鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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ナンパ撃退法

「マニエラ。」
「お疲れ様です。」
 次の日、俺はシバの部屋の前に来ていた。
 お泊りだと聞いていたので用意した荷物は、着替えやら寝間着を入れたので結構な量になった。
「荷物を置くといい。すぐに出掛けるか?」
「はい。」
 今は昼過ぎ。食材を買うならそんなに遅くならない方が良いだろうと、俺は頷いた。

 2人で城から出て街へ向かう。
 シバは白いシャツに暖色の上着を羽織っており、下は黒いズボンだ。相変わらずシンプルながらセンスが良い。そして俺も無難に白いシャツに黒いズボンを着てきてしまい、少し恥ずかしい。幸い上着が寒色であるが、それが逆にお揃い感を高めている気もする。
(カップルと間違われたら、シバは嫌がるかもな。)
 俺は、皆が空気の読める店員でありますように……と祈った。
「市場に行きますか?」
「いや。先に別の場所へ寄ってもいいか?」
「はい。」
 シバはそう言うと、迷いなく路地を歩いていく。
「ここだ。」
「お茶のお店ですか?」
「ああ。街に来たら必ず寄る。」
 そう言うと中へ進んでいくシバ。
 店には俺達だけのようで、店員であろう品の良いおばあさんがにっこりと笑っている。
「ようこそおいで下さいました。ご用意ができております。」
「後で受け取ろう。他も少し見る。」
(既に注文してたのか。)
 シバは、俺に「好きな物があれば言え。」と一言残すと店員と話し始めた。
 俺は棚に並んだお茶を見る。
(『肩凝り腰痛に効果あり』……って、こんなお茶もあるのか。)
「これが気になるのか。」
「…わッ。」
 俺が興味深げに見ていると、話を終えたシバが後ろから話し掛けてきた。突然のことで俺が驚く。それをひょいっと持つシバに、買うのかと振り向くと、「君に。」と言って他も見繕い始めた。
「え、大丈夫です。俺のことは気にしないで下さい。」
「いつもの弁当の礼だ。」
 シバは俺にどうしても何か買いたいらしく、俺は、肩凝りのお茶はやめて別のものにしてくれと頼んだ。

 シバが持っている赤い缶。俺は静止のために手を出すが、サッと避けられてしまった。
「あの……これ、本当に買うんですか?」
「一番真剣に見てたじゃないか。」
(う、それは本当だし、正直ちょっと欲しい。)
 結局、俺がじっと見ていた『恋茶』という恋愛に効くお茶を手に取ったシバは、さっさと会計に向かってしまった。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
 終始丁寧に対応してくれたおばあさんにペコッと礼をして、俺達は店を後にした。

「市場に行きますか?」
「ああ。実は食材は昨日買ったんだ。君が言っていた材料を揃えたので、今日は調味料だけ買えばいい。」
「そうなんですね。」
(用意周到だな。チキン南蛮作るの、結構楽しみにしてたのかな。)
「じゃあ、こっちですね。」
 今度は俺がシバより前を歩いた。

「これで全部か?」
「はい。……あ、忘れてた!」
 俺は酢を買い忘れていたことを思い出す。
「少しここで待っていてください。そこなので。」
「私も行く。」
「いえいえ、本当にそこの店なので。」
 俺はシバから見える範囲にある店を指差す。シバは俺に「これで頼む。」とお金を無理やり握らせると、言われた場所で待つようだ。腕を組んで壁に背を付けた。
「すぐ戻りますね。」
 俺は待たせないように小走りで店に向かった。

「よし、これで全部かな。」
 俺が小さい容器に入った酢を持って、シバの待つ場所を見ると、シバが女性2人と話しているのが見えた。
(誰だろう……。)
 俺は恐る恐る近寄る。
「お兄さん、お1人ですか?」
「……。」
「今日ってこの後、暇だったりします?」
「……。」
「あのぉ、もしかして誰か待ってるんですか?」
「……。」
 会話を聞いてみると、女の子達が一方的にシバに話し掛けているようだ。シバは興味なさげに腕を組んで目線を逸らせたままだ。しかし、女子というものはやはりクールな男に惹かれるようで、無視と言えるシバの態度にも屈せず話し続ける。
 かっこいいといえば、アックスもその部類の頂点に君臨する男だが、街で女性に声を掛けられている姿は見たことがない。
(アックスは有名な英雄だから、気軽に話し掛けにくいのかも。)
 今日のシバはカジュアルな恰好で、仕事をしている時のような緊張感はない。しかし無表情なのはいつも通りで、俺が女の子だったら話し掛ける勇気はない。
(あの子達、仕事中のシバを見たことないから声掛けれるんだよ。雰囲気すっごく固いし、ずっと仏頂面だし、今日とは全然違うんだからな。)
 俺はシバにぐいぐいと話しかける女の子達を見る。
(ていうか、そもそもシバは皆が憧れる凄い人なんだから、気軽に話し掛けれる存在じゃないんだぞ。)
 俺は何故か胸がもやもやとし、ぎゅっと拳を握る。
 その時、1人の女の子が「ねぇ、聞いてますか?」とシバの腕を取ろうとした。

パシッ――…
 俺は反射的に近寄って、シバの腕を掴む。
「あのさ、俺のだからやめてくれる?」
「え!あ、ごめんなさい。」
 女の子達は俺の言葉に、慌てて去っていく。俺は、彼女達の足の速さに驚きつつも姿が見えなくなるまでじっと道を見つめた。
「マニエラ。」
「ああ!すみません。お待たせしました。」
「いや、それはいいんだが、さっきのは……、」
 俺の言葉のことを言っているんだろう。すぐに頭を下げる。
「すみません勝手に。でもこの台詞が一番効果があるんです。」
「構わない。少し驚いたんだ。……君は自分を『俺』と呼ぶんだな。」
「はい。アインラス様の前ではそんな言葉遣いできないですけど、普段は結構口が汚い方です。」
 敬語も上手く使えている自信は無いが、上司であるシバの前では出来るだけ丁寧に話すようにしていた。
「私は君について何も知らないな。」
「今日のお泊りで沢山知れますよ。何しろ明日も一緒ですからね!」
「……そうだな。」
 シバはそう言って微笑んだ。
「えっ…!」
「どうした。」
(シバが笑った……2回目……。)
 俺はドクドクと心臓が鳴る。
 レアな顔が見れて興奮しているのだろうか。シバが「マニエラ?」と名前を呼ぶのにも気付かず、下を向いて顔の火照りを必死に静めようとした。

「具合はどうだ?」
「大丈夫です。」
 俺が黙って下を向いているのを「体調が優れないのか」と心配したシバは、俺を近くのカフェに連れて行った。道中はずっと手が繋がれており、顔はさらに熱を持つ。
(あーもう、なんでこんなに恥ずかしいんだ。)
「人混みに酔ったんだろう。私もたまにある。」
「ご迷惑をお掛けします。」
 俺の体調を考えて、くつろげるソファ席に座る。机の角を挟んで座っているため簡単に手が届き、シバは俺の背中を撫で、少しでも気持ち悪さを軽減させようとしている。
 その優しさにまた顔が熱くなった。

 少しした頃、俺が落ち着いたことを告げると、シバがメニューを手渡してきた。
 俺はその中からフルーツのジュースを選び、シバはコーヒーを頼む。そして、セットでアイスクリームを付けるかと聞かれ、俺に好きなものを選ばせた。

「……見たことない調味料ばかりだな。」
「俺がいつも使っているものですよ。」
 シバが今日買ったものを眺めながら、不思議そうな顔をしている。俺がお弁当のおかずにも使っていると言うと、感心したように「これが……。」と、書かれた成分表をじっと見ていた。
「失礼します。コーヒーと、フルーツジュースと、アイスはこちらで良かったですか?」
 店員が俺の前にデザートを置く。コクリと頷きテーブルに目をやると、頼んだアイスとは別の皿に、小さいシャーベットが乗っていた。
「あの、これ……、」
「さっきこの2つで悩まれてたでしょう?お客さん可愛いので、俺からのサービスです。」
 気さくな店員に、笑いながら「ありがとうございます。」と言うと、横からぐいっと肩を抱かれる。

「彼は私のだ。」

 シバは店員に向かって宣言した。
(え、何言ってるの?!なんで急に?!)
 俺は混乱したが、できる店員は「では、またぜひお二人でお越しください!カップル向きのメニューもありますので!」と言って笑顔で去っていった。
「……アインラス様、どういうことですか?」
「君が言ったんだろう。こうするのが一番だと。」
 シバは、俺の言ったナンパの撃退法を使ったのだろう。しかし、先程とは違い、店員はただ善意でサービスをしてくれただけだ。
「あの、今のはただの接客です。」
「何……?可愛いと言っていたからてっきり口説いているものだと、」
「思ってなくても言うんですよ、ああいうのは。」
 シバは俺の言葉に衝撃を受けているようだ。
「しかし私は、そういうことを軽々しく言いたくはない。」
「……アインラス様は店員じゃないですし、気にしなくていいんですよ。」
「そうか。」

 安心するシバを見る。
(…まじか。)
 シバのあまりに純粋な言葉に、俺は驚くとともに少し彼が心配になった。
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