鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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完璧で理想な彼

 今日は朝から晴天。完全なる乗馬日和だ。
 しかも今は一番日差しが強い時間を過ぎ、穏やかな気候である。

 昨日は1日部屋を片付け、俺の部屋はようやく生活感が出てきた。ただ、片付けをするといろんな部分が気になり出すものだ。
 小さいソファの色は青く、部屋の色である茶色と合っていないような気がして違和感を感じる。今度何かシーツでも掛けようかと、街へ出掛けられる日をチェックしながら眠った。

(今日は、好きに過ごしていいんだ……!)
 今日はアックスと出掛ける日であるが、緊張はしていない。なぜならこのお出掛けはイベントではないからだ。
 以前ならイレギュラーな状況にいちいち驚き焦っていたが、最近ではあまり動じなくなっていた。
 俺のお助けキャラでもあり、イベントクラッシャーでもあるシバに鍛えられたのもあるが、ゲームに無い話の時は、基本的に俺の好きなように行動して問題がないと気付いたからだ。
 現に、今までもいろんなことが起こったが、アックスの態度は変わらない。
(よし、行くか。) 
今日はとりあえず楽しもうと、玄関の扉を開けた。
「父さん、行ってくるね!」
「気を付けてね~。」
 手を振って俺を見送る父は、今日は1人で料理に専念するらしい。明日は職場の人達にお菓子でも配ろうと張り切っていた。父は社交的で、誰にでも優しく接するのが長所であり、また短所でもある。
(ラルクさんの胃がまた痛むだろうな……。)
 無自覚八方美人の父を好きになったラルクを、少し気の毒に思った。

「セラ!こっちだ。」
 馬小屋の近くに行くと、そこにアックスの姿が見えた。俺に気付いて手を挙げている。
「先に来て準備してくれたんですか?」
「ああ。とはいっても、俺もさっき来たばかりだ。」
 乗馬の鞍を確認しながら、アックスが「よし。」と言ってエマの胸を軽く叩く。
「早速だが行こうか。」
「はい!」
 俺は元気に返事をした。

「弁当が楽しみだな。」
「一応、晩御飯ですからね。」
「分かっている。」
 ははっと笑ったアックスは、「まだ4時か。」と時計を確認した。
 乗馬に慣れていない俺の為にゆっくりと歩きながら道を進む。背後からは手綱を握るアックスの腕が回されており、身体を預けるよう言われた。
(こうやってみるとアックスは本当に大きいな。)
 俺がすっぽりと包まれるほどの大きさに、安心して身体の力を抜いた。

 そこまで遠くない道程で丘まで着いた俺達は、そこからの眺めを楽しんでいた。
「わぁ~、城を上から見たの初めてです。」
「そういえば、俺もあまり機会がないな。」
 シートも飲み物も準備してある。座ってもたれている木の周りには短い草が生えており、座っても痛くない。
(アックスって本当に凄い……。)
 乗馬初心者である俺にも楽な道程、素晴らしい景色と配慮の行き届いたピクニックセット。そしてそれを計画したのは、隣で美しい景色を楽しむイケメン英雄騎士。
 女の子であれば目をハートにしているところだろう。俺もその完璧さをかっこいいとは思うものの、それは憧れのようなものであり、恋とは違うように感じる。
(ああ~、早く本を全部読んで、俺もアックスと恋しないと!)
 横顔もイケメンな黒騎士様をじっと見ていると、アックスは視線に気づき「どうした?」と声を掛けてくる。
「いや、男前だなと……、」
「……セラは俺の見た目が好きか?」
「はい。同じ男として憧れます。」
「俺はセラの方が愛嬌があって好きだな。」
「え……っ!?」
 驚いて大きな声が出る。アックスは完璧人間だと思っていたので、そんな彼が俺のような見た目に少しでも憧れているというのは意外だった。
「え、そうなんですか?!アックスがそう思っていたなんてびっくりです。」
「そうか?俺は結構分かりやすいと思うが。」
「でも、アックスは……そのままで十分魅力的ですよ?」
「……何か勘違いしてないか?」
「……?」
「なんでもないよ。」
 アックスは、諦めたように笑うと俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫でた。

「俺の生まれた町は、この街のもっと向こうなんだ。」
 アックスが方角を確かめながら、街の先を指差す。
「へぇ~、南の方なんですね。暖かい所ですか?」
「いや、そんなに離れてはいないからここと変わらないかな。」
「そうなんですね。」
 アックスは「セラは…」と言いかけて口をつぐむ。
「記憶が無いんだったな。すまない。」
「いえ!気にしないで下さい。俺は今楽しいので過去は気にしていません。」
「しかし、元々王都に住んでいたわけでは無いんだろう?そこで自分がどう過ごしていたのか気にならないのか?」
 俺とアックスはイベント①の時にお互いの過去について少しだけ話をしている。父と俺は王都に来る前は小さな町に住んでいたことはゲームをプレイして既に知っていた。しかし、なぜ王都に来たかまでは分からない。
「そうですね……今度父に聞いてみます。」
 俺が『父』と言ったことで、そのままシシルの話になり、俺は知られざる父の職場での働きっぷりを聞くことができた。

「美味そうだな。」
「お口に合うといいんですが。」
 ゆっくりと過ごし、少し昼寝をしている間に夕日が落ちかけていた。俺が起きて辺りを見回した時には、アックスは持ってきていたランプに火を灯していた。
 お弁当を食べようと俺は大きな包みを取り出す。普段とは違い、今日は運動会並みの量だ。お重のような弁当箱を元大工である父に作ってもらい、そこにはおかずとおにぎりがびっしり詰められている。
「こんなに沢山、大変だっただろう。」
「いえ!作っているうちに楽しくなってきて、ついつい作りすぎたくらいです。」
「ありがとう。」
 そう言って微笑むアックスは、「食べてもいいか?」と視線を弁当に移した。
(目がキラキラしてる。)
 頷くと、手に取った皿におにぎりを3つ、おかずをこれでもかと盛った。
「あの、ちょっとずつ取って大丈夫ですよ。」
 俺が、子どものような取り方にクスクスと笑っていると、「美味しそうで、つい…」と少し気恥しそうにしていた。

「美味い!セラは料理が上手だな。」
「ありがとうございます。」
 大きなコロッケを食べながら、アックスがその中身を見て感心しているようだ。
「どれも手間が掛かっているな。見た目も味も素晴らしい。」
「ほ、褒めすぎです。」
 俺はカァアア……と顔が赤くなった。それを見てアックスは「俺は思ったことを言っただけだ。」とにっこり笑った。

「そろそろ帰るか。」
 ランプの明かりを持ってアックスが立ち上がる。日はすっかり落ちており、少し風が冷たくなってきた。さっき借りたアックスのマントのおかげで温かく、何とも思っていなかったが、このまま居ては風邪をひきかねない。
(帰るタイミングまで完璧だな……。)
 俺は、今日1日で改めてアックスがなぜ『Love or dead』で1番人気なのか……その理由を知った。

「今日はありがとな。」
「こちらこそ。楽しかったです。」
(あ、あれを言わないと!)
 俺はすっかり忘れていた夕食へのお誘いをここでしておこうと口を開く。
「今度、夕食を食べに来ませんか?」
「君の部屋にか?それは嬉しいお誘いだな。」
 アックスは、にかっと笑って本当に嬉しそうだ。
 本当なら、初期のイベントでアックスの上着をゲットし、そのお礼にお菓子を渡す。
(そこで「料理上手だな」って言われて、夕食に誘うんだけど……今なら間に合うな。)
 俺はとりあえず諦めかけていたイベントがうまく発生しそうだと安心した。
「では、また次回に。」
「ああ。おやすみ。」
 アックスが手を挙げてエマを馬小屋へと連れていく。
 俺はその背中を見ながら、今後発生するであろう夕食イベントの流れを考えていた。
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