鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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「つまり君は、私とレベッカ嬢が恋仲だと勘違いしていたのか。」
「……はい。」
 俺は、今までシバを避けていた理由を説明した。
 シバがレベッカからの告白を受けたと思ったこと。そして、それならばこれまで通りに仲良く接することは彼女に悪いと思ったこと。
 全てを話し終え、それを静かに聞いていたシバは溜息をついた。俺は、呆れられたに違いないと顔を伏せる。
ガタッ、
 シバは席を立つと俺の隣に腰掛け、泣きそうな表情の俺の手を取る。
「私は、君との時間を捻出するのも苦労している。それなのに、城外の令嬢とどうやって逢瀬ができると思ったんだ。」
 手を下から掬われ、優しく指で手の平を撫でられる。俺は小さい声で「すみません。」と謝った。
「なぜ捨てろと言ったんだ?」
「アインラス様が、ネックレスの意味を知らないと思っていたんです。このままだとお互いの為に良くないので、捨てたらどうか……と提案しました。」
「流石に告白の意味くらいは知っている。」
 申し訳なく思いながら黙っていると、シバが俺に続きを促した。
「捨てろと言った理由はそれだけか?」
「え?……あの、その、」
「……他の理由もあるなら言ってみろ。」
 えっと、あの、と目が泳ぐが、シバは曖昧にする気がないようだ。俺の両手を優しく掴むと、「怒らないから」と目で伝えてくる。少しの沈黙ぼ後、おずおずと口を開いた。
「アインラス様を、取られたくない、と思った、んです……。」
 自分の心のまま、正直に告白した。小さい声で語尾は震え、シバがうまく聞き取れたか分からない。
「すみません。」
 俯いた俺に、シバは座ったまま優しく俺を抱きしめた。
「なぜ謝るんだ?……私は、嬉しい。」
 そう言って俺の顔を覗き込むシバは、キュッと目元に皺が寄り、今まで見た中で一番嬉しそうに笑った。俺はその笑顔に胸が熱くなる。

(ああ……俺、シバのことが好きなんだ。)
 俺は自分の恋心を、やっと自覚した。

たった今、シバが好きだと分かった俺は、心臓が早鐘のようにドクドクと鳴った。それが恥ずかしくて、少し身体を離そうとするが、シバは「こら、」と言って離さない。
(あああ~、ドキドキしてるのがバレる!)
「すごい音だな。」
「分かっているなら離れてください。」
「それは駄目だ。」
 シバは楽しそうな声を出して俺をさらにギュッと抱きしめた。その楽しげな態度に、ドキドキしているのが馬鹿らしくなってきた俺は、やめてください、と精一杯抵抗した。

 抱きしめるシバとそれを退けようとする俺の攻防が続いたが、俺が逃れるために「お腹が空きました!」と強く言ったことで、シバがピタッと動きを止めた。
「何も食べていなかったのか?」
「起きてすぐ、アインラス様が来られたので。」
「そうか。」
 シバはそう言って台所へ向かった。
「手伝う。一緒に何か作ろう。」
「はい。」
 俺達は仲良く台所に立ち、会えなかった間の話をしながら料理をした。

 今は、食後のお茶を飲みながら、先週は何をしていたのか話をしていた。
 俺は正直に海へ遊びに出掛けたことや、騎士棟に行ったことなどを伝え、シバは何度も出てくるアックスの名前に少しムッとしていた。
しかし、先程の俺の「シバを取られたくない」発言で自分が優位だという余裕があるのか、何も言ってはこなかった。

「君は忙しい日々を過ごしていたんだな。」
「……はい。」
(俺がアックスと過ごすために無理矢理予定を入れまくったから……。)
 シバは俺の顔をチラッと伺いながら、何か言いたそうにしている。首を傾げると、シバが持っていたカップを机に置いて真剣な顔で聞いてくる。
「君の5か月先の時間は、全て私が予約していいか?」
 口説き文句にも取れる言葉に胸がときめくが、シバは友達として俺を誘っているだけだろう。
その内容をもう一度考え、俺は申し出を断る。
「……駄目です。」
「なぜだ。」
「5か月っていうのは、もういいんです。今日からは、ずっと一緒に過ごせます。」
 そう伝えると、自分の言葉に照れてまた下を向く。
「顔を上げろ。私は君のその表情が好きだ。」
「……ッ、からかわないでください。」
「からかっていない。」
 シバは楽しそうに笑っている。
 目元は細められ、口元がほんの少し上がっているその顔を見ていると、胸が高鳴り、シバのことが好きなのだと再確認する。
 とりあえず話題を変えないと……と、俺はあのネックレスがなぜシバの部屋にあったのか尋ねた。

「あれは兄がレベッカ嬢と揃いで作ったものなんだ。」
 シバの説明によると、あれは王騎士として働くシバの兄が、レベッカの為に作ったものらしい。遠征に行く数日前に兄の方のチェーンが切れ、新しいものに取り替える為に装飾品店に出していた。レベッカは修理したネックレスを受け取り、近々帰ってくる兄にすぐ渡してほしいと、城で働くシバに託けたのだ。
「兄に変な虫が付かないように、すぐ付けさせろと言われた。」
「そういうことだったんですね。」
「2人の関係は城でも有名だから、君はもう知っているかと思っていたんだ。きちんと説明するべきだった。」
「私、アインラス様にお兄様がいることも知りませんでした。」
「すまなかったな。」
「……あ、」
 シバが俺の頬を宥めるように撫でる。
「勘違いさせてしまった。」
「い、いいんです!もう真実が分かったので。」
(最初から聞いとけば良かった。モヤモヤして、避けて、お兄さんの大事なネックレスも捨てちゃうところだった。)
 それからは、俺がシバを意識しだしたからか、なんとなくくすぐったい雰囲気の中、シバと休日を過ごした。

 今回の休みは1人でベッドの上で過ごす予定だったのが、思いがけずシバと2人で過ごしたことで充実した1日になった。
(た、楽しかった。)
 部屋に帰り自室に行くと、仕舞っていたアイボリーのソファカバーを広げる。
 シバからプレゼントされたそれは、レベッカの事について聞いた後だった為、なんとなくもやもやとし、ずっと掛けていなかった。しかし、彼女と何も無いのだと知ったことで、帰ってすぐにそれを見たくなったのだ。
(わ、やっぱり上等なんだろうな。すっごく触りが良い。)
 ソファに座ってその表面を撫でると、気持ちいい触り心地にそこから動けなくなってしまった。
(改めてお礼を言わなきゃ。あ、部屋に呼んで直接見てもらおうかな。)
 シバがこの部屋に入ったことはまだ無い。もし来るのであれば、攻略ノートや作戦メモのあれこれを隠さなければならないと、俺は机に広がる絵やノートを見た。
(あ、待て待て。その前にアックスを部屋に呼ばないと……。)
 イベント④『黒馬の騎士』の前までに、アックスにはもう一度俺の部屋に来てもらう必要がある。1回目の訪問の時にアックスが言っていた『村で出会ったフードを被った子』。それは俺の事であるが、それは次の訪問で明らかになる。
 アックスが『思い出の押し花』を見ることで、村で出会った子どもが俺だと気付くのだ。
 イベント④では、その村に住んでいた幼馴染によって俺は誘拐されてしまうのだが、アックスが誘拐犯はその男だと気付かなければ、俺を助けることはできない。
(優先順位としては、アックスを部屋に呼ぶことが一番……。)
 今回のレベッカの件で、シバが好きだと気付いてしまった。本当なら彼を呼びたい。俺は、部屋のソファに座りながら、シバを想って一人で顔をぽぽぽと赤くした。
「でも、好きになってもしょうがないんだよね……。」
 恋を自覚したところで、俺にはどうすることもできない。シバを好きだと想っても、彼と結ばれる道は無いのだ。もしアックスと恋人にならなければ、俺はとんでもないバッドエンドを迎える。
(死ぬのは、嫌だなぁ~。)
 溜息をつき、どうしたら良いのか考える。
 アックスに関しては、イベントも滞りなく発生するため上手くいっているのだろう。直接的に俺のことを好きだという素振りは無いが、次の大型イベントでグッと距離が縮まるのを期待する。
 そして、シバは絶対に俺の事が好きだ。その『好き』は『友情』の意味なのだろうが、俺は側にいられるなら友達のままでもいいか……とも考える。
(あーあ、アックスを好きにならなくちゃいけなかったのに。)
 せっかくアックスとハッピーエンドを迎えるなら、お互いに恋をしたいと思い本を読み始めた。そして、恋人になった先の事も勉強したかった。その気持ちを忘れたわけではないが、シバと一緒に読むせいでなかなか進まず、むしろアックスより先にシバに恋をしてしまった。
(どうしたらいいんだろ……。いや、答えは1つしかないんだけど。)
 現実は無情であり、俺はアックスと結ばれる必要がある。シバの事は、俺の気持ちが恋愛感情から友情に切り替わるのを待って、アックスのことは引き続き、そういった意味で好きになれるように努力しないといけない。
(これ以上は今考えてもしょうがない。)
 俺はソファにポスンと寝転がると、目を瞑って考えるのを止めた。
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