鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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教えて欲しいと言われたので

 シバの部屋に帰ってきた俺達は、一緒に晩御飯を作っていた。
「これでいいか?」
「はい、完璧です。あとはこのソースを掛けるだけです。」
「美味しそうだ。」
 完璧なチキン南蛮が出来上がり俺は満足だ。そして同時に作っていたサラダとスープもよそって2人で席に着く。早速シバが箸で上品に料理を取り分けていき、俺はその手つきを見届けて「いただきます。」と手を合わせた。
「美味しい。」
 口に運んだシバが感想を述べ、俺も一口食べてその出来に頷いた。
「アインラス様も作れるようになりましたね。」
「ああ、この味が家で食べれるなら外食は必要ない。」
 シバの食べっぷりが気持ち良く、俺は嬉しくなって頬が緩んだ。

「全部食べてしまった。」
 シバが少し悲しげな声で言う。
「明日の分、残そうと思ってたんですか?」
「……そのつもりだったんだが。」
 シバは空になった皿を見ている。
「また作ったらいいですよ。それに、明日は明日で新しい料理を作ります。」
「楽しみだ。」
 シバは若干、口角を上げている……ような気がする。

 2人で皿を片付けた後、今日買ったお茶を入れようということになった。
「恋茶……効能は、大胆になれる・相手の好意に気付きやすくなる、など……本当ですかね?」
「試してみるといい。」
 シバがお湯を注ぎ、良い香りが漂ってくる。
 それをカップに注ぐと俺達は暖炉の前に移動した。
「先に飲んでみて下さい。」
「いや、君から飲んだらどうだ。」
 軽く言い合った後、結局買ってもらった俺が先に飲むことになった。
「あ、美味しい。リラックスするお茶に似てますよ。」
「『大胆になれる』というのも、そういう意味かもしれないな。」
 毒見の俺が何ともなかったのを見て、シバがそれに口を付ける。
「あの、本はどうします?」
「ここにある。」
 暖炉の近くの本棚から4冊取って持ってきたシバ。俺はとりあえず……と、前の本の続きから読むことにした。
「前と一緒でいい。私は横から見る。」
「じゃあ、ここから開きますよ。」
俺は『アプローチ編』のページをめくった。

~~~
≪さっそくアプローチしてみよう!≫
・相手の好きなものを知ろう
・さりげないボディータッチ
・とにかく褒めよう
~~~

 初心者はこの3つさえ押さえておけば良いらしい。
(うーん、この章は詳しく見なくていいな。)
 アックスの好きなものは既に知っているし、狙ってはいないがボディータッチも時々している……つもりだ。 そしてアックスは素晴らしい人間なので、無理をせずとも褒めるところはたくさんある。
 俺がパラッと次のページに行こうとした時、シバが「これを、」と声を掛けてきた。
「実践してみたいんだが。」
 その指はしっかりと『さりげないボディータッチ』を指していた。
「あの、これ意味分かってますか?」
「ああ。だが、どうやってしたらいい?」
(絶対分かってない!)
 恋愛面に関しては、シバより俺の方が若干知識があることに気付いてしまった。真剣な顔のシバに、俺は先輩(?)としてやり方を教えてあげることにした。
「これは、例えばこうやって座ってる時に、足に手を置いたりするんです。」
 俺はポンと自分の手を、胡坐をかいて座っているシバの太ももに置いた。
「……。」
「こんな感じです。」
 シバが触れている部分を凝視し、俺はパッと手を退ける。
「他はあるか?」
「えっと……、」
(俺も初心者なんだから分かんないよ!でもゲームの主人公だったら、頭を肩に預けてみたりとか……急にするには結構ハードルが高いな。)
 俺が、次のスキンシップを考えているとーー……

ドン……ッ

 大きな音がして肩が跳ねる。シバも少し驚いたのか、ん?と窓に目を向けている。
 俺は、ラルクと父との会話を思い出し「ああ!」と声を出した。
「今日、街で花火が上がるって聞きました。」
「……今日だったか。忘れていた。」
(ん、なんか落ち込んでる?行きたかったのかな。)
「アインラス様、見たかったんですか?」
「いや。……君はどうだ?」
 花火はあちらの世界で見る機会が多く、珍しいものではない。今日も父とラルクと行けば楽しかっただろうが、シバとの約束を断ってまで見たいとは思わなかった。
「私は大丈夫です。」
「そうか。……私は少し残念に思う。」
「先に言えば良かったですね。」
 シバがこういうものに興味があるとは知らず、俺はびっくりした。
(でも花火って綺麗だし、いくつになってもワクワクするもんね。)
 俺が納得してうんうんと心の中で同意していると、シバがボソッと呟く。
「君と見たら、楽しかっただろうと思った。」
「……あ、そ、それは、」
 シバの言葉に俺はまたもや驚く。
 最近いろいろ言葉にして俺に感情を伝えてくるシバ。出会った頃に比べれば嬉しい変化だが、純粋なのか、言葉がストレートすぎて恥ずかしくなってくる。
(この性格がバレたら女子達が放っておかないぞ。)
「次にある時はお誘いします。」
「俺も気を付けておこう。」
 シバは残念そうな顔から、いつもの表情に戻った。
「アインラス様、例えば一緒に花火を見ているとしたら…」
 俺がシバの横に並ぶように座る。距離が少しあったので、近寄るように動き、肩をシバの腕にくっつける。
「こうやって、頭をもたれさせるのも良いみたいですよ。」
「……。」
シバは黙っている。俺はどうしたんだと彼を見上げるが、そっぽを向いていてその表情は分からない。
「これは、その……効果がありそうだ。」
「そうですか?手とかも触れば完璧です。」
 俺は足の上に置かれている大きな手に自分の手を重ねた。シバはピクッと少し反応したが、特に感想はない。
「どうですか?」
「……覚えるので、少しこのままでいいか。」
(おー、学んでる学んでる。)
 俺のテクニックはゲームで攻略キャラ達がやっていたものだが、シバにも伝授できそうだ。
(こんな凄い人に俺が教えられることがあるって、少し良い気分だ。)
 俺は上機嫌で手を繋いだまま、暖炉の灯りを見ていた。

 あれから、2人で黙って座っていたのだが、俺が「覚えました?」と聞きシバが頷いたことで手を離した。腕にもたれかかっていた頭も戻し、距離を少し置く。
 シバはこっちを見降ろし、じっと俺の目を見た後で口を開く。
「君はこの本を読む必要があるのか?」
「ありますよ!俺まだまだ初心者なので。でも、アインラス様よりは知識があるかもしれないです。」
 俺が冗談っぽく言うと、シバがそれに反応した。
「私にいろいろ教えてくれないか?」
「あの、冗談で言っただけで、私もそんなに、」
「一緒に学んだらいい。だが、私が知らない部分は君に習おう。……今日のように。」
 断る理由も見当たらず、俺は首を縦に振った。

 花火の音が聞こえなくなり、シバはそろそろ寝る準備を……と立ち上がった。
 交代で風呂に入り、部屋着に着替える。
 湯上りに出された冷たいお茶を飲むと、身体の火照りが治まってきて心地よい。
「ありがとうございます。今日買ったお茶ですか?」
「よく分かったな。」
 言い当てた俺が「へへっ」と喜んでいると、シバがベッドを指差した。
「君はベッドを使うといい。」
「アインラス様はどこで寝られるんですか?」
「布団を敷いた。」
「あの……小さくないですか?」
「……モノを見ずに買ってしまったんだ。」
 俺はベッドの近くに敷いてある布団の小ささに、思わずツッコんでしまった。俺ならまだしも、シバであれば足が絶対に出てしまう。
「あの、私がそちらで寝ます。」
「客人を床で寝かせるわけにはいかない。」
「いや、私は平気なので……、」
「気にしないでくれ。」
 そう言って布団に入っていくシバを見下ろす。
 案の定、足が出てしまったが、俺にツッコまれないように折りたたんだ。
「アインラス様……無理があると思います。」
「……。」
(頑固だな!まったく。)
 俺は広いベッドを指差して提案する。
「それなら、一緒に寝ればいいんじゃないですか?」
「……そうか。」
シバは少し考えた後、布団を捲って立ち上がる。
「君はいいのか?」
「私は別に……このベッド、もの凄く大きいですし。」
 ベッドを改めて見る。俺の部屋にあるシングルベッドと違って、シバのものはかなり大きく、クイーンサイズはあるんじゃないだろうか。2人で寝ても十分な広さだ。
「では、そうしよう。」
 シバはベッドに入り、少し詰める。そして布団の端を捲ると「どうぞ」といった風に俺のスペースを空けた。
 そろりとベッドへ上がる。ふかふかで触りの良い布団は、俺の部屋のものとは大違いだ。俺がベストポジションを探して動いていると、シバが急に謝ってきた。
「すまない。俺の手違いでこんなことに。」
「いえ。……布団新しいみたいですが、買ったんですか?」
「君が泊まることになってから電話で購入したんだが、まだ広げたことがなかった。あんなに小さいとは……」
 若干落ち込むシバに、俺は励ますように言う。
「2人で寝た方が温かいですよ。今日は夜冷えるみたいだし、ちょうど良かったです。」
「……では、もう少しこちらへ寄れ。」
 シバが布団の中で俺の腕を掴んで優しく引き寄せる。俺は素直にそれに従ったが、近すぎて少し緊張した。
(シバ体温高いな……。)
 俺が熱を確かめようと、その胸に手を当てると身体がピクッと動いた。
「本にあったことを実践してるのか?」
「あ、そんなつもりじゃ、」
「では、あのお茶のせいかもな。」
 恋茶の『大胆になれる』効能が効いてるのか…たしかに上司の身体を急に触るなんて部下には大胆な行為だ。
「……かもしれないです。」
「そうか。」
 シバはそれ以上喋らず、俺も少し眠気が襲ってきた。眠る前に「おやすみなさい」と言って、俺は夢の中へ旅立った。
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