鬼畜過ぎる乙女ゲームの世界に転生した俺は完璧なハッピーエンドを切望する

かてきん

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アワル村と父

「城が見えたぞ。」
「わぁ……やっと帰って来れた。」
 見慣れた城が見えて、ホッと安心する。
 朝早くに宿を出発したものの、俺の体調を考慮し休み休み移動したため、帰るのにずいぶんと時間がかかってしまった。空は薄暗くなり、もうすぐ日が落ちようとしている。

「セラ~ッ!!」
「セラさんッ!!」
 城の門の前から、父とラルクが大きな声で名前を呼びながら駆け寄ってきた。
 俺はアックスに馬から降ろしてもらうと、彼らに駆け寄る。
「父さん!ラルクさん!」
 父は俺を抱きしめ、予想していた通りわんわんと泣き出した。ラルクはそんな俺達を2人ごと抱きしめると、目を潤ませて「良かった……」と呟いた。
 俺の涙腺もおかしくなっているようだ。父とラルクに力強く抱きしめられ、怖かったと本音を漏らして泣いた。

「異常は無いです。ただ足が肉離れ寸前ですので、しばらくはあまり歩かないように。」
「はい。」
 つい最近、父が酔って頭を打った時にやってきたばかりの医務室。医務官の男は俺達親子の姿に、またか……と溜め息でもつきそうな顔だったが、後ろから現れたアックスとシバの姿を確認すると、ビクビクしながら診察を進めた。

「何もなくて、良かった。」
 父は、俺にたいした怪我が無いと知ってやっと安心したのか、微笑みながら手を握ってきた。
(俺、本当に城に帰って来たんだ。)
 父やラルク、そしてアックスにシバ……皆の顔を見て、やっと今回のイベントが終わったのだと安心する。
「皆さん今回の件、本当にありがとうございました。」
 俺は感謝の気持ちを伝えようと深く頭を下げた。父はその姿にまた刺激されたのか、「セラ~」と名前を呼びながら、えぐえぐと泣き出した。

「今晩は念のため、ここでお休み下さい。」
 医務官の提案で、今夜はそのまま医務室で過ごすことになった。
 夜になり、医務室で出された食事を食べた俺は、早々に寝床に横になった。
 そして隣のベッドには、なぜか父の姿。俺が心配で、今日は一緒にここへ泊まるらしい。たしかに一人だと、エルのことやイベント失敗の自己嫌悪で暗い気持ちになりそうだったのでありがたく思う。
 並ぶベッドに揃って寝ていると、父がフフッと笑った。
「なんか、昔を思い出すな。セラは覚えてないよね?」
「昔って、アワル村に住んでた頃?」
「そうだよ。小さい家だったから、セラを挟んで3人で寝てたんだ。」
 父が母について話すのは、これが初めてだった。少なくとも俺があちらの世界の記憶を取り戻してからは、父は村や母についての話題を出さないようにしていた。
「なんで王都に引っ越したの?」
 ずっと気になっていたことを尋ねる。父は少し言いにくそうにしていたが、俺の方を向いて真剣な顔をした。
「セラが5歳の時、妻のリリアが亡くなったんだ。」
 ゲームでは、イベント④の後で父と医務室で寝るなどといったシーンは無い。つまり、俺は母について全く知らなかった。しかし、初めて聞く母の名前はどこか懐かしく感じる。
「持病があることは元々知っていたし、覚悟はしていたんだけど、あまりにも早すぎて……ショックで立ち直れなかった。セラを守らないといけないのに、毎日リリアのことばかり考えてしまって、何も手につかなかったんだ。」
 父は母を忘れることができず、そんな父に遠慮して、俺は外でよく遊ぶようになったという。そして、近所に住むエルと仲良くなった。
「そして、セラは6歳の時、エルに誘拐されたんだ。」
 その後の話は、おおむねエルが俺に説明した通りだった。ただ、エルの話は独りよがりで妄想も入っていたようで、異なっている部分もある。
 近所に住むエルは3つ年上であり、俺をよく可愛がっていたようだ。しかし、アックスが村で3日間滞在し、俺と仲良くなったことで、エルは俺を自分だけのものにするため監禁しようとした。
 父は俺の身を案じ、アワル村を出る決心をしたという。
「俺の為に?」
「正直に言うと、セラの為だけじゃない。あの事件はきっかけになっただけなんだ。……私はずっと、リリアを失ってから、あの村にいたくなかった。」
「父さん……。」
「あの家にはリリアとの思い出がありすぎて……毎日が辛かったんだ。だから、やっと村から出ていけると思って、本当は少し安心したんだ。」
 父がすまなそうな口調で言う。俺は静かに続きを待った。
「そしてセラはあの事件から、同世代の子達と一切遊ばなくなったんだ。学校も通ってはいたけど、相当辛かったはずだ。」
(それでも俺が将来困らないように、学校へ通わせてくれたんだ。)
 街で出会う大人達は、皆俺に優しく声を掛けてくれた。いろんな大人達に助けられ、俺はここまで育ったのだろう。
「セラの記憶が曖昧になって、ホッとしたんだ。事故の後、目覚めてからのセラは明るくて、村に住んでた頃みたいだったから。」
「父さんは嫌じゃないの?俺、曖昧だって言ったけど、本当は……全く記憶がないんだ。……母さんのことも、覚えてない。」
 言葉に出すと、泣きそうになった。両親がどれだけ俺を愛してくれていたか、助けてくれていたか、自分は何も覚えていないのだ。
「セラが元気に生きていてくれるだけで、私とリリアは幸せだよ。覚えているかいないかなんて関係ない。セラが笑顔ならそれでいいんだ。」
「とうさん……、う、うっ……ひっく、」
「セラ、泣き虫だね。」
「父さん、こそッ……ぅう……ぇ、」
 父は隣のベッドからこっちに移ると、俺を布団ごと抱きしめた。ここ数日で何度泣いただろうか。父は何も言わず、優しく背中を撫でる。
 医務室の扉が少し開き、医務官の男が様子を伺いに来たのだと分かる。しかし、そんなことも気にせず、俺は父の腕の中で子どものように泣きじゃくった。

「セラさん……ちょっと待ってください、プッ、ハハハハッ……!」
「……失礼ですよ。」
 翌日の朝一、ラルクが見舞いを抱えて医務室へ入ってきた。そして、俺の顔を見るや否や噴き出したのだ。
「だって、目が……!ふふッ、わ、こっち見ないで下さいッ」
「じゃあ、それ置いて早く仕事に行って下さい。」
 ラルクがあまりに笑うので、俺はお見舞いの品を置いてさっさと出ていくよう言う。
 俺の目は、パンパンに腫れていた。父達との再会の涙でそもそも少し腫れていたのだが、昨夜は長時間、涙が枯れ果てるまで泣いてしまい、起きた時は目がほとんど開かなかった。
(泣き出すといろんな感情が混ざって止まらなかったんだよ。)
 親というのは凄いものだ。涙なんて小学校を卒業してからは無縁だった。それなのに、父に抱かれ背中を撫でられると、無限に涙が溢れるのだ。
(そのせいで、今ラルクさんに爆笑されてるんだけど。)
 自分をチラッと見ては笑いを堪えるラルクを睨む。しかし、その表情にラルクがまたブハッと噴き出す。
 笑いが収まるのを待っていると、やっと落ち着いたのか、下を向きながらではあるが俺に本題を告げた。
「セラさんが無事で本当に良かったです。助けに行きたかったんですが、トロント様に止められてしまって。」
 アックスが、父のためにラルクを城に残したのだとすぐに分かった。実際、ラルクがいたからこそ、父は俺の帰りを待っていられたんだと思う。
「ラルクさん、ありがとうございます。」
「い、いや!俺、何もできなくて。騎士なのに情けないです。」
「父を守って下さって感謝してます。」
「セラさん……。」
 ラルクが顔を上げる。そして、ピタッと固まった。
「次笑ったら追い出しますよ。」
 俺の言葉に、ラルクはバッと下を向いた。そして、その手を父がそっと握る。
「本当にありがとうございます。ラルクさんがいてくれなかったら、私、無謀にもセラの居場所に一人で向かっていたかもしれません。」
「シシルさん……。」
 ラルクと父は手を握ったまま見つめあう。医務室に甘い空気が漂う中、俺は気にせずラルクが持ってきたお見舞いの袋を開け、中身を確認した。
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