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会いたくなかった人
夕方、できた料理を机に並べているとアックスが部屋にやってきた。机に並ぶ料理を見て品数に驚く姿に笑いながら、席に着くよう促す。
「こんなに沢山、すまないな。」
「いえ!アックスはよく食べるからって……さすがに作りすぎました。無理して食べないでくださいね。」
「ああ。だが、全て食べてしまいそうだ。」
アックスは待ち切れないのか、俺にも早く席に着くよう手招きした。
「全て美味かった。」
食後、嬉しい言葉と共に、手伝うと言ってくれたアックスと一緒に皿の片付けをした。
食前の発言通り、机の上の料理はほぼ彼の胃の中だ。一体どこにそんなに入るのか……毎回不思議でならない。
その後はアックスが手土産で持ってきてくれたイチゴとメロンを切って皿に盛り、つつきながらいろんな話をした。
「騎士棟でもセラの噂を聞くぞ。大浴場の件で騎士達と話しただろう。」
「そうなんですか?悪い噂じゃないといいんですが。」
「いや、仕事が早いと聞いている。目の前でセラの暗算を見た騎士が驚いてたぞ。」
「暗算だけは得意なんです。」
「あと、可愛らしいとも言っていた。」
「ええ……。あの、かっこいいとかはありませんでした?」
「残念だが……。」
アックスは笑いをこらえながら真剣な顔で言う。俺も冗談で言っただけなので、その表情に笑いが零れた。
(待てよ……、いつも通りの会話になっちゃってる。)
これから恋をする相手だというのに、兄弟や男友達のような会話では駄目だろう。
しかも本当なら、食事を終えてすぐにアックスが自分の過去について話してくれるはずだ。しかし、目の前のアックスはにこにことしているばかりで、なかなか本題に入らない。
(これは、本題に入るまでの雑談として、俺自身をアピールするチャンス。えっと、俺が今試せそうなのは……『2人だけの秘密を作ろう』!これだ!)
俺は本で学んだ知識を活かすことにした。
「あの、俺イチゴが果物の中で一番好きなんです。」
「そうだろうなと思って持ってきたんだ。メロンも好きだろ?」
「……はい。」
(ば、バレてる。てか、こんなのじゃなくて、もっと特別な感じの秘密にしなきゃ。)
「えーっと……あとは、料理と動物が好きで、植物も好きです。」
「だから部屋に観葉植物がいっぱいあるのか。」
「いえ、これらは父の趣味です。あの小さいのには俺の名前を付けてます。」
「はは、溺愛されてるんだな。」
(もっと何か無いかな。俺の秘密俺の秘密……。)
それからも、誰に聞かれても問題のない事ばかりを話してしまう。他に特別な秘密があっただろうか、と頭を働かせていると、アックスが笑い出した。
「ははっ……今日はセラのことをたくさん教えてくれるんだな。」
「うるさくてすみません。」
「いや、嬉しいよ。」
アックスは机に頬杖をついて俺をじっと見た。
「あの……、」
「ん?」
「アックスも教えて下さい。……秘密とか。」
(直球で聞いちゃった。でも、そうでもしないと話し出さない雰囲気だったし。)
俺が待っていると、「じゃあ、」と言ってアックスが話し出した。
「子どもの頃、小さい村に住んでたって言っただろ?その時の話なんだが、」
(始まった!)
「3日間だけ遊んだ子がいたんだ。俺がまだ村に住む前、家族と下見に行った時に出会ったんだ。」
アックスは懐かしそうに続ける。
「凄く良い子で、引っ越したらまた会えると楽しみにしてたんだが……村に越してきた時には、あの子は居なかったんだ。」
小さい頃だったし、その子はフードを被っていて顔もあんまり覚えてない、と言うアックス。
「王都へ引っ越したと聞いて落ち込んだが、そのうち、あの子が元気ならいいと思って忘れることにしたんだ。」
(うう……それは俺なんだ!今すぐ『思い出の押し花』を見せたいけど、今は我慢しなきゃ。)
幼いアックスが俺に渡した黄色い花は、2回目の部屋訪問で見せることが条件だ。俺は見せたい気持ちをグッと堪えて、アックスに相槌を打った。
「今日はありがとう。明日が仕事じゃなければ、まだ一緒に居たかったんだが。」
「週末にお休みが取れること自体珍しいですもんね。」
はぁ~……とわざとらしく溜息をついたアックスが、帰り支度を始める。
帰る前に、俺の部屋を見てみたいと言ったアックスを自室に案内したのだが、例の押し花は机の引き出しに仕舞っていたため、見られずに済んだ。
「お送りしますよ。」
「セラが送ってくれるのか?じゃあ、分かれ道のところまでお願いしようかな。」
宿舎へ向かう道は交差点のような場所から何本かに分かれており、馬小屋からの帰りはいつもそこで別れる。そこへは歩いて3分程度であり、送るといってもたいした距離ではない。
「部屋まで送ります。」
「いや、大丈夫だ。俺の住んでいる宿舎は騎士ばかりだから、夜に1人でいない方がいい。」
「でも……、」
「では、ゆっくり歩いて行こう。」
アックスはそう言って、玄関から出て歩き出した。
「お仕事頑張って下さい。」
「セラはゆっくり休むといい。」
宿舎への分かれ道に着くとアックスがそう言って、俺の手を取る。
「今日はありがとう。」
「いえ、大したおもてなしもできなくて。」
「楽しかった。決まった休みは無いが、また誘っていいか?」
「はい。」
アックスは「ありがとう。」と言って俺にハグをした。
(自然な動きーーこれが人気NO.1攻略キャラ……。)
俺が自然な抱擁に感動していると、後ろから足音がした。アックスは気にしていないようだが、俺は自分達が道の真ん中で抱き合っていることを恥ずかしく思い、「あの、人が……、」と声を掛けた。
その言葉に、アックスは俺越しに相手を見る。
「アインラス殿。」
(……え?)
アックスが声を掛けた方に目を向けると、シバが歩いてこっちに向かってきていた。
(ど、どうしよ!シバ……?!)
俺は混乱して、「あ……」と小さく漏らす。
「外へ出掛けていたのか?」
「ああ。」
尋ねるアックスにシバが返事をし、俺の方に視線を向ける。
ドッドッドッド……と心臓が早鐘のように鳴り、苦しくなってきた。
「あ、」
俺が話し掛けようと口を開くと、シバは俺からフイッと顔を背けて、「失礼する。」とアックスに言った。
(無視された……。)
頭は殴られたようにぐわんぐわんと鳴り、身体が硬直する。
(……約束断ってアックスと会ってたんだから、この反応が普通だよね。)
それからアックスと何を話したのか覚えていない。彼は「おやすみ」と言って、自分の宿舎へ帰っていった。
「こんなに沢山、すまないな。」
「いえ!アックスはよく食べるからって……さすがに作りすぎました。無理して食べないでくださいね。」
「ああ。だが、全て食べてしまいそうだ。」
アックスは待ち切れないのか、俺にも早く席に着くよう手招きした。
「全て美味かった。」
食後、嬉しい言葉と共に、手伝うと言ってくれたアックスと一緒に皿の片付けをした。
食前の発言通り、机の上の料理はほぼ彼の胃の中だ。一体どこにそんなに入るのか……毎回不思議でならない。
その後はアックスが手土産で持ってきてくれたイチゴとメロンを切って皿に盛り、つつきながらいろんな話をした。
「騎士棟でもセラの噂を聞くぞ。大浴場の件で騎士達と話しただろう。」
「そうなんですか?悪い噂じゃないといいんですが。」
「いや、仕事が早いと聞いている。目の前でセラの暗算を見た騎士が驚いてたぞ。」
「暗算だけは得意なんです。」
「あと、可愛らしいとも言っていた。」
「ええ……。あの、かっこいいとかはありませんでした?」
「残念だが……。」
アックスは笑いをこらえながら真剣な顔で言う。俺も冗談で言っただけなので、その表情に笑いが零れた。
(待てよ……、いつも通りの会話になっちゃってる。)
これから恋をする相手だというのに、兄弟や男友達のような会話では駄目だろう。
しかも本当なら、食事を終えてすぐにアックスが自分の過去について話してくれるはずだ。しかし、目の前のアックスはにこにことしているばかりで、なかなか本題に入らない。
(これは、本題に入るまでの雑談として、俺自身をアピールするチャンス。えっと、俺が今試せそうなのは……『2人だけの秘密を作ろう』!これだ!)
俺は本で学んだ知識を活かすことにした。
「あの、俺イチゴが果物の中で一番好きなんです。」
「そうだろうなと思って持ってきたんだ。メロンも好きだろ?」
「……はい。」
(ば、バレてる。てか、こんなのじゃなくて、もっと特別な感じの秘密にしなきゃ。)
「えーっと……あとは、料理と動物が好きで、植物も好きです。」
「だから部屋に観葉植物がいっぱいあるのか。」
「いえ、これらは父の趣味です。あの小さいのには俺の名前を付けてます。」
「はは、溺愛されてるんだな。」
(もっと何か無いかな。俺の秘密俺の秘密……。)
それからも、誰に聞かれても問題のない事ばかりを話してしまう。他に特別な秘密があっただろうか、と頭を働かせていると、アックスが笑い出した。
「ははっ……今日はセラのことをたくさん教えてくれるんだな。」
「うるさくてすみません。」
「いや、嬉しいよ。」
アックスは机に頬杖をついて俺をじっと見た。
「あの……、」
「ん?」
「アックスも教えて下さい。……秘密とか。」
(直球で聞いちゃった。でも、そうでもしないと話し出さない雰囲気だったし。)
俺が待っていると、「じゃあ、」と言ってアックスが話し出した。
「子どもの頃、小さい村に住んでたって言っただろ?その時の話なんだが、」
(始まった!)
「3日間だけ遊んだ子がいたんだ。俺がまだ村に住む前、家族と下見に行った時に出会ったんだ。」
アックスは懐かしそうに続ける。
「凄く良い子で、引っ越したらまた会えると楽しみにしてたんだが……村に越してきた時には、あの子は居なかったんだ。」
小さい頃だったし、その子はフードを被っていて顔もあんまり覚えてない、と言うアックス。
「王都へ引っ越したと聞いて落ち込んだが、そのうち、あの子が元気ならいいと思って忘れることにしたんだ。」
(うう……それは俺なんだ!今すぐ『思い出の押し花』を見せたいけど、今は我慢しなきゃ。)
幼いアックスが俺に渡した黄色い花は、2回目の部屋訪問で見せることが条件だ。俺は見せたい気持ちをグッと堪えて、アックスに相槌を打った。
「今日はありがとう。明日が仕事じゃなければ、まだ一緒に居たかったんだが。」
「週末にお休みが取れること自体珍しいですもんね。」
はぁ~……とわざとらしく溜息をついたアックスが、帰り支度を始める。
帰る前に、俺の部屋を見てみたいと言ったアックスを自室に案内したのだが、例の押し花は机の引き出しに仕舞っていたため、見られずに済んだ。
「お送りしますよ。」
「セラが送ってくれるのか?じゃあ、分かれ道のところまでお願いしようかな。」
宿舎へ向かう道は交差点のような場所から何本かに分かれており、馬小屋からの帰りはいつもそこで別れる。そこへは歩いて3分程度であり、送るといってもたいした距離ではない。
「部屋まで送ります。」
「いや、大丈夫だ。俺の住んでいる宿舎は騎士ばかりだから、夜に1人でいない方がいい。」
「でも……、」
「では、ゆっくり歩いて行こう。」
アックスはそう言って、玄関から出て歩き出した。
「お仕事頑張って下さい。」
「セラはゆっくり休むといい。」
宿舎への分かれ道に着くとアックスがそう言って、俺の手を取る。
「今日はありがとう。」
「いえ、大したおもてなしもできなくて。」
「楽しかった。決まった休みは無いが、また誘っていいか?」
「はい。」
アックスは「ありがとう。」と言って俺にハグをした。
(自然な動きーーこれが人気NO.1攻略キャラ……。)
俺が自然な抱擁に感動していると、後ろから足音がした。アックスは気にしていないようだが、俺は自分達が道の真ん中で抱き合っていることを恥ずかしく思い、「あの、人が……、」と声を掛けた。
その言葉に、アックスは俺越しに相手を見る。
「アインラス殿。」
(……え?)
アックスが声を掛けた方に目を向けると、シバが歩いてこっちに向かってきていた。
(ど、どうしよ!シバ……?!)
俺は混乱して、「あ……」と小さく漏らす。
「外へ出掛けていたのか?」
「ああ。」
尋ねるアックスにシバが返事をし、俺の方に視線を向ける。
ドッドッドッド……と心臓が早鐘のように鳴り、苦しくなってきた。
「あ、」
俺が話し掛けようと口を開くと、シバは俺からフイッと顔を背けて、「失礼する。」とアックスに言った。
(無視された……。)
頭は殴られたようにぐわんぐわんと鳴り、身体が硬直する。
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それからアックスと何を話したのか覚えていない。彼は「おやすみ」と言って、自分の宿舎へ帰っていった。
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