自分の用事に付き合わせて、その後はあんな態度で誘いづらい状況にするなんて……と俺はまた反省した。
「すみませんでした!気づかなくて……。」
「具合が悪いのに、無理をしては駄目だ。」
 シバは穏やかな声で続ける。
「体調が良くない時は、きちんと伝えてくれ。」
「……はい。」
(嘘ついちゃった。シバは俺のサポートキャラなんだから、次からは正直に言わなきゃいけないよね。)
「心配掛けました。今はこの通り元気です!」
 俺は胸を張って元気だとアピールする。
 その仕草が少し子どもっぽかったのか、シバは「そうみたいだな。」と言って少しだけ目を細めた。

「ちょっと!セラ!」
「ん?どうしたの?」
 眼鏡先輩と作業をしていた俺だったが、シュリが扉を開けて名前を呼ぶので手を止めた。
「あ、いたいた。セラ。」
「アックス!」
 俺は見知った騎士服の男に駆け寄る。アックスは嬉しそうに「ちゃんと働いてるんだな。」と笑った。
「私は見た目は子どもっぽいですが、大人です……。」
 少しむくれて答えると、アックスが声を出して笑った。「すまないな。」と言いながらも、俺が拗ねた態度をとったことが面白かったようだ。
(それよりも……今凄いことが起こってるんだけど!)
 俺は今、アックスがこの文官棟に来ていることに感動していた。
 彼が遠征に行っていた1か月で俺の仕事スキルが思ったより伸びたのか、まだまだ先となるイベントが始まったのだ。
 俺がゲームをプレイした時は、イベント③『湯煙の中で』までアックスはここへ来なかった。
(まぁ、俺があちらの世界でゲームのスキル上げを少しサボってたってのはあるけど……。)
 これからも、俺のスキルの関係でイベントの内容が前後することがあるかもしれない。今回の件は非常に勉強になった。

「どうしてここに?」
「セラに会いに……と言いたいが、ラルクが今日どこにいるか聞こうと思ってな。」
「ラルクさんがどうかしたんですか?」
 アックスはイベント①『月の夜に』で、俺と父がラルクと交流があることを知った。わざわざ訪ねに来るとは、何かあったのだろうか……彼のことが心配になる。
「いや、ラルクは今日の午後は休みなんだが、急に晩餐会での陛下の護衛が必要になってな。団長からラルクに連絡して欲しいと言われたんだ。」
 電話を掛けたが留守にしているため、仲の良い俺に尋ねに来たという。
(ふーん。ここへ来た理由はちょっと違うけど、これで俺の部屋の電話番号を教えるってことか。)
 ゲームとは少し異なるが、俺は自分の部屋の電話番号を書いてアックスに渡す。
「今日は父と部屋で昼食を作ると言っていました。今ならまだ部屋にいるはずです。」
 昨日、一緒に夕食を食べていたところ、父が「明日はお休みだって言われたんだ~。」と話した。ラルクは自分も昼から休みであると告げ、2人は「何かしようか!」と盛り上がっていた。
 結局、一緒に昼を食べることになったようで、父が料理を作るとはりきっていた。
(あーあ、夜にはお出かけするって言ってたのに……2人共可哀想に。)
 俺は、今から電話で呼び出されるラルクを気の毒に思った。
「ありがとう。電話を借りていいかな。」
「はい、どうぞ。」
 俺は部屋の隅にある電話へ彼を連れて行く。電話口から零れて聞こえてきたラルクの声は、ひどく沈んでいた。

 電話を終えたアックスが、俺に「助かった。」と言って頭を撫でようとした。するとーー……
「トロント殿、突然どうした。」
「アインラス殿。」
 現れたシバによって、その手は下げられた。
 黒騎士がシバに挨拶も無しに文官棟に来たとあって、誰かがすぐに知らせたのだろう。シバは驚いた様子もなく、冷静に用件を聞いている。
「私のところのマニエラに何か。」
「いや、少し頼み事をしただけだ。もう終わった。」
「では、扉まで送ろう。」
 ピリピリとしたムードが漂い、シュリと眼鏡先輩は固まっている。
「あっ……、」
 緊張していたシュリが、持っていた分厚い紙の束を床に落とす。それはかなりの枚数で、床の四方八方に散らばった。
(お、始まった!)
 今、今日のイベントのメインがスタートした。
 これは本当ならまだ先に起こるはずであるが、俺が仕事スキルを伸ばした結果、こんなに早く起こったんだろう。
(イベントの流れは毎晩確認してるから、これも覚えてるぞ。)
 シュリが落とした紙を皆で拾っていると、アックスと主人公の手が触れ合うのだ。そしてそのまま手を握られ、主人公は顔を赤くしたままアックスを見つめる。
 ここでは特にそれ以外は何も起こらないが、アックスが目の前の真っ赤な顔に笑い、それに対して主人公が「ふざけていないで拾ってください。」と注意する。
 しかも、それをシュリと眼鏡先輩にバレないように行うという……現実では非常に難易度の高いイベントなのだ。
(それに加えて、今回はシバまでいるし……。)
 このイベントを成功させるには、この広い部屋の中で、常にアックスの近くをキープしつつ紙を拾わなければならない。俺は床に散らばる書類を拾うアックスに、ズイッと近寄った。
「トロント殿。後はこちらでやる。」
「……ああ、分かった。」
 シバがアックスに「仕事に早く戻っては?」と告げ、アックスもそれに頷いて立ち上がる。
「では、またな。」
「はい。」
 アックスは俺に手を挙げて扉から出て行った。

「はぁ~、緊張した。トロント様をあんな近くで見たの初めて。」
「僕も。」
 シュリと眼鏡先輩は落とした紙を拾い終え、今は疲れたように椅子に座っている。
4人で集めた為すぐに終わり、シバは「今の仕事を終えたら執務室に来い。」とだけ言って去っていった。


「失礼します。」
 俺は言われた分の仕事を終えて執務室にやって来た。今日はこれで終わりだろう。
 先程の件は、特に会話選択があるイベントではなかったので、あまり気にしないことにした。
(気にしない……気にしない……)
 小さいイベントにまで気を遣いすぎるのは、自分の心の為に良くない。
(アックスの遠征出迎えの件も、父さんの言う通り本人は気にしてなかったみたいだし。)
 アックスの今日の様子から、俺とシバが一緒に遠征の出迎えに来たとは思わなかったのかもしれない。そして好感度は俺が思っていた以上に高いのか、文官棟への訪問イベントが予想より先にやってくるという良い展開も経験した。
(これからは小さいイベントは出来たらラッキーくらいの気持ちで……重要なイベントの時には会話選択さえ間違えないようにすれば良い。)
 俺は深呼吸して心を落ち着けた。
「どうぞ。」
「……君は、無防備すぎる。」
「え?」
 俺がお茶をシバの前に置くと、意味の分からないことを言われる。俺がキョトンとしていると、はぁと溜息をつかれ、「こっちへ来い。」と言われた。
 俺がお茶のトレーを大きいテーブルに置いてシバに近寄ると、頭を撫でられた。
(え……なんだ急に。ていうか、俺よく頭を撫でられるな。)
 俺が小さく、周りが大きいからだろうか。あちらの世界と違って、よく子ども扱いをされる。
「ほら、すぐに触れた。」
「そ、それはアインラス様が来いっておっしゃったので……!」
 俺は心外だと告げる。シバはゆっくりと優しく俺の頭を撫で、「俺だから来たか?」と聞いてくる。
 上司であるシバに言われれば、それに従うのは当たり前である。しかし他の者に言われてもそうするだろう。職場の先輩達はもちろん、ラルクでも俺は何の疑いもなく近づくし、俺の将来のパートナー予定のアックスに関しては、当然イエスだ。
 俺が、うーん……と考えていると、シバがまた溜息をついた。
「他に触らせるな。」
「……はい。」
 俺は首を傾げながらも、とりあえず返事をしておく。
(文官って頭が良くて落ち着いてるイメージだし、お手伝いの俺が簡単に撫でられるようじゃ、城の他の人に示しがつかないか。)
「文官棟で働く者として心得ておきます。」
「……意味が通じているか?」
 俺は「はい!」と元気に返事をし、シバはそれ以上は何も言わなかった。
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