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「いつでも」は今ですか?
「どうしよう……。」
何が『どうしよう』なのか。なぜこんなに焦っているのか……気づくとシバの宿舎へと走っていた。
(また走って来てしまった。)
前、シバから「会いたい」と電話があった時、同じように走ってここまで来た。
あの時と同じ状況だが、今回はシバの気持ちが違う。俺には会いたくないと思っているだろう。
(でも、謝らないと。)
俺は深呼吸をした後、ドアベルを鳴らした。
しばらくするとシバの声がしたので、俺は「マニエラです。」と震える声で言う。
「どうした?」
ドアが開き、シバが無表情のまま立っていた。
「あの……、」
「トロント殿はいいのか?」
「は、はい。あの……今日はすみませんでした!」
目をぎゅっと瞑って頭を深く下げる。少し沈黙があり、俺の手に汗が滲んだ。
「さっきは、邪魔をしないようにと思っただけだ。気にしなくていい。」
シバの穏やかな声に、ゆっくりと顔を上げる。その表情はいつものように無表情で、シバがどんな気持ちか図ることができない。
「夜も遅い。帰った方がいいんじゃないか。」
その言葉に、身体が固まる。
(前、俺が走ってきた時は泊まっていかないかって聞いてくれた。でも、今は家に上がらせたくないんだ。)
その意味を理解し、目の前が霞んでくる。
(あ、なんで泣くんだ俺。)
俺は、自分でも理由の分からない涙を見られたくなくて、涙が落ちる前に「おやすみなさい。」と言って頭を下げる。そして素早く扉を閉めようとドアノブに手を掛けた。
「マニエラ?」
「……あ、」
シバは、扉を閉めようとした手を掴んだ。
「どうした?!」
あ、駄目だ……と思った時には、目からは涙が零れてきた。頬に水の伝う感触がする。
「すみません。帰ります。」
「……。」
シバは何も言わずに俺を引っ張り玄関に入れた。
「どうしたんだ?」
リビングの椅子に座ると、シバが奥からハンカチを持って戻ってきて俺の隣に座る。
今、俺の涙は一旦止まっているものの、またふとした瞬間に溢れてきそうだ。
「あの、今日は本当に失礼なことを……。」
「それなら大丈夫だ。何を優先するかは、君が決めることだ。」
シバは、ハンカチで俺の目元を軽く押さえた。
「……言い訳させて下さい。詳しくは言えませんが、今日はどうしてもアックスと会わないといけなかったんです。」
そう言いきると、また涙が溜まってきた。
「なぜ泣くんだ。私は別に怒っていない。」
「だって……アインラス様に嫌われた、ら……ッ、」
溜まった涙がまた落ちていく。俯いていたため、雫は俺の手の甲にポタポタと落ちていく。
「泣くな。」
シバが俺を横から抱きしめる。
「勝手な私に呆れて、もう、一緒にいてくれなくなったら、どうしようって……ッ」
(そっか、俺、シバに嫌われるのが怖かったんだ……。)
声に出してみて、自分がなぜあんなに焦ったのか、そしてなぜ泣いているのかが分かった。
「なぜ私が君を嫌うんだ?理由があったんだろう?」
俺を落ち着かせるような優しい口調に、こくんと頷く。
「君が良い人間だと分かっている。今も、走って謝りに来てくれたじゃないか。」
その言葉を聞いて、俺は喉の奥がギュッと詰まる。「う……、」としゃくりあげると、ヒックヒックと喉が上下した。
「うぇ……うッ、ヒック、」
「ああ、ほら。これ以上泣いたら目が腫れるぞ。」
シバは俺を抱きしめたまま、よしよしと背中を撫でた。その温かい胸の中で、俺はしばらく泣き続けた。
「落ち着いたか?」
「はい。」
(は、恥ずかしい……。)
涙がようやく止まり、ズビッと鼻を啜ると、シバが顔を覗き込んでくる。
「風呂に入ってこい。」
「あ、でも、」
(勝手に泣いて勝手にスッキリして、これ以上迷惑は掛けられないよ。)
「そのまま泊まるといい。」
「……いいんですか?」
「ああ。」
背中をあやすようにトントンされながら、俺は安心して目の前のシバの服をぎゅっと掴んだ。
「風呂まで連れて行こう。」
離れようとしない俺に、シバが呆れたようにフッと声を漏らす。貴重な笑顔が見れるというのに、俺は俯いていて、またしてもその顔を見逃してしまった。
ひょいっと俺を抱えたシバは、歩いて洗面所に向かう。俺をバスマットに降ろすと、よしよしと頭を撫でて、「着替えを置いておく。」と言ってリビングに戻った。
俺と交代で風呂に入ったシバが、頭を拭きながらリビングに戻ってきた。
「起きていたのか。」
俺がお風呂から上がった時、「先に寝てて良い」とは言われていたが、妙に目が冴えてリビングでぼーっとしていた。
「はい。アインラス様はもうお休みになりますか?」
「いや。」
シバは俺に出したものと同じ冷たいお茶をコップに入れた。空になった俺のコップにもさりげなく注いでいる。
「ありがとうございます。」
「今日だが、本当は君とトロント殿が抱き合っているところを見て、動揺したんだ。」
「抱き合う……って、あれは別れの挨拶で……!」
「ああ、そうだとは思った。」
勘違いしていると慌てる俺に、シバは気まずそうに語尾を小さくした。
「だが、トロント殿を羨ましく思った。」
(何のことだろ……。)
「君と気軽に話せて、遊べて、抱き合うこともできる。」
シバは、そこまで言うと急に「寝る。」と言って立ち上がる。コップを台所に下げると、さっさと寝室に行ってしまった。
俺は訳が分からないまま取り残されてしまう。言葉の意味を考え、顔がボッと赤くなる。
(それって、シバは俺とハグしたいってこと……?)
あちらの世界では、そういったスキンシップはしたことがなかった。ここでも父やラルクとはよくするが、それは父と兄のような存在であるからだ。
そして、シバが他人と親しく触れ合っているところは見たことがない。そんな彼が、練習以外で自分とそういった行為をしたいと思っていたとは……知らなかった。
「アインラス様……。」
俺はリビングの電気を消して、優しいオレンジの明かりの灯るベッドへ近づいた。シバは先程の発言が恥ずかしかったのか、俺とは反対を向いたまま、黙って布団の端を捲った。
大きなベッドに登り、布団の中に入る。
「あの、アインラス様なら、いつでもいいですよ?」
「……いいのか。」
シバは向こうを向いていたが、俺の言葉にゆっくり振り返った。
「はい。」
俺が返事をすると、シバが背中に手を回し、自分の方へ身体を引き寄せた。
「あの、今ですか?」
「駄目なのか……?」
「いえ。」
俺が、自分からも近づき腕を少し上げると、腕と脇腹の隙間にシバが手を差し込んだ。
(なんか、別れ際にするのと、ベッドの中でするのとじゃ、違う気がするんだけど。)
シバと身体がぴったりくっつき、後ろに回された手は俺の背中を微かに撫でている。
アックスとしたハグとの違いに少しだけ違和感を感じるが、先程慰められた時と同じ温もりに、ホッとする自分もいる。
しばらく喋らずじっとしていたが、目の前の胸からトクトクと音が聞こえ、耳を澄ます。
「アインラス様、音が……。」
「……。」
俺が顔を上げてシバを見ると、少し眉をしかめて照れている顔。
(わ、珍しい。)
「初めて見る顔になってますよ。」
クスクスと笑いながら言うと、目線を俺に向けてきた。
「うるさい。」
シバは、俺のおでこにちゅっと軽くキスをすると、「もう寝ろ。」と言った。
ヘッドボードの明かりは柔らかく、点いたままでも眠ることができる。しかし、俺は今のおやすみのキスで動揺し「灯りを消して下さい」と頼んだ。
俺の赤いであろう耳を指の甲で撫でると、シバは「おやすみ」と言って明かりを消した。
「**は*****か?」
暗くなってどのくらい経ったのか。低い声が問いかけるように話し掛けてくるが、うとうとしている頭では何も考えられない。
俺は、ふにゃりとした口調で「はい」と返事をした。
何が『どうしよう』なのか。なぜこんなに焦っているのか……気づくとシバの宿舎へと走っていた。
(また走って来てしまった。)
前、シバから「会いたい」と電話があった時、同じように走ってここまで来た。
あの時と同じ状況だが、今回はシバの気持ちが違う。俺には会いたくないと思っているだろう。
(でも、謝らないと。)
俺は深呼吸をした後、ドアベルを鳴らした。
しばらくするとシバの声がしたので、俺は「マニエラです。」と震える声で言う。
「どうした?」
ドアが開き、シバが無表情のまま立っていた。
「あの……、」
「トロント殿はいいのか?」
「は、はい。あの……今日はすみませんでした!」
目をぎゅっと瞑って頭を深く下げる。少し沈黙があり、俺の手に汗が滲んだ。
「さっきは、邪魔をしないようにと思っただけだ。気にしなくていい。」
シバの穏やかな声に、ゆっくりと顔を上げる。その表情はいつものように無表情で、シバがどんな気持ちか図ることができない。
「夜も遅い。帰った方がいいんじゃないか。」
その言葉に、身体が固まる。
(前、俺が走ってきた時は泊まっていかないかって聞いてくれた。でも、今は家に上がらせたくないんだ。)
その意味を理解し、目の前が霞んでくる。
(あ、なんで泣くんだ俺。)
俺は、自分でも理由の分からない涙を見られたくなくて、涙が落ちる前に「おやすみなさい。」と言って頭を下げる。そして素早く扉を閉めようとドアノブに手を掛けた。
「マニエラ?」
「……あ、」
シバは、扉を閉めようとした手を掴んだ。
「どうした?!」
あ、駄目だ……と思った時には、目からは涙が零れてきた。頬に水の伝う感触がする。
「すみません。帰ります。」
「……。」
シバは何も言わずに俺を引っ張り玄関に入れた。
「どうしたんだ?」
リビングの椅子に座ると、シバが奥からハンカチを持って戻ってきて俺の隣に座る。
今、俺の涙は一旦止まっているものの、またふとした瞬間に溢れてきそうだ。
「あの、今日は本当に失礼なことを……。」
「それなら大丈夫だ。何を優先するかは、君が決めることだ。」
シバは、ハンカチで俺の目元を軽く押さえた。
「……言い訳させて下さい。詳しくは言えませんが、今日はどうしてもアックスと会わないといけなかったんです。」
そう言いきると、また涙が溜まってきた。
「なぜ泣くんだ。私は別に怒っていない。」
「だって……アインラス様に嫌われた、ら……ッ、」
溜まった涙がまた落ちていく。俯いていたため、雫は俺の手の甲にポタポタと落ちていく。
「泣くな。」
シバが俺を横から抱きしめる。
「勝手な私に呆れて、もう、一緒にいてくれなくなったら、どうしようって……ッ」
(そっか、俺、シバに嫌われるのが怖かったんだ……。)
声に出してみて、自分がなぜあんなに焦ったのか、そしてなぜ泣いているのかが分かった。
「なぜ私が君を嫌うんだ?理由があったんだろう?」
俺を落ち着かせるような優しい口調に、こくんと頷く。
「君が良い人間だと分かっている。今も、走って謝りに来てくれたじゃないか。」
その言葉を聞いて、俺は喉の奥がギュッと詰まる。「う……、」としゃくりあげると、ヒックヒックと喉が上下した。
「うぇ……うッ、ヒック、」
「ああ、ほら。これ以上泣いたら目が腫れるぞ。」
シバは俺を抱きしめたまま、よしよしと背中を撫でた。その温かい胸の中で、俺はしばらく泣き続けた。
「落ち着いたか?」
「はい。」
(は、恥ずかしい……。)
涙がようやく止まり、ズビッと鼻を啜ると、シバが顔を覗き込んでくる。
「風呂に入ってこい。」
「あ、でも、」
(勝手に泣いて勝手にスッキリして、これ以上迷惑は掛けられないよ。)
「そのまま泊まるといい。」
「……いいんですか?」
「ああ。」
背中をあやすようにトントンされながら、俺は安心して目の前のシバの服をぎゅっと掴んだ。
「風呂まで連れて行こう。」
離れようとしない俺に、シバが呆れたようにフッと声を漏らす。貴重な笑顔が見れるというのに、俺は俯いていて、またしてもその顔を見逃してしまった。
ひょいっと俺を抱えたシバは、歩いて洗面所に向かう。俺をバスマットに降ろすと、よしよしと頭を撫でて、「着替えを置いておく。」と言ってリビングに戻った。
俺と交代で風呂に入ったシバが、頭を拭きながらリビングに戻ってきた。
「起きていたのか。」
俺がお風呂から上がった時、「先に寝てて良い」とは言われていたが、妙に目が冴えてリビングでぼーっとしていた。
「はい。アインラス様はもうお休みになりますか?」
「いや。」
シバは俺に出したものと同じ冷たいお茶をコップに入れた。空になった俺のコップにもさりげなく注いでいる。
「ありがとうございます。」
「今日だが、本当は君とトロント殿が抱き合っているところを見て、動揺したんだ。」
「抱き合う……って、あれは別れの挨拶で……!」
「ああ、そうだとは思った。」
勘違いしていると慌てる俺に、シバは気まずそうに語尾を小さくした。
「だが、トロント殿を羨ましく思った。」
(何のことだろ……。)
「君と気軽に話せて、遊べて、抱き合うこともできる。」
シバは、そこまで言うと急に「寝る。」と言って立ち上がる。コップを台所に下げると、さっさと寝室に行ってしまった。
俺は訳が分からないまま取り残されてしまう。言葉の意味を考え、顔がボッと赤くなる。
(それって、シバは俺とハグしたいってこと……?)
あちらの世界では、そういったスキンシップはしたことがなかった。ここでも父やラルクとはよくするが、それは父と兄のような存在であるからだ。
そして、シバが他人と親しく触れ合っているところは見たことがない。そんな彼が、練習以外で自分とそういった行為をしたいと思っていたとは……知らなかった。
「アインラス様……。」
俺はリビングの電気を消して、優しいオレンジの明かりの灯るベッドへ近づいた。シバは先程の発言が恥ずかしかったのか、俺とは反対を向いたまま、黙って布団の端を捲った。
大きなベッドに登り、布団の中に入る。
「あの、アインラス様なら、いつでもいいですよ?」
「……いいのか。」
シバは向こうを向いていたが、俺の言葉にゆっくり振り返った。
「はい。」
俺が返事をすると、シバが背中に手を回し、自分の方へ身体を引き寄せた。
「あの、今ですか?」
「駄目なのか……?」
「いえ。」
俺が、自分からも近づき腕を少し上げると、腕と脇腹の隙間にシバが手を差し込んだ。
(なんか、別れ際にするのと、ベッドの中でするのとじゃ、違う気がするんだけど。)
シバと身体がぴったりくっつき、後ろに回された手は俺の背中を微かに撫でている。
アックスとしたハグとの違いに少しだけ違和感を感じるが、先程慰められた時と同じ温もりに、ホッとする自分もいる。
しばらく喋らずじっとしていたが、目の前の胸からトクトクと音が聞こえ、耳を澄ます。
「アインラス様、音が……。」
「……。」
俺が顔を上げてシバを見ると、少し眉をしかめて照れている顔。
(わ、珍しい。)
「初めて見る顔になってますよ。」
クスクスと笑いながら言うと、目線を俺に向けてきた。
「うるさい。」
シバは、俺のおでこにちゅっと軽くキスをすると、「もう寝ろ。」と言った。
ヘッドボードの明かりは柔らかく、点いたままでも眠ることができる。しかし、俺は今のおやすみのキスで動揺し「灯りを消して下さい」と頼んだ。
俺の赤いであろう耳を指の甲で撫でると、シバは「おやすみ」と言って明かりを消した。
「**は*****か?」
暗くなってどのくらい経ったのか。低い声が問いかけるように話し掛けてくるが、うとうとしている頭では何も考えられない。
俺は、ふにゃりとした口調で「はい」と返事をした。
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