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思い出の押し花、解禁!
「美味しかったですね。同僚の方々によく伝えておいてください。」
「分かった。」
あれだけ大量にあった料理も全て無くなり、今は2人でくつろいでいる。
(アックスのエンゲル係数、半端無さそう。いや、給料は良いだろうし心配はないか。)
片付けも終え、ふぅ~と落ち着いて座っていたが、俺は今日のミッションを遂行しようとアックスに声を掛けた。
「あの、俺の部屋に行きません?」
「……セラの部屋?どうしたんだ?」
アックスはどこか怪しんでいるようで、少し返事に間が開いた。俺はなるべく自然になるように理由を作る。
「部屋の感じを変えてみたんです。誰かに見せたくて。」
「ああ、そうだったのか。」
「アックスの部屋よりは良い感じですよ。」
「お、言ったな。」
俺の発言にケラケラ笑うと、自室の扉を開ける俺に付いて部屋に入ってきた。
「お、たしかに感じが違うな。」
「少し大人っぽくしてみました。」
シバのソファカバーを掛けた日に、どうせなら他もいろいろ片付けてみようと、いろいろ試行錯誤したのだ。部屋をテキパキと片付ける俺に、父もラルクも驚きつつアイデアをくれた。
「この棚はラルクさんがくれたんですよ。父が部屋に合わせて色を塗ってくれて、気に入ってます。」
「へぇ~、シシル殿は器用なんだな。」
「元々は大工だったので。」
「大工か……見えないな。」
たしかに、父は体の線が細いし、ガタイの良い元同僚と一緒にいた時には、まるで子どものようだった。
「これもセンスがいいな。カバーを変えたのか。」
部屋を見渡していたアックスが、ソファの淵に手を掛けた。
「これはアインラス様が買って下さったんです。」
「どうして君の家の物を、彼が買うんだ?」
「えっと、一緒に買い物に行った時に、流れでそうなったんです。」
(どう説明したらいいか難しい。)
俺の答えに、「へぇ。」と答えるアックス。俺は、それよりも……と大きな身体をソファに座らせる。座った目線には、『見てくれ!』とばかりに置かれた額縁があり、そこには『思い出の押し花』がある。
座ったアックスは、早速それが一番に目に入ったようだ。「あれは、」と、ゲーム通りの台詞を言う。
「あれ、どうしたんだ?」
「昔、一緒に遊んでくれた男の子から頂いたんです。その時が楽しかったみたいで、父に押し花にするよう頼んだと聞きました。」
「……君は、覚えてないんだな。」
「はい。」
アックスは、近くでそれを見たいとその額縁を手に取ると、「やっぱり」と呟いた。
「セラは昔、アワル村に住んでいたんじゃないか?もしそうなら、俺達は子どもの頃に会っている。」
「そうなんですね……。」
(アワル村って名前だったんだ。)
「父は村の話を一切しないので、分かりません。」
これは本当のことだ。父は王都での生活に関してはよく話すが、昔村に暮らしていた時の話はあまりしない。俺の記憶が曖昧だということは悲しいようだが、村について覚えていないと言うと、明らかにホッとした顔をしていた。
「セラはその村にいたはずだ。その花は、俺がセラに渡したものに間違いない。」
「……!」
(驚いた顔をしないと……。できてるかな。)
俺は自分の演技力に自信がなくなって、顔を隠すように少し俯いた。
「すまない。急に言われても困るよな。」
「いえ、そうではなくて、びっくりしただけです。……村の事、教えてもらえますか?」
「ああ。」
アックスは村について説明してくれた。
アワル村は王都から2つ町を越えたところにある小さな村だ。アックスは小さい頃、王都で暮らしていた両親が田舎暮らしに憧れたことから、あの村に引っ越してきた。
その数か月前、実際に住むか決める内見に訪れたアックスと両親は、3日間村に滞在したという。その時に俺と出会い、最終日に花を渡して王都へ戻ったという。
「これからは、あの子と一緒に遊べると知って楽しみに思っていたんだ。しかし、住むためにアワル村に家族で来た時には、セラはもういなかった。」
それから、アックスは近所の人に俺が王都に越したことを聞いて落胆したという。探したかったが、子どもである彼が1人で人探しをすることは難しかったらしい。
また、小さい頃に日差しを浴びると湿疹ができていた俺は、父からしっかりと日よけをしないと外で遊ばせてもらえなかったためいつもフードを被っており、アックスは俺の髪色すら知らなかった。
「騎士の入団試験に受かって王都に来てからもずっと探していたんだが、ぼんやりとした記憶でどう探せば良いのか分からず、もう半分諦めていたんだ。」
アックスは、押し花の入った額を撫でながら続ける。
「これ、大事に取っててくれたんだな。」
「俺自身は記憶が無くて、最近この花の存在を知ったんです。」
「それでも嬉しい。」
アックスはソファで横に座る俺の頭を撫で、嬉しそうに笑った。その笑顔はキラキラといった表現がぴったりで、俺は少しむずがゆくなる。
(さすがNo.1攻略キャラ。)
それからアックスは、村について俺にいろいろ教えてくれた。その中には、イベント④で俺を攫う男の名前も出てきて、身体が強張った。
「今日はありがとう。楽しかった。」
「こちらこそ。驚くことばっかりでしたね。」
「ああ、だがまた会えて嬉しいよ。」
玄関でアックスを見送っていたが、結局そこでいろいろ話してしまい、俺はハッとする。
「あ、すみません。これじゃアックスが帰れませんね。」
「いや、俺は構わないが。なんなら泊まりたいくらいだ。」
「え……?」
(一応これは健全な乙女ゲームだし、対象者を部屋に泊めるってのは良くないような。)
困った顔でアックスを見る。彼は冗談で言っただけのようで、帰る為に上着を着た。
「じゃあ、よく休めよ。」
アックスが俺に別れのハグをしようとした時ー……
ガチャ、
「あ……。」
飲みに出ていた父さんとラルクが、玄関を開けて俺とアックスを交互に見た。
「ああ~、緊張した……。」
「仕事でいつも一緒じゃないんですか?」
アックスは俺達に礼をして帰り、俺とラルクはリビングの椅子に腰かけた。父は着替えに行くと言って、少し酔っぱらった足取りで自室へ入った。
ラルクは仕事以外でアックスと会うことに緊張するらしく、今は身体の強張りを解いてリラックスしている。
俺は、2人が同じ団だと知り、顔見知りなら問題ないのでは?と思うが、ラルクにとってはそうはいかないらしい。
「同じ団と言っても、関わることは少ないですね。普通の団員であればそんなに気を遣わなくて良いんですが、トロント様となると話は別です。」
「英雄だからですか?」
「桁違いに強いんです……。戦う姿を見た騎士は、皆勝手に萎縮しちゃってますね。」
(アックスが戦ってる姿……見たことないけど、そんなに怖いのかな。)
いつものアックスからは想像もつかないが、よほど恐ろしいのだろうか。彼が制した戦いの後は、特に争いの火種となりそうな事案も無く、隣国と同盟を組んだことで、今後はしばらく平和が続くと予想される。
(今後、その姿を見ることが無いといいけど。)
「それをいえばアインラス様もですよ!一部ではトロント様よりも強いと噂されてますからね。」
「そうなんですか?ラルクさん見ました?」
「俺は戦うところを見たことが無いんです。俺が入隊した時には既に文官になられてたので。」
「へぇ~……なんだか想像できないです。」
(きっとかっこいいんだろうな。)
剣を振るシバはどんな感じだろうか……と俺がポーっとした顔で妄想を膨らませていると、父の部屋から、ゴンッ!と鈍い音が鳴った。
「シシルさんッ!?」
「父さん?!!」
急いで父の部屋に入る。俺とラルクが見たのは、明らかにベッドの淵で頭を打って倒れたと思われる父の姿だった。
「分かった。」
あれだけ大量にあった料理も全て無くなり、今は2人でくつろいでいる。
(アックスのエンゲル係数、半端無さそう。いや、給料は良いだろうし心配はないか。)
片付けも終え、ふぅ~と落ち着いて座っていたが、俺は今日のミッションを遂行しようとアックスに声を掛けた。
「あの、俺の部屋に行きません?」
「……セラの部屋?どうしたんだ?」
アックスはどこか怪しんでいるようで、少し返事に間が開いた。俺はなるべく自然になるように理由を作る。
「部屋の感じを変えてみたんです。誰かに見せたくて。」
「ああ、そうだったのか。」
「アックスの部屋よりは良い感じですよ。」
「お、言ったな。」
俺の発言にケラケラ笑うと、自室の扉を開ける俺に付いて部屋に入ってきた。
「お、たしかに感じが違うな。」
「少し大人っぽくしてみました。」
シバのソファカバーを掛けた日に、どうせなら他もいろいろ片付けてみようと、いろいろ試行錯誤したのだ。部屋をテキパキと片付ける俺に、父もラルクも驚きつつアイデアをくれた。
「この棚はラルクさんがくれたんですよ。父が部屋に合わせて色を塗ってくれて、気に入ってます。」
「へぇ~、シシル殿は器用なんだな。」
「元々は大工だったので。」
「大工か……見えないな。」
たしかに、父は体の線が細いし、ガタイの良い元同僚と一緒にいた時には、まるで子どものようだった。
「これもセンスがいいな。カバーを変えたのか。」
部屋を見渡していたアックスが、ソファの淵に手を掛けた。
「これはアインラス様が買って下さったんです。」
「どうして君の家の物を、彼が買うんだ?」
「えっと、一緒に買い物に行った時に、流れでそうなったんです。」
(どう説明したらいいか難しい。)
俺の答えに、「へぇ。」と答えるアックス。俺は、それよりも……と大きな身体をソファに座らせる。座った目線には、『見てくれ!』とばかりに置かれた額縁があり、そこには『思い出の押し花』がある。
座ったアックスは、早速それが一番に目に入ったようだ。「あれは、」と、ゲーム通りの台詞を言う。
「あれ、どうしたんだ?」
「昔、一緒に遊んでくれた男の子から頂いたんです。その時が楽しかったみたいで、父に押し花にするよう頼んだと聞きました。」
「……君は、覚えてないんだな。」
「はい。」
アックスは、近くでそれを見たいとその額縁を手に取ると、「やっぱり」と呟いた。
「セラは昔、アワル村に住んでいたんじゃないか?もしそうなら、俺達は子どもの頃に会っている。」
「そうなんですね……。」
(アワル村って名前だったんだ。)
「父は村の話を一切しないので、分かりません。」
これは本当のことだ。父は王都での生活に関してはよく話すが、昔村に暮らしていた時の話はあまりしない。俺の記憶が曖昧だということは悲しいようだが、村について覚えていないと言うと、明らかにホッとした顔をしていた。
「セラはその村にいたはずだ。その花は、俺がセラに渡したものに間違いない。」
「……!」
(驚いた顔をしないと……。できてるかな。)
俺は自分の演技力に自信がなくなって、顔を隠すように少し俯いた。
「すまない。急に言われても困るよな。」
「いえ、そうではなくて、びっくりしただけです。……村の事、教えてもらえますか?」
「ああ。」
アックスは村について説明してくれた。
アワル村は王都から2つ町を越えたところにある小さな村だ。アックスは小さい頃、王都で暮らしていた両親が田舎暮らしに憧れたことから、あの村に引っ越してきた。
その数か月前、実際に住むか決める内見に訪れたアックスと両親は、3日間村に滞在したという。その時に俺と出会い、最終日に花を渡して王都へ戻ったという。
「これからは、あの子と一緒に遊べると知って楽しみに思っていたんだ。しかし、住むためにアワル村に家族で来た時には、セラはもういなかった。」
それから、アックスは近所の人に俺が王都に越したことを聞いて落胆したという。探したかったが、子どもである彼が1人で人探しをすることは難しかったらしい。
また、小さい頃に日差しを浴びると湿疹ができていた俺は、父からしっかりと日よけをしないと外で遊ばせてもらえなかったためいつもフードを被っており、アックスは俺の髪色すら知らなかった。
「騎士の入団試験に受かって王都に来てからもずっと探していたんだが、ぼんやりとした記憶でどう探せば良いのか分からず、もう半分諦めていたんだ。」
アックスは、押し花の入った額を撫でながら続ける。
「これ、大事に取っててくれたんだな。」
「俺自身は記憶が無くて、最近この花の存在を知ったんです。」
「それでも嬉しい。」
アックスはソファで横に座る俺の頭を撫で、嬉しそうに笑った。その笑顔はキラキラといった表現がぴったりで、俺は少しむずがゆくなる。
(さすがNo.1攻略キャラ。)
それからアックスは、村について俺にいろいろ教えてくれた。その中には、イベント④で俺を攫う男の名前も出てきて、身体が強張った。
「今日はありがとう。楽しかった。」
「こちらこそ。驚くことばっかりでしたね。」
「ああ、だがまた会えて嬉しいよ。」
玄関でアックスを見送っていたが、結局そこでいろいろ話してしまい、俺はハッとする。
「あ、すみません。これじゃアックスが帰れませんね。」
「いや、俺は構わないが。なんなら泊まりたいくらいだ。」
「え……?」
(一応これは健全な乙女ゲームだし、対象者を部屋に泊めるってのは良くないような。)
困った顔でアックスを見る。彼は冗談で言っただけのようで、帰る為に上着を着た。
「じゃあ、よく休めよ。」
アックスが俺に別れのハグをしようとした時ー……
ガチャ、
「あ……。」
飲みに出ていた父さんとラルクが、玄関を開けて俺とアックスを交互に見た。
「ああ~、緊張した……。」
「仕事でいつも一緒じゃないんですか?」
アックスは俺達に礼をして帰り、俺とラルクはリビングの椅子に腰かけた。父は着替えに行くと言って、少し酔っぱらった足取りで自室へ入った。
ラルクは仕事以外でアックスと会うことに緊張するらしく、今は身体の強張りを解いてリラックスしている。
俺は、2人が同じ団だと知り、顔見知りなら問題ないのでは?と思うが、ラルクにとってはそうはいかないらしい。
「同じ団と言っても、関わることは少ないですね。普通の団員であればそんなに気を遣わなくて良いんですが、トロント様となると話は別です。」
「英雄だからですか?」
「桁違いに強いんです……。戦う姿を見た騎士は、皆勝手に萎縮しちゃってますね。」
(アックスが戦ってる姿……見たことないけど、そんなに怖いのかな。)
いつものアックスからは想像もつかないが、よほど恐ろしいのだろうか。彼が制した戦いの後は、特に争いの火種となりそうな事案も無く、隣国と同盟を組んだことで、今後はしばらく平和が続くと予想される。
(今後、その姿を見ることが無いといいけど。)
「それをいえばアインラス様もですよ!一部ではトロント様よりも強いと噂されてますからね。」
「そうなんですか?ラルクさん見ました?」
「俺は戦うところを見たことが無いんです。俺が入隊した時には既に文官になられてたので。」
「へぇ~……なんだか想像できないです。」
(きっとかっこいいんだろうな。)
剣を振るシバはどんな感じだろうか……と俺がポーっとした顔で妄想を膨らませていると、父の部屋から、ゴンッ!と鈍い音が鳴った。
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