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誤解される発言は控えてください
「マニエラ……。」
名前を呼んで目を開いているシバの顔。
見たことのない表情に、少ししてやったりな気もするが、やはり急に来てしまったことが迷惑だったのでは……と不安に思う。
「中へ入れ。」
「はい。」
シバは俺をすぐに中に入れ、「温かいものを淹れる。」と言って台所へ行った。俺はリビングの椅子に座り、大人しくそれを待っている。
「寒かっただろう。」
「いえ、走ってきたので。」
「それでこんなに頬が赤いのか。」
シバはお茶をテーブルに置くと、立ったまま俺の顔を見下ろす。
そして、俺の頬っぺたに手の甲をくっつけてきた。俺はじわーっと温かい大きな手に「んッ」と目を瞑る。頬を触っていた指はそこでピタッと止まり、動く気配がない。
(どうしたんだろ。)
俺がうっすらと目を開けると、目の前にシバの顔がある。その距離は、鼻が当たりそうなほど近い。
「わぁッ!」
「ッ……すまない。」
シバは後ろにバッと離れ、俺は心臓がバクバクと音を立てる。
「あの、顔を覗き込まないで下さい。……赤くてみっともないので。」
「いや……そんなことはないが、分かった。」
シバはぎこちない動きで隣の席に腰掛けた。テーブルに乗っている温かいお茶を受け取ると、「ありがとうございます。」と言って口を付ける。
「どうしてここへ来たんだ?」
「アインラス様が会いたいって言ったんじゃないですか!部下としてお望みは叶えてあげないと……と思って。」
(本当は気付いたら飛び出してたんだけど……。もっともらしい理由がないとね。)
「私は、上司として命令したつもりはない。だが……、」
シバが目線を外す。気まずそうにお茶を手に取って、飲まずに置くと、俺に言葉を続ける。
「……君が来てくれて嬉しい。」
(か、可愛い……!)
俺はやっと収まった顔の火照りがぶり返し、手で口元を抑えた。
もしシバが可愛らしい女の子で、会いに来たことにこんな態度で「嬉しい」なんて言われたら……爆発する!
シバの台詞には、それくらいの破壊力があった。
「私も会いたかったです。」
シバが素直に言ってくれたのだ。俺も正直に返すことにした。
「電話をくださって、ありがとうございます。」
俺が笑顔を向けると、シバが「マニエラ……」と俺の名前を呼んだ。
「抱きしめてもいいか?」
「え……?は、はい。」
急に言われて俺は首を縦に振る。
シバは立ち上がり、座っている俺を前から優しく抱きしめた。俺の頭はシバのお腹辺りにあり、肩から背中に腕が回される。
(え、これはどういう状況?!えっと、これって友情のハグ?!)
俺が今の状況を整理しようと考えを巡らせていると、目の前のお腹がギューッと音を鳴らした。
「……アインラス様、お腹が。」
「……何も食べていないんだ。」
小さい声で言うシバに、俺はプッと噴き出してしまう。そのまま肩を震わせて笑っていると、「笑うな。」と言いながらシバが俺の肩を掴んで離す。
その顔は少し赤く、ムスッとした顔は拗ねているようだ。
(あ、また見たことない顔。)
俺は、それを嬉しく思いながら「お詫びに夕食を作ります。」と提案した。
「美味しい。」
「簡単なものですみません。」
シバの家にある食材は卵と鶏肉と少しの野菜のみ。俺はすぐにできる親子丼を作った。
卵料理が好きなようだから良いだろうとそのメニューにしたが、表情を見る限り満足しているようだ。
「今日は泊まっていくか?」
「あ、考えてなかったです。どうしよう……。」
「もし帰るなら送るが、泊まってくれたら私は嬉しい。」
(最近、妙に発言が直球なんだよな。あの本読みだしてからスキンシップも増えてきたし、学んでるのは良いことなんだけど……。)
誰彼構わずこんなことをしていては危険だと、寝る前にそれとなく注意しておこうと思った。
「泊まってもいいですか?明日の朝は遅い出勤なんです。」
「ああ、もちろんだ。」
シバはそう返事をすると、最後のひとくちをスプーンで掬って口に運んだ。
明日の出勤は、文官棟での始業時間より1時間程遅い。俺は一旦家に帰ってから着替えても十分間に合うと判断し、泊まらせてもらうことにした。
お風呂を借りて、前回持ってきていた寝間着に着替える。
シバが洗ってくれたのだろう、シバと同じ匂いのする服を着ているというのは、なんだか妙にくすぐったく感じる。
父にもシバの部屋に泊まることを電話で伝え、何の心配もなく彼の待っているリビングへ向かった。
(あ、寝てる。)
リビングの机を見ると、シバが腕を枕にしてうたた寝をしていた。
机の上には温かいお茶が入っており、俺の為に用意されたのだと分かる。それに口をつけながら、シバの寝顔をしばし見ていた。
「アインラス様、寝ますよ。」
この体勢のままではきついだろうと、シバの肩を揺らす。
大きな身体がピクッと揺れ、薄く目を開けたシバが「マニエラ…」と掠れた声を出した。
「ベッドまで行きましょう。ここじゃ風邪を引きますよ。」
「ああ。……寝てたのか。」
シバはゆっくりと立ち上がり、遅い足取りでベッドへ向かう。
そのまま布団を捲って中に入ると、俺の入れるスペースを作って「ほら、」と声を掛けてくる。
「部屋の電気を消してくるので、少し待っててください。」
俺は急いで部屋の電気を消すと、ベッドのヘッドボードにある灯りを頼りに寝室へ戻ってきた。
「アインラス様、失礼します。」
「こっちに来い。」
俺が控えめにベッドに上がると、背中に手を回される。
シバの顔が間近くにあり、俺は少し慌てて名前を呼んだ。
「あの、アインラス様?」
「今日は冷える。」
(前と同じく湯たんぽ代わりにしようってことね。)
俺はシバの意図が分かり、「そうですね。」と言って身体をすり寄せた。
シバの身体がピタッと硬直する。俺は気にせずシバの腰辺りに自分の手を置いて、より寝やすい体勢になった。
「君は、そういうことを自然にするのか。」
「……そういうこと、というのは?」
「触ったりだ。」
「え、これはアインラス様が先にくっついてきたから、」
「そうか。俺からだったな。」
(もう、なんだよ急に。てか、そういう無自覚なスキンシップは誤解を招くから忠告しとかないといけないんだった。)
シバが黙ってしまったので、俺は口を尖らせて注意をする。
「アインラス様は、相手を誤解させる態度を改めた方がいいですよ。」
「……どういう意味だ?」
「不用意に触ったり、『会いたい』などの言葉をそのまま伝えると、勘違いする者もいるという意味です。」
覚えたことを実践するのはいいが、皆がシバに惚れてしまうではないか。俺は、親が子どもに言うような口調で伝えた。
「私はそんなことしていない。」
「でも、本に書いてあったことを俺にしてくるじゃないですか。」
「それは、君だからだ。」
「……そうなんですか?」
(仲良しの俺にだけ。たしかに、練習としてはちょうどいいか。)
「なら、いいです。」
「……可愛いな。」
少し間があってシバが呟く。
「だから、そういうのは気軽に言っては駄目です!」
(この前カフェに行った時に「私は、そういうことを軽々しく言いたくはない。」って言ってただろ!)
俺はプリプリと怒り、それにシバが「……難しいな。」と呟いた。
朝日が差し込み、俺が自然に目を覚ますと、シバはまだ眠っていた。
時間を見るとまだ起きようと思っていた時間まで15分はある。俺はもう少ししてから起こすか……と寝顔に視線を向ける。
(やっぱりかっこいい顔してんな。)
前回のお泊まりの際にも思ったが、シバの顔は整っている。
しかし今は、いつもピシッとしている眉が少し下がっており、普段のシバとは違った表情だ。俺は無意識に眉を指でなぞった。
「ん、」
シバが声を出して目をうっすら開けた。俺が顔に触れていることに気付くと、その手を優しく掴んで顔をすり寄せる。
「あ……、」
俺は驚いて思わず声を出す。
シバは俺の手の平に自分の頬を寄せると、指の隙間から俺の顔を窺った。
「人の顔で遊ぶな。」
寝起きの低い声で、少し楽しそうに言う目の前の男からは大人の色気が溢れ出ている。俺はゴクッと喉が鳴り、慌ててその手を引っ込めた。
「遊んでません!……起きてください。もう準備して行かないと……。」
俺が布団を捲ると、手を掴まれた。
「まだ時間はあるだろう。ここにいてくれ。」
(わあああ、何言ってんだよ!昨日注意したこと全然分かってない!)
寝起きのシバは頭がぼーっとしているのか、前回同様、少し甘えた態度を取る。
(幼少期に愛情を貰えなかった子どもがこうやって大人になって親の愛を求める……みたいな……。何か複雑な過去があるのかな。)
包み込むように回されたシバの腕の中で、俺は頭を混乱させながら悶えていた。
名前を呼んで目を開いているシバの顔。
見たことのない表情に、少ししてやったりな気もするが、やはり急に来てしまったことが迷惑だったのでは……と不安に思う。
「中へ入れ。」
「はい。」
シバは俺をすぐに中に入れ、「温かいものを淹れる。」と言って台所へ行った。俺はリビングの椅子に座り、大人しくそれを待っている。
「寒かっただろう。」
「いえ、走ってきたので。」
「それでこんなに頬が赤いのか。」
シバはお茶をテーブルに置くと、立ったまま俺の顔を見下ろす。
そして、俺の頬っぺたに手の甲をくっつけてきた。俺はじわーっと温かい大きな手に「んッ」と目を瞑る。頬を触っていた指はそこでピタッと止まり、動く気配がない。
(どうしたんだろ。)
俺がうっすらと目を開けると、目の前にシバの顔がある。その距離は、鼻が当たりそうなほど近い。
「わぁッ!」
「ッ……すまない。」
シバは後ろにバッと離れ、俺は心臓がバクバクと音を立てる。
「あの、顔を覗き込まないで下さい。……赤くてみっともないので。」
「いや……そんなことはないが、分かった。」
シバはぎこちない動きで隣の席に腰掛けた。テーブルに乗っている温かいお茶を受け取ると、「ありがとうございます。」と言って口を付ける。
「どうしてここへ来たんだ?」
「アインラス様が会いたいって言ったんじゃないですか!部下としてお望みは叶えてあげないと……と思って。」
(本当は気付いたら飛び出してたんだけど……。もっともらしい理由がないとね。)
「私は、上司として命令したつもりはない。だが……、」
シバが目線を外す。気まずそうにお茶を手に取って、飲まずに置くと、俺に言葉を続ける。
「……君が来てくれて嬉しい。」
(か、可愛い……!)
俺はやっと収まった顔の火照りがぶり返し、手で口元を抑えた。
もしシバが可愛らしい女の子で、会いに来たことにこんな態度で「嬉しい」なんて言われたら……爆発する!
シバの台詞には、それくらいの破壊力があった。
「私も会いたかったです。」
シバが素直に言ってくれたのだ。俺も正直に返すことにした。
「電話をくださって、ありがとうございます。」
俺が笑顔を向けると、シバが「マニエラ……」と俺の名前を呼んだ。
「抱きしめてもいいか?」
「え……?は、はい。」
急に言われて俺は首を縦に振る。
シバは立ち上がり、座っている俺を前から優しく抱きしめた。俺の頭はシバのお腹辺りにあり、肩から背中に腕が回される。
(え、これはどういう状況?!えっと、これって友情のハグ?!)
俺が今の状況を整理しようと考えを巡らせていると、目の前のお腹がギューッと音を鳴らした。
「……アインラス様、お腹が。」
「……何も食べていないんだ。」
小さい声で言うシバに、俺はプッと噴き出してしまう。そのまま肩を震わせて笑っていると、「笑うな。」と言いながらシバが俺の肩を掴んで離す。
その顔は少し赤く、ムスッとした顔は拗ねているようだ。
(あ、また見たことない顔。)
俺は、それを嬉しく思いながら「お詫びに夕食を作ります。」と提案した。
「美味しい。」
「簡単なものですみません。」
シバの家にある食材は卵と鶏肉と少しの野菜のみ。俺はすぐにできる親子丼を作った。
卵料理が好きなようだから良いだろうとそのメニューにしたが、表情を見る限り満足しているようだ。
「今日は泊まっていくか?」
「あ、考えてなかったです。どうしよう……。」
「もし帰るなら送るが、泊まってくれたら私は嬉しい。」
(最近、妙に発言が直球なんだよな。あの本読みだしてからスキンシップも増えてきたし、学んでるのは良いことなんだけど……。)
誰彼構わずこんなことをしていては危険だと、寝る前にそれとなく注意しておこうと思った。
「泊まってもいいですか?明日の朝は遅い出勤なんです。」
「ああ、もちろんだ。」
シバはそう返事をすると、最後のひとくちをスプーンで掬って口に運んだ。
明日の出勤は、文官棟での始業時間より1時間程遅い。俺は一旦家に帰ってから着替えても十分間に合うと判断し、泊まらせてもらうことにした。
お風呂を借りて、前回持ってきていた寝間着に着替える。
シバが洗ってくれたのだろう、シバと同じ匂いのする服を着ているというのは、なんだか妙にくすぐったく感じる。
父にもシバの部屋に泊まることを電話で伝え、何の心配もなく彼の待っているリビングへ向かった。
(あ、寝てる。)
リビングの机を見ると、シバが腕を枕にしてうたた寝をしていた。
机の上には温かいお茶が入っており、俺の為に用意されたのだと分かる。それに口をつけながら、シバの寝顔をしばし見ていた。
「アインラス様、寝ますよ。」
この体勢のままではきついだろうと、シバの肩を揺らす。
大きな身体がピクッと揺れ、薄く目を開けたシバが「マニエラ…」と掠れた声を出した。
「ベッドまで行きましょう。ここじゃ風邪を引きますよ。」
「ああ。……寝てたのか。」
シバはゆっくりと立ち上がり、遅い足取りでベッドへ向かう。
そのまま布団を捲って中に入ると、俺の入れるスペースを作って「ほら、」と声を掛けてくる。
「部屋の電気を消してくるので、少し待っててください。」
俺は急いで部屋の電気を消すと、ベッドのヘッドボードにある灯りを頼りに寝室へ戻ってきた。
「アインラス様、失礼します。」
「こっちに来い。」
俺が控えめにベッドに上がると、背中に手を回される。
シバの顔が間近くにあり、俺は少し慌てて名前を呼んだ。
「あの、アインラス様?」
「今日は冷える。」
(前と同じく湯たんぽ代わりにしようってことね。)
俺はシバの意図が分かり、「そうですね。」と言って身体をすり寄せた。
シバの身体がピタッと硬直する。俺は気にせずシバの腰辺りに自分の手を置いて、より寝やすい体勢になった。
「君は、そういうことを自然にするのか。」
「……そういうこと、というのは?」
「触ったりだ。」
「え、これはアインラス様が先にくっついてきたから、」
「そうか。俺からだったな。」
(もう、なんだよ急に。てか、そういう無自覚なスキンシップは誤解を招くから忠告しとかないといけないんだった。)
シバが黙ってしまったので、俺は口を尖らせて注意をする。
「アインラス様は、相手を誤解させる態度を改めた方がいいですよ。」
「……どういう意味だ?」
「不用意に触ったり、『会いたい』などの言葉をそのまま伝えると、勘違いする者もいるという意味です。」
覚えたことを実践するのはいいが、皆がシバに惚れてしまうではないか。俺は、親が子どもに言うような口調で伝えた。
「私はそんなことしていない。」
「でも、本に書いてあったことを俺にしてくるじゃないですか。」
「それは、君だからだ。」
「……そうなんですか?」
(仲良しの俺にだけ。たしかに、練習としてはちょうどいいか。)
「なら、いいです。」
「……可愛いな。」
少し間があってシバが呟く。
「だから、そういうのは気軽に言っては駄目です!」
(この前カフェに行った時に「私は、そういうことを軽々しく言いたくはない。」って言ってただろ!)
俺はプリプリと怒り、それにシバが「……難しいな。」と呟いた。
朝日が差し込み、俺が自然に目を覚ますと、シバはまだ眠っていた。
時間を見るとまだ起きようと思っていた時間まで15分はある。俺はもう少ししてから起こすか……と寝顔に視線を向ける。
(やっぱりかっこいい顔してんな。)
前回のお泊まりの際にも思ったが、シバの顔は整っている。
しかし今は、いつもピシッとしている眉が少し下がっており、普段のシバとは違った表情だ。俺は無意識に眉を指でなぞった。
「ん、」
シバが声を出して目をうっすら開けた。俺が顔に触れていることに気付くと、その手を優しく掴んで顔をすり寄せる。
「あ……、」
俺は驚いて思わず声を出す。
シバは俺の手の平に自分の頬を寄せると、指の隙間から俺の顔を窺った。
「人の顔で遊ぶな。」
寝起きの低い声で、少し楽しそうに言う目の前の男からは大人の色気が溢れ出ている。俺はゴクッと喉が鳴り、慌ててその手を引っ込めた。
「遊んでません!……起きてください。もう準備して行かないと……。」
俺が布団を捲ると、手を掴まれた。
「まだ時間はあるだろう。ここにいてくれ。」
(わあああ、何言ってんだよ!昨日注意したこと全然分かってない!)
寝起きのシバは頭がぼーっとしているのか、前回同様、少し甘えた態度を取る。
(幼少期に愛情を貰えなかった子どもがこうやって大人になって親の愛を求める……みたいな……。何か複雑な過去があるのかな。)
包み込むように回されたシバの腕の中で、俺は頭を混乱させながら悶えていた。
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続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
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