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愛のある誕生日会
習慣となっている仕事終わりの馬小屋訪問。そこに行けば、8割の確率でアックスに会える。
今日の天気は曇っており今にも雨が降りそうだ。俺はしっかりと上着を羽織ると、騎士棟近くにある馬小屋を目指した。
「アックス。お疲れ様です。」
「セラ、今日は天気が悪いから来ないかと思っていた。」
「今にも降り出しそうですね。」
俺は空を見上げるが、まだ持ちそうだ。
(ちょっと話をしたら帰るか。)
「傘が無いので、少ししたら帰ります。」
「俺もそうするつもりだ。」
お互い傘が無いようで、手早くエマの手入れをしようと俺は小屋の中へ入った。
ポツポツ……
雨が小屋の屋根に当たる音がする。
「降り出したな。」
手入れを終え、手を洗っていた俺達が空を見上げると、小雨が降っていた。
「私、そろそろ帰ります。」
「そうだな。この時期に濡れたら風邪を引くだろう。」
俺が一歩外に出て、アックスに挨拶をしようとするとー……
ザァァアア…
突然大粒の雨が降り出した。
「あ~、これはしばらく止まないな。」
「少しここで雨宿りしていいですか?」
「ああ。だが、この雲だとまだまだ止みそうにないな。」
「どうしよう……。」
(今日はラルクさんの誕生日だから、絶対帰らないといけないし。)
父がサプライズでお祝いしたいと張り切っているのだ。
数日前から考えており、プレゼントも用意している。ラルクの仕事の都合もあって始まるのは夜8時過ぎと遅いのだが、準備もあるためなるべく早く帰りたい。
(こんなことなら、さっさと帰れば良かった。)
どうしようか……と考えていると、アックスが「良かったら、」と呟いた。
「俺の部屋に寄って行くか?ここから一番近い宿舎なんだ。傘もあるからそれで帰るといい。」
「いいんですか?」
「もちろん。お、ちょうど小降りになってきたな。走るぞ。」
アックスは俺の手を引いて走り出した。
「小雨とはいえ、結構濡れたな。」
「はい。でも、着いたら急にまた降り出してびっくりしました。」
外はザァアアア……と、さっきよりも本降りになっている。アックスの判断に感謝だ。
「少し上がっていかないか?身体を拭いた方がいい。」
「ありがとうございます。」
頭を下げながら、玄関で靴を脱いでアックスの部屋へ入った。
アックスの部屋は無駄な物がなく整理整頓がされていた。宿舎であるため、作りは俺やシバの家と同じだが、物が無い分広く感じる。
「そこに座っててくれ。タオルを持ってくる。」
暖房を入れたアックスが、タオルを取りに脱衣所へ向かった。
(シバの部屋と全然違う……。)
かろうじて机と椅子があるリビングと、寝室にはベッドと棚があるのみ。他も必要最低限の家具のみで俺の部屋よりシンプルだ。
ゲームではアックスの部屋に行くなんて描写は無かったので、興味深く観察してしまう。
「何も無いだろう。」
「あ、そうですね。」
タオルを持ったアックスが帰ってきて、俺に1枚手渡す。
(もっと気の利いたこと言えないのか、俺は。)
自分の返事に後悔していると、アックスが「物は買わないようにしてるんだ。」と言った。
「どうしてですか?」
「危険な場所に行くことも多いし、大切な物が増えても困るだけだからな。」
「……。」
(アックスはこの国を救った英雄だって話だし、命を懸けて騎士をやってるんだろうな……。)
何も言えずに、タオルをぎゅっと握った。
「まぁ、今は落ち着いてるし、セラのおかげで隣国とも同盟を結べたから戦いに行く必要もない。」
「……よかった。」
アックスは俺を安心させるように笑う。その笑顔に、ホッとして思わず声が漏れた。
「これからは、いろいろ増やしてもいいかと思ってるんだ。……やはりこの部屋は少し味気ない。」
「もし買うなら付き合います。」
「俺は審美眼がないから、選んでくれたら助かる。」
「私で良ければ。」
アックスは、「頼む。」と言って笑いながら俺の頭をタオルでワシワシと拭いた。
「帰るなら今がよさそうですね。」
「ああ、俺としてはまだ居てほしいが、今日は大事な日なんだろ?」
「はい。ラルクさんの誕生日ですから。」
「あいつ、羨ましい奴だな。」
妬んだ言い方に、思わずフッと笑ってしまう。
「アックスさんの誕生日は、私が盛大にお祝いします。」
「言ったな?期待していいか?」
「あ、盛大って言っても、俺にできることは限られますが……。」
「セラが一緒にいてくれるだけで嬉しい。」
「……っ。」
(う、そんな王子様顔負けのスマイルで言わないでよ。緊張する。)
「さ、あまり引き留めるのも悪いし、近くまで送るよ。」
「ありがとうございます。」
(早く帰らないと。)
雨は気まぐれで、今は小雨でもいつまた激しくなるのか分からない。俺は名残惜しそうなアックスの顔に少しだけ後ろ髪を引かれながら、手を振って別れた。
「ただいま。遅くなってごめん。」
「セラ、良かった~。今日お仕事遅かったの?」
料理を大方終えた父が、手を洗いながら俺のいる玄関に向けて声を掛ける。
「雨が降っちゃって。アックスの宿舎で傘借してもらったんだ。」
「そうなんだ。今度アックスさんにお礼言わなきゃ。」
父は台所から出ると、テーブルに赤いクロスをかけてセットを始めた。
「お花飾ってくれる?お昼休みに買ったんだ。」
「赤い花に赤いテーブルクロスって、ラルクさんの色だね。」
ラルクさんの目と髪の赤を意識してなのか、父が買ってきた花も、用意したテーブルクロスも赤だ。
少し前から、父はその色が好きになったのか、買ってくる小物や定期的に買う花も赤が増えた気がする。
(父さんもラルクさんのことを意識してるのかな。)
俺はそこまで考えて、いや違うな、と父の鈍さを思い出し首を振った。
(だって本には、相手を意識してたら一緒にいてドキドキして緊張するって書いてあったし。)
父がラルクと一緒にいて赤面した顔など見たことがない。スキンシップも多い2人だが、焦るラルクとは違って、いつも父はにこにこしていて自然だ。
ラルクのことを少し不憫に思っていると、電話の音が鳴った。父が「誰かな~?」と言いながら受話器を取る。
「あ、ラルクさん!はい、……え?……いや、何でもないです。ふふ、手ぶらで来てください。はい、待ってますね。」
ガチャン……と電話を切って父がパァアアと顔を明るくした。
「ラルクさん今終わったんだって!」
「予定より早かったね。すぐ準備しないと。」
「うん、急ごう!」
浮足立つ父の姿を見て、やはりどこか違和感を感じた俺だったが、深くは考えず準備を進めた。
「え!なに……今日何かあるんですか?!」
あれから数十分後。仕事終わりのラルクが玄関を開けて、普段と違う雰囲気に驚く。
「ラルクさん、誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございます。」
父と俺がそう言うと、一瞬ポカンとして、「え、ええ~!」と焦りだした。
「知ってたんですか?!」
「はい。同じ部署の方に聞いて、驚かそうと準備したんです。」
「え、俺、今日は3人で過ごせるだけでもいいと思ってたから……嬉しいです!」
ラルクは目元を赤くして、「ありがとうございます!」と俺達の手を握った。
「このケーキも作ったんですか?最高に美味しいです。」
「良かったです。」
今日の食卓はラルクの好きなものばかり。今は昨日から下準備をしていたケーキを食べながら、お茶を楽しんでいる。
「……ラルクさん、あの、これ……プ、プレゼントです。」
父は改まって白い袋をテーブルの上に置いた。明るい父には珍しく、モゴモゴと歯切れが悪い口調だ。
「え……そんな!ご飯だけでも十分幸せなのに。」
「あ、……開けてみて下さい。」
父がプレゼントをスッと前に出す。袋から取り出した箱の中には、ネックレスが入っていた。
「え、これって……ッ!」
「……あの、もし嫌だったら、返しても、大丈夫です。」
父の消え入るような小さな声に、ラルクは目を見開いて顔を上げる。
「俺もシシルさんが、好きです。」
「……はい。」
父は少し顔を赤くしながら、小さく返事をする。
(……なんだこの空気。)
俺は2人の間に甘い雰囲気を感じ、首を傾げる。
「いいんですか……?本当に俺で。」
ラルクはそう言って俺をチラッと見る。すると父も俺の顔色を窺うようにチラッと目を向ける。
(なんだ、2人して。早くネックレスつけたらいいのに。)
俺は訳が分からず、ラルクの手元を指差した。
「ラルクさん、付けて見せてください。似合いそうですよ。」
父はその言葉に、「セラ……ッ」と感極まって俺に抱き着く。ラルクさんはそんな俺と父を包むように抱きしめた。
(え、ちょっと、まじで意味が分からないんだけど……。)
俺はしばらく2人に抱きしめられていた。
頭はハテナマークでいっぱいだが、この空気を壊すのも憚られると、しばらくじっと黙っていた。
今日の天気は曇っており今にも雨が降りそうだ。俺はしっかりと上着を羽織ると、騎士棟近くにある馬小屋を目指した。
「アックス。お疲れ様です。」
「セラ、今日は天気が悪いから来ないかと思っていた。」
「今にも降り出しそうですね。」
俺は空を見上げるが、まだ持ちそうだ。
(ちょっと話をしたら帰るか。)
「傘が無いので、少ししたら帰ります。」
「俺もそうするつもりだ。」
お互い傘が無いようで、手早くエマの手入れをしようと俺は小屋の中へ入った。
ポツポツ……
雨が小屋の屋根に当たる音がする。
「降り出したな。」
手入れを終え、手を洗っていた俺達が空を見上げると、小雨が降っていた。
「私、そろそろ帰ります。」
「そうだな。この時期に濡れたら風邪を引くだろう。」
俺が一歩外に出て、アックスに挨拶をしようとするとー……
ザァァアア…
突然大粒の雨が降り出した。
「あ~、これはしばらく止まないな。」
「少しここで雨宿りしていいですか?」
「ああ。だが、この雲だとまだまだ止みそうにないな。」
「どうしよう……。」
(今日はラルクさんの誕生日だから、絶対帰らないといけないし。)
父がサプライズでお祝いしたいと張り切っているのだ。
数日前から考えており、プレゼントも用意している。ラルクの仕事の都合もあって始まるのは夜8時過ぎと遅いのだが、準備もあるためなるべく早く帰りたい。
(こんなことなら、さっさと帰れば良かった。)
どうしようか……と考えていると、アックスが「良かったら、」と呟いた。
「俺の部屋に寄って行くか?ここから一番近い宿舎なんだ。傘もあるからそれで帰るといい。」
「いいんですか?」
「もちろん。お、ちょうど小降りになってきたな。走るぞ。」
アックスは俺の手を引いて走り出した。
「小雨とはいえ、結構濡れたな。」
「はい。でも、着いたら急にまた降り出してびっくりしました。」
外はザァアアア……と、さっきよりも本降りになっている。アックスの判断に感謝だ。
「少し上がっていかないか?身体を拭いた方がいい。」
「ありがとうございます。」
頭を下げながら、玄関で靴を脱いでアックスの部屋へ入った。
アックスの部屋は無駄な物がなく整理整頓がされていた。宿舎であるため、作りは俺やシバの家と同じだが、物が無い分広く感じる。
「そこに座っててくれ。タオルを持ってくる。」
暖房を入れたアックスが、タオルを取りに脱衣所へ向かった。
(シバの部屋と全然違う……。)
かろうじて机と椅子があるリビングと、寝室にはベッドと棚があるのみ。他も必要最低限の家具のみで俺の部屋よりシンプルだ。
ゲームではアックスの部屋に行くなんて描写は無かったので、興味深く観察してしまう。
「何も無いだろう。」
「あ、そうですね。」
タオルを持ったアックスが帰ってきて、俺に1枚手渡す。
(もっと気の利いたこと言えないのか、俺は。)
自分の返事に後悔していると、アックスが「物は買わないようにしてるんだ。」と言った。
「どうしてですか?」
「危険な場所に行くことも多いし、大切な物が増えても困るだけだからな。」
「……。」
(アックスはこの国を救った英雄だって話だし、命を懸けて騎士をやってるんだろうな……。)
何も言えずに、タオルをぎゅっと握った。
「まぁ、今は落ち着いてるし、セラのおかげで隣国とも同盟を結べたから戦いに行く必要もない。」
「……よかった。」
アックスは俺を安心させるように笑う。その笑顔に、ホッとして思わず声が漏れた。
「これからは、いろいろ増やしてもいいかと思ってるんだ。……やはりこの部屋は少し味気ない。」
「もし買うなら付き合います。」
「俺は審美眼がないから、選んでくれたら助かる。」
「私で良ければ。」
アックスは、「頼む。」と言って笑いながら俺の頭をタオルでワシワシと拭いた。
「帰るなら今がよさそうですね。」
「ああ、俺としてはまだ居てほしいが、今日は大事な日なんだろ?」
「はい。ラルクさんの誕生日ですから。」
「あいつ、羨ましい奴だな。」
妬んだ言い方に、思わずフッと笑ってしまう。
「アックスさんの誕生日は、私が盛大にお祝いします。」
「言ったな?期待していいか?」
「あ、盛大って言っても、俺にできることは限られますが……。」
「セラが一緒にいてくれるだけで嬉しい。」
「……っ。」
(う、そんな王子様顔負けのスマイルで言わないでよ。緊張する。)
「さ、あまり引き留めるのも悪いし、近くまで送るよ。」
「ありがとうございます。」
(早く帰らないと。)
雨は気まぐれで、今は小雨でもいつまた激しくなるのか分からない。俺は名残惜しそうなアックスの顔に少しだけ後ろ髪を引かれながら、手を振って別れた。
「ただいま。遅くなってごめん。」
「セラ、良かった~。今日お仕事遅かったの?」
料理を大方終えた父が、手を洗いながら俺のいる玄関に向けて声を掛ける。
「雨が降っちゃって。アックスの宿舎で傘借してもらったんだ。」
「そうなんだ。今度アックスさんにお礼言わなきゃ。」
父は台所から出ると、テーブルに赤いクロスをかけてセットを始めた。
「お花飾ってくれる?お昼休みに買ったんだ。」
「赤い花に赤いテーブルクロスって、ラルクさんの色だね。」
ラルクさんの目と髪の赤を意識してなのか、父が買ってきた花も、用意したテーブルクロスも赤だ。
少し前から、父はその色が好きになったのか、買ってくる小物や定期的に買う花も赤が増えた気がする。
(父さんもラルクさんのことを意識してるのかな。)
俺はそこまで考えて、いや違うな、と父の鈍さを思い出し首を振った。
(だって本には、相手を意識してたら一緒にいてドキドキして緊張するって書いてあったし。)
父がラルクと一緒にいて赤面した顔など見たことがない。スキンシップも多い2人だが、焦るラルクとは違って、いつも父はにこにこしていて自然だ。
ラルクのことを少し不憫に思っていると、電話の音が鳴った。父が「誰かな~?」と言いながら受話器を取る。
「あ、ラルクさん!はい、……え?……いや、何でもないです。ふふ、手ぶらで来てください。はい、待ってますね。」
ガチャン……と電話を切って父がパァアアと顔を明るくした。
「ラルクさん今終わったんだって!」
「予定より早かったね。すぐ準備しないと。」
「うん、急ごう!」
浮足立つ父の姿を見て、やはりどこか違和感を感じた俺だったが、深くは考えず準備を進めた。
「え!なに……今日何かあるんですか?!」
あれから数十分後。仕事終わりのラルクが玄関を開けて、普段と違う雰囲気に驚く。
「ラルクさん、誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございます。」
父と俺がそう言うと、一瞬ポカンとして、「え、ええ~!」と焦りだした。
「知ってたんですか?!」
「はい。同じ部署の方に聞いて、驚かそうと準備したんです。」
「え、俺、今日は3人で過ごせるだけでもいいと思ってたから……嬉しいです!」
ラルクは目元を赤くして、「ありがとうございます!」と俺達の手を握った。
「このケーキも作ったんですか?最高に美味しいです。」
「良かったです。」
今日の食卓はラルクの好きなものばかり。今は昨日から下準備をしていたケーキを食べながら、お茶を楽しんでいる。
「……ラルクさん、あの、これ……プ、プレゼントです。」
父は改まって白い袋をテーブルの上に置いた。明るい父には珍しく、モゴモゴと歯切れが悪い口調だ。
「え……そんな!ご飯だけでも十分幸せなのに。」
「あ、……開けてみて下さい。」
父がプレゼントをスッと前に出す。袋から取り出した箱の中には、ネックレスが入っていた。
「え、これって……ッ!」
「……あの、もし嫌だったら、返しても、大丈夫です。」
父の消え入るような小さな声に、ラルクは目を見開いて顔を上げる。
「俺もシシルさんが、好きです。」
「……はい。」
父は少し顔を赤くしながら、小さく返事をする。
(……なんだこの空気。)
俺は2人の間に甘い雰囲気を感じ、首を傾げる。
「いいんですか……?本当に俺で。」
ラルクはそう言って俺をチラッと見る。すると父も俺の顔色を窺うようにチラッと目を向ける。
(なんだ、2人して。早くネックレスつけたらいいのに。)
俺は訳が分からず、ラルクの手元を指差した。
「ラルクさん、付けて見せてください。似合いそうですよ。」
父はその言葉に、「セラ……ッ」と感極まって俺に抱き着く。ラルクさんはそんな俺と父を包むように抱きしめた。
(え、ちょっと、まじで意味が分からないんだけど……。)
俺はしばらく2人に抱きしめられていた。
頭はハテナマークでいっぱいだが、この空気を壊すのも憚られると、しばらくじっと黙っていた。
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