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デートの約束
「失礼します。」
次の日の朝、いつものようにシバの執務室に入る。今日の仕事を終えれば休みが待っている。俺は明るい声でシバに話しかけた。
「おはようございます!昨日はありがとうございました。」
「ああ。」
返事は短いが、昨日はシバもそれなりに楽しんでいたのでは……と思う。
(だってお泊りも提案してきたくらいだし。)
そして昨日といえば……と借りた服の件について伝える。
「昨日お借りした服、洗って返します。」
「そのままでも構わない。」
「いえ!そんな訳には。週初めには必ずお持ちします。」
「分かった。」
シバは俺の言葉に頷く。
「お弁当ここに置いときますね。アインラス様が好きなおかずを少し付け足しました。」
「楽しみだ。」
シバはちょこんと並ぶ2つの弁当の包みを眺めて目を細めた。
(笑っ……たとは言えないよな。)
ぶっきらぼうな表情の中に時々見せる穏やかな雰囲気は、彼にとっては微笑んでいるつもりなのだろうか。どちらにせよ機嫌は良さそうだ。
彼の笑顔を一度だけ見たことがある。
(笑顔っていっても、にっこりと笑ったわけじゃなくて、こう柔らかい感じっていうか……。)
あの時は落ち込んでいた俺にシバがお茶を淹れてくれて、すぐに元気が出た俺を見て呆れて笑った。その表情が急にフラッシュバックし、心臓がドクドクと音を立てた。
そんな俺が目の前の男をぼーっと見ていると、シバがぼそっと呟くように口を開く。
「本に描いてあった絵と、同じ顔をしている。」
俺は挿絵にあった好きな男性を前に顔を赤くする女性を思い出す。
「え、同じでしょうか……。」
「よく見ていいか?」
シバが顔を覗き込むように近づいてくる。俺はそれに慌てて「あ、あの、自分で、」と、どもりながら答える。
「後で鏡で確認してみます!」
俺はそう言って、お茶を淹れる為にポットの方へ向かった。
「ねぇ……、ぼんやりしてどうしたの?」
「シュリ、ごめん……何か言った?」
「別に何も。でも手が止まってるよ。」
俺はもう一度謝って書類整理を進めた。
(あーもう……さっきからシバの笑顔が頭から離れない!)
俺はどうしたものかと頭を捻る。
「んー、もしかして好きな人でもいるの?」
「……違うって。」
シュリは、ふーん……と言い、にやにやしてこちらを見たが、それ以上は何も言わず、何かあったら相談するように言ってくれた。俺は「ありがとう。」と心遣いに礼を言い、作業に戻った。
コンコン……。
「失礼します。」
夕方、執務室へ入ると、そこにはダライン文官長が来ていた。
シバが俺の姿を確認して声を掛ける。
「…マニエラ、今日は報告は良い。先に帰りなさい。」
「分かりました。ダライン様、アインラス様、お先に失礼します。」
廊下を歩きながら、ふと文官長が去った後の執務室を想像する。
(お茶、自分で入れるのかな。)
上司が1人で静かにお茶を飲む姿を思い浮かべながら、文官棟を出て馬小屋へ向かった。
「アックス!」
「セラ、最近よく来るな。」
俺は、特に用事が無い時はここへ来るようにしている。好感度を上げたいという思いが第一だが、動物好きな俺は、ここでエマを撫でることでアニマルセラピーを体感していた。
「エマに会いたくて。」
「エマだけか?」
「あ、違います!もちろんアックスにも、」
「はは、冗談だよ。」
俺の頭をぐりぐりと撫でてくる。弟のような扱いに、兄弟がいたらこんな感じなのかと考える。
(いや、兄弟って何だよ!俺とアックスは恋人同士にならないといけないんだから、そんな考えは捨てないと!)
俺は頭をぶんぶんと振って、先日読んだ恋愛教授本を意識しつつアックスと話そうと気合を入れた。
「どうした。エマを触るんだろ?」
「はい。」
俺はエマに近づいて顔を撫でる。気持ち良さそうにブルル……と音がし、俺は可愛くてワシワシと気持ち良い部分を強く撫でた。
「今度、エマに乗ってどこかへ行こうか。」
「いいんですか?」
「ああ、近くでいい道を見つけたんだ。緩い傾斜が丘まで続いている。」
「では、丘で何か食べましょう。俺が作ってきます。」
俺の提案に「それはいいな!」と笑顔になったアックスが、今週末の予定を聞いてくる。
(明日は片付けをしないと父さんがそろそろ怒り出しそう。)
「明後日はどうですか?」
「いいな。俺は昼の3時に交代だから、その後になるが。」
「はい。では4時はいかがですか?」
「完璧だ。」
それからは、アックスの好きな食べ物や苦手な物を聞きながらエマの手入れをし、日が暮れるまで楽しい時間を過ごした。
「セラ!遊ぶのもいいけど、そろそろ片付けしないと、困るのはセラだからね。」
「……はい。明日必ずします。」
アックスと近くの店で食事をし、帰ってリビングの椅子に腰掛けると、父が「おかえり」と迎えてくれた。それからアックスと馬で出掛けることを報告していると、父が俺の部屋について物申した。
「セラ、もしかして開けたくない?」
父は俺の記憶がまだ曖昧なことを気にしている。いつもは話題に出さないが、俺があまりに前の家の荷ほどきをしないので、気になっているようだ。
(ごめん父さん……。本当に面倒くさかっただけなんだ。)
俺は「違う」とはっきり伝え、明日必ずするからと約束した。
「あの箱にはセラの宝物が入ってるのに、全然開けないから心配だったんだ。」
「宝物……?」
(なんだ……お金でも貯めてたのかな?)
それはぜひとも開けたいと思う。
「それってどんな物?」
「小さい時に遊んだ子がくれた花だよ。押し花にして額に入ってるから、明日見てみなさい。」
(……あれか!イベント④で鍵になる花のことだよね!危ない……早く出しとかないと。)
それが、小さい頃のアックスとの思い出の品であることは既に把握しているが、父に怪しまれないよう、「見るのが楽しみ。」と明るく伝えた。
「お、あった。これだな。」
俺はその日の晩、イベントに必要なアイテムである『思い出の押し花』が気になって箱をいくつか開けてみた。
貴重品が詰まった箱の一番上に布で巻かれて入っているガラスのフレームには、可愛らしい黄色の花が一つ挟まっている。
俺はこれを自分の机の隅に置くと、まだまだ先ではあるが……と、これから待ち受ける大きいイベントの確認の為、攻略ノートを開いた。
次の日の朝、いつものようにシバの執務室に入る。今日の仕事を終えれば休みが待っている。俺は明るい声でシバに話しかけた。
「おはようございます!昨日はありがとうございました。」
「ああ。」
返事は短いが、昨日はシバもそれなりに楽しんでいたのでは……と思う。
(だってお泊りも提案してきたくらいだし。)
そして昨日といえば……と借りた服の件について伝える。
「昨日お借りした服、洗って返します。」
「そのままでも構わない。」
「いえ!そんな訳には。週初めには必ずお持ちします。」
「分かった。」
シバは俺の言葉に頷く。
「お弁当ここに置いときますね。アインラス様が好きなおかずを少し付け足しました。」
「楽しみだ。」
シバはちょこんと並ぶ2つの弁当の包みを眺めて目を細めた。
(笑っ……たとは言えないよな。)
ぶっきらぼうな表情の中に時々見せる穏やかな雰囲気は、彼にとっては微笑んでいるつもりなのだろうか。どちらにせよ機嫌は良さそうだ。
彼の笑顔を一度だけ見たことがある。
(笑顔っていっても、にっこりと笑ったわけじゃなくて、こう柔らかい感じっていうか……。)
あの時は落ち込んでいた俺にシバがお茶を淹れてくれて、すぐに元気が出た俺を見て呆れて笑った。その表情が急にフラッシュバックし、心臓がドクドクと音を立てた。
そんな俺が目の前の男をぼーっと見ていると、シバがぼそっと呟くように口を開く。
「本に描いてあった絵と、同じ顔をしている。」
俺は挿絵にあった好きな男性を前に顔を赤くする女性を思い出す。
「え、同じでしょうか……。」
「よく見ていいか?」
シバが顔を覗き込むように近づいてくる。俺はそれに慌てて「あ、あの、自分で、」と、どもりながら答える。
「後で鏡で確認してみます!」
俺はそう言って、お茶を淹れる為にポットの方へ向かった。
「ねぇ……、ぼんやりしてどうしたの?」
「シュリ、ごめん……何か言った?」
「別に何も。でも手が止まってるよ。」
俺はもう一度謝って書類整理を進めた。
(あーもう……さっきからシバの笑顔が頭から離れない!)
俺はどうしたものかと頭を捻る。
「んー、もしかして好きな人でもいるの?」
「……違うって。」
シュリは、ふーん……と言い、にやにやしてこちらを見たが、それ以上は何も言わず、何かあったら相談するように言ってくれた。俺は「ありがとう。」と心遣いに礼を言い、作業に戻った。
コンコン……。
「失礼します。」
夕方、執務室へ入ると、そこにはダライン文官長が来ていた。
シバが俺の姿を確認して声を掛ける。
「…マニエラ、今日は報告は良い。先に帰りなさい。」
「分かりました。ダライン様、アインラス様、お先に失礼します。」
廊下を歩きながら、ふと文官長が去った後の執務室を想像する。
(お茶、自分で入れるのかな。)
上司が1人で静かにお茶を飲む姿を思い浮かべながら、文官棟を出て馬小屋へ向かった。
「アックス!」
「セラ、最近よく来るな。」
俺は、特に用事が無い時はここへ来るようにしている。好感度を上げたいという思いが第一だが、動物好きな俺は、ここでエマを撫でることでアニマルセラピーを体感していた。
「エマに会いたくて。」
「エマだけか?」
「あ、違います!もちろんアックスにも、」
「はは、冗談だよ。」
俺の頭をぐりぐりと撫でてくる。弟のような扱いに、兄弟がいたらこんな感じなのかと考える。
(いや、兄弟って何だよ!俺とアックスは恋人同士にならないといけないんだから、そんな考えは捨てないと!)
俺は頭をぶんぶんと振って、先日読んだ恋愛教授本を意識しつつアックスと話そうと気合を入れた。
「どうした。エマを触るんだろ?」
「はい。」
俺はエマに近づいて顔を撫でる。気持ち良さそうにブルル……と音がし、俺は可愛くてワシワシと気持ち良い部分を強く撫でた。
「今度、エマに乗ってどこかへ行こうか。」
「いいんですか?」
「ああ、近くでいい道を見つけたんだ。緩い傾斜が丘まで続いている。」
「では、丘で何か食べましょう。俺が作ってきます。」
俺の提案に「それはいいな!」と笑顔になったアックスが、今週末の予定を聞いてくる。
(明日は片付けをしないと父さんがそろそろ怒り出しそう。)
「明後日はどうですか?」
「いいな。俺は昼の3時に交代だから、その後になるが。」
「はい。では4時はいかがですか?」
「完璧だ。」
それからは、アックスの好きな食べ物や苦手な物を聞きながらエマの手入れをし、日が暮れるまで楽しい時間を過ごした。
「セラ!遊ぶのもいいけど、そろそろ片付けしないと、困るのはセラだからね。」
「……はい。明日必ずします。」
アックスと近くの店で食事をし、帰ってリビングの椅子に腰掛けると、父が「おかえり」と迎えてくれた。それからアックスと馬で出掛けることを報告していると、父が俺の部屋について物申した。
「セラ、もしかして開けたくない?」
父は俺の記憶がまだ曖昧なことを気にしている。いつもは話題に出さないが、俺があまりに前の家の荷ほどきをしないので、気になっているようだ。
(ごめん父さん……。本当に面倒くさかっただけなんだ。)
俺は「違う」とはっきり伝え、明日必ずするからと約束した。
「あの箱にはセラの宝物が入ってるのに、全然開けないから心配だったんだ。」
「宝物……?」
(なんだ……お金でも貯めてたのかな?)
それはぜひとも開けたいと思う。
「それってどんな物?」
「小さい時に遊んだ子がくれた花だよ。押し花にして額に入ってるから、明日見てみなさい。」
(……あれか!イベント④で鍵になる花のことだよね!危ない……早く出しとかないと。)
それが、小さい頃のアックスとの思い出の品であることは既に把握しているが、父に怪しまれないよう、「見るのが楽しみ。」と明るく伝えた。
「お、あった。これだな。」
俺はその日の晩、イベントに必要なアイテムである『思い出の押し花』が気になって箱をいくつか開けてみた。
貴重品が詰まった箱の一番上に布で巻かれて入っているガラスのフレームには、可愛らしい黄色の花が一つ挟まっている。
俺はこれを自分の机の隅に置くと、まだまだ先ではあるが……と、これから待ち受ける大きいイベントの確認の為、攻略ノートを開いた。
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