鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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甘い朝

(眩しい……。)
 光が顔に差しているのを感じ薄目を開けると、シバの顔が目の前にあった。
「……ッ!」
 俺はびっくりして身体を硬くする。
 あまりの衝撃に固まっていたが、徐々に昨日シバの部屋に泊まったことを思い出し、少し落ち着いてきた。
(わ、意外に可愛い寝顔。)
 俺は目を開けて、横に眠るシバを見る。
 本当に半年間大変だったのだろう、眠る姿は少し疲れているように見えた。
(大変だったよね、きっと……。)
 ゲームにはシバのことはほとんど描かれておらず、厳しい上司としての姿しか知らなかった。
しかしこうやって接してみると、紳士で優しい面や不器用で可愛らしい部分、そして表には出さないが一生懸命頑張っている所に好感を持つ。
(なんで主人公はこの人を好きにならなかったんだろ……。)
 隣に眠る男は精鍛な顔をしており、今は眠っているため穏やかな表情だ。
(だって、かっこいいよ……。)
 世間一般的に『かっこいい』と評価されるであろう上司を見つめ、俺はあのゲームに疑問を抱いた。

 目の前の男の眉がピクッと動く。
 それを見ていると、目がゆっくりと開かれた。
(なんか、動物を観察してる気分。)
 俺が面白がって覗き込むように顔を見ると、シバが俺を抱き寄せた。
「……わッ、」
「何してる。」
 シバが寝起きの掠れた声で聞いてくるが、俺は密着した身体の熱さに動揺してそれどころではない。頭はワーワーとうるさいし、逃れるにも腕の力が強すぎてどうすることもできない。
「セラ……」
「えっ、」
(俺の名前呼んだ。)
 初めて苗字以外で呼ばれ、俺がどうしたのかとシバの様子を窺う。しかし、俺の頭上からは、すー……と寝息をたてる音がしてきた。
(え、寝ぼけてただけ?!)
 俺は、何だよ……!と思いながらも、温かい体温に少し微睡んできた。くぁ……と欠伸をひとつすると、気づかぬうちに眠ってしまった。

「……マニエラ。」
(違う、セラって呼んで。)
「……セラ。」
 その低い声に、目を開けるとシバがこちらを見ていた。
 俺はガバッと起き上がる。
(俺、あれから寝ちゃったのか。)
「起きたか。もう昼になるぞ。」
「え……!すみません。寝すぎました。」
「いや、俺も今起きた。」
 本当に起きたばかりなのだろう、シバは寝間着で髪も乱れている。
「……ふっ、髪が。」
 俺が寝ぐせのついているシバの姿に笑うと、ムッとしたように俺の髪が一束取られた。
「君も大概だぞ。」
「……アインラス様ほどじゃないです。……ふふっ、はは、」
 シバの子どものような表情に、思わずまた笑ってしまった。一度ツボに入ってしまった俺はしばらく笑いが止まらず、シバは何も言わずに黙ってその様子を見ていた。

 気付くと日が落ち始め、俺は「そろそろ帰らないと、」とシバに告げる。
 今日は結局、昼過ぎにベッドから降りて昼食を作った。簡単にパスタでも……と準備をしていると、身なりを整えたシバが横から手伝いをしてくれた。
 2人で昼食を取ってからは、疲れているだろうシバに合わせて「部屋で過ごそう」と提案した。
 2人で本の続きを読み、シバが質問してくることにできる限り答える。そして、そのまま暖炉の前で2人して居眠りをしてしまい、起きて雑談をして過ごした。
(すっごく怠惰に過ごしてしまった。でも身体が休まった気がする。)
シバもそうだったらいいな……と思いながら、俺は帰るために荷物をまとめ始めた。
「荷物は置いていかないのか?」
「え、でも寝間着とか洗わないといけないですし、」
「また来るだろう。私が洗濯しておく。」
 そう言って荷物をひょいっと持ち上げられる。
「あの、また持ってきます。」
「駄目だ。次来る時まで、人質にしておく。」
 シバは真剣な顔で言い、俺はその言葉に拍子抜けした。
「あの、遊びに来ますよ?」
「……早いうちに来ると約束しろ。」
 わがままを言われているような気がする。そして、それを可愛いと思ってしまっている俺がいる。
「はい。アインラス様の良い時に。」
 俺の言葉に安心したのか、荷物を置いて「予定が分かり次第言う。」と次の約束に前のめりだ。
(ああ、今回泊まりに来て良かったな。)
 俺は、上司でありお助けキャラであるシバと交流が深まったことを嬉しく思った。

「お腹空いたら、昼に作ったおかずを食べてくださいね。」
「分かった。」
「ちゃんと温めなおしてくださいよ。分かっているとは思いますが、ポテトサラダは温めないでくださいね。」
「分かった。」
 俺は玄関に立って、母親のように注意事項を伝えている。昼ご飯が遅かったため、夕食は一緒に取らないが、もしお腹が空いてはいけないと、昼間にある材料で何品か作っておいたのだ。
 うるさい小言が終わると、シバに「ありがとう。」と礼を言われた。
「また明日からお願いします。」
「ああ、また明日。」
 頭を下げてシバの部屋を出る。荷物は置いたまま、手ぶらで帰ってくる俺を父は不審に思わないだろうか。
(いや、大丈夫だな。)
 俺はふわふわした父の顔を思い浮かべ、何も気にせず自分の宿舎を目指した。
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