鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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騎士様を待つ

「ッ…!」
「あ、目ぇ覚めたな。」
 俺の目の前には金髪の男、そして隣にはエルが立っていた。金髪の男は俺の顔を覗き込むと、「ふーん、まだガキじゃん。」と言って興味なさそうな顔をした。
「セラに近づきすぎだよ。やめて。」
「はいはい、じゃ、俺は降りてるよ。」
 そう言ってひらひらと手を振ると、男は部屋から出て行った。
「今の人って……、」
「気になるの?」
 エルの冷たい声に、俺は慌てて首を横に振る。
「昨日会った人だと思って。」
「ああ、彼は雇ったんだ。」
 金髪の男は、金さえ貰えばどんな汚い仕事もこなす何でも屋であり、エルの知り合いでもあるという。
 今回の誘拐は、プロの作戦にしては非常におざなりであるように思うが、俺は見事に引っかかってしまった。
(俺って馬鹿なのか……。)
 自分の危機感の無さに呆れていると、エルが近づいてきた。俺の身体が強張る。
「また眠らせるの?」
「セラが逃げないなら、しないよ。」
「あれ、怖いからやめて。」
「セラ次第かな。」
(駄目だ。俺の意見は聞こうとしない。こいつはただ、自分のお気に入りを閉じ込めときたいだけなんだ。)
「眠ってる間、何かした?」
「何も。」
(……良かった。)
「ちょっと身体を見ただけだよ。」
「は……?」
(それは『何も』とは言わない!)
 俺が目を丸くしていると、エルが「柔らかくて気持ちいい肌だね。」と、身体を触っていたかのような発言をした。
(寝てる俺の身体を触ったのか。)
 気分が悪くこれ以上は話したくないが、それより聞かなければならない重要なことがある。
「……あの、もしかして……キスした?」
「してほしかったの?」
 俺はブンブンと首を横に振る。
「はは、初めては起きてる時じゃないと。」
 何が面白いのか、クスクスと笑うエルに少し安心する。
 俺にとってキスはすごく大事なのだ。アックスとの告白イベントで俺は初めて口付けをする。星空の下で見つめ合ってした後、俺は「初めてのキスがアックスで嬉しい。」と言ってポロッと涙を流さなければならない。
(それまでは何が何でも唇を死守しないと。)
「俺も、寝てる間は絶対嫌だ。」
 俺がそう言うと、エルはにっこり微笑んで頭を撫でてきた。

「少し待っていてね。戻ったら一緒にお風呂に入ろっか。」
 バタン、と扉が閉まったのを確認して、俺はすぐに風呂場へ行く。
 この部屋はアパートのワンルームのようになっており、部屋にトイレも洗面台もお風呂も付いている。今風呂に入っておかないと、俺は本当にエルと裸の付き合いをすることになる。
 ゲームの主人公に倣って、俺はエルがこの部屋に来るまでに風呂から上がることにした。

「僕を待たずに入っちゃったの?」
「身体が気持ち悪くて。」
「……明日は駄目だよ。約束して。」
 濡れた髪を拭いていると、エルは少しムッとしていた。
(明日、運が良ければ昼間にアックスがここへやってくる。)
 その時間を過ぎれば、完コピしている主人公の行動を真似することはもうできない。どんな行動が正解なのか分からなくなればーー
(最悪の場合、エルに抱かれてしまう!)
 一緒に風呂に入ってしまい、もしそのままエルが事に及ぼうとすれば、俺に逃げ道はない。どうするべきか悩んだが、俺は主人公と同じく「分かった。」と返事をした。

 夜は警戒しているのか、エルはこの部屋へ来なかった。
 昼間に睡眠薬でずっと眠らされていた俺は、全く眠たくなく、天井を見つめながら考え事をしていた。
(アックス、俺のこと探してるのかな。)
 明日助けに来てくれますように……と、人生で初めて本気で神様に祈った。
(父さん泣いてるよね。でも、ラルクさんがいるから大丈夫かな……。)
 泣き虫な父のことだ。今頃は心配して泣いているだろう。
(シバは、まだ気付いてないかも。)
 無事救出された後、仕事に復帰した主人公に、シバは「君は攫われたらしいな。」と無表情で言っていた。無事だから良いという考えなのだろうが、今思うとあんまりだ。
(まぁ、主人公は仕事以外で一切シバと関わってこなかったみたいだし、しょうがないのかな。)
 優しいシバのことだ。この事件について知ったら俺を探すかもしれない。彼にいらぬ心配は掛けたくないと、俺は早くアックスが助けにきてくれるのを願った。


 時計の針は朝6時を指している。
 あれから、夜通し起きて今日のことを考えていた。
 ゲームと同じであれば、今日の昼前、エルは俺に朝食兼昼食を持ってくるはずだ。
 その後は1人にされるのだが、すぐにアックス含む騎士達がこちらに向かってくるのに気付いたエルが、俺を連れて外へ出る。そこから主人公はアワル村への近道である森に連れて行かれるのだが、そこには黒馬に乗った黒騎士アックスが先回りしており、エルを捕まえるのだ。
 アックスルートをクリアした俺は、その時の一枚絵を覚えていた。黒馬に跨り登場したシーンは、男である俺ですらかっこいいと思った。
(ああやって助けられたら、さすがの俺もアックスに惚れるかもしれないな。)

 顔を洗って用意されていた服に着替えると、エルが朝食を持ってきた。
「おはよう。」
 屈んで俺の首辺りに手を置くと、頬に向かって撫で上げる。
(朝から気持ち悪いことするな!)
 俺は、ぞわぞわっと背筋に悪寒が走ったが、何でもないように振る舞う。
「今日、昼間は一人にさせちゃうけどいいかな。夜は一緒にいようね。」
「うん。」
 俺はそれに頷くと、良い子良い子と頭を撫でられた。
 エルは昨日と同様、俺に手ずから食事を食べさせると、「出ていこうとしたら、お仕置きだよ。」と怖い台詞と共に部屋を後にした。

(部屋に時計があって助かった。)
 部屋は窓に木が嵌められ、外の様子が全く見えない。俺はもうすぐアックスがここへ来る頃だと、そわそわしながら待っていた。

(アックス……まだ俺の居場所が分かんないんだ。)
 それから1時間、2時間と過ぎ、俺はだんだん焦ってきた。時計は夕方4時を指し日が段々と落ち始める。ここまでくると、今日は助けが来ないのではないかと良くない方向にばかり考えてしまう。
 今日、一緒に風呂に入る約束をしている。もしそこでエルが俺の身体に反応でもしたら、俺は抱かれてしまうかもしれない。
(どうしよう……怖い。)

ガチャガチャガチャッ
 鍵を荒く開ける音がする。バンッと音がして扉が開くと、エルが何も言わずに俺を担いだ。
「なに……ッ」
「セラ、声を出さないでね。もし叫んだりしたら、痛い事するから。」
 冷たい声でそう言われ、俺は怖くなって黙った。
(助けが来たってこと?何も言わないから分からない。)
 どういう状況かは分からないが、助けが来たと信じるしかない。俺は担がれたまま周りを見渡した。この部屋と、他にも何部屋かあるようだ。そして裏口と思われる扉の前には金髪の男がいた。
「おい、こっちの道を走れ。」
 金髪の男が道を指差し、それに頷いたエルが俺を抱えたまま走りだす。
 雪が降りだし、道は白がかっている。
 人はまばらで、寒いからか皆下を向きながら歩いている。「誰か気付いてくれ」と願ったが、それは叶わず小さい小道へ入ってしまった。
 部屋が暖かく気付かなかったが、外はずいぶんと冷えているようだ。上着も着ないまま出た俺は、寒さでブルッと震える。
 全力で走っていたエルだったが、だんだんとスピードが落ち、完全に人がいなくなると、俺を地面に降ろした。
「セラ、黙って僕に付いて来て。良い子にしてたら酷い事はしない。」
(それって、喋ったら酷い事されるってことだよね。)
 恐怖で強張る身体を必死に動かし、首をわずかに縦に振る。エルは俺の手を引き、森の方へ速足で向かった。

 何分走っただろうか。息が上がって肺が痛い。寒い中、長時間走らされ、体力の限界だった。
「はぁ、はぁ、」
「セラ、もうちょっとしたら休んでいいよ。」
 もうすぐ森なのだろう。エルは俺にそう言うと、少しだけ走るスピードを遅くした。
(アックスはいるかな……。)
 今エルが焦っている様子から、助けが来たようだと思うが、ゲームよりずいぶん遅い時間である。
 俺が待ち合わせに少し早く着いたことで、攫われ方も変わった。今回も時間が遅れたことで何か違う展開になるのでは……と心配になってきた。
 もし誰も来ず、エルが逃げた先にまた隠れ家を用意していたら……
(こんな変態に一生監禁されるなんて嫌だ。)
 目をギュッと瞑って、はぁはぁと息を乱しながら走っているとーー…
「セラ、こっちだよ。」
「わッ、」
 急に腕を横に引かれる。
(やばい、足がもつれて……ッ)
ズシャッ、
 白がかった地面に音を立てて倒れてしまう。それを見たエルが俺に手を伸ばした時ーー
「っひ、」
 エルの小さい悲鳴に上を向く。
(え、白い馬…?)
 そこには、白馬に乗ったシバがエルの首に剣を当てていた。
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