鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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恋の勉強は2人で

 少し待っているとドアベルが鳴り、料理が届いたのだと分かった。
「受け取ってくるから、座っていろ。」
 シバは玄関の扉を開け、料理を持って戻ってきた。お金はどうしたら良いのか悩んでいたが、シバが「俺が誘ったのだから気にするな」と財布を出そうとしている俺の手を止めた。
「ありがとうございます。」
「食べよう。」
 シバが頼んだものをテーブルに並べていく。俺が頼んだ麺の他にも、4,5品の料理。しかも1つ1つの量が結構多い。
「あの……アインラス様の分、多くないですか?」
「君も食べるだろう。」
「こんなに食べれるかどうか。」
 俺はテーブルを占拠している料理を見て、心配になった。

「アインラス様、私はこれ以上は食べれません。」
「……私もだ。」
(ほら!やっぱり食べきれないじゃん!)
 俺は、ほら見たことか!とシバを見るが、「君が、」と言われて続きを待った。
「初めてだと言うので、美味しいものを食べさせたかった。」
「……えっ、あ、そうだったんですか。」
 俺はその言葉に不覚にも少しドキッとしてしまい、動揺する。
「全て美味しかったです。」
「……そうか。」
(可愛いとこもあるじゃないか。後輩に良い顔したかったなんて。)
「残りはお弁当にしませんか?冷めても美味しそうなものばかりだし、明日もぜひ食べたい味ですので。」
「いいのか?明日は週始めではないが。」
 俺は週の初めの日には弁当を作り、シバと2人で食べている。お礼のつもりで始まったそれは今も続いており、3日前にも弁当を用意した。
「え!そういう決まりがあったんですか?では、やめておきます。」
(なにか都合が悪いんだろうか。)
「いや、頼む。」
「……はい。」
 シバの真剣な顔に、少し笑いながら返事をする。
「では、詰めて明日持って行きます。」
「手間をかける。」
「それくらいなんでもないですって!」
少し頭を下げた上司に、慌てて大丈夫だと伝えた。

「あ~、落ち着きます。この部屋。」
 食べ終わった俺達は、今は暖炉の前で座ってくつろいでいる。厚手の絨毯にクッションが置いてあり、日が暮れて寒くなってきたからとブランケットを渡された。
 暖炉の火を前に冷たいプリンを食べているなんてなんだか贅沢だ。俺はそれを口に運ぶと、幸せを噛みしめた。
「この部屋が気に入ったか?」
「はい!私もこんな雰囲気にしたいです。私の部屋、今は家具が質素なんですよ。」
 そう言いながら自分の部屋を思い浮かべる。必要最低限しか揃っていない部屋は、少し寂しい感じだ。
(早く箱を開けないとな。)
 俺はずいぶん前から部屋の隅に積まれている前の家の荷物を思い出し、そろそろ片付けをしなければと気が滅入った。
「はぁ~、帰りたくないです。」
 俺が暖炉を見ながら言うと、横から意外な言葉が聞こえてきた。
「なら泊まっていけばいい。」
「……え、」
 横を見上げると、俺を見下ろしているシバと目が合う。いつもの無表情だが、暖炉の火の灯りで顔が赤くなっているように感じた。
「今日は無理です。お弁当もあるし、明日の服もないですし……。」
 そこまで言って、俺は彼が冗談や社交辞令で言っているのではと思い、恥ずかしくなってきた。
(ていうか、そもそも上司の家にお泊りってありえないし、不器用なシバの渾身のギャグを真面目に受けたとしたら、あっちも恥ずかしいよね。)
 シバは「そうだな。」と俺の言葉に納得した様子だ。
「今度来た時に泊まるといい。」
「……はい。」
(え、冗談じゃなかったんだ。)
 家に泊めてもいいと思える程、シバが俺に心を許していたとは知らず、感動してしまった。
(最初の沈黙ばかりのやりとりが懐かしい。)
 お助けキャラであるシバとの信頼度が上がっていることにジーンとしていると、シバが今日借りた本について尋ねてきた。
「本は読まないのか?」
「え、今ですか?……それはちょっと。」
「何でだ。」
(なんでって……。あ、そういうことか!信頼度を高める為にそういう情報も共有する必要があるのかな?)
「いえ、では読みますか?」
「ああ。」
 俺は椅子に置いたままになっている4冊から一番内容がライトなものを選んで暖炉の前に戻る。
「好きに読んでいいぞ。私は横から見る。」
「はい。」
 俺が『恋愛の始め方~超初心者向け~』と書かれた表紙を捲る。
 1ページ目から目を通していくと、「貴方のソレ、恋じゃない?」と、いきなり俺のモヤモヤを解決してくれそうなタイトルだ。図が入っていて、絵本のようで読みやすい。2人で見てもペースの違いを気にしなくて済みそうだ。

~~~
≪ソレって恋じゃない?①「好きな人と対峙した時」≫
・緊張する
・顔が赤くなる
・いつもの自分じゃなくなる
・相手が輝いて見える
~~~

(この中で当てはまるのは、『相手が輝いて見える』かなぁ。いや、でもアックスはオーラがあるし、皆から見ても輝いてるんじゃ……。)
 俺がその本を真剣に読んでいると、横から大きな手が伸びてきて俺の手に触れる。

「……ッ!」
「前のページに戻っていいか?」
「あ、ちょっと早かったですか?」
「最後の1行だけ読めていない。」
 シバはそういうと俺の持っている本のページをぱらっと戻し、『恋する自分に気付いたら、次はアプローチ!』という文字を読んだ。
「ああ、この章はこれでおしまいか。」
「そうみたいですね。次は『アプローチ方法』ですが、長いみたいなので今日はこの辺にしておきましょう。」
「そうするか。」
 パタンと本を閉じて、お先にどうぞ!と本を渡すと、シバが怪訝そうな声を出した。
「一緒に読むんじゃないのか。」
「今日はそうでしたが、1人で読んだ方が良くないですか?」
「……そうは思わない。」
 俺はシバの言葉の意図が分からないが、お助けキャラであるシバが俺と読みたいと言っているならば聞くべきではないか……と思い始めた。
(俺にとってシバはミニがみ様だし、これを機会に恋愛相談もできるようになったら完璧じゃん。)
「アインラス様がそれで良いなら。」
「では、本は私が預かろう。」
 人気である本ならまだしも、これらを借りる者はほとんどおらず、本の返却日は特に決まっていない。カウンターの職員から、「会得するまで持っていても結構ですよ。」と笑顔で言われ、俺は顔から火が出るかと思った。
(恋愛初心者ですって公表したようなもんだし。)
 思い出すと顔が熱くなってくる。それをごまかすように椅子の上にある3冊の本もまとめてシバに手早く渡した。

「では、そろそろ帰ります。」
「送ろう。」
 俺はその申し出を断ったが、ずっと前に男に絡まれたことを言われ、申し訳なく思いながらも部屋の前まで送ってもらった。

(あ、またシバの服をゲットしてしまった。)
 俺は風呂に入る前に、自分の着ているものがシバの大きな服であることに気付く。
(週明けに返そう。)
 それを脱ぐと綺麗にたたみ、別で洗うために洗濯カゴの横に置いた。
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