鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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突然の電話

 あれよあれよと日々が過ぎ、俺は今日から3日間、第二王子のエヴァンに付いて行動を共にしなければならない。
(昨日は眠れなかった……。)
 明日には隣国の王子もやって来るのだ。緊張するなという方が無理だろう。
 そして、シバには会えない日々が続いている。お互いに忙しく、文官棟で会っても目で合図をするくらいだ。
(お茶も随分淹れてないけど、ちゃんと自分でやってるかな……。)
 俺は城の庭を通り、集合場所の応接室へ向かう。
(相変わらず奇麗な庭だな。)
 城へ来たばかりの頃、父が庭師の仕事を習うのに付いてこの庭を訪れた。
 あれからすっかり草木の魅力に気付いた父は、部屋で観葉植物を育てている。その1つにセラと名付けているのを知った時は、どう反応して良いか分からなかった。
「あ、この部屋だ。」
 父の謎の行動について考えている間に応接室に着いた。
(はぁ、今日から地獄の始まりだ。)
俺はノックをして扉を開けた。

「やあ、今日からよろしくね。」
m大きなソファーが机を挟んで向かいに並んでいる。そこに優雅に腰掛けているエヴァンが、キラキラとした笑顔で俺に挨拶をしてきた。俺も、印象悪くならないよう笑顔で挨拶をする。

(エヴァンは可愛い感じが好きだったよな。)

 俺は、これがエヴァンとのイベントであったら大変だ……と会話と態度に気を付けることにした。
 エヴァンの向い、俺に背を向けて座っている男は騎士だろうか。俺は「座って。」とエヴァンに手招きされ、先に来ていた騎士にペコっと頭を下げる。
 顔を上げると、そこには見慣れたアックスの顔があった。
「アックス。」
「文官って……セラのことだったのか。」
 俺は想像もしてなかったアックスの登場に、地獄だと思っていた3日間が天国に変わる予感がした。
「2人は顔見知りなの?」
「はい。」
「ちょうど良かった。自己紹介は省けるね。」
 エヴァンの側近の男が、俺達に今回の訪問のスケジュールを説明する。
 王子の意見をすぐに反映させることと、護衛の意味で俺達は一緒に行動するらしい。他にも城の者が常に3,4人は付くらしく、少し安心した。
(エヴァンと2人きりになることはなさそうだな。)

 その日は明日からの2日間の流れを説明され、解散となった。
「今日は驚きました!まさかアックスが一緒なんて。」
「俺もセラの声が聞こえた時は、思わず振り向きそうになった。」
 2人して知っている者が一緒で良かったと喜んでいると、アックスが尋ねてくる。
「俺は騎士棟に戻るが、セラはどうする?」
「私は、この3日間は直帰するよう言われているので、そのまま部屋に帰ろうと思います。」
「そうか……せっかくなら夕飯でも行きたいところだが。」
 仕事が残っているのだろう、アックスは名残惜しそうに手を振って騎士棟のある道を歩いて行った。

 久しぶりにこんなに早く部屋に帰ってきた。
 中に入るとシーンとしており、ひんやりとした空気に身震いする。俺は慌てて暖房を付けた。
「はぁ……だいぶ暖かくなってきた。」
 しばらくリビングで手をさすって寒さをごまかしていると、じんわりと部屋の温度が上がってくる。
暖房の側で服を着替えて、椅子に座ってゆっくりしていると父が帰ってきた。
「あれ……セラいるの?」
「父さん、おかえりなさい。」
「今日は早いんだね~。一緒にご飯食べようよ。」
 父が靴を脱いで近づいてくる。俺は今日の寒さを考え、夕飯は部屋で食べようと提案した。

チャッチャッ……
 鍋に入れる溶き卵をかき混ぜる。
 晩御飯は2人で鍋をつつき、締めに雑炊でもしようかと卵の準備をしていた。
「タイミングが大事だからね。」
「火もすぐ止めないと……。」
 父と2人で入れるタイミングを図っている中、電話が鳴った。
(ラルクさんかな。あちゃー、今来ても雑炊しか食べれないよ。)
俺が「そろそろだな……」と溶き卵を入れだすと、父が台所にいる俺に声を掛けた。

「セラー!電話代われる?」
「え、俺今手が離せないから、用事聞いといて!」
「代わって欲しいって……アインラスさんからだけど。」
「えっ?!」

 俺はびっくりして父に駆け寄る。ラルクかと思っていたが、どうやら違ったようだ。
「あ、卵見といて。もう火切っていいから。」
「はーい。」
 俺はそれだけ父に伝えると、奪うように電話を取る。
「は、はい!マニエラです!」
「忙しい時にすまないな。」
 電話越しのシバの声は、少し違って聞こえる。
 声は少し笑いを含んでいるようにも感じて、父との会話を聞かれていたのだと分かった。
「すみません、料理をしていたので。」
「みたいだな。今はいいのか?」
「はい、父が見てくれているので。」
「……そうか。」
(何で電話掛けてきたんだろ。初めてだから驚いた。)
 俺がドキドキした胸を押さえながら言葉を待っていると、シバが「今日だが……、」と話し出した。
「大丈夫だったか?」
「はい。明日明後日の説明だけだったので、早く帰れました。」
「難しいことを要求されたら、すぐ私に連絡しなさい。」
「はい。でも、本当にお供するだけみたいですよ。」
(相変わらず面倒見の良い上司だなぁ。)
 俺はシバの部下思いの姿勢に感心した。
「仕事に関してもだが……その、殿下からもだ。」
「エヴァン殿下ですか?」
「以前、店でお会いした時、君を目に掛けているようだった。」
「そうですかね?」
「とにかく、気をつけろ。」
「……はい。」
(さすがお助けキャラ……。この電話は俺へのアドバイスだったのか。)
「もう切ろう。料理を続けてくれ。」
「あ、はい。」
 慌てて、電話越しであるにも関わらず頭を下げてしまう。おやすみなさいと告げようとしたところで、シバが何か言おうとしていることに気付いた。
 じっと待っていると、やはり何か伝えることがあったのか、耳に低音が響く。
「私達は随分と会っていないな。」
「そうですね。」
(もう丸々3週間はまともに話してないのか……。)
「……君に会いたい。」
「……ッ、」

 低い声を聞いた瞬間、時が止まったように感じ、思わずガチャンと電話を切ってしまった。
 驚いた父が「どうしたの?」と言ってくるが、それも無視して玄関に向かう。

「ちょっと、……出てくる!」
「え?あ、もし泊まるなら連絡してね!」
 俺は父の言葉を背に、走って玄関を飛び出した。
 上着も羽織らず出てしまったせいで肌寒いが、そんなことは気にならない。
(『君に会いたい』って何だよ!あんな切ない声で言われたら行かざるを得ないじゃんか!)
 俺は半ば怒りながら、シバの住む宿舎へ向かった。

コンコン……
 部屋の前に着いて、すぐにドアベルを鳴らす。
 走って息を乱した俺は、肩を上下させながらシバを待っていた。
(こんなに走ったの久々……。シバがあんな声出すから。てか、俺こんな必死に。なんなんだよ、もう。)
 気持ちの整理ができないまま飛び出してしまったが、上がっている息を抑えるために自分の足元を見つめていると、少し冷静になってくる。
(待てよ……。急に約束もなく来たら迷惑かな……?俺、かなりやばいやつになってない?)
 そう思うと急に恥ずかしくなってきて、俺はどこかに身を隠したい気分になった。
(いや、隠れてそれがもし見つかったら、それこそやばいやつじゃん!)
 俺がぐるぐる悩んでいると、扉が静かに開く。
 目の前には、驚いた顔のシバが立っていた。
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