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ほろ酔い主人公になれない俺
次の日の夕方、俺は昼間のシバの顔を思い出しながら、騎士棟へと向かう道を歩いていた。
昨日シュリに渡したお弁当の中身に、シバが好きなタルタルソースを追加したそれは、シバを満足させたようだ。
(ていうか、開ける前から『ワクワクしてます!』って顔に出てた。)
表情ではなく目に輝きが見えたのだ。楽しみにしていたというのが本当だと分かり、作って良かったと心が満たされた。
にんまりとしながら歩いていると、「セラ!」と声を掛けられた。声の方を見ると、椅子に腰掛けたアックスが楽しそうにこっちを見ていた。
昨夜、アックスから部屋に電話があり、今日の夕食に誘われていた。実は、今日の食事はイベントであり、俺は以前からこれがいつ起こるのか待っていたのだ。
流れもばっちり頭に入っており、邪魔さえ入らなければ順調に事が進むはずだ。シバは仕事で遅くなる。ラルクと父は今日は共に部屋で過ごすと聞いている。
俺は久々にイベントを完走できそうだーーと心でガッツポーズをした。
待ち合わせである文官棟と騎士棟の間にある小さい庭。ベンチが4つとテーブルに椅子のセットがあり、それらは花壇で囲まれている。そこに座っているアックスの姿は華やかで、女の子なら黄色い悲鳴があがりそうだ。
「アックス!お待たせしました。」
「いや、俺も今来たとこなんだ。早速だが行こうか。」
馬に乗って行くと聞いており、実は俺のテンションはかなり上がっている。最近エマにも会えておらず、今日は補給できていなかった動物欲を満たせるとワクワクしていたのだ。
「なんで笑ってたんだ?」
「えっと、仕事のことで面白いことがあったので。」
馬小屋まで歩く道すがら、アックスが尋ねてきた。
「前も思い出し笑いしていたし、そんなに楽しい職場なのか?」
「……はい。皆明るい人ばかりです。」
「セラが楽しそうで良かった。」
アックスは、ははっと笑う。その笑顔を見ていると、会話選択を気にせず、ただの友人として食事を楽しみたいな、と思ってしまう。
(いや、駄目だろ!俺と父さんの人生がかかってるんだから、恋人にならないと!)
アックスと結ばれる以外に、バッドエンドを避ける道は無いのだ。俺はこの小さいイベントでもなるべく好感度を上げ、後の告白イベントまで突き進まねばならない。
「着いたぞ。準備するから待っててくれ。」
俺が改めて決意を胸に張り切っていると、馬小屋から俺達に気付いたエマの鳴き声がした。アックスが倉庫から道具を持ち出し、手早くエマに付けている。
「久しぶり。」
俺がエマに触れると、喜ぶようにブルルル……と優しく鳴いた。
「ここだ。」
アックスがエマの手綱を引く。目の前には宿屋と食事処を兼ねた大きな建物があった。
今日のイベントだがーーまず街から少し離れたレストランで食事を取る。アックスは馬で帰る為、酒を飲まないと店主に告げていたが、新人の店員が間違えて酒入りの飲み物を作って出してしまうのだ。
アックスはそれにアルコールが入っていないと思っているため、主人公のグラスにも注いでしまう。
途中、店主に言われてそれが酒だと気付いたアックスだが、既に飲酒してしまい乗馬はできない。
帰りの馬車を呼ぶまでの間、酔っぱらった主人公は2階の部屋で休む。その間に同僚が偶然店を訪れ、主人公とアックスは無事、他の騎士達と共に帰ることができるのだ。
流れを思い浮かべながら、実は久々の酒に少しワクワクしていた。
この世界も飲酒は20歳からと決まっており、俺は文官達による歓迎会以来、ずっと飲んでいなかった。
(ちょっと悪いことしてる気分だけど……イベントだし、いっか。)
俺はウキウキした足取りで店へと入っていった。
「セラの好きなものを頼むといい。」
「では、これにします。」
「他には?」
「あとはアックスのオススメをお願いします。」
「了解。」
アックスはパラパラとメニューをめくり、何品か決めていく。そして、俺に苦手なものはないかと確認した後で店員を呼んだ。
アックスはこの店のお得意様なようで、店主自らがオーダーを取りに来た。
「ーーこれと、これも頼む。」
「はい。かしこまりました。お飲み物ですが、お酒のように楽しめるものを入荷しまして、そちらはいかがですか?お味はそのままでアルコールは入っておりません。」
「いただこう。」
「はい。では、すぐ準備いたしますね。」
そう伏線を張って去っていく店主に、グッジョブと心の中で声を掛ける。
(久しぶりのお酒だ~。)
俺の楽しげな様子に、アックスが笑った。
「セラ、ずいぶん楽しそうだな。」
「遠くまで出掛けたこと自体初めてで、あと、エマにも乗れましたし、こんな素敵なレストランにも来れて嬉しいです!」
(そしてお酒も。)
俺が次から次へと浮かれている理由を挙げると、アックスはさらに嬉しそうに笑った。
「いつでも連れてくるよ。気が早いけど、また来ような。」
「はい!」
そう言われると次も楽しみになってくる。俺は明るい声で返事をした。
頼んでいた飲み物がテーブルに並ぶ。例のお酒は瓶に入っており、色はほんのりピンク色だ。それをグラスに注いで、アックスが「乾杯」と俺のグラスに軽く当てた。
前とは違った種類の酒にドキドキしながら口を付けてみる。甘さは控えめで、炭酸が効いていて爽やかな口当たりだ。
(美味しい……!)
俺はこれなら無理せずに何杯も飲める気がした。
(頭が、ふわふわする。)
「セラ、大丈夫か?どうした?」
「うーん……だいじょーぶ。」
乾杯から1時間が過ぎた。
俺が酒を飲んで思考がぼんやりとしてきた頃、店主が慌ててこちらのテーブルにやって来た。
「トロント様!こちらお飲みに……なりました、よね?」
「ああ。飲んだが、どうかしたのか?」
「すみません!……どうやらアルコールをお出ししてしまったようです。」
「何?」
店主が慌てて頭を下げる。新人の店員はこの飲み物にノンアルコールで同じ名前の物があると知らず、間違えた方を出してしまっていたのだ。
店主は団体で来た馴染みの客の相手をさせられており、なかなかこのテーブルに来ることができなかった。
「こちら、そもそもアルコールの度数がかなり低いものなのですが、馬で来られたと聞きました。」
「ああ、俺はこういった類の飲み物は初めてだったので気づかなかった。」
「馬車をご用意いたします。」
「そうしてくれ。馬は明日引き取りに来る。」
俺は、ぼーっとした頭で会話を聞き、アックスの腕を掴んだ。
「エマが可哀想……。置いてったら駄目です……。」
「しかし、」
俺は「だめ」と言いながら首を振る。駄々っ子のような態度にアックスが困っていると、店主が声を掛けてきた。
「乗馬のできる者も手配いたしますので、それまで上の部屋をお使い下さい。」
「そうだな。少し休ませよう。」
「すぐにお部屋をご用意いたします。」
店主はそう言うとカウンターに入り、鍵を持って戻ってきた。
アックスは俺を酔っぱらって歩けないと判断し、身体を横向きに抱える。
「あ、重たいです、よ。」
「ちっとも重たくない。少し上で休もうな。」
俺は、へへ……と意味なく笑うとアックスの首に腕を巻きつけた。
(落とされたら、はは……、困る困る、あはは。)
思考はずっと霞がかったようにぼんやりとしていた。しかし、どこか愉快で笑いが込み上げてくる。
「完全に酔っ払いだな……。掴まってろよ。」
アックスは店主に案内されるまま階段を上がった。
「馬車等のご用意はいかがいたしましょうか。」
「連れが落ち着いたら声を掛けよう。それまで部屋を借りる。」
「かしこまりました。」
店主はそう言って、もう一度謝ると部屋から出て行った。
「セラ、大丈夫か?未成年に飲ませてしまってすまない。」
「んふふ……だいじょーぶです。」
「本当に平気なのか?」
「はい。」
アックスは俺の胸元のボタンを2個外す。そして、ベッドの端に腰掛けると、頭を撫でてきた。
「エマのことは心配するな。よくあることだ。」
「でも、ひとりで明日の夕方まで……、可哀想です。」
「じゃあ、ここに俺と泊まるか?そして朝エマと一緒に帰ろう。」
アックスが冗談っぽく提案してくる。俺はそれは良い案だと思った。
「いいですね、泊まりましょう。」
「……セラ、本当か?」
「はい。」
話していると、上瞼が下にくっつきそうになってきた。
(う……寝ちゃ駄目だ。最後まで、イベント……。)
俺はボーッとした中でも、無理やり目を開ける。近くにはアックスの顔があり、金色の目がじっとこちらを見ていた。
(アックス、近い……なに?)
やけに顔を近づけているアックス。どんどん近づいてきて、鼻同士がぶつかりそうだ。
(あ、目が……閉じる。)
眠気と戦いながら「なんですか?」と聞こうと口を開くと、下から「アックス~!」と大きな声がした。
その声に反応して目を開けると、アックスはバッと慌てたように顔を離す。そして、「少し待っててくれ。」と残して部屋から出て行った。
俺は、少しだけー……と目を閉じた。
「……んッ。」
「お、目ぇ覚めたか?」
目を開けると暗闇にボヤ……と明かりが揺れている。馬の頭が見え、ここが馬上であることは分かったが、後ろを振り返り、知らない誰かと目が合う。俺は身体が強張り、そのまま動けなくなってしまった。
「大丈夫か?俺はアックスの同僚だから安心しろ。今、皆で城に帰ってるところだ。」
「あ、すみません。私ずっと寝てて……、」
(俺が寝てる間に、何がどうなったんだ?)
ゲーム通り俺は馬で城へ向かっており、イベントは上手くいっていると言える。しかし、アックスとどんな会話をしたのか覚えていないのが辛い。
(本当なら、ほろ酔い主人公がアックスをドキドキさせるようなこと言って、好感度が上がるはずなのに……。)
ずっと眠っていては会話選択どころではない。俺は前を向いたまま考え込んでしまい、後ろに座っている騎士に心配された。
「本当に大丈夫か?具合が悪いようなら言えよ。」
「はい。あの、大丈夫です。ご迷惑お掛けしてます。」
「もっと寄りかかって平気だ。あ、でも駄目か……アックスが後から怖そうだ。」
同僚だという騎士は、笑いながらそう言うと、俺が2階の部屋で眠った後のことを話した。
結局、俺はあのまま眠ってしまったらしい。
偶然店にご飯を食べに来た騎士数名だったが、エマが外に繋がれているのを見て店内でアックスを探し、店主からお酒の件の事情を聞いたため、2階に呼びに来たらしい。
アックスは俺の酔いが覚めるのを待ちながら、1階で騎士達と話していた。帰る時間になり俺を起こしたが全く無反応であったため、馬に乗せてそのまま城を目指している……ということだった。
「アックスの連れっていうから、ごっつい男を想像してたんだがな、可愛い子で良かったよ。」
男は同意を求めるように「お前もそう思うよな?」と馬に話し掛ける。
「本当にありがとうございます。あの、アックスは?」
「後ろにいるぞ。多分俺を睨んでる。」
そう言われて無理やり後ろを向くと、アックスが見えた。その顔は確かに不機嫌そうだ。その横にはエマが連れ添うように歩いている。
(イベントだから仕方ないとはいえ、俺が酒に弱いせいで夕食が台無しになったわけだし……。)
「アックスに後で謝らないと。」
「んー、別にいいと思うぞ。俺が馬に乗せてるから拗ねてんだろ。」
「でも……謝っておきます。」
アックスが今回の事で俺に呆れていないといいが……。揺れる馬上で、少し溜息をついた。
「セラはここから部屋へ帰った方が早い。」
「ありがとうございます。」
俺は馬小屋に寄って帰る皆とは別に、宿舎の近くで降ろされる。酔いはすっかり醒めており、足取りも普段通りだ。
俺は完全に酔って寝てしまったことを謝り、アックスはそれに笑って「セラは悪くないだろ」と言った。
気さくな他の騎士達にも手を振り、俺は部屋を目指した。
(今度お礼をしないとな。)
文句一つ言わず、俺の体調に合わせてゆっくり帰ってくれた騎士達に何かしたいと、俺は今度菓子でも焼こうと考えた。
昨日シュリに渡したお弁当の中身に、シバが好きなタルタルソースを追加したそれは、シバを満足させたようだ。
(ていうか、開ける前から『ワクワクしてます!』って顔に出てた。)
表情ではなく目に輝きが見えたのだ。楽しみにしていたというのが本当だと分かり、作って良かったと心が満たされた。
にんまりとしながら歩いていると、「セラ!」と声を掛けられた。声の方を見ると、椅子に腰掛けたアックスが楽しそうにこっちを見ていた。
昨夜、アックスから部屋に電話があり、今日の夕食に誘われていた。実は、今日の食事はイベントであり、俺は以前からこれがいつ起こるのか待っていたのだ。
流れもばっちり頭に入っており、邪魔さえ入らなければ順調に事が進むはずだ。シバは仕事で遅くなる。ラルクと父は今日は共に部屋で過ごすと聞いている。
俺は久々にイベントを完走できそうだーーと心でガッツポーズをした。
待ち合わせである文官棟と騎士棟の間にある小さい庭。ベンチが4つとテーブルに椅子のセットがあり、それらは花壇で囲まれている。そこに座っているアックスの姿は華やかで、女の子なら黄色い悲鳴があがりそうだ。
「アックス!お待たせしました。」
「いや、俺も今来たとこなんだ。早速だが行こうか。」
馬に乗って行くと聞いており、実は俺のテンションはかなり上がっている。最近エマにも会えておらず、今日は補給できていなかった動物欲を満たせるとワクワクしていたのだ。
「なんで笑ってたんだ?」
「えっと、仕事のことで面白いことがあったので。」
馬小屋まで歩く道すがら、アックスが尋ねてきた。
「前も思い出し笑いしていたし、そんなに楽しい職場なのか?」
「……はい。皆明るい人ばかりです。」
「セラが楽しそうで良かった。」
アックスは、ははっと笑う。その笑顔を見ていると、会話選択を気にせず、ただの友人として食事を楽しみたいな、と思ってしまう。
(いや、駄目だろ!俺と父さんの人生がかかってるんだから、恋人にならないと!)
アックスと結ばれる以外に、バッドエンドを避ける道は無いのだ。俺はこの小さいイベントでもなるべく好感度を上げ、後の告白イベントまで突き進まねばならない。
「着いたぞ。準備するから待っててくれ。」
俺が改めて決意を胸に張り切っていると、馬小屋から俺達に気付いたエマの鳴き声がした。アックスが倉庫から道具を持ち出し、手早くエマに付けている。
「久しぶり。」
俺がエマに触れると、喜ぶようにブルルル……と優しく鳴いた。
「ここだ。」
アックスがエマの手綱を引く。目の前には宿屋と食事処を兼ねた大きな建物があった。
今日のイベントだがーーまず街から少し離れたレストランで食事を取る。アックスは馬で帰る為、酒を飲まないと店主に告げていたが、新人の店員が間違えて酒入りの飲み物を作って出してしまうのだ。
アックスはそれにアルコールが入っていないと思っているため、主人公のグラスにも注いでしまう。
途中、店主に言われてそれが酒だと気付いたアックスだが、既に飲酒してしまい乗馬はできない。
帰りの馬車を呼ぶまでの間、酔っぱらった主人公は2階の部屋で休む。その間に同僚が偶然店を訪れ、主人公とアックスは無事、他の騎士達と共に帰ることができるのだ。
流れを思い浮かべながら、実は久々の酒に少しワクワクしていた。
この世界も飲酒は20歳からと決まっており、俺は文官達による歓迎会以来、ずっと飲んでいなかった。
(ちょっと悪いことしてる気分だけど……イベントだし、いっか。)
俺はウキウキした足取りで店へと入っていった。
「セラの好きなものを頼むといい。」
「では、これにします。」
「他には?」
「あとはアックスのオススメをお願いします。」
「了解。」
アックスはパラパラとメニューをめくり、何品か決めていく。そして、俺に苦手なものはないかと確認した後で店員を呼んだ。
アックスはこの店のお得意様なようで、店主自らがオーダーを取りに来た。
「ーーこれと、これも頼む。」
「はい。かしこまりました。お飲み物ですが、お酒のように楽しめるものを入荷しまして、そちらはいかがですか?お味はそのままでアルコールは入っておりません。」
「いただこう。」
「はい。では、すぐ準備いたしますね。」
そう伏線を張って去っていく店主に、グッジョブと心の中で声を掛ける。
(久しぶりのお酒だ~。)
俺の楽しげな様子に、アックスが笑った。
「セラ、ずいぶん楽しそうだな。」
「遠くまで出掛けたこと自体初めてで、あと、エマにも乗れましたし、こんな素敵なレストランにも来れて嬉しいです!」
(そしてお酒も。)
俺が次から次へと浮かれている理由を挙げると、アックスはさらに嬉しそうに笑った。
「いつでも連れてくるよ。気が早いけど、また来ような。」
「はい!」
そう言われると次も楽しみになってくる。俺は明るい声で返事をした。
頼んでいた飲み物がテーブルに並ぶ。例のお酒は瓶に入っており、色はほんのりピンク色だ。それをグラスに注いで、アックスが「乾杯」と俺のグラスに軽く当てた。
前とは違った種類の酒にドキドキしながら口を付けてみる。甘さは控えめで、炭酸が効いていて爽やかな口当たりだ。
(美味しい……!)
俺はこれなら無理せずに何杯も飲める気がした。
(頭が、ふわふわする。)
「セラ、大丈夫か?どうした?」
「うーん……だいじょーぶ。」
乾杯から1時間が過ぎた。
俺が酒を飲んで思考がぼんやりとしてきた頃、店主が慌ててこちらのテーブルにやって来た。
「トロント様!こちらお飲みに……なりました、よね?」
「ああ。飲んだが、どうかしたのか?」
「すみません!……どうやらアルコールをお出ししてしまったようです。」
「何?」
店主が慌てて頭を下げる。新人の店員はこの飲み物にノンアルコールで同じ名前の物があると知らず、間違えた方を出してしまっていたのだ。
店主は団体で来た馴染みの客の相手をさせられており、なかなかこのテーブルに来ることができなかった。
「こちら、そもそもアルコールの度数がかなり低いものなのですが、馬で来られたと聞きました。」
「ああ、俺はこういった類の飲み物は初めてだったので気づかなかった。」
「馬車をご用意いたします。」
「そうしてくれ。馬は明日引き取りに来る。」
俺は、ぼーっとした頭で会話を聞き、アックスの腕を掴んだ。
「エマが可哀想……。置いてったら駄目です……。」
「しかし、」
俺は「だめ」と言いながら首を振る。駄々っ子のような態度にアックスが困っていると、店主が声を掛けてきた。
「乗馬のできる者も手配いたしますので、それまで上の部屋をお使い下さい。」
「そうだな。少し休ませよう。」
「すぐにお部屋をご用意いたします。」
店主はそう言うとカウンターに入り、鍵を持って戻ってきた。
アックスは俺を酔っぱらって歩けないと判断し、身体を横向きに抱える。
「あ、重たいです、よ。」
「ちっとも重たくない。少し上で休もうな。」
俺は、へへ……と意味なく笑うとアックスの首に腕を巻きつけた。
(落とされたら、はは……、困る困る、あはは。)
思考はずっと霞がかったようにぼんやりとしていた。しかし、どこか愉快で笑いが込み上げてくる。
「完全に酔っ払いだな……。掴まってろよ。」
アックスは店主に案内されるまま階段を上がった。
「馬車等のご用意はいかがいたしましょうか。」
「連れが落ち着いたら声を掛けよう。それまで部屋を借りる。」
「かしこまりました。」
店主はそう言って、もう一度謝ると部屋から出て行った。
「セラ、大丈夫か?未成年に飲ませてしまってすまない。」
「んふふ……だいじょーぶです。」
「本当に平気なのか?」
「はい。」
アックスは俺の胸元のボタンを2個外す。そして、ベッドの端に腰掛けると、頭を撫でてきた。
「エマのことは心配するな。よくあることだ。」
「でも、ひとりで明日の夕方まで……、可哀想です。」
「じゃあ、ここに俺と泊まるか?そして朝エマと一緒に帰ろう。」
アックスが冗談っぽく提案してくる。俺はそれは良い案だと思った。
「いいですね、泊まりましょう。」
「……セラ、本当か?」
「はい。」
話していると、上瞼が下にくっつきそうになってきた。
(う……寝ちゃ駄目だ。最後まで、イベント……。)
俺はボーッとした中でも、無理やり目を開ける。近くにはアックスの顔があり、金色の目がじっとこちらを見ていた。
(アックス、近い……なに?)
やけに顔を近づけているアックス。どんどん近づいてきて、鼻同士がぶつかりそうだ。
(あ、目が……閉じる。)
眠気と戦いながら「なんですか?」と聞こうと口を開くと、下から「アックス~!」と大きな声がした。
その声に反応して目を開けると、アックスはバッと慌てたように顔を離す。そして、「少し待っててくれ。」と残して部屋から出て行った。
俺は、少しだけー……と目を閉じた。
「……んッ。」
「お、目ぇ覚めたか?」
目を開けると暗闇にボヤ……と明かりが揺れている。馬の頭が見え、ここが馬上であることは分かったが、後ろを振り返り、知らない誰かと目が合う。俺は身体が強張り、そのまま動けなくなってしまった。
「大丈夫か?俺はアックスの同僚だから安心しろ。今、皆で城に帰ってるところだ。」
「あ、すみません。私ずっと寝てて……、」
(俺が寝てる間に、何がどうなったんだ?)
ゲーム通り俺は馬で城へ向かっており、イベントは上手くいっていると言える。しかし、アックスとどんな会話をしたのか覚えていないのが辛い。
(本当なら、ほろ酔い主人公がアックスをドキドキさせるようなこと言って、好感度が上がるはずなのに……。)
ずっと眠っていては会話選択どころではない。俺は前を向いたまま考え込んでしまい、後ろに座っている騎士に心配された。
「本当に大丈夫か?具合が悪いようなら言えよ。」
「はい。あの、大丈夫です。ご迷惑お掛けしてます。」
「もっと寄りかかって平気だ。あ、でも駄目か……アックスが後から怖そうだ。」
同僚だという騎士は、笑いながらそう言うと、俺が2階の部屋で眠った後のことを話した。
結局、俺はあのまま眠ってしまったらしい。
偶然店にご飯を食べに来た騎士数名だったが、エマが外に繋がれているのを見て店内でアックスを探し、店主からお酒の件の事情を聞いたため、2階に呼びに来たらしい。
アックスは俺の酔いが覚めるのを待ちながら、1階で騎士達と話していた。帰る時間になり俺を起こしたが全く無反応であったため、馬に乗せてそのまま城を目指している……ということだった。
「アックスの連れっていうから、ごっつい男を想像してたんだがな、可愛い子で良かったよ。」
男は同意を求めるように「お前もそう思うよな?」と馬に話し掛ける。
「本当にありがとうございます。あの、アックスは?」
「後ろにいるぞ。多分俺を睨んでる。」
そう言われて無理やり後ろを向くと、アックスが見えた。その顔は確かに不機嫌そうだ。その横にはエマが連れ添うように歩いている。
(イベントだから仕方ないとはいえ、俺が酒に弱いせいで夕食が台無しになったわけだし……。)
「アックスに後で謝らないと。」
「んー、別にいいと思うぞ。俺が馬に乗せてるから拗ねてんだろ。」
「でも……謝っておきます。」
アックスが今回の事で俺に呆れていないといいが……。揺れる馬上で、少し溜息をついた。
「セラはここから部屋へ帰った方が早い。」
「ありがとうございます。」
俺は馬小屋に寄って帰る皆とは別に、宿舎の近くで降ろされる。酔いはすっかり醒めており、足取りも普段通りだ。
俺は完全に酔って寝てしまったことを謝り、アックスはそれに笑って「セラは悪くないだろ」と言った。
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展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
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それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。