鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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目指せ恋愛マスター

「マニエラ、今日はそのまま帰るのか?」
「いえ。図書館へ寄ろうと思います。」
 次の日、俺は仕事終わりにシバの執務室にやってきた。お茶を淹れ、今日の仕事について報告をし、出ていこうとしたところを引き留められる。
「図書館に何の用だ。」
「調べたいことがありまして。」
「どんなことだ?」
(なんでこんな時だけぐいぐい聞いてくるんだよ。)
 俺は隠してもしょうがないので、正直に言うことにした。
(まぁ、シバは俺のお助けキャラだし、相談したら何かアドバイスをくれるかもな。)
「あの、笑わないでくださいね。」
「……ああ。」
「恋愛に関する本を借りようかと。」
「恋愛……。小説か?」
 シバは無表情で何を考えているのか分からない。ただの興味で聞いているのだろう、声が淡々としている。
「いえ、その恋愛術と言いますか、恋愛の心得といいますか、そういった本を探しに行きます。」
「……。」
(いい歳した男が何借りようとしてんだって思ってるんだろうな。)
 俺は恥ずかしくなってきて、黙るシバを置いてさっさと部屋を出ることにする。
「あの、そろそろ失礼します。」
「待ってくれ。……馬鹿にしているわけではない。」
 耳の赤い俺がお辞儀をして去ろうとすると、声を掛けられた。
「意外だと思っただけだ。君はそういう術をすでに持っているから。」
「え……そう見えますか?!」
「ああ、少なくとも私よりは。」
 シバは気まずそうに答える。俺は恋愛面に関して褒められたことで、「そっかぁ、」と少し安心する。
(シバはアックスと俺が一緒にいるところも見てるし、それを踏まえて言ってるなら本当なのかも。)
 俺は自信がついてきて、借りようとしていた他の本についても話す。
「それと、夜の営みに関しての本も探す予定です。」
「ッ……なんだと?」
 少し焦った声がする。
(こんな表情するなんて珍しいな。顔を見ておこう。)
 俺は視線をシバの顔に移すが、声とは逆に表情はいつもの仏頂面だった。
「なぜそのような本を?」
「経験がないので、そういうことに関して想像ができないんです。」
「……ないのか。」
(あ、うっかり童貞だって言っちゃった。でもこんな本借りようとしてる時点でバレてるよな。)
「……あの、誰にも言わないでくださいね。」
「ああ。」
 俺は「アインラス様だから言ったんですよ。」と念を押し、そろそろ行こうと頭を下げる。
「一緒にいいか?」
「アインラス様も……?」
「私も学ぶ必要がある。」
 それを聞いてポカンとしたが、荷物を抱えたシバが「行くぞ。」と手を掴み、俺は引きずられるように執務室を出た。

「これは図もあって分かりやすいぞ。」
「あの……アインラス様、私のことは気にせず別の本を見られてください。」
「いや、私も興味がある。」
 俺達は城の図書館に来ていた。仕事終わりの文官が多少おり、すれ違うシバにお辞儀をしている。
(冷徹文官アインラス様が恋愛コーナーにいるなんて、明日から変な噂されたらどうすんだよ!)
「私はどれでも……、」
「では君はこれにするといい。」
 シバは、図があり分かりやすいと言っていた本を俺に手渡す。
「では、私はこれを借りよう。」
 そう言って手に取ったのは『恋愛って、ど~するの?』とポップな字で書かれた本だ。俺はひっくり返りそうだった。
「アインラス様!これは私が借ります!」
「それでは私が学べない。」
「必要なら、私から貸しますから!」
「……では、そうする。」
 俺はシバの本を奪い取るように胸に抱えると、次の本を物色するため本棚を見つめた。

 結局、俺は4冊の本を借り、シバは手ぶらで図書館を出た。
「なぜ止めた。」
「あのですね……アインラス様がこの本を借りたら、イメージが崩れるでしょう。」
「俺のイメージとは?」
「冷静で仕事ができる上司って感じです。」
 その答えに、シバは眉を寄せていた。

 そのまま黙って歩いていたが、俺とシバの宿舎の分かれ道に来たところでシバが声を掛けてきた。
「今日の予定はあるか?」
「いえ、ありませんが。」
 今日は特にアックスと会わなければいけないイベントもないし、父もラルクと夕食に行っている時間だろう。俺は首を振った。
「では、夕食を食べないか?」
 俺はその言葉にピーンと来た。
(今日、執務室で俺を引き留めていたのは、夕食を誰かと食べたかったからか!)
 俺は、最近この無表情な上司の感情の起伏が分かるようになってきたと自負していたにも関わらず、気づけなかった自分を叱った。
(今度から、引き留められた時は声を掛けよう。)
 俺は、「ぜひ!」と元気に返事をした。
「外で食べるなら、本を置いてきた方がいいですよね。」
「君さえ良ければ、私の部屋で食べるか?」
「え、お邪魔していいんですか?」
(シバがどんな部屋に住んでいるのかは……正直気になる。)
 俺の反応に、前のめりだと気付いたシバが「こっちだ。」と行って宿舎へ続く道を指差した。

「なんだか、意外なお部屋ですね。」
 俺は部屋を見て、思わず感想を述べる。
「どういう意味だ?」
「あの、失礼ですがもう少し無機質なのかと思っていました。」
 俺は素直に答える。
 初めて入ったシバの部屋は俺と父の部屋と同じような造りで、リビングから続く個室がいくつかある。玄関を入ってすぐ扉があり、そこを開けるとリビングだ。そのまま奥の部屋が寝室となっているようで、大きなベッドが見えた。そして、リラックスできそうな暖炉のある部屋が見えた。他の1つは扉が閉まっていて、おそらくだが仕事部屋ではなかろうか。俺は部屋を眺め、その暖かな雰囲気に驚いた。
 深い赤とクリーム色を基準に濃い茶色の小物で統一された部屋は、落ち着く色合いだ。
 俺はリビングのテーブル席に座るよう言われ、そこへ腰を下ろす。
「何か頼もう。」
 シバがメニュー表を手渡してくる。それには城の食堂と、城近くのお店で配達可能な料理が載っている。
「好きなものを頼め。」
「初めて見ました。こんなこと出来るんですね。」
「知らなかったのか。便利だぞ。」
 俺は悩んでから、野菜がたっぷり入った麺料理を頼んだ。
「それだけか?」
「はい。お腹いっぱいになったら眠くなるので。」
 シバは、少し考えてから電話で注文を始めた。
「デザートを付けると言われた。何がいい?」
「えっと、プリンでお願いします。」
 「プリン2つ」と淡々と言うシバ。その響きが低い声とミスマッチで俺はフッと笑った。
「15分後に来る。」
「ありがとうございます。」
 シバは「着替えてくる」と言って奥の寝室へ歩いていく。部屋を眺めながら待っていると、手に服を持って帰ってきた。
「上だけでも着替えたらどうだ。」
 制服のままである俺にTシャツのような服が手渡される。
(下はさすがに、サイズが違いすぎて無理か。)
「ありがとうございます。」
 俺はそれをありがたく受け取ると、その場で制服を脱ごうと服に手を掛けた。
「おい、何をしている。」
「着替えを。」
「……。」
 シバが黙って台所へ向かった。俺は被るように着ていた制服を上から脱ぐと、借りた服に袖を通す。
(ぶっかぶか……。)
 手はすっぽりと袖で覆われており、丈もお尻が隠れる長さである。ただ、首が開いてないタイプだったことが救いだ。肩からずり落ちるといった心配はない。
 俺が袖を捲ろうと手を伸ばすと、お茶を淹れたシバが戻ってきた。
「大きいな。」
「これって一番小さい服ですよね?」
「ああ。」
 やはり、俺のサイズを考えて小さめの服を選んだようだが、それでも袖が余っている。
俺が少しだけショックを受けていると、シバが近づいてきた。
「手を出せ。」
 言われた通りに手を出すと、シバが俺の余っている袖を器用にくるくると捲り、最後に反対に折り返した。
「これで落ちにくくなる。」
「ありがとうございます。」
 子どものような扱いに少し気恥ずかしいが、自分ですると汚くなって直すのに二度手間だ。

(あ、制服以外の服って珍しい。)
 ここで、シバが部屋着を着ている姿が目に入った。黒の上に下はゆったりとしたグレーのズボンだが、妙に様になっている。
(この前のお見舞いの時も私服だったな。)
 宿舎で出会った際の服は、白い上に黒いズボンとシンプルだったが、持ち前の品の良さからか、芸能人の休日といった印象だった。
 あの時はアックスとの大きなイベントの前だったので焦ってよく見ていなかったが、シバの私服は彼に似合っていて好印象だ。
 俺の袖が落ちないのを確認して満足したのか、シバは「茶はどうだ?」と勧めてきた。今日の香りは優しい感じがしてホッとする。
「柔らかい匂いがしますね。」
「頂いたんだ。」
シバが缶を片手に俺に見せてくる。
「……そうなんですね。」
 俺はその缶を観察する。アックスの部屋でも使われている深い赤に、女性好みのリボンデザインの箔押し。俺はこれが女性から贈られたものだとすぐ分かった。
(俺は乙女ゲームの主人公だぞ。すぐ分かるんだ。)
「……どなたからですか?」
 俺がそう聞いたことが変だったのか、シバはその言葉を聞いて俺の顔をじっと見た。
(……な、なに?答えにくいなら別にいいけど……。)
 俺自身、何でそのことが気になるかは分からないが、気づいたら聞いていたのだ。「気にしないで下さい。」と言おうと口を開くと、シバがそれに答えた。
「ダライン様からだ。」
「あ……文官長様だったんですね。」
「なぜ聞く。」
「あの、他意はありません。」
(俺もなんでそれが気になったのか分からないんだって。)
 わたわたとしていると、シバが「あの方は可愛らしいものがお好きだ。」と教えてくれた。
「そうなんですね。」
「これは土産で貰ったんだ。家で飲めと言われたので、執務室には置いてない。」
「たしかに、仕事中に飲んだら気が緩みそうですね。」
 俺はリラックスする香りのするお茶に口を付けた。
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