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白い袋に青いリボン
「……アインラス様?」
昨晩はいつ寝たのか覚えていない。
シバが明かりを消し、また俺を抱き込むように体勢を整えたところまでは何とか思い出せる。しかし、それからすぐに寝てしまったのか、記憶が無かった。
起きて目を擦りながら隣を見ると、シバの姿がない。
(あれ、どうしたんだろ。)
俺はシバを探してキョロキョロと部屋を見渡す。寝室とリビングを繋ぐ扉は閉められている。
その扉を開けると、シバが椅子に座って本を読んでいた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
シバの服は寝間着からカジュアルな服に変わっており、髪もきっちりとまとまっている。
何時だ?と思い時計を見ると、時計の針は11時を指していた。
「えッ!こんな時間?!」
シバの部屋だと、いつも寝坊してしまうのだ。
俺はこの現象をどうにかしなければ……と思っていたが、昨夜はいろいろあって忘れていた。
「すみません。次からは起こして下さい。」
「疲れていたんだろう。今日は休みだ。いくら眠っても問題じゃないだろう。」
「ですが、アインラス様のベッドで昼まで寝るなんて、失礼ですよ。」
「私は構わない。」
俺はどうにも申し訳なく、ポリポリと頭を掻いた。
シバは俺にお茶を淹れようと立ち上がる。
俺は、台所へ向かう姿を見てから部屋を見渡した。
「あ……!」
暖炉の前に、前回注文した座椅子が届いていた。
「これ、昨日は無かったですよね?」
昨夜は動揺していたとはいえ、あんな大きい家具を見逃さないだろう。今朝届いたのだろうか……と考えながら、シバに問い掛ける。
「それは届いてから、別の部屋に置いていた。」
シバは俺の分のお茶を机に置きながら答えた。
「どうしてすぐ置かなかったんですか?」
「……。」
俺の質問に、シバが黙る。何か失礼な事を言ったのか……と心配したが、顔を見てそうではないと分かった。
(ちょっと言いづらいって感じかな?待ってたら言うな、これは。)
シバの続きを待っていると、俺の予想通りシバが口を開いた。
「君と選んだものだから、初めては一緒に使おうと思っただけだ。」
「え……そ、そうでしたか。」
(シバって案外可愛い性格してるよなぁ。)
シバと仲良くなって、意外な面を沢山見てきた。以前は考えられなかったが、最近はシバの態度や行動に『可愛い』と思うことが増えてきた。
「では、今日はあそこで昼食にしませんか?」
「……座椅子でか?」
「はい!」
まだ何も食べていないというシバと一緒に遅めのブランチを食べるため、俺は「すぐ作ります!」と張り切って台所へ向かった。
「着替えてきます。」
「そのままでいいだろう。」
朝ご飯もとい昼ご飯は、シバの部屋にある食材で簡単に作った。
座椅子に座って食べるので、簡単に摘まめるサンドイッチとフルーツを用意したところで、シバが暖炉の前を指差す。
「テーブルが無いが……。」
「床に置きましょう。」
「ゆ、床にか。」
シバは俺の提案に少したじろいでいた。
(あ、これってシバにとっては、凄く下品なことかも。)
俺は一人暮らしの時、よくゲームをしながら、カーペットに皿を置いてご飯を食べていた。ソファがあるにも関わらず、なぜか居心地の良い床に座ってしまうのだ。
ソファを背もたれにして、だらけた格好でご飯を食べることは、行儀が悪いと思いつつ止められなかった。
暖炉のある部屋に敷いてある絨毯は、あちらの世界で俺が使っていた物よりはるかに上等で、フカフカと厚みがある。
俺はそこに皿を置くことに何も思わないが、もしかしたらシバは引いているかもしれない。
「やっぱり居間で食べましょうか。」
俺はお坊ちゃんであるシバに合わせようと、持っている飲み物を机に置く。しかし、シバは「いや、」と言って座椅子の方へ歩いて行った。
「ここが良い。ただ、作法を知らないので教えてくれ。」
「……ふ、ッはは!作法……って。」
(床で食べるのに、決まりなんてないよ。)
俺は噴き出して笑ってしまい、シバはきょとんとしている。
予想してなかった発言に、俺がひとしきり笑うと、シバが「笑い終わったか?」と不機嫌な声で言ってきた。
「これは案外……良いな。」
「でしょう?私、たまにこうやって食べるんです。」
結局、シバが床で食べてみたいと言うので、皿を絨毯の上に置き、横にお盆に乗せた飲み物を置く。手拭きのタオルもセットし、2人で座椅子に座って食事を始めた。
シバはスッと背筋を伸ばしてサンドイッチを食べていたが、俺は「違いますよ。」とその身体を倒し、座椅子にもたれるように座らせた。
「こうやって、リラックスして食べるんです。」と言うと、先輩である俺に倣って、できるだけ崩れた体勢を心掛けているようだった。
「そういえば、昨日はお出掛けされてたんですか?」
昨夜、遅い時間に宿舎に戻るシバはどこに行っていたのか……気になったので聞いてみる。
「少し呼ばれてな。」
「ダライン様ですか?」
「いや、ハウウィン家のレベッカ嬢だ。」
(……嬢?!女の人と会ってたの?)
シバから出てきたまさかの女性の名前に、俺は目が丸くなる。
(しかもあんな遅い時間に……。)
「あの、どうして呼ばれたのか聞いても?」
「あれを渡しに来られた。」
シバは暖炉の本棚に雑に置かれている小さい袋を指差した。白に青いリボン。袋に押されている模様は宝石をを模しており、これがアクセサリーだと分かる。
「あの、あれってもしかして……、」
「ああ、中身か?ネックレスだ。」
『たいしたことではない』という風なシバ。しかし俺は、あのネックレスが何を意味するか知っている。
(え、そのレベッカって女性に告白されたってこと?)
そしてそのネックレスがシバの部屋にあるということは、告白を受けたということになる。そのことに関してもっと聞きたいが、シバは「今日はどこかに出かけるか?」と別の話題に移ってしまった。
輝いて見えるその白い袋を見ながら、「い、いえ、帰ります。」と言って立ち上がる。
「もう帰るのか?」
「はい。」
急に立ち上がった俺に、シバが残念そうな声を出す。しかし、俺は今パニックであり、どういう顔をしてよいのか分からない。
そのまま、「片づけてから帰ります!」と言って台所に皿を運ぶと、皿洗いのバイト顔負けのスピードで洗いあげ、「では。」と言って玄関に向かった。
「今日は1日一緒かと思っていた。」
「すみません。」
(う……、そんな言い方されたら、帰りづらい。)
しかし、急に耳にした侯爵令嬢のことが頭から離れない。一回頭を整理したかった。
「分かった。では、約束を果たしてくれ。」
「……約束?」
(何のことだろ。)
俺は頭を捻るが、それが何であるか思い出せない。シバは、玄関で片方だけ靴を履いた状態の俺を見下ろし、「昨夜言っただろう。」と言う。
「朝、おはようのキスをすると。」
「え?」
俺は予想していた内容とは違い、まぬけな顔をしてしまった。てっきりお昼をごちそうするとか、もしくは仕事に関することかと思っていた。
「あの、昨夜は寝ぼけてて、お約束は覚えていません。」
「だが、君はすると言った。」
シバが俺の前で屈み、さぁどうぞーーという態度で俺を待っている。
(ただでさえパニックなのに、何させるんだ!)
とりあえず、早く済ませようと、シバの頬を両手で固定する。
約束を果たすと分かり、目を瞑ったシバ。俺は背伸びをして、そのおでこにキスを……と思ったが、高さが足りず鼻の少し上に当たる。
「あ……ッ、」
「ずれてるぞ。」
シバの目が薄く開かれる。間近にある、吸い込まれそうな青がかった黒い瞳。俺はビクッと肩を震わせると、「もう少し屈んでください。」と自分の非ではないことを暗に示した。
「分かった。」
そう言って屈むシバからは楽し気な気配がする。
「動かないで下さいね。」
「ああ。」
俺は両頬に軽く手を添え、おでこにちゅ……と口を付けた。
(音が鳴ってしまった。)
勢いよくしてしまったためか、リップ音が鳴ってしまい、恥ずかしくなって俯く。頬から手を離すと、シバが「マニエラ。」と言って俺の頬にキスを返してきた。
「……え?」
俺は固まって、自分の頬を押さえる。
「また来てくれ。」
シバが目を細め、俺は身体を強張らせたまま、コクリと頷いた。
「あああああ~!!!!」
俺は自室のベッドにダイブし、大きな声を出して悶えた。父とラルクは出掛けているようで、俺の声が聞かれることはない。
どうやってここまで帰ってきたのか、記憶が曖昧だ。しかし手には座椅子と一緒に届いたというソファカバーがあり、シバがそれを帰りに持たせてくれたのだと分かる。
(俺、お礼ちゃんと言ったのかな。)
心配になるが、頭の中はシバが意地悪そうに微笑んだ顔でいっぱいだった。
(さっきのは一体……。)
シバのスキンシップはたしかに増えている。それは一緒に読んだ本の影響であり、シバは今、学ぶために俺にいろいろ試しているのだ。
そして、泊まった日の寝る前におでこにキスをするのは今では当たり前になりつつある。寝る前であれば、温かい布団の中でリラックスしているため、オープンな気持ちになるのは分かる。しかし、先程の行為は挨拶と呼べる……のだろうか。
(あー、もう……やめてよ。)
考えなければならないことは山ほどあるのだ。これ以上俺の頭を支配しないでほしい。
(というか、シバには恋人がいるんだった。)
俺は、自分の知らなかったレベッカという女性について考える。シバは彼女からネックレスを貰ったと言っていた。つまりは告白されたのだろう。
「でも、気にしてなさそうだったんだよなぁ……。」
仰向けになって天井を見ながら考える。
(もしかして……。)
俺はぐるぐると考え、ある可能性に気付いた。
(シバはネックレスが告白に使われることを知らない?!)
シバは真面目だ。そして恋愛については全くの初心者だった。以前は騎士として、そして今は文官として毎日忙しく働く彼は、恋愛について学ぶ時間が無かったのではなかろうか。
しかし、レベッカと出会って恋愛を学ぼうと思ったシバは、俺を練習台にしてスキンシップを図っているのではないだろうか。
(絶対にそうだ。)
シバがなぜ今日頬にキスをしたのか、そして最近のスキンシップが増えた理由、さらには恋愛本を意欲的に学ぼうとする姿勢。すべてを理解した俺は、スッキリして安心……はできなかった。
(なんでか分かんないけど、胸がすっごい苦しい。)
上司であり、俺の攻略サポートキャラであるシバが、誰と恋愛をしようが、自分には関係ないはずだ。それなのに、彼がまだ見ぬレベッカという女性と恋愛をする姿を想像すると、無性に泣きたい気持ちになった。
(俺、昨日からなんかおかしい。)
これ以上気持ちを乱されたくない。俺は目を瞑ってアックスとの次のイベントについて考えた。
昨晩はいつ寝たのか覚えていない。
シバが明かりを消し、また俺を抱き込むように体勢を整えたところまでは何とか思い出せる。しかし、それからすぐに寝てしまったのか、記憶が無かった。
起きて目を擦りながら隣を見ると、シバの姿がない。
(あれ、どうしたんだろ。)
俺はシバを探してキョロキョロと部屋を見渡す。寝室とリビングを繋ぐ扉は閉められている。
その扉を開けると、シバが椅子に座って本を読んでいた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
シバの服は寝間着からカジュアルな服に変わっており、髪もきっちりとまとまっている。
何時だ?と思い時計を見ると、時計の針は11時を指していた。
「えッ!こんな時間?!」
シバの部屋だと、いつも寝坊してしまうのだ。
俺はこの現象をどうにかしなければ……と思っていたが、昨夜はいろいろあって忘れていた。
「すみません。次からは起こして下さい。」
「疲れていたんだろう。今日は休みだ。いくら眠っても問題じゃないだろう。」
「ですが、アインラス様のベッドで昼まで寝るなんて、失礼ですよ。」
「私は構わない。」
俺はどうにも申し訳なく、ポリポリと頭を掻いた。
シバは俺にお茶を淹れようと立ち上がる。
俺は、台所へ向かう姿を見てから部屋を見渡した。
「あ……!」
暖炉の前に、前回注文した座椅子が届いていた。
「これ、昨日は無かったですよね?」
昨夜は動揺していたとはいえ、あんな大きい家具を見逃さないだろう。今朝届いたのだろうか……と考えながら、シバに問い掛ける。
「それは届いてから、別の部屋に置いていた。」
シバは俺の分のお茶を机に置きながら答えた。
「どうしてすぐ置かなかったんですか?」
「……。」
俺の質問に、シバが黙る。何か失礼な事を言ったのか……と心配したが、顔を見てそうではないと分かった。
(ちょっと言いづらいって感じかな?待ってたら言うな、これは。)
シバの続きを待っていると、俺の予想通りシバが口を開いた。
「君と選んだものだから、初めては一緒に使おうと思っただけだ。」
「え……そ、そうでしたか。」
(シバって案外可愛い性格してるよなぁ。)
シバと仲良くなって、意外な面を沢山見てきた。以前は考えられなかったが、最近はシバの態度や行動に『可愛い』と思うことが増えてきた。
「では、今日はあそこで昼食にしませんか?」
「……座椅子でか?」
「はい!」
まだ何も食べていないというシバと一緒に遅めのブランチを食べるため、俺は「すぐ作ります!」と張り切って台所へ向かった。
「着替えてきます。」
「そのままでいいだろう。」
朝ご飯もとい昼ご飯は、シバの部屋にある食材で簡単に作った。
座椅子に座って食べるので、簡単に摘まめるサンドイッチとフルーツを用意したところで、シバが暖炉の前を指差す。
「テーブルが無いが……。」
「床に置きましょう。」
「ゆ、床にか。」
シバは俺の提案に少したじろいでいた。
(あ、これってシバにとっては、凄く下品なことかも。)
俺は一人暮らしの時、よくゲームをしながら、カーペットに皿を置いてご飯を食べていた。ソファがあるにも関わらず、なぜか居心地の良い床に座ってしまうのだ。
ソファを背もたれにして、だらけた格好でご飯を食べることは、行儀が悪いと思いつつ止められなかった。
暖炉のある部屋に敷いてある絨毯は、あちらの世界で俺が使っていた物よりはるかに上等で、フカフカと厚みがある。
俺はそこに皿を置くことに何も思わないが、もしかしたらシバは引いているかもしれない。
「やっぱり居間で食べましょうか。」
俺はお坊ちゃんであるシバに合わせようと、持っている飲み物を机に置く。しかし、シバは「いや、」と言って座椅子の方へ歩いて行った。
「ここが良い。ただ、作法を知らないので教えてくれ。」
「……ふ、ッはは!作法……って。」
(床で食べるのに、決まりなんてないよ。)
俺は噴き出して笑ってしまい、シバはきょとんとしている。
予想してなかった発言に、俺がひとしきり笑うと、シバが「笑い終わったか?」と不機嫌な声で言ってきた。
「これは案外……良いな。」
「でしょう?私、たまにこうやって食べるんです。」
結局、シバが床で食べてみたいと言うので、皿を絨毯の上に置き、横にお盆に乗せた飲み物を置く。手拭きのタオルもセットし、2人で座椅子に座って食事を始めた。
シバはスッと背筋を伸ばしてサンドイッチを食べていたが、俺は「違いますよ。」とその身体を倒し、座椅子にもたれるように座らせた。
「こうやって、リラックスして食べるんです。」と言うと、先輩である俺に倣って、できるだけ崩れた体勢を心掛けているようだった。
「そういえば、昨日はお出掛けされてたんですか?」
昨夜、遅い時間に宿舎に戻るシバはどこに行っていたのか……気になったので聞いてみる。
「少し呼ばれてな。」
「ダライン様ですか?」
「いや、ハウウィン家のレベッカ嬢だ。」
(……嬢?!女の人と会ってたの?)
シバから出てきたまさかの女性の名前に、俺は目が丸くなる。
(しかもあんな遅い時間に……。)
「あの、どうして呼ばれたのか聞いても?」
「あれを渡しに来られた。」
シバは暖炉の本棚に雑に置かれている小さい袋を指差した。白に青いリボン。袋に押されている模様は宝石をを模しており、これがアクセサリーだと分かる。
「あの、あれってもしかして……、」
「ああ、中身か?ネックレスだ。」
『たいしたことではない』という風なシバ。しかし俺は、あのネックレスが何を意味するか知っている。
(え、そのレベッカって女性に告白されたってこと?)
そしてそのネックレスがシバの部屋にあるということは、告白を受けたということになる。そのことに関してもっと聞きたいが、シバは「今日はどこかに出かけるか?」と別の話題に移ってしまった。
輝いて見えるその白い袋を見ながら、「い、いえ、帰ります。」と言って立ち上がる。
「もう帰るのか?」
「はい。」
急に立ち上がった俺に、シバが残念そうな声を出す。しかし、俺は今パニックであり、どういう顔をしてよいのか分からない。
そのまま、「片づけてから帰ります!」と言って台所に皿を運ぶと、皿洗いのバイト顔負けのスピードで洗いあげ、「では。」と言って玄関に向かった。
「今日は1日一緒かと思っていた。」
「すみません。」
(う……、そんな言い方されたら、帰りづらい。)
しかし、急に耳にした侯爵令嬢のことが頭から離れない。一回頭を整理したかった。
「分かった。では、約束を果たしてくれ。」
「……約束?」
(何のことだろ。)
俺は頭を捻るが、それが何であるか思い出せない。シバは、玄関で片方だけ靴を履いた状態の俺を見下ろし、「昨夜言っただろう。」と言う。
「朝、おはようのキスをすると。」
「え?」
俺は予想していた内容とは違い、まぬけな顔をしてしまった。てっきりお昼をごちそうするとか、もしくは仕事に関することかと思っていた。
「あの、昨夜は寝ぼけてて、お約束は覚えていません。」
「だが、君はすると言った。」
シバが俺の前で屈み、さぁどうぞーーという態度で俺を待っている。
(ただでさえパニックなのに、何させるんだ!)
とりあえず、早く済ませようと、シバの頬を両手で固定する。
約束を果たすと分かり、目を瞑ったシバ。俺は背伸びをして、そのおでこにキスを……と思ったが、高さが足りず鼻の少し上に当たる。
「あ……ッ、」
「ずれてるぞ。」
シバの目が薄く開かれる。間近にある、吸い込まれそうな青がかった黒い瞳。俺はビクッと肩を震わせると、「もう少し屈んでください。」と自分の非ではないことを暗に示した。
「分かった。」
そう言って屈むシバからは楽し気な気配がする。
「動かないで下さいね。」
「ああ。」
俺は両頬に軽く手を添え、おでこにちゅ……と口を付けた。
(音が鳴ってしまった。)
勢いよくしてしまったためか、リップ音が鳴ってしまい、恥ずかしくなって俯く。頬から手を離すと、シバが「マニエラ。」と言って俺の頬にキスを返してきた。
「……え?」
俺は固まって、自分の頬を押さえる。
「また来てくれ。」
シバが目を細め、俺は身体を強張らせたまま、コクリと頷いた。
「あああああ~!!!!」
俺は自室のベッドにダイブし、大きな声を出して悶えた。父とラルクは出掛けているようで、俺の声が聞かれることはない。
どうやってここまで帰ってきたのか、記憶が曖昧だ。しかし手には座椅子と一緒に届いたというソファカバーがあり、シバがそれを帰りに持たせてくれたのだと分かる。
(俺、お礼ちゃんと言ったのかな。)
心配になるが、頭の中はシバが意地悪そうに微笑んだ顔でいっぱいだった。
(さっきのは一体……。)
シバのスキンシップはたしかに増えている。それは一緒に読んだ本の影響であり、シバは今、学ぶために俺にいろいろ試しているのだ。
そして、泊まった日の寝る前におでこにキスをするのは今では当たり前になりつつある。寝る前であれば、温かい布団の中でリラックスしているため、オープンな気持ちになるのは分かる。しかし、先程の行為は挨拶と呼べる……のだろうか。
(あー、もう……やめてよ。)
考えなければならないことは山ほどあるのだ。これ以上俺の頭を支配しないでほしい。
(というか、シバには恋人がいるんだった。)
俺は、自分の知らなかったレベッカという女性について考える。シバは彼女からネックレスを貰ったと言っていた。つまりは告白されたのだろう。
「でも、気にしてなさそうだったんだよなぁ……。」
仰向けになって天井を見ながら考える。
(もしかして……。)
俺はぐるぐると考え、ある可能性に気付いた。
(シバはネックレスが告白に使われることを知らない?!)
シバは真面目だ。そして恋愛については全くの初心者だった。以前は騎士として、そして今は文官として毎日忙しく働く彼は、恋愛について学ぶ時間が無かったのではなかろうか。
しかし、レベッカと出会って恋愛を学ぼうと思ったシバは、俺を練習台にしてスキンシップを図っているのではないだろうか。
(絶対にそうだ。)
シバがなぜ今日頬にキスをしたのか、そして最近のスキンシップが増えた理由、さらには恋愛本を意欲的に学ぼうとする姿勢。すべてを理解した俺は、スッキリして安心……はできなかった。
(なんでか分かんないけど、胸がすっごい苦しい。)
上司であり、俺の攻略サポートキャラであるシバが、誰と恋愛をしようが、自分には関係ないはずだ。それなのに、彼がまだ見ぬレベッカという女性と恋愛をする姿を想像すると、無性に泣きたい気持ちになった。
(俺、昨日からなんかおかしい。)
これ以上気持ちを乱されたくない。俺は目を瞑ってアックスとの次のイベントについて考えた。
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展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
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