鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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真夜中のお説教

 部屋に帰ると、父の姿が見えなかった。今は夜の11時を超えている。明日の仕事に備えて寝たのかと思ったが、父の部屋の扉が少し開いていた。
「父さん……?」
 俺が覗き込むと、父とラルクが同じベッドで眠っていた。布団から出ている2人の上半身は裸であり、俺はその衝撃でカバンを床に落とす。
バサッ……
 その音に気付いてラルクが起きあがる。
 父は一度眠ったら起きない質であり、ラルクが小さい声と身振り手振りで俺に抗議していても、すぴすぴと眠り続けている。
 俺は扉をそっと閉めたが、ラルクがそれを無理矢理開けてリビングに入ってきた。上半身は裸、下も下着のみ。それが俺をさらに驚かせ、口をあんぐりと開けてしまった。
 少し沈黙が流れたが、気を取り直し、努めて優しくラルクに話し掛けた。
「あの、少しびっくりしただけです。上手くいってるみたいですね。」
「これは……ッ、セラさんが思ってるようなことじゃないんですって!」
 ラルクがあまりに必死に言うので、俺は椅子に座って詳しく聞くことにした。

「ーーってことで、俺はこんな格好でシシルさんのベッドにいたんです。」
 ラルクの説明を聞くに、今日は父とお酒を飲んでいたらしい。
 普段はほろ酔い程度で止める父だが、今日の酒は飲みやすく、ラルクの勧めるままに空けた結果、見事に酔っぱらったらしい。ラルクは理性と戦いつつも、やっと父をベッドに寝かせたらしい。
 しかし、風呂に入りたいと言い出した父が上着を脱ぎ、それを止めていたラルクも風呂に入れと脱がされてしまったという。その後、シシルがそのまま抱き着いてきて身動きが取れなくなり、彼が眠るのを待っているうちに自分も寝てしまったようだ。
「そうですか。いや、別に一緒のベッドで寝ていても何も思いませんよ。」
「いや、そこはびっくりするでしょう!セラさんちょっとずれてませんか?」
「え……そうですか?」
(だって友達同士で寝るってパターンもあるだろうし……。いや、あっちの世界でそういう経験があるわけじゃないけどさ。)
「もっと危機感を持たないと駄目です!セラさん可愛いんですから、すぐ襲われちゃいますよ!」
「いや、襲われないから……。」
 俺はシラーっとした目でラルクを見る。
(パンツ一丁の姿で注意されても、説得力がなさすぎる。)
「最近外泊増えてるし、気を付けて下さいね。」
「はい。」
 残念な格好のラルクに適当に返事をする。
 すっかり兄モードに入ったラルクは、格好はそのままに俺に男がどれだけ怖いのか説明をし始めた。

「…ふぁ、」
 昨日、あれから下着1枚のラルクに説教をされるという謎の時間が終わったのは、深夜0時をすっかり超えてからだった。
「どうした。眠そうだな。」
「昨夜いろいろあったんです。」
「何があったんだ?」
「えーっと……、」
 朝の執務室。いつものようにお茶を淹れようと茶葉を選んでいたが、ふと油断して欠伸をしてしまったところ、シバが理由を尋ねてきた。
 俺がどう説明したら良いか悩んでいると、シバが席を立って歩いてくる。そして、お茶を淹れる俺に被さるように後ろから茶葉の入ったケースに手を伸ばした。
「アインラス様?」
 背中に体温を感じ、俺は後ろを振り向く。シバは見下ろすように俺を見ると、「私が淹れよう。」と茶葉をそのまま選ぶ。
「あの……私邪魔じゃないですか?」
「いや、このままでいい。」
(これってバックハグ……みたい。なんちゅうテクニック出してくるんだ……。)
 本のイラストで見た通りのことを自然にやってくるシバに、今日も悔しい思いを抱いた。
「で、昨日はどうしたんだ?」
 シバは疲れに効きそうな茶を選んで茶器に入れる。俺は最初から言うべきか……と説明を始めた。
「昨日、街から離れた場所でアックスと一緒に夕食を食べたんですけど、間違えてお酒を飲んでしまって。眠っている間に他の騎士の方に連れて帰ってもらったんです。それから、」
「酒を飲んだのか?」
 俺が、これからメインである父とラルクの話をしようとしたところで、シバがつっこんできた。
(あ、未成年だし、この話は伏せておいた方が良かったかな?)
「お店の方が間違えてお酒を出してしまって……あの、すみませんでした。」
「いや、ただ心配に思っただけだ。前に飲んだ時もフラフラしていたし……体調を崩さなかったか?」
 シバは本当に心配そうな声を出す。寝不足な顔をしている自覚はあるし、飲んで具合が悪くなったと思ったのだろう。
「いえ、本当にそれに関しては、眠ってしまっただけで……、」
「眠るまで飲んでは駄目だ。」
「は、はい!」
 少し強い口調になったシバに、緊張が走る。俺は思わず大きく返事をした。俺の肩が跳ねたのを見て、シバが「いや……」と呟くと、努めて穏やかに言う。
「その、なんと言ったらいいか。注意しているわけではないんだ。私以外の前で飲んで欲しくないと思っただけだ。」
(ん……?それってつまり、)
「あの……俺がアインラス様以外と飲んで、拗ねてるってことですか?」
「……まぁ、そういうことだ。」
(仲良しの俺が他の人と飲んで寂しかったのか!)
 シバの声には照れが含まれている。どんな顔で言っているのか……俺が振り向こうとすると、シバは片腕を胸辺りに回し、動けないようにホールドしてきた。
「ちょ、アインラス様、大人げないです。」
「君こそ、何か企んでいるだろう。」
「いえ。ただ、どんな顔してるか見てみたいだけです。」
「……駄目だ。」
 俺達はしばらく攻防を続けたが、シバが「火傷したくなければ動くな。」と脅すようにポットを持ったので、何もできず、お湯が注がれる様子に目を向けた。

「それで、深夜まで説教されてしまったんです。」
「目の隈の理由はそれか。」
 今朝はシバも急ぎの仕事が無いのか、俺の分までお茶を入れ2人で飲むことになった。さっきのシバとのやりとりですっかり忘れていたが、シバが「では、どうして寝不足なんだ?」と聞いてきたことで、俺は昨日のラルクの件を話した。
「てっきり交際を始めたのかと思ってましたが、まだまだ先みたいです。」
「君はラルク殿を応援しているのか?」
「はい。だって彼は優しくて思いやりがあって、いつも父のことを大事にしてくれます。」
「男性同士……という部分は、気にならないか?」
(あ、シバってもしかしたら、男性同士の恋愛は反対派なのかな。)
 この世界は男性同士も割と多く、あちらの世界よりかは、はるかにオープンだ。街でも男性同士で手を繋いでいるカップルはいるし、それに対して世間の目も厳しくはない。ただ、少数派ではあるが、過剰にそのことに反対する者もいる。
 俺もあちらの世界での恋愛対象は完全に女の子だが、こちらに来てからは、乙女ゲームの主人公ポジションとあって、そういうことを言っている場合ではない。
(俺自身、今から男であるアックスと結ばれなきゃいけないんだから。)
 そして、身近にいる父とラルクの存在も大きい。父の気持ちはいまいち分からないが、2人で仲良くくっついている姿に嫌悪感はなく、むしろ見ていてほっこりとした気持ちになる。
 今、『男同士は気になるか?』と聞かれ、俺の返事はNO一択だが、目の前のシバはどう考えているのか気になった。
(一応彼はお助けキャラなんだし、アックスとの恋を認めて貰えたら嬉しい。)
「私は気になりませんが、アインラス様は……どうですか?」
「私もだ。好きになるのに性別は関係ない。」
(おお~!男前な発言……!)
 俺は、漫画のような台詞を聞いて、素直に感心した。
「その、君自身はどうなんだ?」
「私も同じ意見です。」
「そうか。」
(シバ、ホッとした顔してる。恋愛観が一緒で嬉しかったのかな。)
 この世界であれば、シバのような考えの者が多いだろう。しかし仲良しである俺と意見が一致することは彼にとって安心できることなのかもしれない。
 俺達は仕事の前に、ゆっくりと穏やかなティータイムを過ごした。
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