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白いふわふわ
「父さん……大丈夫、じゃないよね?」
「ごめんね、セラ、ラルクさん。」
次の日の朝、父は医務室のベッドで目を覚ました。ここへ運ばれたのは、王の馬車にひかれた時以来だ。
昨夜はラルクさんが一緒にここへ泊まると言ってくれたので、俺は部屋へ戻り、早朝様子を見に来た。
白いベッドの上で、仰向けに寝ていた父が起き上がって俺達に申し訳なさそうに話す。
「大げさに腫れてるけど、軽い打撲だって。」
「うう……俺のせいです!酔っているシシルさんを1人にするなんて。」
ラルクは腫れて赤くなった父のおでこを泣きそうな顔で見ている。
「シシルさん、今日は部屋でゆっくり過ごしましょう。セラさんはどうします?」
「俺は……、」
今日は、父とラルクと出掛ける予定だった。
2人が言うには、影絵の展示が街であるらしい。夕方から日が沈むまでの僅かな時間だが、その時間になると大きなパネルに各国の有名作家の影絵が並び、それを見たさに多くの人が集まる。
幻想的な雰囲気が漂い、子どもから大人まで楽しめる芸術祭だ。
俺は、この祭の存在を知っている。なぜなら、王の側近ウォルのルートに入っていれば発生する重要イベントのメイン場所だからだ。作業のBGMとして、動画サイトのウォル攻略を掛け流していただけなので、どんな雰囲気か詳細は分からないが、一枚絵を見たゲーム実況者は「めっちゃキレイやん!!」と声を大きくして言っていた。
(1人でもいいから見に行ってみようかな。)
俺が街に出掛けることを告げると、2人は一緒に行けないことを残念がっていた。
「あの……元気なら、さっさと出てってもらえますか?」
ワイワイと盛り上がる俺達を遮るように、医務室の担当医務官が困った顔で告げた。
父とラルクは薬を貰ってから帰るというので、俺は先に部屋へ戻る。
さっきは1人で祭に行こうかと考えていたが、ふとシバにも予定を聞いてみようと考え、電話の受話器を握りしめる。
(シバ……今日は仕事あるって言ってたし、電話したら迷惑かも。)
早朝に医務室へ行ったため、今はまだ朝の7時だ。出勤まではまだずいぶんある。しかし、眠っているのであれば起こすのも失礼だ。俺はどうしようかと悩み、何回も受話器を取ったり置いたりを繰り返す。
(いや、やっぱ誘おう!!)
俺は勇気を出してシバへと電話を繋ぐ。仕事の関係で貰った紙には、奇麗な字で番号が並んでいた。
「はい。」
(シバが出た!!)
「おはようございます。セラ・マニエラです。朝早くにすみません。」
「おはよう。まだ出掛けないから気にしなくていい。……どうした?」
「はい、今日なんですが、夕方頃は戻られていますか?」
「夕方か……。城には日が暮れてから帰る予定だが。」
「そうですか。」
「どうかしたのか?」
「いえ。お仕事頑張って下さい。」
「マニエラ、何かあったんじゃないのか?」
「いえ、何でもないです!では、またお仕事の時に会いましょう。」
「……ああ。」
ガチャン、
電話を切って、「はぁ~……」と声を出す。
(やっぱ無理だよね。仕事だって言ってたのに急に電話なんてしちゃって……今度ちゃんと謝ろう。)
それからしばらくリビングに突っ伏していたのだが、自室にのそのそと戻りベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
「……あ、ラルクさん?」
父の声が聞こえて目が覚める。
(あ、2人とも帰ってきたのか。)
時計を見ると、昼をとっくに過ぎていた。俺はガバッと起き上がり、元々少し開いていたリビングへの扉を開けた。
「シシルさん……。」
俺の目の前には、父を後ろから抱きしめるラルク。そして顔を赤くした父が顔を後ろに向けラルクの頬にキスしようとしていた。
「あ……、」
思わず声を出してしまい、2人がこちらを向く。
「セ、セラ!?……わぁあああ!」
「セラさん!!」
2人は俺に気付くと、バリッと音がしそうな程に身体を離す。そして真っ赤な顔でこちらを見た。どうやら、俺が既に出掛けたと思っていたようだ。
「あのさ、……安静にしないと駄目だよ。」
俺がそう言うと、2人は俺の元へ駆け寄ってきた。
「セラ、ちがッ……!」
「セラさん、これは俺からしたんです!」
いかがわしい行為を始めるつもりはなかったと焦る父と、謎の言い分でシシルを庇うラルク。
大人2人が焦ってあわあわしている2人に、軽く笑う。
「俺、子どもじゃないんだから、何も思わないよ。」
「セラ。」
「着替えたら、街に行こうかな。」
真っ赤な顔の2人を残して、俺は自室に入る。扉に背をつけると一呼吸した。
(ええええええーーー!!どういうこと!!!???)
俺は1人になって、やっと頬がカッカとしてきた。
(父さんとラルクさんって、やっぱりキスとかしてるんだ!)
ラルクの無邪気な雰囲気と、父のふわふわした感じから、2人はそういう行為とは無縁なのだと勝手に思っていた。
(でも2人とも大人だし、これが当たり前だよね。)
俺はアックスの顔を思い浮かべる。
もし彼と付き合ったら先程のような事をするわけで…俺はラルクと父をアックスと自分に当てはめてみた。アックスの手が腰に回り、俺が振り返ってキスを……と考えたところで、妄想のアックスの顔がシバに切り替わる。
(わーーー!!違う!!アックスで想像しなきゃ意味ないのに!)
恥ずかしさをごまかすためにバタバタと動き回りベッドにダイブする。そんな俺の様子をリビングにいる父やラルクがどう思うか……今の俺にはそこまで気を回す余裕がなかった。
「セラ、寒いから白い帽子も被って行きなさい。」
「えー、あれ似合わないからやだよ。」
出掛けようと玄関で靴を履いていると、父が俺の恰好にマフラーを追加してきた。さらに帽子も持っていくよう言ってくる。
白いマフラーに白い帽子は子どものようで嫌だと抗議するが、父はそれを無視して無理矢理被せてきた。
「わぁ、いい感じ!白はセラの為に生まれた色だね!」
「セラさん、最高に似合ってますよ!」
子どもの撮影スタジオにいるかのごとく大げさにおだてられ、しかたなく立ち上がると「行ってきます。」と言って部屋を出た。
(俺、もうすぐ20歳なんだけど……。)
成人してからは、黒の似合う大人な男性になろう、と新たな目標を立てた。
宿舎の庭を抜け、門へ向かう。騎士棟の方から何人か騎士が歩いてきており、その中にアックスの同僚がいるのが見えた。彼を含む大柄な男4人でワイワイと談笑している。
声を掛けようと近寄ると、俺の存在に気付いて手を振ってきた。
「セラ!」
「お疲れ様です。」
ぺこっとお辞儀をすると、隣を歩いていた騎士が「誰だ?」と彼をつついた。
「武器管理課のシシルさんの息子だよ。アックスの知り合いで、この間騎士棟に来たんだ。」
「息子?へぇ~、弟かと思った。」
彼は「シシルさんによろしく言っておいてくれ。」と言って、他の騎士達と俺の話で盛り上がっている。アックスの同僚の男は、「可愛い格好して、どっか行くのか?」と聞いてくる。
(やっぱこの帽子とマフラー、子どもみたいなんだ!)
同僚の男の言葉に軽くショックを受けながらも、行き先を答える。
「今から影絵祭に行くんですよ。」
「誰かと待ち合わせか?」
「いえ、1人で行くつもりです。」
俺の言葉に、盛り上がっていた3人の騎士のうちの1人が驚いた顔をし、俺達の会話に入ってきた。
「あれに1人で行くなんて、勇気あるな!俺は無理だぜ。」
「え、1人で行かない方がいいですか?」
「ありゃ恋人用の祭だろ!」
「え、そうなんですか?」
男の言葉に、クリスマスのイルミネーションと一緒かな……と考えていると、他の騎士がそれに突っ込む。
「いやいや、子ども連れも結構いたぞ。去年、非番の奴らと行ったんだが、なかなか面白かった。」
「いつものメンツか?どうせその後すぐ飲みにいったんだろ。」
「まぁ、それは否めない。」
また3人で、昨年の祭はああだった、こうだったと話し出した騎士達を放って、同僚の男は俺に笑いかける。
「アックスはセラと一緒に行きたかっただろうな。」
もちろんアックスと一緒にーーとも考えたが、今日は仕事だと予め聞いていたため、誘うこともできなかった。
「お仕事中ですよね?しょうがないですよ。」
「セラが寂しがってたって伝えとくな。」
「ははっ、お願いします。」
男は俺の頭をふわふわとした帽子越しに撫でると、「またな。」と言って他の騎士達と帰って行った。
「ごめんね、セラ、ラルクさん。」
次の日の朝、父は医務室のベッドで目を覚ました。ここへ運ばれたのは、王の馬車にひかれた時以来だ。
昨夜はラルクさんが一緒にここへ泊まると言ってくれたので、俺は部屋へ戻り、早朝様子を見に来た。
白いベッドの上で、仰向けに寝ていた父が起き上がって俺達に申し訳なさそうに話す。
「大げさに腫れてるけど、軽い打撲だって。」
「うう……俺のせいです!酔っているシシルさんを1人にするなんて。」
ラルクは腫れて赤くなった父のおでこを泣きそうな顔で見ている。
「シシルさん、今日は部屋でゆっくり過ごしましょう。セラさんはどうします?」
「俺は……、」
今日は、父とラルクと出掛ける予定だった。
2人が言うには、影絵の展示が街であるらしい。夕方から日が沈むまでの僅かな時間だが、その時間になると大きなパネルに各国の有名作家の影絵が並び、それを見たさに多くの人が集まる。
幻想的な雰囲気が漂い、子どもから大人まで楽しめる芸術祭だ。
俺は、この祭の存在を知っている。なぜなら、王の側近ウォルのルートに入っていれば発生する重要イベントのメイン場所だからだ。作業のBGMとして、動画サイトのウォル攻略を掛け流していただけなので、どんな雰囲気か詳細は分からないが、一枚絵を見たゲーム実況者は「めっちゃキレイやん!!」と声を大きくして言っていた。
(1人でもいいから見に行ってみようかな。)
俺が街に出掛けることを告げると、2人は一緒に行けないことを残念がっていた。
「あの……元気なら、さっさと出てってもらえますか?」
ワイワイと盛り上がる俺達を遮るように、医務室の担当医務官が困った顔で告げた。
父とラルクは薬を貰ってから帰るというので、俺は先に部屋へ戻る。
さっきは1人で祭に行こうかと考えていたが、ふとシバにも予定を聞いてみようと考え、電話の受話器を握りしめる。
(シバ……今日は仕事あるって言ってたし、電話したら迷惑かも。)
早朝に医務室へ行ったため、今はまだ朝の7時だ。出勤まではまだずいぶんある。しかし、眠っているのであれば起こすのも失礼だ。俺はどうしようかと悩み、何回も受話器を取ったり置いたりを繰り返す。
(いや、やっぱ誘おう!!)
俺は勇気を出してシバへと電話を繋ぐ。仕事の関係で貰った紙には、奇麗な字で番号が並んでいた。
「はい。」
(シバが出た!!)
「おはようございます。セラ・マニエラです。朝早くにすみません。」
「おはよう。まだ出掛けないから気にしなくていい。……どうした?」
「はい、今日なんですが、夕方頃は戻られていますか?」
「夕方か……。城には日が暮れてから帰る予定だが。」
「そうですか。」
「どうかしたのか?」
「いえ。お仕事頑張って下さい。」
「マニエラ、何かあったんじゃないのか?」
「いえ、何でもないです!では、またお仕事の時に会いましょう。」
「……ああ。」
ガチャン、
電話を切って、「はぁ~……」と声を出す。
(やっぱ無理だよね。仕事だって言ってたのに急に電話なんてしちゃって……今度ちゃんと謝ろう。)
それからしばらくリビングに突っ伏していたのだが、自室にのそのそと戻りベッドに横になると、そのまま眠ってしまった。
「……あ、ラルクさん?」
父の声が聞こえて目が覚める。
(あ、2人とも帰ってきたのか。)
時計を見ると、昼をとっくに過ぎていた。俺はガバッと起き上がり、元々少し開いていたリビングへの扉を開けた。
「シシルさん……。」
俺の目の前には、父を後ろから抱きしめるラルク。そして顔を赤くした父が顔を後ろに向けラルクの頬にキスしようとしていた。
「あ……、」
思わず声を出してしまい、2人がこちらを向く。
「セ、セラ!?……わぁあああ!」
「セラさん!!」
2人は俺に気付くと、バリッと音がしそうな程に身体を離す。そして真っ赤な顔でこちらを見た。どうやら、俺が既に出掛けたと思っていたようだ。
「あのさ、……安静にしないと駄目だよ。」
俺がそう言うと、2人は俺の元へ駆け寄ってきた。
「セラ、ちがッ……!」
「セラさん、これは俺からしたんです!」
いかがわしい行為を始めるつもりはなかったと焦る父と、謎の言い分でシシルを庇うラルク。
大人2人が焦ってあわあわしている2人に、軽く笑う。
「俺、子どもじゃないんだから、何も思わないよ。」
「セラ。」
「着替えたら、街に行こうかな。」
真っ赤な顔の2人を残して、俺は自室に入る。扉に背をつけると一呼吸した。
(ええええええーーー!!どういうこと!!!???)
俺は1人になって、やっと頬がカッカとしてきた。
(父さんとラルクさんって、やっぱりキスとかしてるんだ!)
ラルクの無邪気な雰囲気と、父のふわふわした感じから、2人はそういう行為とは無縁なのだと勝手に思っていた。
(でも2人とも大人だし、これが当たり前だよね。)
俺はアックスの顔を思い浮かべる。
もし彼と付き合ったら先程のような事をするわけで…俺はラルクと父をアックスと自分に当てはめてみた。アックスの手が腰に回り、俺が振り返ってキスを……と考えたところで、妄想のアックスの顔がシバに切り替わる。
(わーーー!!違う!!アックスで想像しなきゃ意味ないのに!)
恥ずかしさをごまかすためにバタバタと動き回りベッドにダイブする。そんな俺の様子をリビングにいる父やラルクがどう思うか……今の俺にはそこまで気を回す余裕がなかった。
「セラ、寒いから白い帽子も被って行きなさい。」
「えー、あれ似合わないからやだよ。」
出掛けようと玄関で靴を履いていると、父が俺の恰好にマフラーを追加してきた。さらに帽子も持っていくよう言ってくる。
白いマフラーに白い帽子は子どものようで嫌だと抗議するが、父はそれを無視して無理矢理被せてきた。
「わぁ、いい感じ!白はセラの為に生まれた色だね!」
「セラさん、最高に似合ってますよ!」
子どもの撮影スタジオにいるかのごとく大げさにおだてられ、しかたなく立ち上がると「行ってきます。」と言って部屋を出た。
(俺、もうすぐ20歳なんだけど……。)
成人してからは、黒の似合う大人な男性になろう、と新たな目標を立てた。
宿舎の庭を抜け、門へ向かう。騎士棟の方から何人か騎士が歩いてきており、その中にアックスの同僚がいるのが見えた。彼を含む大柄な男4人でワイワイと談笑している。
声を掛けようと近寄ると、俺の存在に気付いて手を振ってきた。
「セラ!」
「お疲れ様です。」
ぺこっとお辞儀をすると、隣を歩いていた騎士が「誰だ?」と彼をつついた。
「武器管理課のシシルさんの息子だよ。アックスの知り合いで、この間騎士棟に来たんだ。」
「息子?へぇ~、弟かと思った。」
彼は「シシルさんによろしく言っておいてくれ。」と言って、他の騎士達と俺の話で盛り上がっている。アックスの同僚の男は、「可愛い格好して、どっか行くのか?」と聞いてくる。
(やっぱこの帽子とマフラー、子どもみたいなんだ!)
同僚の男の言葉に軽くショックを受けながらも、行き先を答える。
「今から影絵祭に行くんですよ。」
「誰かと待ち合わせか?」
「いえ、1人で行くつもりです。」
俺の言葉に、盛り上がっていた3人の騎士のうちの1人が驚いた顔をし、俺達の会話に入ってきた。
「あれに1人で行くなんて、勇気あるな!俺は無理だぜ。」
「え、1人で行かない方がいいですか?」
「ありゃ恋人用の祭だろ!」
「え、そうなんですか?」
男の言葉に、クリスマスのイルミネーションと一緒かな……と考えていると、他の騎士がそれに突っ込む。
「いやいや、子ども連れも結構いたぞ。去年、非番の奴らと行ったんだが、なかなか面白かった。」
「いつものメンツか?どうせその後すぐ飲みにいったんだろ。」
「まぁ、それは否めない。」
また3人で、昨年の祭はああだった、こうだったと話し出した騎士達を放って、同僚の男は俺に笑いかける。
「アックスはセラと一緒に行きたかっただろうな。」
もちろんアックスと一緒にーーとも考えたが、今日は仕事だと予め聞いていたため、誘うこともできなかった。
「お仕事中ですよね?しょうがないですよ。」
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